ふらふらしていてすみません
朝8時に北門でメリイと顔を合わせる前、もっと言えば昨日のベッドで眠りにつく前から、どうしよう、彼女に何を言おう、おれは、おれたちはどうしたらいいんだろうと、そればかり考えていた。かなり考えたが結論は出なかった。
昨日の夜眠る前にメリイのことよろしくとノゾムにいきなり言われて焦った。いきなり放置なの?と思ったけど、ノゾムはマナトがいたときから裏側というかメインリーダーというわけではなかった。だからメリイのことに関してはハルヒロお前がやれといきなり言われて大混乱した。別に戦闘での作戦を考えたたりパーティを纏めるのはノゾムが変わらずやってくれるみたいだけど、もし自分がいない状態に陥ったときにハルヒロがしっかりしないといけないんだから、メリイの件で慣れとけとのことらしい。
(いや、ノゾムの言うこともわかるけど、メリイはいきなりレベルが高いよ~)
せめてゴブリンの盗伐を指揮するくらいからにしてほしかった。いやそれもできるかどうか不安ではあるんだけど。
結局、ダムローで仕事をしている間は戦闘に集中しないといけないから、何も話せず、オルタナに戻ってきてようやく彼女の目をまっすぐ見ることができた。
「メリイ、話があるんだ」
買取商を出たところで俺が切り出すと、メリイは「そう」と答えて身構えるように自分の身体を抱きしめた。
「先に言っておくけど、抜けて欲しいなら、それだけ言って」
今日の俺たちはどこかおかしかったように思う。どうメリイと接したらいいのかわからない。昨日ハヤシからメリイの身の上を聞いたことで、皆がそう思っているはずだ。
けど当の本人のメリイはそれを知らない。だからメリイはきっと、ただ異変を感じて、予感していたんだと思う。
━━━例えば、別れを。終わりを
「メリイ」
俺はメリイの瞳から目を離さずに名前を呼んだ。メリイは眉をひそめ、そして心許無げに体を硬くした。恐らく、抜けてくれ、とこの後言われると思ってるんだろうなと今ならメリイの思ってることがわかる。けど、こんなことがわかりたいんじゃない。
「━━━そうじゃない」
ノゾムがメリイに聞こえる声で言った。俺が中々言い出せないからアシストしてくれたのだろうか。メリイも「え?」と俺からの言葉を待つ形となった。そして俺も口を開いた。
「メリイ。俺たちのパーティには、神官がいたんだ。マナトっていう名前だった。マナトは死んだんだ。死なせちゃったって言い方が正しいかもしれない。俺たちは今リーダーをやってるノゾムとマナトにあまりにも頼りすぎた。完璧主義みたいな所がマナトにはあってね、かすり傷でも誰かがするとすぐに治療してくれたんだ。信頼できる
メリイはだまって俺の言葉に耳を傾けていた。おそらくだけどメリイは自分とマナトが似ていることに気が付いたはずだ。もしかすると、メリイの過去を知ったうえで俺がこんな話をしていることにも、考えが及んでいるかもしれない。
「マナトがいなくなって、正直、もうダメかもって思った。マナトが死んだ瞬間にはノゾムがいなかったから。でもノゾムがいたから、俺たちは立ち直れた。神官の代わりみたいにノゾムが俺たちの怪我を治してくれて、けどノゾムは聖騎士だから自分の怪我は治せなくて、このままじゃノゾムがマナトの後を追うだけだって焦った。それでメリイを誘った。とりあえず神官がいないとノゾムの怪我を治せないからね。それだけの理由なんだ、他には何もない。色々なことがあって仲間になった俺たちだけなんだけど、腹が立つこともあったり、喧嘩することだってあるんだけどさ、みんな大切な仲間なんだ。なんで仲間になったのかよりも、今、仲間だ大事なんだ。おれは・・・メリイも仲間だと思ってる」
メリイは何も言わなかった。たまにまだたきをする以外はじっと俺の目を見ていた。
「・・・・あ、あたしも」
シホルが弱弱しく手を上げた。
「仲間だと、思ってるよ」
「そやなぁ、メリイちゃんめっさ可愛いしなぁ」
「ぼ、ぼくも、当然、仲間だと思ってるし、メリイさんがいると、心強い」
ランタは、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽ向いた。
「オレも、あれだ。ちょっとした傷で騒ぐのはな、反省してなくもねぇよ。そのへんな。・・・まぁ仲間なんじゃねぇの?」
「明日あたり、雪が降りそうだな」
俺は日が沈みかけての空を見上げた。
「オレだって反省することくらいあるっつうの!今までつきあってきて、それくらいわかんねぇのかよ!」
「それはいいとして」
「こらハルヒロ!堂々と流そうとするな!」
「そろそろ、目標をはっきり決めたほうがいいんじゃないかなって思ってるんだ。当面の目標だけど━━━」
俺はそこでノゾムをちらっと見たらノゾムは頷いてメリイの方を見るように顔で示してきた。そしてメリイを見てみるとさっきまでと変わらずひたすら俺を見つめていた。
「━━━今まで曖昧だったからさ、団章を買うためにがむしゃらに稼ぐって感じでもなかったし、なんか毎日なんとなく生きてるみたいな感じだからさ。そういうのはやめて、進む方向だけでも決めようって思う」
「目標は億万長者だな!あとは・・・世界征服!」
(子供か!)
