赤龍帝は中二病【完】   作:吉田さん

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このイッセーを見てイタイと思う人は正常です。そのままの精神を保ってください。

逆にイッセーをかっこよく感じる方はもうおしまいです。明日からは貴方もセフィロトのエージェントとなるでしょう。頑張ってください。
自己紹介の際には必ず二つ名を叫びましょう。そうしなければ組織の刺客に消されます。



刮目せよ! これが中二病の名推理!!

「――――『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』」

 

思わず、といった風にミカエルは曹操の持つ槍を見て呟いた。目は大きく見開かれ、口は半開きになっている。

 

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』。最強の『神滅具(ロンギヌス)』として名を馳せている『神器(セイクリッド・ギア)』だ。

また聖遺物でもあり、教会という神に仕える者たちにとって無視が出来ない代物でもある。

現に、紆余曲折あって現在グレモリーの眷属となっている元教会戦士のゼノヴィアやミカエルの連れてきた天使は聖槍から視線を外せない。

 

「ふっ」

 

そしてそんななんか明らかに注目されている場面で、中二病が黙っているはずがない。

中二病は注目されるのが大好きなのだ。自然と曹操と一誠の口角は吊り上がり、まるで計画通りと言った表情を浮かべる。

 

そしてその笑みは、ミカエルがひとつの核心に辿り着くためのピースと化した。

 

(……っ!! 我々との交渉ですかっ)

 

神不在の今、システムを預かっている身としては曹操の持つ聖槍は喉から手が出るほど欲してしまう物だろう。

如何に熾天使で天使長といえど、『神の意思』を宿しているとされる神滅具には欲が生まれてしまう。

 

(侮り難いですね。赤龍帝)

 

自分に対する、最大の切り札(ジョーカー)

戦略的価値は当然として、それ以外の付加価値も計り知れない。

元々そんなつもりはなかったが、これを見せられては天界から赤龍帝に強く出る事は不可能だろう。

対価として何を要求されるかは不明だが、とにかく、天界は赤龍帝とパイプを繋ぐ必要性が生まれた。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

会議は滞りなく進んでいく。

とてもだがつい最近まで冷戦状態だったとは思えないほどに、その流れはスムーズだった。

 

「そのため、我々は――――」

 

各勢力の首脳陣が真剣に話し合う。

今後の世界の動きや、自分たちの身振りについて。

そんななか能力者集団『セフィロト』の頂点である一誠はといえば、

 

「……暇だ」

 

暇だった。仕方のない事ではあるものの、いささか以上に彼は暇だった。

元々、これは三大勢力の会談だ。そこに一誠が割り込んだ形である。

故に、一誠の知らない事情の議題について彼らが語り合うのは当然の事だ。そこに不満はない。

 

そのため、一誠からの要求はこの話し合いが終わった後で発表する事になっている。

つまり、それまで一誠は時間を持て余しているのだ。

 

「すぅー。すぅー」

 

少し前まではレオナルドを膝に乗せて遊ぶことで時間を潰していたのだが、そのレオナルドは夢の世界へと旅立った。

話に耳を傾けて時間を潰そうかとも思ったが、知らない単語のオンパレードで一誠は挫折した。

ゲオルグも認める頭の回転の速さを誇る一誠だが、それは妄想のネタになる(中二病的な)ものに限る。

魔法なら嬉々として学ぶし、能力者が関係するなら喜んでその頭脳を働かせるだろう。

だが、今回のは明らかに中二病的なものではない。故に一誠は無気力症候群に陥った若者が如く項垂れているのだ。

曹操も暇なためか夢見心地で、真剣に耳を傾けているのはゲオルグくらいのものだろう。どこか感慨深げに見えるのは、一誠の気のせいではない。

 

しかし、訳のわからない話だが一誠を惹きつける魅惑的な単語もチラホラとだが存在していた。

 

それは“堕天使”や“悪魔”などといった、明らかに人類に敵対してそうな魔物を指す名称である。これに一誠が怪しく目を輝かせるのは、仕方のない事だった。

 

中二病の持つ都合のいい耳が、目敏く拾った単語である。

そんな掬い取った数少ない単語で、一誠の頭は世界を構築し始める。

 

(……『組織』は人類が保有する能力者に対する機関。能力者は、世界の異端、謂わば人類の敵対者と取れなくもない)

 

「そうだな。このままでは私達は滅びの一途を――――」

 

(このままでは、滅び。つまり今の派閥同士の不和の状況は『組織』としても好ましい状況ではない)

 

散りばめられたパズルのピースを自分の都合のいい形に千切っては繋げ、千切っては繋げを続けていく。

 

(悪魔、堕天使。これらの異形が人間の味方とは思えない。そも、聖書にて記された悪魔や堕天使は悪役)

 

幼少期に、神話などで調べた知識を脳の引き出しから取り出し、さらに強固な世界を形作る。

 

(『神滅具』。それはなぜ、神を殺すなどという強さ基準を持ち出した? 初めから神、謂わば異形を殺す心算だったのか?)

