鷹、堕ちる。
その噂は瞬く間に広まった。
堕天組は1人残らず病院送り。
何があったかは姫川の口より語られた。
それにより校内の勢力図は一新された。
聖組である男鹿達はテニスコートから教室へと戻り、石矢魔での騒動は一応残った聖組が天下を収めた。
そういう形で幕を1度閉じたのだった。
何とも煮え切らない形で。
その決定に不良達は文句しか無かった。
しかし、それを告げる相手である聖天組の姿が無かった。
元聖組である古市貴之。
彼とその勢力下である聖天組は1人残らず姿を消した。
姫川をメッセンジャーとして扱い、宣戦布告を行ったというのに当の本人達は一切学校に姿を見せない。
日本一の不良校と名高い石矢魔高校は静寂に包まれていた。
「男鹿…」
邦枝葵が声をかける。
かけた相手である男鹿は返事もせず、歩き続けている。
古市が拉致され姿を消したあの夜…男鹿は呑気に家で寝ていた。
魔力の発生を感知し、高校へ向かったがその時には倒された堕天組を病院へと搬送する救急車の群れがあっただけだ。
そして学校へつくなり、姫川が現れた。
「男鹿……遅かったな」
「姫川……こりゃなんだ?お前の作戦の仕業か?」
「お前を使わずにやるなんて無理に決まってんだろ。やったのは古市だ…」
「古市が?……ありえねー。確かにアイツも頭いいけどこんな事やれる訳…」
「古市の言う通りお前も知らなかったんだな……小学の時からつったら最低でも5年は演じきっていた訳か……俺も人の事は言えねーが親友のお前に対して嘘をつくなんてな…それもこんなにどデカい嘘を…」
「何言ってんだてめー」
「古市の手に王臣紋があった。それも0のな」
「!?」
「0なんて見たことねーからそこらへんはあの女悪魔に聞けばいい。古市は俺の目の前で王臣紋を破壊してみせた。アレはたった一人を王に定めて一生を誓うもの。それを破壊するたぁ、本気なんだろうよ」
「古市……」
「決別だとよ。……お前たちはずっと2人で生きて来たようだが、真に対等じゃ無かった訳だな」
「古市はどこ行った?」
「知らねーよ。だがまぁ、準備を整えるって言ってたな。聖組と聖天組の大喧嘩だとよ。こっちも声を掛けなきゃらなねぇ」
そう言って姫川は学校を後にした。
残された男鹿は辺りを見渡す。
倒された不良共でごった返す校庭。
そんな中担架で運ばれてくる1人の不良が。
堕天組総長の鷹宮だった。
昨日の昼間に乗り込んだ際に放ったオーラ。
それが見る影も無かった。
そんな光景を男鹿は呆然と眺めていた。
家に帰り、古市の事をヒルダに話した。
王臣紋の0はヒルダも知らず、離反した事を聞き、どこかへと姿を消した。
学校にいってとっちめてやろうと思った。
しかし、学校にも古市の家にも、通っていたゲーセンにも肉屋の前にも古市はいなかった。
男鹿は欠けた何かに対して行動を取れず、ただ呆然と学校へと通っていた。
下校時に河原を歩いていると邦枝に話しかけられる。
それに反応することもできず、ただ、歩く。
「男鹿!待ちなさい。アナタらしくないわよ」
「………」
「古市君が裏切ったなんて信じられない。何か絶対あるはずよ!親友の貴方がそれを信じなくて…」
「……」
「しっかりして!男鹿がそんなんじゃ、みんなも……?」
男鹿は足を止める。
止めた男鹿に邦枝葵は不思議そうな顔をする。
しかし、直ぐに男鹿の目線の先にいる男を目にする。
それは騒動の発端。
宣戦布告をした古市だった。
彼はたった1人で男鹿の前に立っていた。
「よっ、男鹿………時間あるか?」