灰と幻想のグリムガル Extra   作:キリュウ

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最近文字数が多くなっております。

切りどころがわからないせいですね~



第十三話 : シェリーの酒場

 

 

 

 

ある日の朝、宿舎の部屋を出たところで、いきなりシホルがハルヒロに謝っていた。

 

「あ、あの!あたし・・・ごめんなさい!てっきりそういう関係だとばかり・・・早とちりして、ごめんなさい!事情は、ユメから聞いたから・・・」

 

どういうことなのかはわからないが、とりあえず朝なのだ、もう少し静かに頼みたい。

寝起きの頭に響く。

 

「いや、わざわざ朝から謝らなくても・・」

「関係ぇ!?」

 

ランタが鼻の穴を広げてハルヒロに顔を近づいていった。いや、ホントにうるさいので勘弁してほしい。

 

「何だよ、その関係っつうのは!誰と!誰の!どんな関係だ!!!ん!?」

「・・・なんでもないよ」

「なんでもないっつうことはねぇだろ?教えろ!言え!吐け!!!」

「だから、早とちりだってシホルも言ってんだろ」

「こっちは何があってどう早とちりしたのか知りたいっつってんだよ!」

「あのなぁ」

 

ここでユメが口を挟む。横のハルヒロはどこか諦めた表情をしながらユメを見ていた。

 

「昨日はなぁ、ユメな、ハルくんにぎゅってしてもらってたらなぁ、それがシホルを目撃してん。それでなぁ」

 

モグゾーが目を見瞠って「ぬぁっ・・・」っと声を漏らす。

 

(朝からモグゾーもリアクションいいね~うんうん・・・眠い)

 

ランタがいつでもテンションが高いのはいいことでもあるが、今は勘弁ねがいたかった。

 

「おいおいおいおいぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

ランタは目玉を飛び出させる勢いで驚いている。

 

「何だよそりゃどういうこったマジかよマジか!?ハルヒロいつの間にBか?もうBの領域かよ!?」

「なんだよ、Bって。いや、Bが何だろうと、違うから。そうじゃなくて・・・」

「どこが違うんだよ!?やろうとしてたってことだろ!?事に及びかけたとこをシホルに見られて慌てて途中でやめたってことだよな!?寸止めか!?」

「ハルくん、・・・泣いててん」

「ユメ、それは言わなくても・・・」

「そう!そこを詳しく!略すんじゃねぇぞ!詳細が大事なんだからな!わかってんだろうな!」

「あぁ~もう!」

 

ハルヒロがやけになったように叫んだ。う~ん、ホント君たちは朝から元気だな。

 

「ランタ~詳細もいいけど~飯にしない?」

 

俺が間延びした声で朝ごはんの提案をする。

 

「あ、ご、ご飯の準備なら私が!」

「ぼ、僕もやるよ」

 

シホルとモグゾーが素早く反応してくれたのでランタも腹が減っていたのか、

 

「逃げんなよ!ぜってぇ話せよ!飯食いながらその時の情景が思い浮かんでくるくらい話せ!いいな!」

 

といいながらハルヒロの肩に腕を回して食事場まで連れて行った。

 

 

 

 

 

 

「つまんねぇ、お前はつまんねぇ男だよハルヒロ」

「はいはい」

 

ランタはユメに聞いた一部始終を聞いてそう言った。

 

「それでなぁ~うちとシホルな~話しあってな、メリイちゃんと仲良くしてみることにしたからなぁ~」

「うまく、できるかはわからないけど、やれるだけはやってみる、ね」

「メリイと?」

 

シホルとユメの言葉にランタは思いっきり顔をしかめた。

 

「仲良くだぁ?無理だろ、そんなの。だってよ、あいつにそのつもりがさらさらねぇんだぞ?」

「だ、だけど、今のままは、ちょっと。せめて、治療は普通にしてもらいたい、な。ノゾムの負担が、多いし」

 

メリイは協調性に欠けているだけじゃなくて、治療者(ヒーラー)としても問題があるのだ。例えば、軽い怪我だと放っておく。治してほしいと訴えても無駄だ。無視されるか、一蹴されてしまう。マナトに治してもらうのが慣れているせいもあって、怪我をしてすぐに治療してもらえないのが皆の不満になっている。

 

「もうあれだ、ハルヒロ、お前が神官になれ。な!メリイはおさらば!これにて一件落着!おうっ!オレって頭いいな。すげえ。ナァーイスアイディーッア!」

 

