灰と幻想のグリムガル Extra   作:キリュウ

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ずっと投稿が遅れていたので、お詫びの投稿!

文字数が初?の11000文字overしちゃいましたww

所々おかしいところがあるかもですが、許してください!


第十八話 : プレゼントの渡し方にはご注意を

 

 

 

「さて、作戦だ」

 

俺たちは例のホブゴブが集まる建物から少しだけ離れた位置に待機している。昨日見たときと同じようにホブゴブが2匹いた。やっぱり遠くから見てもホブゴブの大きさは凄い。パーティで一番大きいモグゾーよりも大きいんだから。だけどそんな大きな敵でさえもノゾムは一人で倒してしまうんだから、俺たち全員でかかれば倒せない相手じゃないはずなんだ、そう自分に言い聞かせて緊張をほぐした。

 

「まずシホルの睡魔の幻影(スリーピーシャドー)はリーダー格の甲冑ゴブに。それと合わせてユメの弓で衛兵ゴブに狙撃。そこからホブゴブを一匹ずつランタとモグゾーが相手にしてくれ。衛兵ゴブはハルヒロ、ユメの二人で大丈夫だろう。メリイはモグゾーのシホルはランタのサポートを頼む。俺は周りに近づいてこないか注意しながら指揮をとる」

「ねぇ、甲冑ゴブが起きたら、もしくは眠らなかったらどうするの?」

 

メリイがいつもは聞いてるだけの作戦に初めて声を出した。いや、最初のころは結構文句は言ってたかも?

 

「その場合はシホルの影鳴り(シャドービート)で衛兵ゴブを拘束しハルヒロでとどめを刺そう。ユメとメリイはその間、甲冑ゴブを相手にしてくれ。といっても甲冑ゴブは弩があるから時間を稼ぐだけでいい。まぁ不測の事態は起こるだろうから、その時その時指示を出すことにするよ」

「・・わかった、それでいい」

 

メリイも納得し、頷いた。

 

「最後に一つ、何が起きても焦るな。適当でいい、正解なんてないんだからな。だからあれこれ考えて動けなくなるより、適当に考えろ。一番の敵は焦って普段通りのことができなくなる自分自身だ。焦ったときは普段の飯食べてるときのことでも思い返せばいいさ」

 

ノゾムが最後にそう締めくくった。作戦が決まったのでシホルが魔法睡魔の幻影(スリーピーシャドー)の射程圏内に入る位置まで移動するのを待つ。この場所を見つけるのにも苦労した。敵との距離が15mくらいで遮蔽物が無くなってしまうので、どうにか近づける位置は無いかと探し回った。そして、かなり遠回りすることになるが、射程圏内ぎりぎりまで近づける場所を見つけることに成功。護衛としてノゾムが一緒について行ってるから心配はしていないけど、なるべく早めに仕掛けてほしい。緊張と不安で心臓が早鐘をうつのが先ほどから止まらない。俺は敵がどうしているか確認するために壁から少し顔を出した。

 

「━━━━━っ・・・」

 

息が止まった。慌てて首を引っ込める。先ほどから早鐘を打っている心臓の音も横にいるユメにも聞こえてるんじゃないかというくらいの大きさで鳴っている。見ていたのだ。甲冑ゴブが、しっかりとこちらを。

 

「━━━気づかれた」

 

でも、なんで?

偶然?それとも察知されていた?

いや、今はそんなことは重要じゃない。俺はもう一度顔をだして、またすぐに頭を引いた。甲冑ゴブは弩を手にもち、こっちに狙いをつけている。

 

「・・・ど、どうしよ」

 

ユメは構えていた弓弦を緩めた。敵が気づいたのは間違いないだろう。だけどどうしたらいい?。敵に気付かれたのはシホルとノゾムたちは知らないし、伝える手段もない。どうする?移動する?。けど今から移動してもいい位置を確保できないだろうし、どうすれば。甲冑ゴブが何か叫び、それに衛兵ゴブが反応した。退けない。やるしかない。問題は弩。撃たれたら誰かが死ぬ可能性がある。そんなことを考えてる間にシホルの魔法が発動された。しかし、それは当初の作戦とは違う魔法だった。

