灰と幻想のグリムガル Extra   作:キリュウ

16 / 23


ついに彼女の過去が明らかに!?

ちょっと短め?ですけど、本編どうぞ~


第十五話 : 泥沼の過去

 

 

 

 

 

見習い義勇兵の頃から俺たちは仲間だった。戦士の俺とミチキ、魔法使いのムツミ、盗賊のオグ、そして神官のメリイの5人パーティ。俺たちのパーティは割と順調にいっていたと思うよ。君たちみたいにダムロー旧市街でゴブリンを狙って金を貯めて、10日ほどで全員が団章を買えたんだ。装備を整えて、スキルも覚えて、次の狩場に選んだオルタナの北西8キロほどのところにあるサイリン鉱山でコボルド狩りをし始めても危険な状態に陥ったことはほとんど無かった。

 

当時の俺はそれが普通なことだと思っていたから、まるで気が付いていなかったんだ。俺たちの戦いを安全にかつ安定なものにしていたのはメリイだったってことにね。あいつは、見た目は完璧なのに、それに鼻にかけることもなくて、いつも明るくて、元気で、よく笑って、パーティが暗くなることなんて一瞬もないくらいだった。それに、光魔法だけじゃなくて護身法スキルも覚えて、俺やミチキと肩を並べて戦っていた。もちろん、治療者(ヒーラー)としても完璧に仕事をしていたし、かすり傷程度でも、すぐに治療してくれた。俺たちのパーティは前衛が俺とミチキ、メリイの3人で、怪我をしたらメリイが治してくれて、ムツミとオグが危険に迫られたらすかさずメリイが助けに入っていた。ようするにね、メリイは1人で3人分働いてくれてたんだ。それなのに、俺たちは5人パーティだと思って戦ってたんだ。おかしいわけだよ。実質は7人パーティだったんだからね。

 

 

俺たちは戦えば戦うほど自信を深めていったんだ。あのころは怖いものしらずだったな。怖い思いをしないんだからそう思うのは当たり前だったんだけどね。でも、今ならわかるんだ。メリイは違った。俺たちが傷を負うたびにはらはらしていて、だからきっとすぐに治してくれていたんだ。

メリイはわかってたんだよ。俺たちの勝利という文字はいつも紙一重のものでしかなかったって。けど、その時の俺たちはわかっていなかった。

サイリン鉱山の攻略に挑んでいたパーティは俺たちだけじゃなくてね、だから負けたくなかったんだ。奥へ。奥へ。もっと奥へ。そして、忘れもしない鉱山の第5層で、それは起こった。

 

 

知っているかもしれないが、コボルドというのは毛むくじゃらの犬みたいな顔をした人型の種族なんだ。体格は人間よりも少し小さいくらいなんだけどね。けど、鉱山の下の方には170cmくらいある大きなコボルドが沢山いて、こいつらはとりわけ強い。連中は俺たちほど賢くはない、けど厳格な階級社会を持っていてね、集団行動が得意なんだ。中には恐れを知らない勇敢な戦士もいるんだよ。俺たちはそんなコボルドたちをなぎ倒して、1日かけて第5層に降りることに慣れていた。

正直に言うとね、俺たちはコボルドより強い、負けることはないって思ってた。けど油断していたわけじゃない。油断なんかしなくても、やつは俺たちより上手だった。

 

 

黒白斑の被毛と、何人もの義勇兵を手にかけてきたことから、やつは死の斑、デッドスポットと呼ばれている。少数の手下を引き連れて、鉱山の中を巡っているという話は聞いていた。デッドスポットに出くわしたなら、1も2にもなく即、離脱!

やつは時々だが鉱山の入り口付近まで追ってくるという。たとえ階層が深くない場所でも要注意だってね。俺たちもそのことを知っていたはずなのに無警戒だった。しかし、目の前からデッドスポットらしき大きな、いや大きすぎるコボルドが近づいてきたとき、俺たちは剣を抜いた。勝てるなんて考えていたわけじゃない。ただ、俺たちがいた場所が5層だったんだ。地上まで逃げ切れる自信が無かった。やるしか、ない、そう皆が考えた。

 

 

俺とミチキが代わる代わるデッドスポットの攻撃を引き受けて、メリイ、オグ、ムツミの3人が手下のコボルドを片付ける。俺たちはその作戦でいった。デッドスポットは噂通りとても強かったが、俺とミチキで抑えられない相手じゃなかった。その間にメリイたちが着実に手下を倒していって、誰かが怪我をしたらメリイが治していった。ついに手下が1匹もいなくなった瞬間、俺はいける!と思った。何しろデッドスポットは怪我を負っていたが、俺たちは無傷(・・)だったんだから。けど、この考えが本当に浅はかだった。なぜなら正確に言えば、数多の傷を受けてなお(・・・・・・・・・・)、無傷だったんだからね。

