灰と幻想のグリムガル Extra   作:キリュウ

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何話かストックあるんですけど、

ちょびちょび出していこうと思いますw

では本編どうぞ~


第十四話 : 過去を知る者

 

 

 

 

まぁメリイと仲良くできようができなかろうが、時間は一定の速さで流れていく。朝が来て、ダムローに向かいゴブリン狩り、そしてオルタナに戻って宿屋で休み、また朝がくる。そんな変わらないルーティンで、今日もダムローに来ていた。

今日の最初の戦闘はゴブリンが3匹。剣持ちが2匹と斧持ちが1匹でだった。ゴブリン3匹に奇襲をかけて、先制攻撃で斧ゴブに手傷を負わせ、そっちのゴブリンをユメとランタ、そしてメリイが、無傷の剣ゴブ2匹をノゾムとモグゾーが別々に受け、サポートがシホルと俺という形に持ち込んだ。剣ゴブの1匹は少し歪な兜と粗末な鎖帷子を装備していて、中々に手強そうだ。

いつもならノゾムが戦うのだが、相手との駆け引きもあるのでモグゾーが相手する形となった。まぁ体格ではモグゾーの方が遥かにまさっていて、力だって強いはずだ。強引にいけば押し切れるだろう、けどモグゾーはそうしない。そうしない理由に最近、気が付いた。相手のゴブリンと違ってモグゾーには兜がないのだ。ノゾムみたいに盾があったり、相手のゴブリンみたいに兜を被っていればちょっとくらい頭を打たれても死ぬようなことはない。だけど兜がないと、剣先がかすっただけで重傷となる可能性があるから、腰が引けてしまうのだ。モグゾーがこの前シェリーの酒場で兜と板金の鎧が欲しいと言っていた。新しい武器バスターソードが欲しいではなく、防具が欲しいと。もっと防御力の高い防具で全身を強化すればもっと思い切って、そう、ノゾムみたいに戦えるということなのだろう。

モグゾーが時々、ノゾムより早く敵を倒した時にノゾムの戦闘を見ているのを俺は知っている。いや、見ているのはモグゾーだけじゃない。皆ノゾムの戦い方には見とれて時々見入ってしまう時がある。あのメリイだってノゾムの戦闘を見てからノゾム相手には強い発言を少ししなくなった・・気がする。モグゾーもノゾムみたいに敵の剣や斧に恐れたりせず果敢に立ち向かっていけるようになりたいのだと思う。

 

 

それに比べて俺は敵の背後を取ることばかりを考えて戦っている。盗賊は鎧を着ていない、だから敵の攻撃は何だろうと怖いのだ。一撃でも喰らったら即死だと思って戦えと師匠のバルバラ先生の教わった。クラスごとに戦い方が根本から違うんだという当たり前のことが見えていなかった、いや、見ようとしていなかったのかもしれない。

 

「モグゾー・・・!」

 

俺がモグゾーに声をかけながら、ゴブリンの背後に回ってダガーを斬りつけようとする。それにゴブリンが反応して、俺の方を向く。俺はすかさず下がってゴブリンの間合いから離れた。ゴブリンは一瞬、本当に一瞬だったが迷った。しかし、この一瞬が戦闘には命取りだ。ゴブリンはすぐにモグゾーに向きなおうとしたが、そのときにはもうモグゾーがバスターソードを突き出していた。

 

「ふんぬーぁっ!」

 

バスターソードはゴブリンの土手っ腹に深々と突き刺さった。しかしこの程度で生き物は事切れたりはしない。ゴブリンは「ギャアァァ!」と叫びながら剣を振り回す。

 

(させるかよぉ!)

 

俺は後ろからゴブリンに迫った。狙いは剣を握っているゴブリンの手だ。手首を狙う。ここを狙うようになったのはノゾムの助言だった。

 

「━━━手打(スラップ)!」

 

斬り落とすまではいかなかったが、ダガーの刃が骨まで達して、ゴブリンは剣を持っていられなくなった。モグゾーがバスターソードをねじり上げる。ゴブリンが絶叫しながらモグゾーに手を伸ばすが、俺が無理矢理ゴブリンの兜を脱がし、首びダガーをぶちこんだ。そこまでしてようやくゴブリンの抵抗が弱まり、しだいに動かなくなった。

命のやり取り。

だから相手もこれ以上なく真剣で簡単なわけがない。マナトがいつかの時にそう言っていた。残りの2匹のうち剣ゴブは難なくノゾムがシホルの魔法で弱らしてから倒していた。そして斧ゴブもランタとユメの両方から挟まれて攻撃されなすすべなくランタのロングソードに突き刺されていた。

 

 