まぁこれが普通の場合なら俺も賛成しなくもなかった。

けれど、

 

「それはだめだ。メリイはパーティから外さない。」

「あ?なんでだよ。ナイスアイデアだろ」

「メリイをパーティに入れるって決めたのはハルヒロとモグゾー、そしてランタの3人だろ?その時にメリイの悪い噂も聞いたって聞いてる。それでもお前はメリイに神官を頼んだんだ。だったら少しは辛抱してみろ。今は仲間なんだからな」

 

ランタは何か言い返そうとしたが、口をつぐんで決まりが悪そうに目を伏せた。

 

「そりゃあさ」

 

ハルヒロが言う。

 

「いきなり分け隔てなくってわけにはいかないよ。でも、いつまでも6対1みたいな感じだったら馴染めるものも馴染めないだろ?メリイは魔法で俺たちを治療するだけの機械じゃないんだし」

「・・・そやなぁ、メリイちゃんはユメたちに冷たいけど、ユメたちもメリイちゃんに冷たかったかもしれんなぁ」

「うん」

 

モグゾーはのっそりと首を縦に振った。

 

「・・・そう、かも」

「じ、じつは、いい人だったりするんじゃない、かな?私、そう思うの」

「・・・まぁあんな女でもいないよりマシか。ってことはあれか?俺にデレる立ち位置ってことになるよな?それは微妙に・・・悪くねぇな?」

「と、当然、ランタくんにはデレないと、思う」

「うっせーぞ、モグゾー!・・・モグゾー!?え、今、モグゾーにつっこまれたのオレ!?ねぇ、マジで!?信じられねぇんだけども!?」

 

まぁ何はともあれ、メリイとどうにか仲良くする方向で話は決まった。決して簡単な道のりではないと思うが。

 

 

 

 

 

 

 

メリイはいつも通り北門前で俺たちを待っていた。

 

「おはよう」

 

ハルヒロが挨拶するがこれまたいつも通り恐ろしいほど冷たすぎる視線でハルヒロを刺しぬくだけで無言だった。少しづつ少しづつと思って歩き出す。するとメリイがパーティの後ろに並んだくらいで小さくではあったが「おはよう」とそっけなく呟いた。それを聞いてハルヒロは少し笑顔になっていた。

 

「早く行って、わたしはついてくから」

 

この言葉がなければなおいいのだが。ダムロー旧市街までの道すがら、ユメとシホルは健気に何度かメリイに話しかけていた。内容としては、どこに住んでいるのかとか、朝食と夕食はどうしているのとか、義勇兵になってどれくらいなのかとかだった。どれも当たり障りのない話題ではあったが、メリイはどれもまともに答えなかった。

 

「----モグゾーと俺、それとランタで1匹ずつやろう。ハルヒロとユメでランタのサポート、シホルはモグゾー、メリイは俺のサポートで頼む」

 

一応、メリイにもサポートという言葉を使って先頭に加わるような形を促す。俺はゴブリンの攻撃を盾で受け止めてはじき返す。ちらっとメリイを見てみた。けれど、メリイは突っ立っているだけでサポートのサの字も動かない。・・・俺のサポートにしたのが失敗だっただろうか?

ランタが左手を軽く斬られて「いだだだづぁっ!」と大袈裟に騒いでも知らんぷりで、こめかみのあたりを浅く斬り裂かれて弱腰になったモグゾーには「たかがそれぐらいで下がらないで。戦士でしょ!」と一喝する始末だ。

 

「クッソ、えらそうに!おまえは何もしてねぇだろうが!」

 

ランタは強引にゴブリンを蹴飛ばすと、それで広がった距離を踏み込んで縮めながらロングソードをまっすぐ突き出した。

 

「---噴慨突(アンガー)ァァ!」

 

ゴブリンは喉元をぶち抜かれて、しばらく暴れていたが、やがておとなしくなった。

暗黒騎士の剣技、暗黒闘法は、接近戦を避けて間合いの外から敵に攻撃を加える一撃離脱(ヒット&アウェイ)がメインらしい。モグゾーがバスターソードを振り回し、ゴブリンの脳天を割った。予定通りの形で戦闘を終えることができた。

 

「クハハハッ!」

 

ランタがゴブリンの屍から爪を剥ぎ取りながら高笑いする。

 

「このオレの一撃が呼び水となっての大勝利!さすがオレ!つぅか、手が痛ぇ!メリイ!治せ!」

 