 

ドライグ(相棒)との対話で得た知識(不十分)を持ち出し、世界に彩りを添えていく。

 

(彼ら『組織』が世界の結社した、人類を守護するための裏の機関ならば、悪魔などの異形の存在を知り得ているとするならば、それは――――)

 

カチリ、と一誠の脳内でピースが当てハマる。構築されていた世界が更新され、一誠の視界が薄っすらと広がっていく。

それは、偽りの世界。されど微量の真実が混ざった事で、真世界へと至った幻想世界。

 

「――く、くくく」

 

思わず零れる笑み。お気に入りの玩具を見つけた子供のように純粋で、しかし同時に仇を見つけた復讐者が如く歪な笑み。

 

そんな一誠の様子を見たからか、会談の話し声が一度止まる。

警戒するかのような視線を受け、一誠はやれやれと肩を竦めた。

そして、普段と違い優しげな口調で口を開く。

 

「すまない。世界の真相に辿り着いてね、少しだけ興奮してしまった」

 

その言葉に、胡乱気な視線を向けながらもミカエル達は一誠から視線を逸らす。

 

各々の思惑は、様々だった。

 

「……真相」

 

ミカエルは赤龍帝は油断ならぬものと見ているため、一誠の言う真相とやらに注目し、

 

「「……」」

 

アザゼルとサーゼクスは『世界の真相。そうか、そうだな。おう、そうだな。世界はお前を中心に回ってるな』と内心で悶え、

 

「……」

 

ゲオルグは一誠の口調の変化に事態を察し、天を仰いだ。

 

と、そんななかリアスが空気を変えるためか、おずおずと言った様子で一誠に言葉をかけた。

 

「あの、その眼帯は――――」

 

「――――よ、よすんだリアス!」

 

「お兄さま?」

 

切羽詰まった声で制そうとするサーゼクスの言葉虚しく、一誠にリアスの疑問の声は届いてしまった。

よくぞ聞いてくれた! とばかりにパアッと顔を輝かせ、リアスの方へと顔を向ける。余りにもの纏う空気の変貌に、リアスは若干引いた。

 

「ふっ。これはな、“封”だ」

 

「封? でも、前は付けていなかったのに?」

 

「以前と今回では状況が異なる。貴様も気づいているだろう? 世界の動き出す予兆に。故に俺は力を溜め、ここに封印を施した」

 

饒舌に話す一誠に、リアスは要領を得なかったのか曖昧に頷く。

アザゼルとサーゼクスは何を思い出したのか真っ赤にした顔を手で覆い隠し、それを見たグレイフィアが首を傾げる。

 

『グレイフィアの純粋な瞳がつらいと思ったのは、初めてだった』

 

それが後のサーゼクスの言葉である。

そんなアホなやり取りを無視して、ミカエルは真剣な声音で一誠に問う。

 

「――世界が動き出す、とは?」

 

「……ふっ。俺を試すか」

 

「……? いえ、試すなどということは」

 

「皆まで言うな。分かっているさ」

 

さて、と一誠は紅茶のカップを手に持ち、不敵な笑みを浮かべて口を開く。

 

「そうだな。一言でいうなら世界破滅の危機といったところだろう」

 

「世界の、破滅?」

 

眉をひそめるミカエルに、然りと頷き一誠は言葉を続ける。

 

「そこの男が能力者を捕らえ、人口的な能力者を生み出しているのもそれが原因と言えるだろう」

 

「……能力者。神器使いということですか?」

 

「名前などにさしたる問題はないだろう。だが、俺たち『セフィロト』は能力者で通すつもりだ」

 

「『セフィロト』……《生命の樹》ですか」

 

「話を戻すぞ。力持つ者を集める理由など、二つしかない。即ち進軍目的の武力、もしくは自衛の手段だ。そして、アザゼルという男が能力者を投入する場面は限られていた。つまり――――」

 

