赤龍帝は中二病【完】   作:吉田さん

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序盤シリアス注意です!
苦手な方はブラウザバックを!

そして悲しい事に今回では終わりませんでした。


本気の中二病はかっこいい

 

 

「俺は、ルシファーだ」

 

『……』

 

「魔王の中でも突出した力を誇り、明けの明星とまで呼ばれるルシファーの血を引く男だ」

 

『……』

 

「そして、人間の血を引くものでもある。――結果、俺は『白龍皇』にまでなった」

 

『……』

 

「アザゼルは言っていた。俺は過去未来、そして現在で最強の白龍皇になるだろうと」

 

『……』

 

「けど、赤龍帝は。俺の好敵手くんは、どうなんだろうな?」

 

それは、俺――ヴァーリ・ルシファーが赤龍帝と会う前に何度かアルビオンとした会話だった。

俺のその問いに、アルビオンが答えたのは始めだけ。その後は俺が言わんとしていることを理解したのか、その話題を出した時だけは押し黙るようになっていた。

 

俺は、強いやつとの戦いを望む。

 

そういう意味では、『赤龍帝』という宿命の好敵手との戦いは心踊るものだと始めは思っていた。

……だが、アザゼルの言葉に俺はふと思った。俺が過去未来現在最強の白龍皇だとして、俺の好敵手となる赤龍帝はどうなのだと。

 

魔王ルシファーの血を持ち、白龍皇でもある俺は奇跡のような存在であると言っても過言ではない。

ならば、その奇跡が二度起きるのか。二度――つまり、赤龍帝も奇跡のような存在足り得るのか。

 

ないだろうな、と俺は確信した。まだ見ぬ好敵手への落胆が芽生え、まだ見ぬ闘争への興奮は冷めていった。

赤龍帝は、神滅具持ちは、当然強いだろう。

けど、同時に他の者と取り替えが効く程度の強さでしかないだろう。

アザゼルは、赤龍帝は一般人だと言った。更に俺の好敵手への評価は下がった。

赤龍帝の真価である倍加をしたとして、元が一ならどれだけ待てばいいのか。待ったとしても、それは勝手に自滅するのではないか。

 

悪魔の寿命は長い。ならば次の赤龍帝を待つか、とも思ったが。次の赤龍帝が現れる頃には、俺は更に強くなっているだろう。

神が不在の世の中で、俺は、何を愉しみにしたらいいというのか。

他の神話体系に乗り込もうとも考えた。だが、アザゼルはそれを許さないだろう。

アザゼルと戦うのも面白そうだが、どこか身体がそれを拒否するからどうしようもない。

 

「……せめて、少しくらいは愉しませてくれよ。好敵手くん?」

 

あり得ないだろうなと苦笑しながらも、俺は来るべき日を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

空気を切り裂く音が、カテレアの鼓膜を響かせる。

ぞくり、と背中を通りすぎた悪寒を頼りに、彼女は顔を逸らした。

 

――直後。彼女の頭があった地点を光り輝くオーラを纏わせた槍が通り過ぎ、遅れて彼女の頬から血が流れた。

 

「――――ッ!」

 

地上(ここ)にいるのはマズイ!

 

そう判断した彼女は蝙蝠のような翼を背中に広げ、空中へと避難しようとグラウンドを蹴る。

数秒とかからず駒王学園の屋上近くの高度へとたどり着いたカテレアは、緊張を解すために安堵の息を吐いた。

本音を言うともう少し高度を上げたいが、魔王の貼ってある結果に阻まれる。なので、この高さが限界なのだ。

 

カテレアが相手しているのは、最強の神滅具(ロンギヌス)だ。

上級悪魔であっても消滅を免れず、主神級であろうと滅せる絶対の槍。一度でも喰らえばアウトだろう。常に命の危機の伴う戦いは、カテレアの精神を蝕むのに十分すぎるものだった。

 

(彼は人間。ならば、空中戦は不可能なはず!!)

 

その判断は正しいのだろう。事実、空を飛ぶ人間など普通は存在しない。

 

だが、空を飛ぶことが出来ずとも、他の手段で空中へと身を乗り出す事は可能だ。

 

「……ッ!?」

 

カテレアが未だに地にいるであろう曹操へと魔力弾を放とうと振り返った、その時だった。

 

「……魔方陣を、足場に!?」

 

魔方陣を足場にして同じ高さまで至ったであろう曹操が、その槍を振りかざす。

照準はカテレアの心臓へと向け、弓を極限まで引き絞った如くの緊迫感が空間を支配する。

 

「――――」

 

死ぬ。このままでは、死ぬ。

カテレアは頭ではなく、本能でそれを理解した。

曹操は、槍を放つための過程を既に終えている。後はそれを振り下ろすだけで、自分はそのまま消滅するだろう。

 

火事場の馬鹿力。というわけではないだろうが、カテレアは自分でも驚くような速度で懐から一つの小瓶を取り出した。

そして、それを見た曹操に凄まじい圧力(プレッシャー)が襲いかかる。改めて確認するまでもなく、この圧力はあの小瓶の中に入っている黒い蛇によるものだ。

 

(あれは、マズイ……ッ!)