メリイはランタを完全に無視して、モグゾーにつかつかと歩み寄った。

 

「座って」

「----はい。」

 

モグゾーはお座りを命じられた飼い犬みたいに地べたに腰を下ろした。メリイがモグゾーのこめかみに触れる。少し痛かったようでモグゾーが少し顔を歪め、その時メリイがモグゾーに何か言ったようだった。何を言ったのか気にはなったがモグゾーの表情を見る限り別に何か叱責を受けたわけではなさそうだ。メリイは六芒を示す仕種をして、いつもの祝詞を唱えた。

 

「光よ、ルミアリスの加護のもとに・・・癒し手(キュア)

 

メリイはいつも治してくれないというわけではなく、こういった戦闘後では治療してくれる。できたら戦闘中でも治療してくれると嬉しいのだが、まぁ少しづつだなと諦める。

 

「おい、メリイ!モグゾーはもういいだろ!次は俺を治療しろ!」

「あんたはかすり傷でしょ?」

「そんなことねぇよ!ほら、血が出てるじゃねぇか!・・・止まりつつはあるけど」

「唾でもつけとけば?あと、呼び捨てにしないで。腸が煮えくりかえるから」

「キィーッ!」

 

メリイの最後の言葉の冷たさは過去最高ではなかろうか。俺がランタならメリイに話しかける勇気がちょっと、いや、かなり欠ける。まぁそんなランタの傷は俺が治療するのがいつものことだ。

 

 

 

 

 

 

ある程度狩りを終え、昼の休憩時にメリイと少しを話をする時間にした。

 

「もしかして、やり方の問題?なんていうか、メリイは治療者(ヒーラー)として、こんなふうにするって決めてる、みたいな」

 

ハルヒロが勇気を持ってメリイに聞いた。しかし、とうのメリイの反応はというと、

 

「は?」

 

これだ。その「は?」というのは相手に対してかなり恐怖を感じさせるのでやめていただけると何よりだ。

 

「・・・いや、神官にも、いろんなタイプがあるのかな・・・とか。俺は、ほら、知らないからさ。経験が浅いから」

 

メリイは何か言おうとしたが、めんどくさくなったのか、溜息をつく。そして腕組みをすると、ぷいっと横を向いてしまった。

 

「さぁ」

「お、教えてくれない?俺は盗賊だから、神官のことはわからないし、わからないって思ってるだけじゃ、ずっとわからないままだし、それでいいとは思ってないし・・・」

「わたしは別にこれでいいと思ってるから」

「ぜんぜんよくな「ハルヒロ」・・っ!」

 

ハルヒロが怒りそうになったので、俺は名前を呼んで注意した。

 

「・・その、プライベートっていうか、そういうことには立ち入らないからさ。戦闘での役割分担とか、流れとか、あるわけだし。そのへんは、もっと皆で話しあっていきたんだけど」

「私の仕事が気に入らないなら、はっきり言えば?今すぐ抜けるから」

「そうじゃないって、おれは、ただ・・・」

「だったら、何の問題もないでしょ?」

「・・・はい」

 

ハルヒロは肩を落としてとぼとぼとランタたちの座っている場所に移動した。メリイとパーティ代表としてコンタクト取る役目はハルヒロに任せたのだが、玉砕だった。シホルとユメが話しかけても応じてもらえないので、どうもしようがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、今日もメリイと近づくことはあまりできず、オルタナへ戻った。オルタナへ戻ってきた俺たちは、今日は初めてユメとシホルを連れてシェリーの酒場を訪れた。

 

「人がいっぱいいてるなぁ。ユメはお酒飲みたくないから、ジュースでいいかなぁ」

「・・・あ、あたしも、お酒は。」

 

酒場デビューの二人は、きょろきょろしたりびくびくしたりで忙しい。ランタが横でいかにも常連です、みたいな顔をして

 

「おい、おまえら、何の変哲もねぇただの酒場なんだからよ。頼むぞまじで」

 

と言っているが、二人の耳にはまったく届いていないようだ。ハルヒロと俺とシホル、ユメはレモネードを注文し、モグゾーとランタはいつも通りビールを一先ず頼んだ。

 

「・・・問題はメリイだよな。やっぱり」

 

とハルヒロが切り出すと、ユメが「そうやなぁ」と頷いてみせた。

 

