このお話の時間軸はハイスクールD×Dと同一世界観にあたる堕天の狗神-SLASHDØG-の4章あたりです。続きというか連載で書きたいけど狗神自体がまだまだそんなに話がないという理由で断念した没ssのワンシーンでもあったりします。
中二病へと至った兵藤一誠は、本来ならば同じ境遇の同年代達と共に組織を結成し、世界に変革を齎すはずだった。
その場合彼は多くの人々から畏敬の視線を集め、修羅神仏から注目を受け、多くの先達の胃を殺すはずだった。
だが、この世界ではそうならなかった。
なぜ? と言われれば「偶然だ」としか答えようがない。
偶然兵藤一誠が「組織の目が近いな……」と言って無駄に洗練された動きで姿をくらませた結果、同年代達と同じ道を歩む事がなくなり。
偶然兵藤一誠が「く、くくく……。……ああ、うん。ここはアジトに使えそうだ……うん。は、ははは……」と、どこか哀愁漂う背中で駒王町を探索した結果、地下に存在する謎の廃棄されたと思われる施設を発見し。
偶然彼に封印された龍と対になる龍を宿した銀髪の少年とその施設で出会い。互いに「―――フッ」と『俺はお前の正体を知っているぜ』感ある空気を出した結果、その銀髪の少年と意気投合し。
偶然少年が己の中に敷いた『設定』をベラベラと語れば、銀髪の少年が「その齢で、そして人間界だけでそこまでの情報を手に入れるとは……!!」と感動し。
偶然少年と銀髪の少年が一緒にいるところに出くわした『総督』が二人の様子を見て、少年に「……これも因果かねえ。どうだ赤龍帝。ウチのアジトに遊びに来る気はねえか?」と言ったため少年が二つ返事で承諾し。
必然総督の胃が爆発し。
偶然少年が自身の琴線を刺激するノートを発見した結果、必然的に総督の胃が爆発し。
偶然銀髪の少年がそれを見て「あのアザゼルに膝を突かせるとは……!!」みたいな感じになって益々よく分からない方向へとシフトし始め。
必然銀髪の少年が少年に極意を尋ね。少年が気持ち良さげに『己の野望』を話す事で多感な時期真っ盛りな銀髪の少年の未来がほぼ決定された結果総督が重体で搬送され。
そのまま、彼等はすくすくと成長した。
銀髪の少年には色々複雑な事情があった気がするが、別にそんな事はなかったぜ的な具合で成長した。
そして人間で言うところの小学校の高学年にあたる年齢に差し掛かるであろう年齢に入り始めた頃―――少年は自宅に遊びに来ていた銀髪の少年に語ったのだ。
「―――日本神話(神話)に興味はないか?」
「日本神話(勢力)……か。いや、(実力的に)あまり興味はないな。日本神話は俺の興味のない方面に特化している、とアザゼルには教えられた。なんでも、男女の合体について多く語られるらしいじゃないか。俺とイッセーは男だからな。男女の合体で強くなる方法を知っても、意味がない」
「……残念だ。日本神話(神話)は他の神話の攻略(神話の読解的な意味)で役立つというのに……」
「こと神話に関しては凄まじい熱意を持つイッセーがそう言うとは……俺は日本神話を侮っていたか」
その後、彼等は転移や次元の狭間を乱用して日本の各地を渡り歩いた。
次元の狭間に直接触れたことでイッセーの妄想が漫遊中の赤いドラゴンに影響を与えたが、些細なことだろう。
イッセーが割と普通に観光を楽しんでいる間、ヴァーリは位相の変化やらを念入りに調べまくっていた。
そして、何故か結果として、ヴァーリとイッセーの二人は同じ結論に至った。
実際に目で見て観察してまとめたヴァーリのレポートと、考察と独自解釈とオリジナル設定の末完成した設定ノートは、何故か大部分が一致した。
一致したのだから当然二人は満足気に頷き合い、それをアザゼルに提出した。アザゼルの胃は天に召された。
「俺は当分休む」と言ったアザゼルの代わりに、シェムハザがその二つの報告書に目を通した。
通した結果それはアザゼルとシェムハザも水面下で探っていた事と、上手く重なる事実に至った。
益々、イッセーとヴァーリは互いを認めた。アザゼルは独りで、静かで、とにかく自由で救われた状態の釣りを楽しんだ。
「やりましたね、総督。彼等は幼いが、優秀な子供達だ。危険な真似はあまりして欲しくないが……彼等に封じられている代物を思えば、経験を積ませるのは大切でしょう」
「ああ、そうだな」
「我々の調査結果と、彼等が独自に至った報告書を合わせれば、これで奴等の特定も―――アザゼル?」
「ああ、そうだな」
「……?」
何か言いたげな視線をイッセーに送るアザゼルとそんな彼の様子に首をかしげるシェムハザ。
かくして、物語の舞台は整った。
壇上に上がるは本来なら存在し得なかった異分子。
過去、そして未来永劫あり得ないであろう二天龍の最強コンビの、第一陣である。
◆◆◆
「―――なんだ、話を聞いて来てみたら、そんなものなのか」
「そう言うな。俺たちのような存在こそ、稀なのだ。故にこそ、俺たちには彼らを導く義務がある」
「イッセー。キミには少し、遊び心がない。俺たちは強者だ。だからこそ、本音を口にする権利がある」
「くくっ、口ではそうは言うが、俺の言葉の意味が理解できないというわけでもあるまい? ヴァーリ」
「当然だ。何故なら俺たちは、選ばれた存在なのだから」
「「―――フッ」」
突然屋上に現れたと思えば自分達の中で完結し、そして清々しい表情で笑みを浮かべた二人の子供に、幾瀬鳶雄はこれ以上なく困惑していた。
―――えっと、迷子?