 

 

あの時、逃げ出そうと思えば逃げ出せていた。そうすれば今も俺たちは5人のパーティでやっていけてたのかもしれない。けど、そうしなかった。俺たちはデッドスポットに攻めかかった。だけど、俺たちの攻撃はどれもデッドスポットに通らなかった。どれだけ斬っても、殴打しても、魔法を直撃させても、どれも効いていなかった。ダメージを与えるどころか動きが鈍ることもなかったんだよ。この時、初めて危機を覚えた。

けど━━━それは遅かった。まずオグがやつの爪で顔に裂傷を負った。メリイがオグの治療をしている間にミチキが力任せに左腕を折られた。今度はミチキの治療中に俺がぶっ飛ばされて失神した。俺が失神したのは、せいぜい言って30秒くらいだったよ。でも、俺が意識を取り戻したときにはオグは・・・殺られていた。メリイを見たら、必死に瀕死のムツミを生きながらえようとしていて、デッドスポットの相手は片腕のミチキだけだった。俺はすぐにミチキと代わった。

ムツミが息絶える前に発動した魔法で一瞬デッドスポットが怯んだように錯覚するくらいに俺は焦っていた。早く!メリイ!早く、ミチキの回復を!

俺は何度も叫んだ。いやもう怒鳴っていた。メリイが叫び返すまで、俺は何度も怒鳴っていましたよ。そしてようやく聞こえてきた声はメリイらしからぬ、とても悲しい声だった。

 

━━━ごめんなさい、ハヤシ、ごめんなさい、私、もう、魔法が。

 

魔法が無限に使い続けられるわけじゃない。魔法使いや神官はエレメントの力や神の力を行使するために魔法力という精神の力を費やす。俺だってそれくらいのことはメリイやムツミから聞いて知っていました。けれど、わかってはいなかった。ムツミやメリイが瞑想をして魔法力を蓄えていることは知っていても、今、どれくらい魔法力があるのか、残りどれくらいなのか、ぎりぎりなのか、はっきりと把握していなかった。

俺はいつでも必要な時に必要な魔法がとんでくる。怪我を治してくれる。そういう感覚でいたんですよ。そのせいで彼女たちにどれだけの苦労や苦心を与えているのかなんて、考えもしていなかった。

 

 

手下どもを倒し時にもすでにメリイの魔法力はぎりぎりだったはずだ。そして、長期戦となったために、とうとうそれが尽きた。俺とメリイが今こうして生きているのはミチキのおかげなんです。ミチキは最後の力を振り絞ってデッドスポットに向かって行って相手に反撃の隙を与えないくらいの速さでスキルを叩きこんでいきました。

 

━━━お前たちは逃げろ!

 

メリイは拒んでデッドスポットに挑みかかろうとしました。しかし、俺はそんなメリイを肩に担いで逃げました。メリイは何度も抵抗し、何度も俺を殴って下ろしてと叫びました。

弁解はしません。俺は仲間を見捨てたんです。ミチキはもう助からない傷を負っていた、だったらせめて生き残る可能性のあるメリイを逃がすというミチキの願いを叶えたかった。

あの5層からどうやって戻ってきたのか、今でもわかりません。ただ、何度も死にかけて、1日半かかってようやく地上に戻ってきました。命は助かった。けど俺たちは大事な仲間を失った。特に出てきてからのメリイはひどい状態だった。あいつは神官で、仲間を救う治療者(ヒーラー)なのに、仲間を死なせて、仲間に助けられた。

あれ以来です、メリイは一度も笑わなくなったのは。自分には笑う資格さえないと、そう思っているのかもしれません。その後、俺たちはシノハラさんに拾われてオリオンに入りましたが、メリイはすぐに抜けました。たぶん、オリオンの居心地の良さが、メリイにはかえって苦痛だったのでしょう。

 

 

それから、あいつは誘われるままに色々なパーティに加わっていました。でもご存知の通りあいつが一つのパーティで長続きしたことはありませんでした。聞こえてくる評判が余りにもメリイのものとは思えなくて、心配になり直接話をしたこともあります。けれど、あいつは大丈夫だ、心配しなくていいと言うばかりで俺は壁を感じていました。俺が目の前にいると、辛い、そう感じてるのが目をみてわかりました。