 

━━あれは、影鳴り(シャドービート)

 

シホルがいる場所から飛んでいった魔法は睡魔の幻影(スリーピーシャドー)ではなかった。恐らく、甲冑ゴブが不審な動きがあったことに気が付いたノゾムが指示したんだと思う。睡魔の幻影(スリーピーシャドー)影鳴り(シャドービート)よりもスピードが速い。甲冑ゴブもこっちに気を取られていたから魔法に気付かず当たった。

 

「ユメ!弩を狙え!」

 

ノゾムの叫び声が聞こえた。

 

「はい!」

 

ユメもそれにすぐに反応し、先ほどまで隠れていた場所から上半身を出し矢をつがえ、そして弓弦を引き矢を放った。ユメの矢は見事に甲冑ゴブの手に刺さり弩を落とした。

 

「甲冑ゴブが寝なかったパターンで攻撃開始!勝てない相手じゃない!自信もて!」

 

ノゾムの声を聞くと勝てる!そう思える。俺は作戦通り衛兵ゴブに近づいた。衛兵の振り回す槍を俺はダガーで打つ。強く打って攻撃をそらし、上手くいけば武器の損傷、取り落とし、体制を崩す。それが盗賊の喧嘩殺法、蝿打(スワット)というスキルなんだけど、衛兵ゴブがけっこう力が強い。俺がダガーで槍を打っても打っても、突きを止めてこない。こいつ、並のゴブリンじゃない。

 

「っ!そっ!っ!・・・・」

 

俺は蝿打(スワット)をしながら下がる。下がる。下がる。こうして敵を引きつけているうちにシホルが魔法を使ってくれるはずだ。そして予想通りシホルの影鳴り(シャドービート)がきた。超振動で衛兵ゴブが固まる。俺はすかさず近づき首元を斬った。

よし!これでまずは一匹!

すぐさま甲冑ゴブの方に援護に向かった。隣の部屋でユメたちは戦っていたはずだからすぐに廊下にでる。

 

「ゆ、ユメ!」

 

廊下に出ると甲冑ゴブの持っていた槍にユメが右肩を抉られていた。

 

「てめぇ、よくもユメを!」

 

ランタがそれに気が付き援護に来ようとするがホブゴブの振り回す大剣に行く手を阻まれた。

 

「ランタは自分の敵に集中!こっちは俺が助けるから!」

「おぉ、任せた!こっちはオレ様がきっちり倒しといてやるぜー、おら、憎悪斬(ヘイトレッド)ォォ!!」

 

俺はすぐさまユメの所に走り、ダガーを甲冑ゴブに突き付けた。しかし、それを甲冑ゴブは軽やかなステップで交わす。こいつ、今まで戦ってきた中で、多分一番強い!ユメは結構なダメージを負っているようで、壁にもたれかかっている。

 

「メリイ、ユメの怪我!」

 

メリイの位置は甲冑ゴブを中心にしてユメの反対側にいた。しかし、離れているからといって怪我を治療できないわけじゃない。俺は甲冑ゴブがメリイに近づかないように手打(スラップ)で攻撃した。

 

「光よ、ルミアリスの加護のもとに・・・癒光(ヒール)!」

 

見る間にユメの身体が暖かな光に包まれる。癒し手(キュア)と違って、癒光(ヒール)は神官が掌を傷に手をかざす必要が無い。離れた者も治療できるし、その効果は全身に及ぶ。マナトも覚えていなかった魔法だ。ユメの怪我した場所が右肩だったことと、負傷の程度が重たいと判断して、すぐに治療したのだろう。これでユメは多分すぐに戦線復帰が可能になる。だけど問題はまだあった。ランタとモグゾーだ。

ランタは何とかホブゴブの棍棒を避けてはいるようだが、体力差もあって打ち合いでの疲弊の度合いが半端ない。そしてモグゾーは体力的にはましだったけど、何度か棍棒を喰らっているようで、少々ふらふらしている。どうしよう。甲冑ゴブもかなり強くて、ユメとメリイの3人でやっとだろう。シホルを援護に向かわせてもどちらか一人には援護に行けない。こんな時はノゾムに相談しなくちゃ。そう思って周りをきょろきょろするがノゾムがどこにもいない。

