赤龍帝は中二病【完】   作:吉田さん

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僕、知っているんだ。――最後だから自重なんていらないって。


三大勢力会議

深夜。人々が寝静まり、家から漏れる温かな光が消え、街灯だけが道を照らす、静寂が訪れた頃。

 

駒王学園への道のりを、一人の少年が歩いていた。

 

少年の名前は兵藤一誠。駒王学園が誇る中二病である。

制服のブレザーを肩掛けにし、チュッパチャプスを口に摘むその姿はまさしく拗らせた人間。

煙草を吸う大人かっこいい、けど吸う勇気はない。

そんな人間が手を出すのがチュッパチャプスである。勿論嘘である。

 

だが、兵藤一誠の場合はそれだ。

ブレザーを肩掛けにしているのも、右腕に包帯を巻いているのも中二病による恩恵にすぎない。

ズボンが所々破けているが、勿論盛大な戦闘を終えた故の名誉の勲章などではなく、ただただカッコ良さそうだからという一誠の嗜好だ。

 

「ふ、ふははは」

 

一誠がこんな夜更けに一人出歩いているのには、勿論訳がある。

先日リアス・グレモリーにダメ元で頼んだ『上と話し合いの場を設けてくれ』的な意味合いの返事が、『組織』の頂点直々に伝えられたのだ。

 

場所は駒王学園。時刻は丑三つ時。

そこで行われる『三大勢力会議』に、招待すると。

 

三大勢力。概ね一誠が想像していた派閥の通りだった。

穏健派と過激派、そして中立派。

組織の情報を照らし合わせ、一誠はこれらの派閥が存在するだろうとあたりをつけていたのだ。

それが以前、生徒会室で一誠が口にした『派閥』の正体である。

 

勘違いではあるものの、しかし大筋は間違っていない。

呼称などにさしたる問題はなく、一誠は勿論彼の周りの世界も回り続ける。

 

中二病の妄想は、しかし事実だ。力を持つ中二病の妄想は、拍車をかけていく。

真偽のほどは関係なく、既に幕は上がっている。

 

――と、一誠の足がそこで止まる。

 

彼が頭上を見上げれば、そこに見えるは普段通う学び舎その場所。

だが、一誠には分かる。そこは異界なのだと。

ゲオルグという優秀な師がいるおかげか、この程度の結界なら一誠は目視が可能だ。

 

周りにいる蝙蝠の羽根を生やした男女等に軽く目を向け、一誠は薄く笑みを浮かべる。

 

(ついに、ここまで来たか)

 

さあ征こう。世界の異端、能力者達の道に救いを求めて。

 

その足取りに迷いはなく、顔に貼り付けられているのは歓喜の笑み。

 

赤龍帝、兵藤一誠。

 

彼はいま、裏の世界へと一歩踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠が会議室に足を踏み入れると、そこには既に先客がいた。

知ってる顔もある。組織の中立派の頂点に位置するだろう紅髪の男や、その隣で髪を二つに括っている少女も同日体育館で見かけた。

 

魔法少女がいるという話を松田元浜から聞き入れた一誠が「まさか組織の尖兵か?」と疑り、念のために確認していたのである。

 

一目見た瞬間に、一誠は以前に有意義なやり取りを交わした漢女の似た服装をしているため大丈夫だと楽観視していたが。

甘かったと、一誠は認識を改める。おそらく組織でも幹部的な存在であろう少女――セラフォルーはスパイ能力に長けているのだろうと一誠は認識した。

 

(成る程、あの時の服装は変装に過ぎなかったか。おのれ『組織』やはり侮りがたしーーーーッ!!)

 

勿論誤解である。セラフォルーのあれはただの趣味である。

故に敵を欺くための変装だとかいう意図はなく、一誠が似たような服装をした漢女と出会っていたのも偶然でしかない。

 

だがセラフォルーが魔王であるため大筋がズレているとは言い難く、またあくまで内心の葛藤なため誰もツッコム事はない。

これにより一誠の誤解は加速を生み、もはや留まるところを知らなくなるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「ほう、こいつが噂の赤龍帝か」

 

思案気な顔で用意されていた座席に腰掛ける一誠を見ながら、アザゼルは油断なくサーゼクスにアイコンタクトを送る。

 

それを受けたサーゼクスは黙って頷く。

表向きは敵対している筈だというのに、今の彼らの姿はまさしく盃を交わした仲間である。

 

「よっ初めましてだな赤龍帝。俺はアザゼルってんだ。総督をやっている。まあ、いっちまえばラスボスだな。よろしく頼むぜ」

 

(……さて、気を強く持てよ俺)

 

飄々とした態度で赤龍帝に話しかけながら、内心で冷や汗をダラダラと流す。

後ろで壁に背を預けながら待機している白龍皇が不思議そうな視線を送ってくるが、アザゼルが彼に構う余裕はない。

 

「ラス、ボス……」

 

アザゼルの言葉に、一誠の瞳が怪しく光る。

この瞳を、アザゼルは知っている。具体的に言うならば、自分が若かった頃、『ぼくが考えた最強の神器(セイクリッド・ギア)資料集』を作成していた時の瞳……ッ!!