「ユメとシホルといっぱい話しかけてんけどなぁ、ほとんどなしのすべてやったしなぁ」

「ユメ、なしのすべてじゃなくて、なしのつぶて、だよ」

「あれ?そうなん?そっか、なしのつべてやったんやなぁ」

「・・・なしのつぶて、だよ?」

「はれ?また間違えてた?」

 

シホルがユメに言葉の間違いを指摘するが、何度もユメは間違える。それを苦笑いでハルヒロや俺たちは見ていると、モグゾーが「あっ・・・」と店の出入り口の方をみた。噂をすれば影というやつか、入ってきた女性はメリイだった。ちらっとだがメリイがこちらを見る。おそらく俺たちに気が付いただろう。だから俺は手に持つジョッキを上げて合図してみる。こっちに来るか?と一瞬、体がこっちを向きかけたが、結局カウンターの奥の方にある席に座った。

 

「なんっ---」

 

ランタが卓を思いきり叩いた。

 

「だよ!あの態度は!仮にも同じパーティなんだからよ!ちょっと頭下げるとか、最低でもそれくらいはするだろ普通!」

 

割と常識的考えでランタが怒るのは珍しい。

まぁしかし一瞬こっちに来ようと?した態度が見れただけで俺は十分だった。

 

「・・・誰かが、メリイさんに話かけてる」

 

気が付いたのはまたしてもモグゾーだった。メリイに対して笑顔で話かけている男性がいた。その男を俺たちは知っていた。

 

「----あれ、オリオンのシノハラって人だな」

「オリオン?」

 

ランタたが首をひねって後ろを見た。

 

「うぉ、マジだ。オリオンっつったら、割と有名なクランだよな。つーかシノハラって、たしかオリオンのマスターだろ?」

「なぁなぁハルくん、クランって何?」

「あぁクランって言うのはね----」

 

ハルヒロがクランについて知らないユメに説明する。シホルも知らないようで俺にも聞いてくるので簡単にではあるが説明した。

 

クランとは義勇兵たちが何かしらの目標を掲げそれを達成するために結成するチーム、グループだ。パーティの人数は約5、6人。これは神官の光の護法(プロテクション)という強化魔法の効果対象が最大で6人までだからなのだとか。しかし、やはり6人だけでは限界がある、複数のパーティで連携しなければならない局面がある。そんなときにクランを作って対処するのだ。

 

「---名が知れてるクランもいくつかあるんだ、凶戦士隊(バーサーカーズ)鉄拳隊(アイアンナックル)とかな?女の人だけで結成されてる荒野天使隊(ワイルドエンジェルズ)ってのもあったりするんだぞ?」

 

俺の説明にシホルは、へぇ~っと興味深そうに聞いていた。

 

「見ろよ」

 

ランタがシノハラを親指で示した。

 

「マントにXみたいな7つの星の紋章がついてんだろ?あれがオリオンのシンボルなんだぜ。そのへんにも何人かいんじゃねぇか」

 

確かにランタの言う通り周りに同じ紋章をつけた人がちらほらいる。そしてメリイに目線を移すと、一方的にシノハラがメリイに話しかけていた。メリイも時たま相槌を打ったり、首を振ったりしていたが、迷惑そうにはしていない。どちらかといえば申し訳なさそうな、そんな雰囲気だ。やがてシノハラがメリイから離れて行った。それを見てランタは「クククッ」っと邪悪な笑い声を立てた。

 

「できてるな、あの2人」

「そんな風には見えなかっただろ・・・」

 

ハルヒロがため息を吐くようにツッコム。

 

「お前の目は節穴だな。どっからどう見たって、そういう雰囲気漂いまくりだっただろうが、あれは確実にやってんぞ?100%だな」

「おれ、シノハラさんに一言挨拶してくる」

「おいこらてめぇ!オレを無視すんじゃねぇ!」

 

挨拶しに行こうとしたハルヒロが立ち上がろうとした瞬間、店が騒然となった。理由はすぐにわかった。

 

「---ソウマ!」

「ソウマじゃねぇか!」

「ソウマだ!」

「ソウマ!」

「ソウマ・・・」

 

客の義勇兵が口々に一人の名前を連呼する。誰がソウマなんだろう?と思う必要なんてないくらい、一目で彼がソウマなのだとわかる。6人連れの男女が酒場に入ってきた。その先頭の男で間違いない。結構若そうな男だが、装備が他のやつらと明らかに違う。