(あれって確か・・・)

 

戦闘が終わって、俺たちがゴブリン袋を回収している最中、メリイが右手の5本の指を額にあてて、それから中指で眉間を押さえていた。メリイがやっていたのはマナトもしていた六芒を示す仕種だ。

 

(なんか意外だ)

 

そういうことをしそうな人間とは思っていなかった。けどそう思っていなかったのも、モグゾーのと同じで知ろうとしなかったから、なんだと思う。昼の休憩の時、モグゾーに言ってみた。

 

「おれも少し出すからさ。モグゾー、安物でもいいから兜、買えよ。鎧も、中古でサイズがあうのがないか探してみてさ?見つからなくてもどれくらいかかるのか調べとけば目安になるし」

「・・・え?そんな。でも・・・悪いよ。お金、ハルヒロくんが出すこと、ないよ思うし」

「いいんだって。おれはとりあえずはこれさえあれば何とかなるし」

 

俺はダガーをこんこんと叩いてみせた。

 

「モグゾーの装備が整うと皆が助かるんだよ。鉄製の防具ってかなり高いからな。沢山稼げてるならいいんだけど、そうじゃないのにモグゾーが自前で装備そろえるなんて、無理だろ?」

「そうやなぁ~ユメもいくらか寄付するから、可愛い兜、みんなで探そうなぁ」

「あ、あたしも協力します!」

 

ユメとシホルも俺の意見に賛同してくれた。

 

「オレは何があろうと1カパーたりとも出さねぇからな!言っとくけど!」

「別にそこは期待してないからいいよ」

 

俺はちらっとメリイの様子を窺ってみた。メリイは俺たちの方を見ておらず、どこか遠くのほうを見ていて、関係ない話だという態度だった。でもその表情はどこか寂しそうに見える・・・ような気がしなくもなくもない。

 

「そうだな。俺たちもそろそろ各自の装備を新調して次の段階に行こうか。じゃあ近々、()で買いに行こうか」

 

ノゾムは”皆”という言葉をほんの少しだけだけど強く言いながらメリイの方を見て言った。メリイも流石に無視できなかったのか、目線だけノゾムの方に向けた。

 

「・・・ま、まぁ、いつかね」

 

これには全員が驚いた。正直、目線は動かしてくれたものの、無言で終わるか、何で私も一緒に行かないといけないの?とか言われると思っていた。少し、ほんの少しだけかもしれないけどメリイも俺たちに関わろうとしてくれてる。そんな気がした。

 

 

 

・・・いや、本当に気がしただけだったのかもしれない。昼食を取った後、またゴブリン狩りに明け暮れた俺たちだったが、一回も戦闘に関わらなかった。錫杖みたいな杖を持ったまま、決して前に出ないでずっと後ろで待機。そのくせ、ランタやモグゾーや俺がミスをやらかすと厳しい叱責がとんでくる。

 

「戦士が下がってどうするの!」

「敵との間合いを開けすぎ!もっと詰めて!」

「・・・論外」

 

さっきの昼の時に一瞬柔らかくなったかと思えばこれだ。ランタがツンデレとか言ってたけど、メリイの場合、ツンが9割9分9厘でデレが1厘くらいしかないように感じる。せめてデレが1分くらいあって欲しかった・・・まぁ大差ないんだけどね。

しかしそんなメリイも一度だけ今日は戦闘に関わったのが1回だけあった。旧市街を歩いていて、横を壁に挟まれた道を歩いていたとき、壊れた家の壁からゴブリンが1匹ずつ左右から出てきたのだ。出会いがしらだったので乱戦となった。だから戦闘の際に後方に位置するシホルやメリイが下がる時間が無かった。そして1匹のゴブリンがシホルとメリイに襲い掛かった。その時、メリイがシホルを庇うように前に出た。

 

「━━━っ!」

「ボケっとしてんじゃ━━━」

 

ランタがゴブリンの元まで走っていき跳び蹴りを喰らわした。

 

「ねぇよ、クソ女!」

「誰がボケっとなんか・・・!」

 

ランタの背後からもう1匹のゴブリンがランタを襲おうととびかかって来ていた。そのゴブリンに対してメリイが豪快に錫杖を振り回してそいつを殴った。あれはマナトも使っていた、神官の護身法スキル、強打(スマッシュ)。前にメリイが杖は飾りだと言っていたけど、違うなと思う。ちゃんと護身法のスキルも習得しているし、何より慣れている感じが窺える。ランタの跳び蹴りとメリイの強打(スマッシュ)でゴブリンの体制が崩れたのでその間にノゾムとモグゾーと位置を変更した。まぁそうなったらいつも通りで、ノゾムとモグゾーの2人で簡単に倒すことができた。

 

「あの、さっきは、ありがとう」

 

戦闘が終わって、シホルがメリイに声をかけた。

 

「なんのこと?」

 

こんな言い方しないで、微笑むくらいすればもっとメリイを皆が好きになるだろうに。メリイだってそうすることは難しいことじゃないはずだ。ある程度の愛想を出すほうがメリイだって生きやすいと思う。なんでそうしないんだろうか?

