赤龍帝は中二病【完】   作:吉田さん

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中二病の冒険はこれからだ!

「……あれが、赤龍帝の禁手化(バランス・ブレイク)

 

一誠とヴァーリがいた空間が、紅い球体に覆われているのを見て、サーゼクスはポツリとそう漏らした。

サーゼクスの言葉に、ゲオルグが首肯するように頷く。

 

「外界と完全に隔離された一誠の世界。こちらとあちらでは時間の流れも異なる。……あの中では何度死のうと幾らでも蘇る事すら可能だぞ。本人たちの気力次第ではあるが」

 

「……恐ろしいな」

 

この中二病は全くもって笑えないとサーゼクスは思う。

強固な妄想で現実を塗り替えていくなど、対処のしようが無い。

ゲオルグが言うには、今回の禁手化(バランス・ブレイク)は出力はそこまでらしい。メインがあくまでも好敵手であるヴァーリとの戦闘だからだろう、と。

 

その控えめな出力でさえ、使用されている妄想力と龍のオーラの影響で空間が歪んでいる。

 

ゲオルグの話を聞いた時は自分が真の姿になって一誠の妄想力を消滅させ続ければどうにかなるのでは、と考えもした。

 

だが、中二病の妄想に枯渇など無い事に思い至ってからは諦観の念だけが残った。

妄想が尽きればどこからかまた新たな妄想が湧いてくるのだろう。それが中二病なのだから。更にダメ押しとばかりに倍加である。そしてそうなると、ただのジリ貧。

確かに、一誠がハイになったら無限と夢幻しか抗える事は出来なさそうだ。主に物量的な意味合いで。

 

 

 

『ふっ、ははははッ!! 最強を決めようではないかっ! 赤龍神帝、無限の龍神!! 我が名は兵藤一誠!! 神をも喰らいし、選ばれた能力者だッ!! 混沌を極めし我が真髄を、ここで知るがいいッ!!』

 

 

 

……。

 

やめよう。このような妄想は悲劇しか生まない。

サーゼクスは首を横に振り、想像を打ち切った。

 

「……ままならないものだな」

 

今後、その事も含めてゲオルグとは話し合う必要がある。

一誠の妄想を黒歴史にせず、なおかつ突き進む事を止めさせない。前途多難だ。

他の神話勢力とどう折り合いをつけるべきなのだろうか。北欧あたりならなんとか誤魔化せそうな気がしないでもないが……。

これからやるべき事を考えると、お腹が痛む。帰ったら取り敢えずグレイフィアに慰めてもらおうと、この中で唯一の勝ち組であるサーゼクスは心底思った。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

そして――――アザゼル。

 

神器(セイクリッド・ギア)マニアとして各勢力に認知されている彼はしかし、一誠の亜種の禁手化(バランス・ブレイク)というレア現象を見ても、はしゃぐ事はなかった。

 

それは、一誠の禁手化(バランス・ブレイク)の余りもの荒唐無稽さに声が出ないから――などという理由ではなく、とある一件で酷いショックを受けたからである。

 

ヴァーリが名乗りを上げた瞬間に、アザゼルは膝から崩れ落ちた。

 

「……ヴァーリ」

 

このままでは、息子同然のヴァーリが中二病になる。

そうアザゼルの第六感とでもいうべき感覚が、けたたましいアラームを鳴らしていた。

 

「俺の、せいか……?」

 

絞り出すように、アザゼルは苦渋にまみれた顔でそう口にした。

自分のある意味放任主義とも言えるような教育が、ヴァーリを中二病への道へと向かわせてしまったのか。

 

後悔の念が、アザゼルを襲う。

このままでは、ヴァーリが将来どうなってしまうのか。

 

「……」

 

――いや、まだ引き返せる。

 

諦めるのは、まだ早い。

終焉の時を迎えたのか、ヒビ割れていく球体を見ながら、アザゼルはゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

ガラス細工の割れるような音と共に、一誠とヴァーリを包み込んでいた『世界』が崩れ落ちていく。

世界の終わりの瞬間を、この世に体現したが如く(実際一誠の妄想の中では終わってる)の光景を、肩で息をしながらヴァーリは魅入っていた。

 

「はあ……はあ……」

 

鎧は、既に鎧と呼べるような代物ではなかった。

崩玉はヒビ割れ、迸っていた銀色の光は消え、ボディーアーマーはボコボコにへこんでいた。顔を覆っていたマスクは完全に取れている。

特に、心臓部分の螺旋状の歪みは一際目立っており、戦いの熾烈さを物語っていた。

 