今まで色んな義勇兵の装備を見てきた、ついこの間だってレンジたちの装備で凄いと酒場でハルヒロが漏らしていたくらいだ。だけどそれ以上にソウマという男の装備は凄い。あの黒い鎧、頭を除く身体全体を覆っていているのに、ぴったりとしていて、それでいて重くなさそうだ。男が背に持っている長い剣は刀のように反りがあって、禍々しく、また美しくもある拵え。ルックスもすっきりとした顔だちで、特別男前とか中性的な美形というわけではないが、冷静沈着な風格が凄みを漂わせる。ソウマの後をつづく5人もどれも他の義勇兵とは一味違う雰囲気を出していた。そして一人、ヒトではないような、そう感じさせる女が一人だけいた。

 

「な、なぁソウマって誰か知ってる?」

 

ハルヒロがそう俺たちに聞いてはいたが、どう見ても聞いてるのは俺にであって目線が俺のほうしか見ていない。

 

「・・・まぁ名前はな。オルタナでNo.1義勇兵と言われてる人だ。実力のほどが必ずしも1番だとは言われるわけではなさそうだがな。しかしオルタナで知らぬ者はいないと言わしめるくらいに彼の名前は有名だ。まぁ義勇兵の憧れみたいにはなってるんじゃないか?」

 

「だな!」

 

ランタが爛々と目を光らせている。

 

「男ならよぉ!義勇兵なら、目指すべきだよな!クッソ!あの鎧どうやったら手に入るんだよ!着てぇ!」

「ぼ、ぼく・・」

 

モグゾーが下を向きながら手をもじもじさせる。

 

「か、兜、が、欲しいな。できれば、板金の鎧も。そうしたら、少しは・・・」

 

シホルは思いつめたような表情で下唇を噛んだ。

 

「・・・魔法を。覚えたい。みんなを助けられるような、魔法を。今のあたしじゃ、まだ」

「ユメはなぁ、ユメも鎧をな?どうにかしたほうがいいかもとか思うねやんかぁ。ユメ、弓矢へたくそやから、前に出ること多いしなぁ」

「おれは・・・」

 

ハルヒロ皆とは違ってすぐに何か言えなかった。何か考えているようで、咄嗟に言葉にならなかったのだろう。

 

「確かに彼らみたいに強くなりたいと思うのはいいことだな。そうすればダムローだけじゃなくてもっと他の所にも狩りにいける。だけど忘れるなよ。俺たちは一人大事な仲間を失ってしまってるっていう過去があることを」

 

俺の言葉にさっきまで騒いでいたランタも暗くなる。

 

「すまん、暗くするつもりはなかった。ただ、ただ強くなるだけなら誰でもできるんだ。けど俺はそんなパーティにしたくない・・・」

 

そこで俺は一旦区切り、皆の顔を見ながら続きを微笑みながら言った。

 

「だから目指そうぜ。あのソウマってところのパーティよりも強く。俺たちならできる、そう思う」

 

俺の言葉に暗かったランタが一番喜ぶように反応した。

 

「ったりめぇだ!俺の名前を世界中に轟かせてやるっつうの!」

「そ、そうだね。僕も、が、頑張る」

「そうやなぁ~そうなれる日もいつかは来るかもな~」

「わ、わたしも、もっともっと魔法覚えます」

「・・・ノゾムが言ってくれると、叶わない夢じゃないってそう思えるよ」

 

皆、ビールやレモネードを飲みながら笑い合う。今はまだまだなパーティだが、このパーティはそう悪くない。この時、俺はレンジの選んだ人選の意味がわかった気がした。

 

(なるほど、だから俺を誘いを断ったとき、ああいう反応だったわけね)

 

俺は空になりかけのジョッキを見て、まだ店に入ってからやり忘れていたことを思い出した。

 

「じゃあ、明日からも大変だろうけど、頼むぜ皆?」

 

俺はそう言ってジョッキを顔の横に持っていき皆に見せる。それで皆感じ取ったようめいめいジョッキを手に持つ。

 

「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」

 

一先ずの目標は、乾杯時に7つ目のジョッキを加えることだな。

 

俺はそう思いながらジョッキに残ったレモネードを飲みほした。

 

 

 

 

 

 

 




温かい感想お待ちしております。





そういえばストックが何話か残ってるですけど、
皆さんは一気にドバって出されたほうがいいんでしょうか?
それとも一日少しづつのほうがいいのかな?

それとアニメより先に進んでいいものか、
ネタバレは面白くないと感じる人もいますからね~どうしましょうか

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