やかましいランタには心の中でツッコミを入れておいて、皆を見回すとメリイ以外賛同してくれた。
「メリイの意見は?」
メリイはわずかにだが顎を引いた。たぶん、頷いた・・・んだろう・・・きっと。そういうことにした。
「・・・あのさ、晩飯一緒に食べない?」
「いい」
メリイは小さい声で付け加えた。
「・・・・まだ」
「そっか」
何事もすぐにはいかない。今までだってそうしてきたんだ。
「じゃ、また明日」
今度はちゃんと聞こえる大きさで言ってくれた。少しづつだとしても距離は縮まる。生きてさえいれば、少しづつでも前に進めるんだ。
鐘が鳴る朝6時には起きて、支度をする。いつもモグゾーやシホル、たまに俺も手伝って朝食を作りそれを食べ終えて8時までに北門前へ。
メリイと合流してダムロー旧市街へ向かう。旧市街の地図はまだ完成してはいないので、地図を作りながらゴブリンを探す。ゴブリンが4匹までなら、そこまで無理をしないで捌けるようになってきた。しかし、時折、飛び道具を持っているゴブリンがたまにいて、そいつらがいるときは要注意だ。
全力でやればもっといけるが、安全に越したことはないので、4匹多くても5匹でやめている。ただ6匹以上となるとそれはもう集団で行動しているので、他にも仲間が隠れている可能性があるのだ。単独で行動する奴は大抵みずぼらしいものしか持っていないが、たまに高価なものを持っていたりして案外ねらい目だったりする。そして俺たちの当面の目標は、あることに決まった。
それが俺が戦闘に参加することなくホブゴブリン相手に勝つというものだった。
最初にハルヒロから提案された時は、開いた口が閉じず、メリイも、なぜ?、と疑問していたが、ユメとシホルから何かしらの説明を受けた後、まぁ別にいいんじゃない、という結論を下した。ハルヒロたちは今でも俺に頼っている部分が大きいと感じているらしい。もしこのまま俺に頼ったままでは次のステップに進んだ時にもノゾムに頼るしかできない、という意見に俺も納得してしまった。確かにいつまでもおんぶに抱っこではいけない、ならここでハルヒロたちを信じて任せてみるのもハルヒロたちの自信につながっていいかもしれないとOKサインをだした。
そして俺たちはひたすら自分の力量を上げるためにダムローでゴブリンを狩っている。
主に俺の役割はモグゾーとランタの戦いを横からみて、良くないところを指摘したりすることだ。そしてハルヒロ、シホル、ユメの3人は俺たちより遥かに戦闘経験があるメリイに戦い方を見てもらっていた。
オルタナに戻ると、毎日じゃないけど、みんなでシェリーの酒場に行く。これにメリイもついて来るようになった。最近は結構一緒に行動することも増え、メリイとこの前モグゾーの兜を買いに一緒に買い物にも行った。酒場に着いたら酒を飲んでいる客が俺たちを見て口を開きだす。
「ようゴブリンスレイヤー!」
「調子はどうだゴブリンスレイヤー」
「あいつら、ゴブリンを全滅させちまうんじゃねぇか~はっはっは!」
酒場に顔出すたびに、一度や二度は必ずこんな風に声をかけられる。ランタが「うっせーな」と言い返すこともあるが、いちいち腹を立てていてはキリが無い。だが実際ゴブリンしか狩っていないのだから間違いではない。昨日もゴブリン、今日もゴブリン、そして明日もゴブリンだ。最初はどのゴブリンも同じ顔にしか見えてこなかった顔も、最近ではけっこう区別できてきた。オスが極端に多くて、メスをめったに見ない。メリイ曰く、大半のメスは新市街で階級上位のゴブリンに妻として囲われているというのだ。
「そんなハーレム羨ましくもなんともねぇな」
「メスゴブだって、ランタ何かごめんだろうけどな」
「っは!知らねぇのか?さすらいのモテ王ランタ様をなめんじゃねぇ!」
「そやけどモテ王、いっつも酒場で女の子に声をかけて無視されてるやんなぁ」