 

「ノゾム!大丈夫!?」

 

ノゾムからの返事が無い。まさか声も出せないほどの負傷を負った?。いや、ノゾムに限ってそんなへまをするようには思えない。でもそれ以外に返事がない理由が思いつかない。どうする?ノゾムを探す?。だけどそんなことをしていたら目の前の敵に隙を与えるだけだ。どうする?どうするのが最適なんだ?

 

「ハル!どうするの!?」

 

メリイの声が聞こえる。俺が聞きたいよ。ってかハルなんて初めて呼ばれたよ。そう叫び返したかった。けど、そんなこと言えるわけもない。ノゾムがいない時は代わりにリーダーをしなくはならない。だけど、ノゾムみたいにしっかりとした作戦をびしっと決められない。そんなことができていたら最初からしている。俺は考えながら甲冑ゴブの攻撃を蝿叩(スワット)しつづけていた。息が切れそうだ。手も痺れてきた。ミスったら終わる。考えろ、考えて、最適な答えを。そこで俺はふと戦闘が始まる前のことを思いだした。

 

 

 

━━━適当でいいんだ

 

 

 

━━━一番の敵は焦る自分自身だ

 

 

 

 

そうだ、ノゾムも言ってた。まさしく今の俺って、そういうこと?。焦って何もできてない。ランタもモグゾーも疲弊してシホルが遠くから魔法を飛ばして援護しようとしてるけど全部避けられている。ユメがようやく戦線に復帰してメリイは杖を使って俺と一緒に敵を挟んで攻撃してるけどどれもいまいちダメージを与えられていない。

 

そうだよ、ノゾムが言って通りじゃん。俺、焦って何もできてない。ノゾムは言ってた、適当でいいって。でも適当ってどんなのが適当なの?。それすらもわからなくなってきた。適当、適当に、ホブゴブに援護できて尚且つダメージを与えられる方法・・・あっ。今思ったことは結構バカな作戦だって自分でも思う。けど一か八かやってもいいと思った。

 

「シホル!こっちの援護に来て!」

「ハル!それだとあっちの援護が」

「わかってる。ユメ、敵の弩を使ってホブゴブに攻撃ってできる?」

「え?い、弩?」

 

俺が考えた作戦はユメが敵の持っていた弩を使ってホブゴブに攻撃することだった。ユメの持っている矢ではホブゴブに当たっても大したダメージを与えれないけど、恐らく弩ならそれなりのダメージを与えられるはずだ。

 

「うん、わかったやってみる!」

 

ユメは落ちている弩を拾いに走った。それを阻止しようと甲冑ゴブが走りだすが弩との間に入り邪魔をする。そしてシホルには影鳴り(シャドービート)を使うよう指示し、甲冑ゴブとまた対峙した。ユメは重たい弩を瓦礫の上に置き固定して使うことにしたようだ。効くか効かないか不安だったユメの攻撃は驚くほど効いた。矢は深くホブゴブに刺さり、さっきまで防戦だったランタやモグゾーにも反撃のチャンスができた。だけど安心はしていられない。甲冑ゴブを倒さないうちは大変な状況は変わらないのだ。

 

「━━━っふ!っや!」

 

手打(スラップ)で攻撃するが中々決まらない。見えろ!見えてくれ、光!時々見える光の道筋。それをなぞれば一撃で敵を仕留めることができる謎の光。どういう原理で見えたり見えなかったりするのかわからないけど、今見えてほしい。しかし、まったく見える気配はしない。でも、失望してる場合じゃない。

 

「代わって!」

 

メリイが叫んだ。俺はその声を聞いて全力で横っ跳びした。メリイは前に出て錫杖を甲冑ゴブの槍を受け止めた。いや、ただ受け止めただけじゃない。

 

「━━突き返し(ヒットバック)!」

 