 

明らかに矮小でしかない見た目のその『蛇』を見た曹操は、すぐ様狙いを変更した。

光の力を極限にまで高め、蛇ごとカテレアを滅ぼし尽くす。

 

――蛇を殺し切るイメージは、湧かなかった。

 

だが、それでもカテレアには十分すぎる一撃だ。

瓶を砕かれ、そのまま襲いかかった曹操の一撃で、腹を貫かれたカテレアの口から真っ赤な血が溢れ出す。

 

「こ、の……っ!!」

 

苦悶の表情を浮かべながら、カテレアはとある術式を発動した。――即ち、自爆の術式。

 

「あなたも、道連れです……ッ!!」

 

最強の神滅具と自分の命の交換なら、十分過ぎる程だと、薄れゆく意識の中カテレアは思う。

そして意識が完全に飛ぶ直前に、カテレアの視界が真っ白に染まった。

 

「……禁手化(バランス・ブレイク)

 

曹操の呟いた、その一言共に、彼等のいた空間が、弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カテレア撃退後、テロリスト襲撃の事件は驚くほど急速に終わりを迎えた。

戦闘を終えた『セフィロト』の面々には、傷一つない。

あまりにも拍子抜けなテロに、曹操はどこか腑に落ちないところがありがらも、槍で肩をトントンと叩きながら息を吐いた。

 

「……禁手を使う事になるのは予想外だったな」

 

そう言いながら曹操は、粒子となって虚空に消えていったカテレアを脳裏に浮かべる。

カテレアが最期の瞬間に捨て身の覚悟で使用した自爆術式。それに対処するためとはいえ、禁手化(バランス・ブレイク)をしてしまった自分を恥じる。

 

悍ましさを感じさせるドーピング剤ごとカテレアを貫くまでは良かったのだが。その後の気の緩みは、仕方がないで済ませていいものではない。

 

そうこう考えているとグラウンドの中央で地響きが鳴り、思わずといった様子で曹操はそちら側へと顔を向けた。

 

「……レオナルドか」

 

そこには、一体のドラゴンが勝者の雄叫びが如く喉を鳴らしていた。咆哮が耳の鼓膜を叩き、その力強さを物語っている。

グラウンドには幾つもの穴が開き、結界にも所々罅が入っていた。

中級悪魔クラスの実力を持つ、数百人規模の魔法使い達は何れもが地に伏せており、レオナルドの完封だったと言えるだろう。

 

だが、レオナルドはこれでも本気を出していない。

 

レオナルドの『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』は、いくつか条件さえ満たせば一誠以上の凶悪性を誇る。

彼がある条件を満たした時のみ使用可能な禁手化(バランス・ブレイク)――【魔獣の凶戯】(命名イッセー)。

禁手しても能力に大きな変化はないが、その規模は大きく異なる。

 

石化の邪眼に、消える事のない黒炎。不死鳥が如き再生力もあれば、重力を操作したりだったりと、至れり尽くせりな異形の召喚である。

一誠の中に封印された龍曰く「これはひどい」だそうだ。

 

曹操としても、あれと戦うのは二度とごめんだと思う。

以前レオナルドの感情が一誠の必殺を見た際に昂った結果、一度彼の能力が暴走して《禁手》に至った時、曹操と一誠はその怪物と対峙した。

 

結果アジトの訓練室が壊れそうになり、ゲオルグが隙を見て『次元の狭間』へと放りこみ、それで事件は一応終わりだ。

 

その後の事は知らない。ゲオルグが血走った目で「聞くな。絶対に聞くな。調べもするな」と釘をさしてきたからである。

あの時のゲオルグの眼は、人殺しの眼であった。曹操は知らぬ事だが、ゲオルグが最大のストレスを負った日である。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

「――では、これにて今日は解散といったところか」

 

荒れ果てた駒王学園の校庭にて、一誠は確認するかのようにそう呟いた。彼の傍らには、曹操とレオナルド(ゲオルグは隠れて魔法使いでストレス発散中)が付いている。

 

「そうだな。また後日、私自ら伺うとしよう」

 

「取り敢えず今日のところは、和平の調停で終了でしょう」

 

サーゼクスの言葉に同意するかのように、ミカエルが頷く。

 