ユメがランタをモテ王という言葉でいじる。
「ま、まぁ、たまにはそんなこともあるよな」
「モテ王も振られてまうねんなぁ。モテモテのモテ王なのに」
「そもそもオレの魅力がわからねぇのがバカなんだよ!わかるやつにはバシッとわかる!たとえばメリイ、俺ら男4人の中で1人を絶対に選ばなきゃなんねぇとしたら誰を選ぶ?完全に俺だろ?」
「わたしなら、モグゾーくんね」
「なっ・・・・」
「え、ぼ、ぼく・・・?」
モグゾーは照れるというより驚いてた。「へぇ・・・」とハルヒロはぼんやりとモグゾーとメリイを見比べていた。ユメは「ほぉ~」と何かに関心するように声をあげ、シホルは「ほっ」と何かに安堵していた。
「な、なんでだよ!?オレじゃなくてモグゾーとかなんでだよ、ってかよりによってモグゾーというチョイスとかありえねぇだろ!」
「大きくて、可愛いから」
「で、でかさで・・・そ、それはかなわねぇ・・・くそ、このオレ様がモグゾーごときに負けるとはぁ・・・クッソォォォ!」
「だいたい、何で私に訊くのよ」
メリイの疑問も最もだった。
「はぁ?んなの、ユメはちっぱいだし、シホルに訊いたところで答え一つしか決まってねぇだろが」
シホルはびくんと体が震えてから「え、その、え?」と何か言おうとして何も言えていなかった。そのシホルを見てメリイが何かわかったのか軽く頷いてから俺の方を見てきたので俺はジョッキを持ちあげてビールを飲んでごまかす。ハルヒロやモグゾー、ユメは今のランタの発言に特に何も意識していなかったようで、特に触れはしなかった。
最近溜まってきた金の使い道は装備の強化とスキルを覚えるのに使われた。まずハルヒロの場合、防具は中古の胸当てと胴巻き、手甲と脚甲を買った。ぜんぶなめし革製の軽装備だ。俺がが金を出すからもう少しいい装備買っていいぞと言ったが、ダガーも手に馴染んでいて、研ぎ師に研いでもらえば切れ味もよくなるとのことで、あまり大きな変化という変化はなかった。
モグゾーは念願の板金鎧をそろえた。といってもどれも中古品なのだが、それでもモグぞーは喜んでそれを使っている。なんせ鎧一式全部新品だと金貨が10枚以上取られるので新品で全部そろえるのはまだもう少し先となるだろう。兜だけメリイと一緒に買いにいったバルビュートという兜を愛用している。バスターソードも古くなっていたので買い替えようと言ったが、今回皆に鎧を買う金を出してもらったからまた今度でいいということになった。
ランタは鎖帷子を買った、のはいいのだが、なぜかその上に革鎧を着ていた。どうもランタはスカルヘルの紋章入りの革鎧がたいそうお気に入りらしい。そして、バケツをひっくり返したような形のオームという変な兜に惚れこみ、それを被っている。
ランタは武器も買い替えた。といっても衝動買いで、宿に戻ってきて、これ気にいったから買った!、と報告されたときには肝が冷やされた。それでも一応残金は少しは残ったので少し怒るだけですませた。
ユメはなめし革の上着とズボンを手に入れた。これが結構ユメに似合っていて、その上にフードをかぶると本格的な狩人っぽさがある。
ユメもランタ同様武器を買い替えた。といっても剣鉈の方ではなく、弓のほうだ。なんでも新しく覚えたスキル”速目”というものを覚えてら弓が結構当たるようになり得意になってきたらしい。
シホルは、ギルドからもらった魔法使いのローブと帽子がほつれり穴があいていたので新しいものを買った。今までローブという割に肩や足が見えていたので、俺が完全に肌が隠れるものをチョイスした。
服は買い替えたシホルだったが杖は買い替えなかった。なんでもシホルが軸にしている
次はスキルだ。
ハルヒロは
モグゾーは
ランタは
ユメも
シホルが新たに