一瞬、メリイの持つ錫杖が槍に弾かれたように思えたが、そうじゃない。攻撃を受けた反動を利用して、甲冑ゴブの胸を突いた。しかし、甲冑ゴブはそれをくらって一瞬ふらつきはしたもののすぐに体制を立て直すだけだった。

 

「ちょっとこいつの強さは厄介ね」

 

メリイの声にも疲労の声が出ていた。さっきからランタやモグゾーの怪我を治しもしていたから疲労が出てきたんだろう。恐らくこいつを倒すには不意を突くしかない。最初に俺が見つかるへまさえしなければ、眠らせて楽に勝てただろうに。そんなことを考えたとき、声が聞こえた。

 

「二人とも一度扉から出て廊下に出ろ!出たところで待機だ」

 

聞こえてきた声の主は、今までどこにいたんだよ!とツッコミをいれたい人物、ノゾムだった。俺とメリイはノゾムに言われた通りに走って廊下に出た。しかし、この後はどうすればいいんだ?。そう声に出し尋ねる必要はなかった。甲冑ゴブは走って廊下に出てきた。その瞬間、甲冑ゴブに黒い靄が当たる。それはシホルの睡魔の幻影(スリーピーシャドー)だった。魔法が当たった甲冑ゴブはふらふらと前後にゆれ、そして壁にもたれかかって眠ってしまった。そういえばさっきからシホルの援護が止んでると思ったらまさか敵からも存在を忘れさせるために何もせず隠れているとは思わなかった。不意打ちしかない、ノゾムもわかっていたのだ。シホルの横に立っているノゾムに目を向けた。

 

「結構強い敵だったな。さぁ、とどめを。そこまでしてが終わりだぜ?」

「うん、わかってるよ」

 

俺はダガーを甲冑ゴブの首に刺し、そのまま斬り裂いた。終わりだけを見ると随分あっけない戦いだったように思えてしまうけど、あのメリイでさえまだ肩で息をしているくらいしんどい相手だった。

 

「よし、すぐにランタたちの援護に行ってやれ。モグゾーは何とかなりそうだったけど、ランタは結構しんどそうだったからな」

「ちょっと待って息を整えるから・・・・うん、行こう」

 

俺はランタたちの所に走っていった。ノゾムの言う通り、モグゾーは何度か憤怒の一撃(どうも斬)が決まっているようだった。今はユメの援護もなくて一人で戦っている。ユメは弩を捨てて剣鉈で戦っていた。どうやら弩の矢が見つからなかったようだ。シホルが魔法を使えるなら睡魔の幻影(スリーピーシャドー)影鳴り(シャドービート)で拘束すればいいんだけど、魔法の使い過ぎでかなり辛そうだ。さっきもメリイに少し支えらている節さえあったし、今もメリイのそばで待機している。ということは、あれしかない。ここで長引く前に、あれをやる。

 

「モグゾー、やれ!」

「ぬんっ!」

 

モグゾーは即座に両足を踏ん張って、絶叫した。

 

「るおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉん・・・!」

 

肌が震えるほどの大声、戦士クラスの雄叫び(ウォークライ)だ。心構えをせずに聞いたら、確実に肝を潰す。仰天などですまない、恐れおののく。2匹のホブゴブもまさしくそうなった。金縛りにあったかのように身体を硬直させる。まぁすぐに正気に戻るだろうけど一秒でもそれに満たなくても、貴重な、貴重すぎる時間だ。片方のホブゴブにはユメが剣鉈を腰辺りにぶちこみ、もう片方には俺が背面打突(バックスタブ)で攻撃した。そして俺が攻撃したほうのホブゴブにモグゾーが踏み込みながら身体の重みを全部のっけたような凄まじい斬撃を放った。

 

「どうもぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・っっっ!」

 

恐ろしい音がした。モグゾーのバスターソードは恐らくホブゴブの鎖骨まで達しているだろう。

 

「グォォォォ!!!」

 