「……俺の、負けだ。兵藤一誠」

 

対する一誠には、傷と呼べるようなものが何一つもなかった。

ヴァーリのとっておきでさえ、一誠の前では塵芥が如きの無力さ。波動弾は一誠に触れる前に悉くが消滅し、光速で飛翔しても一瞬で追いつかれる。

身を潜めようとしても、世界は全て一誠の掌の上だ。どこにいようと一誠には筒抜け、終いには世界に取り込まれもした。

 

「――見たかアルビオン。これが俺のライバルだ」

 

『……正直、信じられん。オーフィスやグレートレッドでもない限り、あれには対抗出来んぞ』

 

「……ふっ。ならば丁度いい。元々、俺は白龍神皇を目指していたのだから。兵藤一誠がグレートレッドを落とすのなら、俺もその座へと、至ってみせよう」

 

とても、新鮮な気分だった。

負けたというのに、数多の強敵を下した時以上に清々しい。

なんの憂いも含みもない、ただただ純粋な笑みを、ヴァーリは浮かべていた。

 

(これが、挑むということか)

 

らしくないなと思いながら、しかし悪くないとも思う。

勝利ではなく、敗北の余韻に浸る事になるとは。人生というのは、何が起こるのか分からないものだ。

 

動かぬ身体に鞭を入れ、ヴァーリは足を引きずりながら勝者の元へと歩み寄る。

一誠にもどこか満足気な笑みが浮かんでいて、それが少しおかしかった。

 

「やはり、強いな。()()

 

「いや、()()()()も中々のものだった」

 

「世辞は辞めてくれ」

 

互いに笑いながら、彼らは言葉を交わす。

 

「……行くのか?」

 

「……気づいていたか」

 

敵わないな、とばかりにヴァーリは肩を竦めた。

その瞬間に、ヴァーリの背後で空間が切り裂かれる。

万華鏡のような背景が空間の裂け目から現出し、そこから二人の青年が現れた。

 

「予想以上に強固な結界に戸惑っちまった」

 

「遅かったですね、ヴァーリ。……負けましたか」

 

「ああ、負けたよ。完敗だ」

 

「それは是非、私も戦ってみたいものですね」

 

短髪の青年――美猴と、金髪の青年――アーサーがそう言って好戦的な視線を送る。

そしてそれに気付いた一誠もまた、ニヤリと不敵に笑った。この場面で笑わなければ、敗北する気がしたからだという理由である事を知るものは、この中にはいない。

 

「いいねえ赤龍帝。そうこなくっちゃ」

 

「また後日、伺わせてもらいます」

 

美猴とアーサーが空間の裂け目の向こうへと消えていく。それに続いていたヴァーリが、肩越しに一誠の方へと振り返った。

 

「兵藤一誠。俺は、いずれキミのいる所へと必ず追いつく。――それまで、負けてくれるなよ」

 

「俺は誰にも負ける気はない。ヴァーリ・ルシファー。例えキミであろうと、例外ではない」

 

「フッ。それでこそ好敵手に相応しいさ」

 

互いに視線を合わせ――そして、一誠はヴァーリから背を向けた。

もう、語る事はないとばかりに。

ゆっくりと歩く彼の近くに曹操とレオナルドが歩み寄り、その輪にゲオルグとヘラクレスも薄い笑みを浮かべながら加わる。

 

そんな彼らを見て、その在り方に、少しだけ目を細めてヴァーリは空間の裂け目へと身体を向け、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アザゼル?」

 

「……」

 

ヴァーリと空間の裂け目の丁度間の地点に、彼のよく知る人物がいた。

思わず目を丸くし、そして自嘲気味な笑みを浮かべてしてしまう。

 

思えば、迷惑ばかりをかけてきた。そしていままさに、特大級の地雷をヴァーリはアザゼルに落とす事になってしまう。

一誠と戦う前は考えもしなかった事だったというのに。どうやら自分は、敗北をきっかけに『何か』が変わってしまったらしい。

 

(……だが、悪くない)

 

「……行くのか?」

 

「ああ」

 

そう、これからの自分は『禍の団(カオス・ブリゲード)』に入る裏切り者だ。

完全に裏切り者となるために、なんならアザゼルと一戦交えるのも悪くはないか、などと思っているとふと気づく。

 

「……?」

 

アザゼルの顔が俯いていて、その手には刀身のない剣のようなものが握られている事に。

怪訝な顔をしてしまうヴァーリだったが、次の瞬間にはその表情が凍りついた。

 

「は、ははははっ。そうかそうか、つまりお前はそういうやつだったのか……」

 