一人はなんというか……現実味の湧かないほどに整った顔を持つ銀髪の少年だった。
夏場には似合わないマフラーを巻き、逆に下は夏場に似合う短パンである。いやそこは統一しろよ、暑がりなのか寒がりなのかはっきりしろよ、と思わず突っ込みたくなるい装いだ。
肩に乗っている白いドラゴンのぬいぐるみらしきものと、年齢によってある程度緩和されてはいるが……いやないだろう、というのが鳶雄の抱いた感想だった。
そしてもう一人は銀髪の少年ほど浮世離れした美しさこそ持っていないが……それでも十分以上に整った顔立ちをした茶髪の少年だ。
服装は……何故かスーツだった。小学生の高学年にしか見えないのに、何故かスーツである。
夏場なのに、スーツ。小学生なのに、スーツ。ギャップでも狙っているのだろうか、それは本人のみぞ知るのだろう。
そしてこちらの少年は、肩に赤いドラゴンのぬいぐるみを乗せていた。
微笑ましいといえば微笑ましいが、しかしどうしても違和感を拭えない。
「だがイッセー。彼は本体からはまるでオーラを感じない。期待できるのか?」
「日本にはこのような言葉がある。『能ある鷹は爪を隠す』。ヴァーリ、オーラを感じない事は強さの指標にはならない。彼はおそらく、あまりにも強大すぎるその力を秘匿しているのだろう。潜在能力は高いはずだ」
「へえ、それは面白そうだ。もっとも、俺たちには敵わないだろうが」
「くくっ、当然だ。なにしろ俺たちは、選ばれた存在なのだから。今後のためにも、如何なる存在が相手だろうと、無限と夢幻が相手だろうと、負けは許されないが故に」
「「―――フッ」」
なんなんだろうか、鳶雄は内心で頭を抱えた。
どうやら彼らの中で、自分は『強者』の位置に入れられたらしい。ていうか、なんで最後に『フッ』と澄ました顔で笑い合うのだろうか、疑問を持たずにはいられない。
「ちょっとヴァーリ! イッセー! 幾瀬くんが戸惑っているでしょ? あんたたちねえ、初対面の人を困らせたいの? 自分達の中で完結させるのはやめなさいっていつも言ってるでしょ?」
腰に手を当て、呆れたようにそう言う夏梅。
そんな彼女に対して銀髪の少年は鼻で笑い、茶髪の少年は酷薄に口元を歪めた。
「世界の危機に対して、キミたちは危機感が足りないな……。仮にもキミも選ばれた者であるというのに」
「で、あるな。今、世界はひとつの節目に立っている。奇跡の体現といっても過言ではない俺とヴァーリの存在がそれの証明をしている。得意な存在というものは、得意な存在を招く。俺たちが同じ時代に顕現したのには、訳があるのだろう」
「ああ。間違いなく、波乱の世の幕開けだ。様々な変革が訪れるだろう。それこそ、獣の復活が起きても、驚く必要はないであろうほどのな」
「「―――フッ」」
そう言うと、二人は背中を預けていた屋上の扉から離れて、こちらに歩み寄ってくる。
そしてその視線は鳶雄―――ではなく、『刃』に向けられていた。
「独立具現型、か」
「そういえば、イッセーは独立具現型を欲しがっていたな」
「ああ、故に新たな
「流石俺の好敵手にして相棒だ。ひとつの
「ああ、そもそも進化とは―――」
なにやら難しそうな話をする二人の子供。
戸惑いながら二人を見ていると、いつの間にやら近くに来ていた夏梅に肩を叩かれる。
「……この子達が、ヴァーリとイッセーよ。昨日このマンションに生意気な男の子が二人いるって言ったでしょ? この子達のことよ。……まあ、二人とも根は素直だし。イッセーは……よく分かんないわ」
「そ、そうなんだ」
こうして見ていると、顔は全く似ていないが兄弟のように見えてくるから不思議だ。
どこか二人とも、お互いがお互いにのみ気を許しているようにすら見える。
特に、それはヴァーリの方が顕著だろうか。イッセーと他愛ない会話をしている間も、どこか触れがたい雰囲気を身体に纏っていた。
夏梅もそれを分かっているのだろう。
彼らを見る視線の中に、どこか心配げな感情が含まれているように感じた。
―――と。
ふいに二人は会話をやめ、不敵な笑みを浮かべた。
イッセーが前髪を無造作に撫でて一歩前に出る。
「我が名は兵藤一誠。神をも殺す二天龍が一角、『ドライグ』を宿した赤龍帝だ」
続いて、ヴァーリが顔面を右手で覆いながら、一誠に並ぶように立った。