「――――自衛の手段、ですか。今の赤龍帝、兵藤一誠くんの発言に間違いはありますか、アザゼル?」

 

 

 

 

 

 

 

ミカエルの言葉に、アザゼルは内心で頭を抱えた。

一誠の言葉は間違っている。だが、間違っていない。

矛盾した物言いだが、しかしこれがアザゼルの心境だ。

 

(いや確かに神器使い集めてたのは自衛の手段だし、世界破滅の危機といえば危機だけどよ)

 

先ほどの赤龍帝の言葉は中二病による妄想……のはずだ。はずというのはアザゼルも赤龍帝の高説の正確さにより、「実は中二病のフリしてんじゃねえのかこいつ」と懐疑的になり始めたからである。

 

しかし中二病はフリで出来るようはものではない。それはアザゼル自身経験積みだ。あれは一過性夢のようなものであり、しかしあの頃は楽しかったなと思う。今ではただの黒歴史だが。

 

兎にも角にも、赤龍帝が中二病である事に間違いはない。

故に妄想ではあるのだろう。問題はその悉くが現実問題でも起きうる事態である事だ。

 

妄想故に違うと言えば違う。しかし現実問題でもあるため正解と言えば正解である。

 

そしてここで「違う」と答えればアザゼルは何のために神器使いなどという戦力を集めていたのだという話になり、和平どころの騒ぎではなくなってしまう。

 

だがここで「その通りだ」と答えればそれはそれでこの中二病が後戻り出来ない地点まで中二病を拗らせる事になり、今後アザゼルの胃が荒れる結果に陥るだろう。

 

「……」

 

まさに絶体絶命の危機。天界で神器システムを司る層に足を踏み入れた時以上の危機感がアザゼルを襲う。

額から汗が垂れ、背筋が氷柱を突き立てられたが如く冷えていく。

 

サーゼクスのどこか縋るような瞳も、アザゼルの精神をガリガリと削っていく要因だ。

顔からぶわっと汗が玉のように溢れ、どうしようもない絶望感が身を包む。

 

そんな、冷静な思考もままならない状況で、しかしアザゼルは最終的な利益やら今後の世界情勢、堕天使という種族の未来をなんとか計算し、やっとの思いで答えを紡いだ。

 

「……あー、いや。うんまあ、間違いはねえ……な」

 

サーゼクスの裏切り者を見るかのような視線が痛い。

赤龍帝のこの上ないほどの満足感といった風なドヤ顔がウザい。

しかしそれらの葛藤をなんとか内心で押し殺し、アザゼルは全身全霊を懸けてポーカーフェイスを気取る。

 

聖書にも記されし堕天使総督の意地が、いまここで発揮されたのだ。

 

(……もう嫌だ。神器研究していたい)

 

 

 

 

 

 

 

どこか腑に落ちないアザゼルの返答だが、ミカエルは特に気にすることなく一誠に顔を向ける。

 

「それで、我々の“敵”足り得る存在とは」

 

「……世界政府の結成した『組織』が、世界の安寧を望み、そのために動いているとするならば、それを邪魔に思う存在という結論に帰結する場所は自ずとひとつに限られる」

 

目を瞑り、一誠はその名を口にする。

 

「政治的不満を、武力を持ってして主張せんとする輩」

 

と、一誠の言葉に反応するかのように、会議室の中心で転移の魔方陣が展開された。

そして、その魔方陣の紋様を見たサーゼクスとセラフォルーが顔を険しくさせる。

 

「森羅万象を無に帰す理の覇道を求める者。万物全てはそれらの前には等しく無価値な物であり、己の主義のみを絶対とする集団」

 

それらを無視し、一誠は言葉を続けていく。

 

そして――転移の魔方陣から人影が現れるのと、一誠が目を開き『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を装着したのは同時だった。

 

「――即ち、テロリスト。世界を混沌の深淵へと導く破壊の権化。つまり、混沌の闘争(カオス・ブリゲード)

 

「――素晴らしい情報収集能力です、赤龍帝。そう、我々は『禍の団(カオス・ブリゲード)』。今の腐りきった世の中を正し、新世界を創造する組織です」

 

中二病の妄想と世界の真実が交差するとき、物語は、混沌の嵐を巻き起こす――――。

 

 

 

 




アザゼル「どうしてこうなった」


ブリゲードの語源はケルト語で争いだそうです。
勿論僕が博識だとか中二病だから知っていたとかではなくグーグル先生のお力です。

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