俺ではだめなんです。あいつは自分で自分を見つけないと、あいつは、過去という泥沼に沈み込むばかりで、身動きできなくなって、最後には、息が止まってしまう。

 

 

だからみなさん、どうかメリイのこと、お願いします。

 

 

 

 

 

 

俺たちはハヤシさんの話しを聞いて、シノハラさんにもお礼を言いシェリーの酒場を後にしていた。

 

「っち、つまんねぇ話聞いちまったぜ」

 

ランタが石橋の上に座りながら呟く。俺たちは宿屋の前の石橋の所で話こんでいた。

 

「つまんねぇってなんだよ」

 

ハルヒロが少し怒ったようにランタに訊く。

 

「あの女の事情はわかったけどよ、だから何だ?オレらには直接関係ねぇ話だろうが」

「それは、そうだけど」

「辛い過去があったから優しくしてあげないといけませんねぇーってか?冗談じゃねぇぜ」

「そうは言ってねぇだろ」

「言ってるんだよ、ハルヒロお前は」

 

ランタは少し厳しい目でハルヒロを見た。

 

「あいつと俺たちの何が違う?俺たちは辛い思いしてねぇのか?俺たちだけが悪いのか?俺たちのこと仲間扱いしねぇのになんで仲間扱いしねぇといけねぇんだよ」

「そ、それは・・・」

 

ハルヒロもランタの意見が間違ったことを言っていないぶん、返答に困った。

 

「まぁランタの言ってることも間違いじゃない。俺たちだって大事な仲間を失った。その悲しみの重さは決してメリイが感じた悲しみに負けたりはしない。けど、だったら同じくらい強い悲しみを感じた者だからこそ、相手がどれだけ今辛く苦しい状況にいるのかわかってやれるんじゃないか?」

「・・・だったら、だったらお前らは俺のことわかろうとしてんのかよ?」

「え?」

 

驚いた反応をしたのはハルヒロだった。

 

「ノゾムはリーダーってこともあっから俺に何度も話かけてくれて今日の夕食決めるのだって気い使ってくれてんのはわかってる。じゃあハルヒロ、お前はどうなんだよ。オレの意見なんて無視ばっかじゃねぇか」

「ランタはなぁ~いっつも余計なことばっかり言うからなぁ~ユメもちっぱいって言われて悲しんでるのに」

「なんだと?」

「あぁ~」

 

モグゾーが右手で左手の掌を叩いてユメの言葉に納得する。ここは俺が何かを言ってはいけない空気だ。だからハルヒロに任せることにした。

 

「・・・そういうことか」

「あぁ何が?」

「ごめんランタ。悪かったよ。これからは気をつける」

「お、おぉ」

 

ランタもいきなりのハルヒロの謝罪で返事がどもった。

 

「ランタのこと仲間だろ思ってるから」

「だ、だか、って、おま、何言って、・・・なら、せいぜい気をつけろってんだ、バカ!」

「それが余計や、言うねん」

「バカにバカって言って何が悪いんだよ、バーカ」

 

そう言ってランタは腰を上げて宿屋のほうに歩きだした。

 

「ラ、ランタ?」

「うっせぇな、オレにだって考えさせろ」

「考える?ランタが?」

「お、お前!んっま、まぁいい。明日あの女に会ったときにどんな顔をしたらいいかってことだよ」

 

ランタも最初の頃よりだいぶ丸くなってきたと思う。今でも戦闘ではおちゃらけた所もあって、時折よくわからない行動で戦闘が混乱することもあるが、今ではパーティにはいなくてはならない大切な仲間だと俺は思える。

 

「あぁちょっとランタ、いいか」

 

宿に入っていこうとしたランタを俺は呼び止めた。

 

「なんだ?」

「いや、ちょっとな。さっき俺が気を使ってお前に話しかけていたって言ってたけどな、俺はそんな気を使ったことなんてないってことを言っておきたくてな。俺はお前のこと、結構好きだから話しかけてるだけにすぎないんだよ」

「━━━っけ、男に何か好かれたって嬉しくとも何ともねぇよ」

「そうか、まぁ俺も男は対象外だから気が合うな。まぁそれだけだよ、おやすみ」

「あぁ、━━━おやすみ」

 

最後は小さくではあったが皆に聞こえる程度ではあった。皆がランタの言葉に驚きを感じつつも少しランタに対する考え方を変えないといけないかも、というような表情をしながら宿屋にぞろぞろ入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







読んでくださいましてありがとうございました。

何か感想でも頂けると幸いです。

それでは次話をお楽しみください~

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。