ホブゴブは片膝をついたが、まだ立ち上がろうとしていた。息がある限り油断できない。してはならない。俺は「おりゃぁ」とホブゴブの後頭部に飛び蹴りをかました。続けて体勢を崩したホブゴブにモグゾーが滅多打ちにする。

 

「うなぁっ!なぁっ!ふがぁっ!があっ、があっ!うおぉぉぉ!うおおおおぉぉぉぉ!」

 

簡単じゃない。一つの命の灯を消すということは決して簡単なことじゃない。凄惨だ。見るのが辛いくらいだ。だけど俺は当事者だから、むごたらしいからという理由で目をそらすことはできない。ホブゴブが微動だにしなくなると、今度はモグゾーが片膝をついた。肩で大きく息をしている。疲労だけじゃなくて身体じゅうが痛いだろう。そのときだ、

 

「は、は、早くたたた助けっ、早、く・・・っ!」

 

ランタがホブゴブの棍棒の振り回しを懸命に避けていた。ホブゴブの方はもう理性的な判断はできていないようで、ただ防御も忘れて全力で攻撃に来ていた。しかし、こういうのが意外とやっかいだ。

 

「よくやった、偉いぞ、ランタ!」

「そやなぁ!今回だけは褒めたるわぁ!」

 

俺とユメが挟んで攻撃しようとしたらホブゴブはすぐさま気づき自分の身体を視点にして回転するように棍棒を振り回して、俺たちを近づけないようにする。ユメが矢で攻撃するがやはりダメージとしてはいまいちで、こうなったらもう一度モグゾーに頑張ってもらうしかない。しかし、突然、先ほどまで暴れまわっていたホブゴブがぴたりと動きが止まった。何事かと思ったらランタや俺たちのことは無視して走り出した。逃げるのか?そう思ったがどうやら違う、走ってる方向にはシホルがいる!

 

「っ・・・・!?」

 

シホルは目を瞠って杖を前にするが華奢なシホルが耐えられるわけがない。

 

「━━━どいて・・・!」

 

横にいたメリイがすぐさまシホルの前に出た。けど危険なことには変わりない。メリイの錫杖もホブゴブの棍棒を受けたら折れてしまうだろう。走った。背中に一撃与えて止めてやる。しかし、ホブゴブが棍棒を振り回したほうが先だった。ホブゴブの振り回した棍棒によって、ガンっ!という音がした。俺はそのことはもう無視していた。今俺がすべきことはとどめをさすこと!そう思ったら例の光の道筋が見えた。何故見えたのか、そんなことはどうでもよかった。俺は無心にその線をなぞっていき、ダガーはホブゴブの脊髄に深々と刺さった。

 

「ガァァァァァ!!!」

 

大声でホブゴブが叫んだが、その後はいつも通り、ぱたりと前のめりに倒れた。

 

「・・・や、やった?」

「・・・う、うん、か、勝ったよ」

 

俺の言葉にモグゾーが肯定してくれた。勝った、勝てた。けどその喜びより、終わった、それに尽きた。

 

「ノゾム!」

「大丈夫!?」

 

けどシホルとメリイの声で忘れていたことを思い出した。さっきシホルとメリイが殴られた時、金属質のものを殴った時の音が聞こえていた。シホルが倒れているノゾムに寄り添っていた。メリイも不安げに顔を伺っている。いつもならあの攻撃でも涼しげに受け止めてしまうノゾムが吹っ飛ばされたとあっては不安になるのも無理はない。

 

「あ、あぁ大丈夫だ。ちょっと予想以上に力が強くてな」

 

そう言ってノゾムはゆっくりと体を起こした。あの時の金属音はノゾムが盾で防いだ時の音だったのだ。

 

「ノゾム、大丈夫!?無理しないで!もうちょっと横になったほうがいいよ!」

 

シホルが慌てた声で心配する。まぁシホルの思いもあるだろうけど、あの衝撃だったら誰でも心配になる。けど、ノゾムは「大丈夫だ」と言って立ち上がった。

 

「シホルこそ大丈夫か?結構魔法使わせてしまったからな、辛いだろ?」

「わ、私は大丈夫、それよりもノゾムが......」

 

シホルは少し顔を赤くしてノゾムの身体を支えていた。これで終わった。所々大変なところもあったけど、ノゾムが一太刀も敵に浴びせず勝つことができた。そう思った瞬間だった。

 

━━━ズシュ!