ブォンッ、という不穏な音が響き、柄の部分から光と闇を織り交ぜた混沌としたオーラを纏った刀身が現れる。

尋常ならざるアザゼルの雰囲気に、思わず冷や汗を額にかきながらヴァーリは一歩後ずさった。

 

「ッ! あれは、『|閃光と暗黒の龍絶剣《ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード》』ッ!?」

 

ミカエルが仰天としながら、しかしどこか黒い笑みを浮かべて口にした言葉に、アザゼルは顔を赤くしながらもヴァーリに一歩ずつ詰め寄る。

同時に、ヴァーリもアザゼルから一歩ずつ離れていく。

 

「ヴァーリ。いいか、そっちには行くな」

 

「い、いや俺は行くぞ。更なる高みに行くためには……」

 

「その先に希望はねえぞ?」

 

「分かっている。分かっているさ、けど――――」

 

「いーや分かってないね。全ッ然分かってないね!!」

 

アザゼルが『閃光と暗黒の龍絶剣』を振るう、地面に亀裂が走る。

普段ならその程度歯牙にもかけないヴァーリだが、今回は親に怒られた子供のように顔を蒼ざめさせた。

 

「あ、アザゼル。それをしまえ、それは――」

 

「誰が『閃光と暗黒の龍絶剣』総督じゃぁぁぁああああああっ!!!!」

 

「言ってない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れイッセー!」

 

「相変わらず凄まじいな」

 

「ふっ。世界の変革を齎す男が、この程度で済むはずないだろう?」

 

レオナルドと曹操の称賛の声に、一誠は不遜な笑みを浮かべる事で返答とした。

そんな一誠達に、ゲオルグとヘラクレスも近づく。

 

「イッセー、これからは当分休め。いや真剣で」

 

「ガハハハッ!! 取り敢えず今日は祝盃ってとこか?」

 

なんでいんだコイツ(ヘラクレス)、みたいな視線を皆が送る。

完全なアウェーな空気に、ヘラクレスの笑いが止んだ。ていうか、若干涙目になった。

 

そんな光景を見て薄く笑みを浮かべて、一誠は先陣を切るかのように一歩踏み出した。

そんな彼に、慌てて『セフィロト』の面々が続いていく。

 

(……これからだ)

 

今日までの事など、まだ序章に過ぎない。

テロリストに、悪魔と人間の混血児である好敵手がいるような世界だ。

そのうち、魔界なんかも出てくるのだろう。

組織と――つまり、人間同士で争う事はなく、今後は人類滅亡の危機へと立ち向かう必要がある。

これからの戦いは、更に苛烈を極めるだろう。

 

今いるセフィロトのメンバーからは、何人か消えるかもしれない。

もしかしたら、一人になるかもしれない。――だが、

 

「……俺は『赤龍帝』だからな」

 

例え一人になろうとも、自分の大切なものを守り抜いてみせよう。

傲慢だと、そう思う人がいるかもしれない。けど、自己満足でもいい。

自分の中で完結してたって構わない。

 

何故なら――――

 

 

『……あれは、閃光と暗黒の龍絶剣ッ!?』

 

「――――ッ!? ゲオルグ、あれを奪え!!」

 

「莫迦なのかおまえは」

 

「何をしているっ! あんな、あんな心踊るものを手にせず何をするというのだ!」

 

「……曹操。イッセーを羽交い締めにしろ」

 

「何を言っているんだゲオルグ。あんなものを見逃す手はないぞ」

 

「……」

 

「そうだよゲオルグ! あれは手に入れなくちゃダメだよ!」

 

「空気読めよ〜」

 

「……もう、嫌だ」

 

 

――――兵藤一誠。彼は世界一の、中二病なのだから。

 

 

 




アザゼル「(中二病の道に)行くのか?」
ヴァーリ「ああ」
アザゼル「(鬼神モード)」

これにて完結です!
今後もイッセーは修羅神仏を自分の設定に落とし込み、世界を混沌と破滅へ無自覚的に導くでしょう!!

そして、地味に桐生達のやり方はある意味一誠による世界の破滅を救う一番いい方法だったりします。
桐生達が一般人っていうのがキモです。

ま、これ以上はグダるのでやりませんけどね:;(∩´﹏`∩);:

ご愛読、ありがとうございました!
yosida先生(塵)の次回作にご期待下さい!!(テンプレ)






ジャンヌ「ねえ、最終回でヒロイン(笑)の出番がないのはおかしくないかしら!? 好意伝えてるのにこの扱い!? ていうか(笑)!?」

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