「……赤龍帝。――いえ、兵藤一誠くん。あなたは、どこまで……。……いえ、なんでもありません」

 

何処かしら煮え切らない様子のミカエルに首を傾げた一誠だったが、気にする程の事でもないかと見なしたのか、特に口を開く事はなかった。

 

「では、俺たちは戻らせてもらう。仲間たちに知らせなければならないからな」

 

そう言って、一誠達は駒王学園に背を向けるよう踵を返す。

既に、ここで果たすべきことは終えた。ならばこれから行わなければならない事は山積みだ。

能力者達と『組織』の根底に根ざす意思の改革に必要な手順は勿論の事、今後の連携に関してもゲオルグと話し合わなければならないだろう。

 

利益と損失の計算や、こちらから提供する技術の取捨選択。

向こう(グリゴリ)から受け取る技術の一端(アザゼルが胃を痛めながらも決死の覚悟で選んだ中二心くすぐるアイテム)を見た一誠は、これ以上なくテンションが上がっていた。

思考は凄まじい速度で回転し、顔はこれ以上ないくらい緩みきっていた。勿論、サーゼクス達に背を向けてからの事だが。

 

レオナルドもインスピレーションがわいたのか、手元に摩訶不思議な生物を生み出している。

曹操は先ほどの二つ名にもう飽きがきたのか、ブツブツと思いついた二つ名の名前をメモ用紙に書き込んでいた。

 

とてもだが神殺しをやってのける事が可能な集団とは思えないほどに、平和そのもの。

 

「さて、ゲオルグを呼ぶか」

 

「あ、僕やるー」

 

「……フッ」

 

自分達のするべき道を定め、そのために足を進めようとした、その時。

 

 

 

 

「――禁手化(バランス・ブレイク)

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 

 

 

 

静かに、しかし鮮明に、その言葉は一誠の頭に反響した。

 

続いて機械的な音声が大地を揺るがし、その場にいる全員の表情が変わった。

 

勢いよく一誠が振り向くと同時に、轟っ!! と。一誠達の背後で空気の逆巻く音が鳴り響く。グラウンドの砂が舞い上がり、一誠の髪の毛を風が薙いだ。

 

一誠の視線の先で銀髪の少年が神々しい白銀の光に包まれ、その姿を覆い隠していく。

 

 

完全に姿が一誠の視界から消える直前に、一誠の双眸は確かにそれを捉えた。

 

 

かの少年の瞳が、餓えた獅子が如くギラついていたその瞬間を。

 

 

弧を描くように歪んだ、その口元を。

 

 

故に、一誠の行動は迅速だった。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を装着し、頭に浮かべた策を取るための準備を開始する。

 

「ドライ――――」

 

ドライグ、と。一誠が信頼する相棒に呼びかけようとした、その瞬間だった。

 

「――――さて、愉しもうか」

 

白銀の鎧を纏った拳が、一誠の何も覆っていない顔面に着弾、

 

「――――」

 

一誠の身体が音を置き去りにした速度で真後ろに吹き飛び。その軌道上に存在した背景が跡形もなく、勢いよく吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

期待外れだと、つまらない戦いに違いないと、そうだと思っていた非礼を詫びよう赤龍帝――いや、兵藤一誠。

 

強い、などという言葉に収まらないであろう赤き龍よ。

 

大空を知らぬ俺の愚かさを、キミは嘲笑うか?

 

キミという存在に、いまのいままで気付くことなく落胆していた俺を。

 

……だが、それでも構わない。

 

キミになら、俺は覇龍を見せても構わない。

 

この戦いが、命を散らす結果になろうとも構わないッ!!

 

だから、だからだからだからだから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――愉しませてくれ、兵藤一誠ッ!!

 

「……さあ、心踊る決戦を始めよう――――ッ!!」

 

瓦礫と砂塵に包まれた場所から、赤い光が漏れ出すのを見て、俺は、溢れる感情のままに飛び出した。

 

 

 

 




ついに火蓋が切られた最終決戦、白龍皇対赤龍帝!!

だが、白龍皇よ、キミは忘れている!
中二病との戦いには、必ずしなければならない鉄則があることを!
それをせぬうちには、戦いの土俵にすら上がれないということを!!
そして、アザゼルの胃が爆発寸前!
卒業組にあるのは、希望か闇か!?

次回、この素晴らしい中二病達に祝福を!(仮名)

お楽しみにね!



※今回のお話に中二病成分で物足りなさを感じた人は末期です。病院に行きましょう。
ただの病院では機関に襲われます。ちゃんとした場所へと行くために《俺の名前は【二つ名】。闇を生き、この世界に溢れる【お好きなように】を粛清する者だ!》と唱えながら看護師さんに話しかけてください。



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