 

何かに何かが刺さる音が聞こえた。

 

「えっ?」

 

メリイの声だった。メリイが不思議そうな顔をしてこっちを見ていた。俺は一瞬何が起こったのかわからなかった。けど横から見ていたシホルとノゾム、そしてユメの3人は気が付いてた。メリイの背中に深々と矢が刺さっていることに。メリイは力が抜けたように倒れていき、それをシホルとノゾムが慌てて支えた。

 

 

━━━くっそ!やめろ!なんてことを!!!誰だ!?どいつがやった!!?

 

 

矢を放ったゴブリンは吹き抜けの屋根の上にいた。その時ノゾムが何か言ってたけどそんなものは頭に入ってこなかった。

 

 

━━━ふざけるな!殺す!!!

 

 

俺はすぐさま走り出した。どうやって屋根上に上ったのか覚えていない。気が付いたら屋根上に来てきてゴブリンと対峙していた。ゴブリンは何が楽しいのかへらへらと笑っていた。持っていた弓も捨て手には剣を持っている。俺は少しでも早く殺すためにまっすぐ走り出した。狙いは首。ダガーを振りぬいた。けれど失敗。また振りぬく。失敗。もう一度、首を斬り裂く。だけどまた失敗。ゴブは嬉しそうな顔をして俺を挑発する。俺はもう何も考えずただ体当たりし、ダガーをつきつけた。敵の攻撃を喰らわないように無意識的にゴブリンの右手を左手で抑えていた。

ゴブリンも右手が抑えられてしまい攻撃できないとわかり、俺を蹴落とそうとするが俺はゴブリンの手を離さなかったからゴブリンも一緒に屋根を転がった。屋根から落ちるか落ちないかぎりぎりのところで服が引っかかり止まったが、ハルヒロの上にゴブリンが覆いかぶさる形となってしまった。それでも左だけはゴブリンの右手を離さず、握りしめ、右手はゴブリンの腹ダガーで抉っていた。

 

「ガアアァァァ!」

「死ねぇーー!!」

 

お互いが叫びあった。どちらかが気力で負けたら死ぬ。そんな雰囲気だった。だけどそうはならない。ゴブリンの背中に矢が刺さる。ユメだ。そして「うぉらぁぁぁ!」と叫びながら走ってきたランタがゴブリンを横から刺し、屋根上から落とす。俺は叫んだせいで息があがっていた。

 

「お前、興奮しすぎだ、バカ!ちょっとは周りを見ろっての!」

 

ランタの言葉が余りに正論すぎて何も言い返せない。俺ももっと冷静に行動すべきだと思った。だけどメリイの背中に矢が刺さった瞬間、マナトと被ってしまった。メリイが死ぬ!そう思えて仕方なかった。

 

「それでお前が死んだら元も子もねぇだろ!」

「.....ごめん、悪かった」

 

俺は謝った。ランタの差し出した手を掴み立ち上がり、落ちたゴブリンを確認した。仰向けになって死んでいた。何も感じなかったわけじゃないけど、なぜか仇を取った、そんな気がした。急いでメリイの所に戻ると矢は抜かれ、ノゾムに治療されていた。

 

「これで本当に終わったな」

 

ノゾムが全員の顔を見渡して言う。俺も含めて全員が疲労が大きかった。それでも勝てたのだ。

 

「これ見ろよ!」

 

ランタが手に持っていたのは甲冑ゴブが持っていたゴブリン袋だった。ランタが袋の中に手を突っ込んだ。

 

「じゃじゃ~ん!」

 

ランタが手にしていたものそれは金貨だった。ゴブリン袋に入っていた金貨は合計4枚。他のゴブリン袋も合わせたらもっと額が増える。

 

「まぁ今回の戦闘に見合うだけのものはゲットできたみたいだな」

 

ランタが嬉しそうに袋を抱えているのを皆も今回ばかりは嬉しそうに見ていた。

 