この魔法は黒いモヤのようなものをゆっくりと飛ばして 対象に吸い込ませることによって眠らせることが出来る影魔法で、射程は12m程で、スピードは影鳴りなどと比べると遅いらしい。
俺は皆の武器や防具に金を出したので余り多くのものを買っていないが、一先ずだいぶ使っていた盾を新しくし、手甲を買って手首につけている。
そして剣も新しく購入し前よりも刃渡りが少し長めのものとなった。俺が新しく覚えてきたスキルは
そしてこれは余談だが、俺たちの目標を達成するのに理想の場所を見つけた。そこはかつて俺たちを襲った鎧を着たゴブリンやホブゴブリンがいる建物だった。どうやらこのダムローでの一つの拠点となっているみたいで、俺が倒した鎧ゴブやホブゴブも別の奴なんだろうが生きていた。
それから毎日一度はそこを偵察に訪れ、鎧ゴブやホブゴブたちがいなくならないか、建物はどんな感じで仲間はどれだけいるのか調査した。まぁいきなりそいつらを相手にするわけもないので、覚えたてのスキルを練習するために俺たちは鍛冶場と呼んでいるダムロー旧市街の西に位置する場所に来ていた。鍛冶場には今までも何度か訪れていて、休憩をとって昼食を食べたりしたこともある。この鍛冶場にはいつも沢山ゴブリンがいるわけではないのだ。というのも、どうやらダムロー新市街のゴブリンたちと、旧市街を根城とするゴブリンたちの間には大きな格差があるようで、新市街で勢力争いに負けたゴブリンは旧市街に都落ちしてくるようだ。そして旧市街で居場所を見つけようと散策するのだが、
「いたよ、ゴブリンが5匹。鎖帷子を着た奴が
と、ここ鍛冶場を選ぶことが多い。こいつらが、今のハルヒロたちにとっては理想の敵となるからだ。
「んじゃ、ここがお前らの実力を試す前哨戦ってことになるか?」
目指すべき目標のためには実力を試す機会が必要になる。だから俺はこの戦いで回復役に徹することを決めた。
「おもしれぇ」
ランタはぺろりと唇をなめて、バケツ兜オームを被った。
「やってやろうじゃねぇか。もうちょいで
ユメがそんなランタに冷たい視線を注ぐ。
「次はなにしてくれるん~?今なんて、たまぁ~~~に耳元でなんか囁いて、邪魔してくれるだけやん」
「驚くんじゃねぇぞ?ランクアップしたゾディアックんはな、なんと!たまに敵の手とか脚とか引っ張って、妨害してくれるようになる!━━━━━気が向いたら」
(最後が変わらないな、ゾディアックん)
シホルも呆れたように笑った。
「━━━結局は気まぐれなんだ」
「それと、あれな。手とか引っ張ってくれんのは夕方からな?夕方までは、囁き攻撃と、敵がいたら教えてくれるのと、
(今のところ活躍したところが一度もないからな~ゾディアックん)
メリイが鼻で笑う。
「むらっ気ありすぎでしょ」
「うっせえ」
「よしよし、ゾディアックんの活躍にはまた期待しよう。一先ず作戦だ。いつも通りシホルとユメの先制攻撃は変わらずな?シホルの魔法で1匹が眠ると仮定して、ランタが1匹、モグゾーが2匹、ハルヒロとユメで1匹ずつってのが理想だな。シホルはこの時、弩持ちを狙ってくれ。やはり遠距離武器があると厄介だからな。眠らせたら皆の補助に回ってくれ。メリイは前に出なくていい。俺と一緒で怪我したら回復だ」
俺の作戦に皆が頷く。
「まぁどうしてもピンチになったら俺も戦闘に加わるから無理はするな。大切なことは、戦闘中にどれだけ冷静な判断ができて周りを見れるかだ。無理なら無理と判断できるのも強さってことをわかっておけよ」
もう誰も仲間を失いたいと思っていない。だから全員が俺の言葉に深く頷いた。
「よし、じゃあ始めますか」
俺たちの前哨戦が始まった。
よろしければ感想を書いていってくださるとありがたいです。
それとよければ七つの大罪も同時並行で書いていこうと思っておりますので、
そちらもどうぞ~
あ、何か宣伝ですいません。