 

 

 

 

オルタナに戻って、いつも通り買取商で戦利品を売り払ったあと、これまたいつも通り何も言わずに去ろうとするメリイを呼び止めた。

 

「あ、メリイ、ちょっと待って」

 

なんで呼び止めてしまったのか、こういうのはリーダーのノゾムがしたらいいことなのに、何故か去ろうとするメリイを見て咄嗟に呼び止めてしまった。そんな呼び止められたメリイは、髪をかき上げ、めんどくさそうに振りかえった。

 

「まだ何か用が?」

 

(やばい、どうしよう何も考えてなかった。ってか怖いってほんと)

 

メリイは早くしろと言わんばかりに冷たい目線で俺を睨んでくる。とりあえず何か、何かないかと考えていたら助け舟を出してくれたのはノゾムだった。

 

「用っていうほどのことでもないんだけどな、飯、一緒に食べないか?」

「━━━結構です」

「・・・なんで敬語?」

 

俺は思ったことを口に出していってしまった。メリイは斜め下に視線を下げて、ほんの少しだけど眉をひそめた。怒らせてしまったのだろうか?けど少し恥ずかしそうにしてるようにも見える。

 

「・・・・とくに、意味はない」

「あ、そうなんだ。ごめん、変なとこにツッコミ入れちゃって」

「べつに・・・・」

 

(あ~ほんと難しいよメリイの相手って!)

 

メリイはその後、「また━━━」と言って、おそらくだけど、明日、とつづけようとしたのだろうと思う。明日、という単語は代わりにノゾムがメリイに言った。メリイは何も言わなかったけど、悪い気はしなかったんじゃないかと思う。そのまま振り向いて去っていった。

 

「━━━ったく、いけすかねぇ女だぜ。マジで」

「そう、かな」

 

モグゾーは顎を撫でた。

 

「今日は少し、違ったような、気がするけど」

「うんうん、今日のメリイちゃんは、ちょびっと可愛かったよ」

「まぁ今日はメリイの”また明日”って聞けたわけだし前進しただろ?それで良しってことにして俺たちも夕食にしよう」

 

今のリーダーであるノゾムのおかげでだいぶメリイとも少しづつ仲良くなっていけてる気がする。

 

「あ、俺、オリオンのシノハラさんに話聞いてみようと思うんだけど、どうかな?」

 

俺はこの前メリイと酒場で話していたシノハラさんにコンタクトを取ってみないかと提案した。

 

「あぁいいんじゃないか?じゃあ今日もシェリーの酒場に行きますか」

「せやな~でも夕食は別のところがいいけどな」

「ランタ、どこかお前のオススメの店とかないのか?」

 

ランタの意見は大抵まともでないのに、いつもランタの話を聞いてやれるところもノゾムがリーダーとして良い所の1つだろう。

 

「あ~そうだな~最近の俺のオススメはソルゾだな!」

「ソルゾ?ってなに?」

 

シホルが聞いたことのない食べ物に疑問を浮かべた。

 

「えっと、熱いスープに色んな具と麺が入っていてね、結構おいしいんだ」

「へぇ~おいしそうじゃん、皆はそれでいいか?」

「えぇよ~ユメ、麺嫌いじゃないしな~」

「う、うん。ちょっと楽しみ」

 

俺も別に食べたことがないわけじゃなかったので、特に反対もせずソルゾを食べに移動した。

 

 

 

 

 

ソルゾを4杯もおかわりをしたランタは足取りをふらふらとしながらシェリーの酒場に着いた。このうえまだ酒も飲むのかお前はとツッコミたいところではあったけど、卓に座る前に彼を見つけた。彼は入り口から見て酒場のカウンターの真上に位置する2階席に座っていた。

 

「こんばんわ、シノハラさん」

「やぁ、ハルヒロくん。そちらの方々はきみの仲間ですか?」

 

(この人と一回しか話したことないのに俺の名前覚えてくれてるんだ、凄いな)

 

シノハラの周りにはオリオンの人で溢れかえっていて、30人以上はいるんじゃないだろうか。その3分の1くらいは女性で、全員、オリオンの白マントを羽織っている。

 