「じゃあ今日はちょっと豪勢な物でも食べるとするか?」

「おぉーし!お前ら!とっととオルタナに戻って飯にしようぜ!」

「ちょっと待てって。結構疲れたんだからもう少し休ませろよ」

 

ノゾムの提案に元気いっぱいに反応するランタ。正直そこまで元気が有り余ってるのは少し尊敬する。ユメやシホルも袋から綺麗な石などを見てメリイと話をしていた。モグゾーは特に疲れていて袋の中身を見るのも腰を下ろして見ていた。皆ある程度体力が戻ってオルタナに帰ろうとなったとき、ノゾムがメリイを連れてちょっと俺たちから離れた。何があるのか気にはなったけど、「ちょっと待っててくれ」と言われたので大人しく待つことにした。そして5分ほどしてから隣の部屋に行っていた二人が戻ってきて、ゆっくりと俺たちはオルタナに戻った。

 

 

 

 

 

 

晩飯をいつもより少し豪勢な物を食べた俺たちは疲れていたこともあり、すぐに宿に戻った。ランタも元気な態度を見せていたが、部屋に戻ったらベッドにだいぶして10秒ほどで寝息を立てていた。俺は風呂に入ってから、いつもの吹き抜けにあるベンチに座って夜空を眺めていた。

 

「ノゾム、まだ寝ないの?」

 

後ろからシホルの声が聞こえた。俺は顔だけ振り向かせシホルを見た。。

 

「あぁちょっと涼んでるだけだけどな、シホルはこれから風呂か?」

「うん、行こうと思ったらノゾムがいたから」

「あんまり遅くなってもいけない、風呂入っておいでよ」

 

しかしシホルは胸に抱えたお風呂セットを持ったまま俺のベンチの横に座った。俺もどうしたのかと思い、シホルが何か話すのを待った。

 

「ノゾム、今日ちょっと戦闘の時いなかったよね?」

「あぁそのことか、それは「わかってる。ノゾムあの時外の敵と戦ってたんでしょ?」・・まぁな」

 

シホルは顔をこちらに向けることはせず前を向いて話していた。

 

「メリイさんが倒れたとき、まだいたか、って言ったよね?あれでノゾムがいなかったとき何してたのかわかったの。最初はわざと何もしないで私たちだけで戦わせてるのかな?って思ってた。けど、ノゾムがホブゴブに吹っ飛ばされたときおかしいなって思ったんだ」

「━━何が?戦闘に関わったことが?それとも吹っ飛ばされたことが?」

「両方。戦闘に関わった時にノゾムは戦闘にも防御だけだけど関わってくれるんだって思ったの。だからわざと私たちだけで戦わせてるわけじゃなかったんだってわかったの。ユメが怪我したとき、ノゾムだったら同じように防いだくれたはずなのにあの時は何もしなかったでしょ?それに吹っ飛ばされたことも変だなって」

「先に言うけど、俺だって耐えられない衝撃とかあるぞ?」

 

シホルは首を横に振った。

 

「それはわかってるよ。だけどノゾムなら、普段のノゾムだったら耐えられないような衝撃が来ることがわかってたら避けるか、もしくは私とメリイさんと避けられる位置まで移動させると思う。だから、あの時にノゾムが攻撃を受けた(・・・)のには何か訳があったんじゃないかなって、思ったの」

 

シホルの説明を聞いて俺は、よく見てくれてると関心させられる。今シホルが話した通りだった。

 

「そっか。.......実はあの時外にゴブリンが待機してたんだ。4匹ほどな。まぁ対して強い奴らではなかったんだけど、右腕をやられてね。シホルとメリイを抱えて避けることができなかったから盾で攻撃を受けることにしたんだ」

「4匹も!?」

 

そう言って座っていたベンチから腰を上げシホルは俺の前に来た。少し顔が近い気がするがシホルは気にしていないようだった。

 

「ノゾムはもっと自分を大切にして!もうこれ以上誰かが亡くなるのは.....いやだよ」

 