 

今頃、赤龍帝の脳内ではもう素晴らしい世界観が溢れかえっているのだろう。

アザゼルは背筋が凍りついた。

 

よくよく見れば眼帯に包帯は勿論、ブレザーは肩掛けし、中二病御用達のチュッパチャプスまでも頬張っている。

 

更に何処と無く難解な言い回しを好んで使う事から見て、間違いなくあの病を患っている。

名前を呼んではいけないあの人を目の当たりにしたかのように、アザゼルは慄然とした。

 

「……成る程、人工能力者を生み出したのはあなたか」

 

自分の生き恥を曝すが如く、赤龍帝の口から紡がれる世界観がアザゼルを襲う。

羞恥心の種が散弾が如く降り注ぎ、アザゼルの精神をズタボロに痛めつけていく。

 

しかも、微妙に真実に掠っている。

これでは何も知らぬ裏の存在が見れば、一を聞けば十を知る天才赤龍帝でしかない。

 

「ほう、赤龍帝はそこまで知っていたか。表でしか動いていないと聞いていたが」

 

「……君が、ドライグの言っていた宿命の好敵手。神の敷いた呪われし運命の――」

 

「その通りだ、俺の好敵手(ライバル)くん。キミの家系を幾ら調べても、何もない血筋で内心ガッカリとしていたが……。中々愉しめそうだ」

 

「愉しめる、か。森羅万象の理、所謂神の敷いたレールに乗るのが、愉しいのか?」

 

「確かに、俺たち二天龍はそういう宿命の元生まれてきた。これは謂わば、予定調和の戦闘なのかもしれない。だがな好敵手くん……いや、兵藤一誠。俺は、キミという強敵と戦える事に感慨すら覚えている」

 

「成る程。戦闘狂の類か……それは命を縮めるぞ」

 

「ふっ。構わないさ。至高の闘争の果てに朽ち果てるなら、それは本望だ」

 

現に、嬉々として白龍皇――ヴァーリは赤龍帝に話しかけている。

傍から見れば、普通に会話が成立しているように見えるだろう。

不思議だ。これは一種の才能と言っても過言ではないのではないだろうか。

 

そして、赤龍帝といるとヴァーリも中二病っぽく見えるのは気のせいだろうか。アザゼルは息子同然に思っている少年の未来を哀れんだ。

 

ヴァーリが戦闘の天才ならば、兵藤一誠は妄想の天才。

 

ある意味どちらも恐ろしい才能の持ち主だとアザゼルは思う。

 

特に後者はアザゼル的に恐ろしい。

中二病だというのに、それが黒歴史にならないとはどういう了見か。アザゼルは怒りに打ち震えた。

 

 

だが、何よりもアザゼルが注意しなければならないのは兵藤一誠ではない。

 

 

「――赤龍帝と白龍皇が共にいる場面に立ち会えるとは、感動すら覚えますね」

 

 

神々しい光を放ちながら現れた男に、アザゼルの警戒心が高まる。

 

「少々、遅れましたか?」

 

「いや、問題ない」

 

最上級天使を伴いながら現れたその男こそ、アザゼルが最もこの場においては危険視しなければならない存在。

 

その名は、

 

「初めましての方は初めまして。――天使長、ミカエルと申します」

 

ミカエル。かつてアザゼルが封印した魔道書を、ビラにして大戦時にばら撒いた男。

アザゼルの過去を知り、それを思い出して悶えるアザゼルを見て愉悦する。天使のくせに愉悦を覚えて堕天しない最悪の存在。

 

(絶対、絶対にミカエルに赤龍帝が中二病だとバレるわけにはいかねぇ……)

 

幸いにして、赤龍帝にはアザゼルが認めざるを得ない才能がある。

妄想が現実とうまいこと合致し、更に本人にも実力が備わっている事だ。

これで赤龍帝がただの高校生ならミカエルも気付くだろうが、幸いにして赤龍帝足り得る力を示している。

 