「俺の名はヴァーリ。この身は魔王ルシファーの血を流しながら神をも屠る伝説の龍、二天龍の一角『アルビオン』を宿した奇跡の存在。否、唯一無二の存在だ」
……。
…………。
思わず、思わずだが、鳶雄は生暖かい視線を彼らに送っていた。
そんな鳶雄の様子を見てなにを勘違いしたのか、二人は鷹揚に頷く。
「ふっ。ついこの前まで一般人だったキミには、理解の及ばない領域だったかもしれないな」
「くくく、だがそれは罪ではない。認識の広がりは、また新たな認知していない領域の広がりでもある。これは必然なのだから」
「「―――フッ」」
彼らの意味不明な会話も、さっきの自己紹介を聞けば得心がいく。
その予想を裏打ちするように、夏梅が鳶雄の耳元で囁いた。
「(……その、この子達って中二病っていうのを発症しているらしいの。この年頃の子っていろいろ複雑だし……気が向いた時だけでもいいけど、相手してあげてね。あ、でも一生中二病になったら困るだろうし、あんまり相手しすぎてもダメよ? この年頃の子供達は難しいわね……)」
やはりか、と思いながら鳶雄は頷いた。
おそらく、彼らの中では『そうなっている』のだ。
なまじ本当に異能の力を使えるから、微妙に信憑性ある設定で拗らせているのだろう。
とはいえ、中二病であることを念頭に置いて会話をすればやりやすいはずである。
「ところでイッセー。アザゼルに許可をもらって、今度冥界にいる五大龍王の一角である、ティアマトに会いに行かないか? 魔王クラスの力があるらしい」
「それは興味深いな。……いや、待て。どうしたドライグ。なに、『ティアマトだけはやめろ!』だと? くくっ。案ずるな、俺とヴァーリが組めば少なくとも死にはしない」
「イッセーの言う通りだ。アルビオンの方からも……む、どうした夏梅。なにやら微笑ましげな視線を感じるのだが……?」
「はいはい。貴方たちの中のドラゴンが喋っているんでしょ? すごいじゃない」
「むむっ、皆川夏梅。最近、妙に俺たちの扱いがぞんざいになっていないか?」
「ヴァーリ、おそらくこれは―――中二病というやつなのだろう。最近、アザゼルのパソコンで読んだ。何故か常にウインドに表示されているのが不思議だったが……今得心がいった。そっとしておいてやるのが優しさというものだ」
「なるほど、あのアザゼルですら考慮する病か。ならば仕方ない」
「……いい度胸ね、あんたたち」
……同時に、思う。
色々と訳が分からない状況に巻き込まれているし、焦燥にも駆られるが―――こんな何気無い日常が、続けばいいなと。
〜おまけ〜
イッセー「……ところでヴァーリ。俺より口上が長かったのだが?」
ヴァーリ「さて、なんのことかな?」
イッセー「……」
ヴァーリ「……」
夏梅「マ、マンションが揺れている……!」
大変短くて申し訳ありませんが、せっかくなので投稿してみました。(久しぶりにD×D書きたかったとかは内緒)
狗神がある程度進んで落とし所が見つかったらこの話はおそらく別の作品として新たに投稿することになるかと思います。
裏話ですがこの原作時点では神器所有者をアザゼル先生らも『能力者』としていたりしているので一誠の「能力者云々」が本来の赤龍帝は中二病より強固な勘違いを生んでいたりします。
加えてこの時点のヴァーリはリゼヴィム云々で捻くれてますが割と素直という複雑な年頃。
ショタヴァーリ「ふっ。一般人が俺のライバルとはな……俺たちの存在に勘付いたのは褒めてもいいが……まあ、偶然だろう」
ショタイッセー「くくっ、それはこちらのセリフだ。俺は人間の身でありながら、世界の真実の一端に触れた。これの意味が、分からないわけではないだろう?」
ショタヴァーリ「(目が光る)」
夏梅さんは桐生ポジション。年上のお姉さんが中二病に親身に付き合ってくれるってすごい魅力的なポジションな気がしない? ……しない?
アザゼル先生?アザゼル先生は現在通院中です。五大宗家絡みで堕天使的にも大変な時期だからでしょうね。
この世界だとアザゼル先生しか勘違いを神の視点で把握できなさそうです。ゲオルグ?出てきません。サーゼクス様?コンタクトを取れそうなのもだいぶ先です。負けるな!アザゼル先生!!
ヴァーリ?ヴァーリは中二病なんかじゃありませんよ何いってるんですか(目逸らし)