シホルの目にはうっすらと涙がたまっていた。女の子を泣かせてしまっているというのに、俺はこの時、嬉しいと感じていた。自分のことを泣いて心配してくれる人がいる。なぜだが、それがとてつもなく嬉しい。

 

「すまなかったな。けど決して強い敵ではなかったんだよ」

「でも、右腕怪我してたんでしょ?」

「ま、まぁそうだけど」

 

シホルの涙目+上目遣いに俺は何も反論などできはしなかった。

 

「だけど、俺も自分にとって確認しておきたかったんだよ。皆がいないでどれだけ戦えるのかってさ」

「........それで、どうだったの?」

「うん、4匹程度までならどうにか一度に相手できる。5匹以上は少し厳しいかな」

「━━━私たちってやっぱり頼りないかな」

 

先ほどまで近かった顔も今は離れ、表情を隠しているつもりなのか胸元に抱えるタオルを口元を隠した。

 

「そんなことはない。シホルも、皆も強くなってる。甲冑ゴブに魔法をかけたときは良いタイミングだった。ただな、自分の実力を客観的に知っておくことは大切なことだからさ」

「......客観的に?」

「そう、強くなるにはまず己のことを知ることから、だからな。俺の聖騎士クラスの師匠が教えてくれた言葉だ」

「......でも、無茶はだめ」

 

俺はシホルの頭に手をポンポンと置いた。嫌がるかと思ったが、シホルはされるがままだった。

 

「じゃあこれを約束としてシホルにあげよう」

 

俺は首元から下げていたネックレスを取り、シホルに手渡した。

 

「これ、いいの?」

「あぁ、実はこれ貰い物なんだ」

「━━━へぇ~貰ったんだ~」

 

あれ?シホルの声が何か急に冷たくなった気がする。

 

「あ、あぁ」

「ふ~ん.......そうなんだ......でも私よりメリイさんとかのほうが似合うんじゃない?」

 

うん、気がするんじゃなくて完全に冷たい!あれ?シホルってこんな冷たい声出すの!?

 

「いや、メリイに渡しても意味なくてな。守るべき人に渡しなさい、その人を守ってくれる、って言われてて」

「そっか~まぁメリイさんは強いもんね。私は紙装甲だし......弱いもんね」

 

あっれ~!?なんかとっても鬱っぽい感じなんだけど~!?

 

「いや、そういうつもりじゃなくてだな、えっと、つまり」

 

俺はどうやって説明すれば伝わるだろうかと慌ててると、シホルがくすくすと笑いだす。

 

「冗談だよ、ちょっとノゾムをからかっただけ」

「な、なんだ冗談か。焦ったよ」

「ふふ、今日私を心配させた仕返し!.......怒った?」

「いや、してやられたよ」

「してやりました」

「くっくっく」

「ふふふ」

 

変なやり取りがおかしくて俺とシホルあ笑いあった。

 

「じゃあつけてもらってもいい?」

「あぁちょっと待ってて」

 

シホルに後ろを向いてもらい俺はネックレスを首につけてあげる。男の俺がしてたよりも綺麗な装飾も相まって、シホルによく似合っていた。

 

「ありがと、ノゾム。大事にするね」

「あぁそうしてくれると嬉しいよ、リリィさんも喜ぶ」

 

その時、空気にひびが入ったような音が聞こえたのは気のせいか。

 

「リリィさん?」

「あぁそのネックレスをくれた人なんだけどさ、俺の師匠のおく、っつあ!」

 

俺はシホルに脚の脛を思いっきりシホルに蹴り上げられた。

 

「いった!.....あれ?シホル?ちょっとシホル?」

「ありがと!大事にするね!」

 

シホルは少し怒ったような声でこっちを振り返ることもせず、風呂場までノシノシと歩いて行った。なぜだろう。今日一番の痛みはシホルのキックだった。

 

「━━━━━━━━━━━━━━寝よ」

 

俺はとぼとぼと部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






優しい感想いただけると幸いで~す!

それと次話で1巻終わるとか言っておきながら終わりませんでしたorz

次で終わるはずです!きっと!w

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