上手く隠蔽しているようだが、流石にこの場にいる超一流の実力者達の前では隠しきれていない力。

 

(さて、どうなるか……)

 

取り敢えず、胃薬は飲んでおこう。

アザゼルはサーゼクスの女王が紅茶を入れる様子を眺めながら、決意を新たにした。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

間もなくして、リアス・グレモリーと彼女率いる眷属に、ソーナ・シトリーとその女王が入室した。

 

「……揃ったか」

 

部屋にいる面々を見渡し、サーゼクスが始まりの合図をしようとしたその時、唐突に赤龍帝が手を上げサーゼクスの口を制した。

 

「……流石に、敵前のど真ん中にいるのが俺一人というのは些か不用心がすぎると連絡が入った。故に仲間を招き入れたいのだが、良いだろうか?」

 

赤龍帝の言葉に、拒否を示すものはいなかった。

何せ他の陣営はそれぞれが強力な護衛を引き連れている。ここで赤龍帝の案を拒絶すれば、赤龍帝に不審がられる事この上ないだろう。

 

それに、表向きでは彼らはいつ殺し合いを始めてもおかしくない者共だ。

ならば赤龍帝が保険をかけるのも当然。――というのが、サーゼクスとアザゼルを除く面々の思考回路だ。

ミカエルが「構いませんよ」という中、アザゼルとサーゼクスは手を顔の前で組んで閉口している。

 

「では、結界を一時的に解いてもらい――――」

 

「――――その必要はない」

 

ミカエルの言葉を遮り、一誠は指をパチンと鳴らす。

途端、一誠の周囲の空間に霧が立ち込めた。

ミカエル他数名が驚愕し、アザゼルとサーゼクスの顔が強張る。

 

霧が晴れ、やがてそこにいたのは三人の人間だった。

制服の上から漢服を纏った青年、曹操が槍で肩をトントンと叩きながら一歩前に出る。

 

「初めまして、『組織』の方々。俺の名前は、曹操という」

 

次いで、明らかに中学生にも満たないであろう年齢の少年が笑みを浮かべながら曹操に並び立つ。

 

「レオナルドだよ。よろしくね!」

 

最後に、眼鏡を掛けた青年がガラスのような虚ろな瞳でその場から動く事なく言葉を紡いだ。

 

「……ゲオルグ」

 

彼らを見ての、その場にいる者達の反応は様々だった。

 

「……これは」

 

ミカエルが険しい表情で彼らの顔を見やり。

 

「ふっ、は、はははっ! 最高だ、

最高だよ兵藤一誠!! こんなにも、こんなにもキミは……っ!」

 

ヴァーリはまだ見ぬ強者達との思わぬ邂逅にその顔を喜悦に歪め。

 

「良かったあ。今代の赤龍帝くんは友達が多いんだね〜」

 

セラフォルーは何やらズレた評価を下し。

 

「……ソーナ」

 

「リアス、あなたの言いたいことはわかりますよ」

 

リアスとソーナは安堵の息を吐き。

 

「……」

 

「……」

 

アザゼルとサーゼクスは真っ白に燃え尽き、そのまま天を仰いだ。

 

大抵の者達が赤龍帝の保有する戦力に瞠目し警戒し歓喜するなか、サーゼクスとアザゼルの思考は一致していた。

 

「「(……この場面であんな風に登場したら、そりゃあかっこいいよなあ)」」

 

満足気に頷く一誠に視線を送りながら、サーゼクスとアザゼルは揃って溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはあくまで余談なのだが、

 

「……」

 

虚となったゲオルグの視線の先、そこにはサーゼクスの姿があり、

 

「……」

 

更に細かく見るならば、サーゼクスの着ている服装の肩に付けられている装飾品――即ち、肩パッドへと向けられており、

 

(ああ……)

 

それを見たゲオルグは事態を察し、

 

(考えるのはもう――辞めよう)

 

思考を、放棄した。

 




〜おまけ〜
ゲオルグ「……なんだ。悪魔も中二病か。はっ、はははっなんだか笑えるな」
サーゼクス「これ(肩パッド)は悪魔なら普通のことなんだ! 断じて、断じて中二病じゃない!!」
一誠「(同志を見るかのような目)」
アザゼル「なあ、俺は大丈夫だよな。なあ、髭そっといた方がいいのか? なあ、なんとか言ってくれよ、なあ!?」

あと三話くらいと番外編まで御付き合い願うんじゃよ。

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