「あ、はい。あ、こっちの彼が前に言った俺たちのリーダーのノゾムです」

「はじめましてシノハラさん、お噂はかねがね聞いています」

「こちらこそはじめましてノゾムくん、ハルヒロくんから色々聞かせてもらっていますよ。まぁ立ち話もなんです、さぁこちらへ。━━━ハヤシ、彼らに席を作ってやってくれないか」

「わかりました」

 

ハヤシと呼ばれた短髪で目の細い男が、近くから卓と椅子を運んできた。

 

「皆さん、こちらへどうぞ」

 

シノハラはハヤシが持ってきた卓を囲む椅子の一つに腰を下ろして、俺たちにも座るように促した。オリオンの人たちは俺たちに注目してくることもなく、仲間内で談笑している。知ってはいたけど、オリオンの人たちは感じ良すぎで、行儀が良すぎるくらいだ。注文していないのに、なぜかもう飲み物まで運ばれてきて、あのランタでさえ借りてきた猫のようにおとなしい。

 

「で、いかがですか、ハルヒロくん。まだ皆さん、団章は買っていないようですが、この生活には慣れましたか?」

「えっ。俺が、俺たちがまだ団章を買ってないってことをなんで知ってるんですか?」

「はは、新兵(ルーキー)のことは皆、気になるものです。ダムロー旧市街に通ってるのでしょう?君たちをゴブリンスレイヤーと呼ぶ者も陰ながらですがいるんですよ?」

「あぁ・・・まぁ確かにずっとゴブリンばかり相手にしていますからね」

 

何とも変な称号を付けられたものだと思うが、事実なので仕方がない。シノハラは少し間を置いてから居住まいを正した。

 

「お仲間のことは残念でした」

「・・・はい」

 

俺は卓に目を落として、両手を握り合わせた。ノゾムが小さく、そこまで知ってるのか、と呟いていたがそれは俺も思うことだった。オルタナという都市は、最初こそとてつもなく広い場所だと思ったが、実は結構色々なものを詰め込んだコンパクトな街なのだ。そして義勇兵の世界はそのまた限られた一部を利用しているにすぎない。隠そうとしなければ、いくらでも周りに知れ渡るもの。そう認識しなおさなければならないだろう。

 

「・・・なんていうか、ありきたりですけど、かなり残念です。いいやつだったんで」

「感じのいい言葉ではないかもしれませんが、仲間を失うつらさはわかります。私も経験がありますからね」

「そう、・・・なんですね」

「どうかその痛みを忘れないでください」

 

シノハラは静かに、でも、深い悲しみを湛えた瞳で俺たちを見回した。

 

「痛みを抱えながらも、君たちは進めるのです。そのことをしっかりと胸に刻んでおいてください。それは過ぎ去れば二度と戻ってこないのです。悔いることはあるでしょう。ですが、悔いを残さないようにつとめてください」

 

シノハラが言った言葉はノゾムが何度も俺たちに言ってくれていたことと同じような言葉だった。それを皆わかったみたいでノゾムの方をシノハラとノゾム自身を除いて全員が見た。

 

「━━━ハルヒロくんから聞いていた通りのようですね。確かに貴方がいるのならこのパーティは大丈夫な気もします」

「ありがとうございます。しかし俺たちも手をこまねくようなことがこの先来るでしょう。その時は手を貸していただけると幸いです」

「えぇその時は私たちも協力を惜しみません。いつでも相談しに来てください」

 

ノゾムはシノハラに軽く頭を下げ、シノハラ微笑みながら頭を上げるよう促した。

 

「それで早速なんですけど、相談があるんです」

 

俺はシノハラに会いに来た目的を話すことにした。

 

「何でしょう?私に応じられることであればいいんですが」

「メリイのことです。この前、話をさせていただく前にメリイと話かけていましたよね?そして俺たちのパーティにメリイがいることも知ってるんですよね?」

「えぇ知っていますよ。彼女が何か?」

「教えて欲しいんです。メリイのことで、何か知っていることがあれば何でもいいんです。本当は本人に聞けるのが一番なんですけど、まだ、聞けないというか、話してくれないと思うので」

 

シノハラは片手を顎にまでもっていき「ふむ」と頷いてみせた。

 

「━━━それなら適任がいます。ちょっと待ってください。ハヤシ!」

 

呼ばれたハヤシはすぐにやってきた。

 

「彼は以前、彼女と同じパーティにいたのです。彼が彼女のことについて教えてくれるでしょう」

「一緒の・・・パーティに?」

 

俺はシノハラの横に立っているハヤシに目を移すと、ハヤシは俺に目礼をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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あ、お気に入り数も400件を超え、UAも20000超え

大変嬉しく思っております。

これからも読んでいただけると大変嬉しいです。orz

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