煙草、火がつかず。
殺六縁起と銘打たれた一角が抗争にならず、沈静した。
三王の1人が戦わず、三怪も1人落ちた。
三怪は上と男鹿だけ見て、三王を軽視している。
動くには充分な理由だろう。
動いたのは鷹宮。
正確には自身の智謀を売りつけた姫川だ。
そして東邦神姫最強の男、東条の敗北。
それを境に勢力図がガラリと変わる。
帝王鷹宮の台頭。
石矢魔の少数勢力の実に八割が鷹宮の元につくことになる。
帝政石矢魔時代の幕開けとなった。
姫川は元々策略家気質だった。
鷹宮を頭に立てた手腕は凄まじかった。
赤星、鳳城、市川による少数勢力1割の吸収により、少数勢力全てとは言わ無い。
しかし、石矢魔の少数勢力9割が全て帝王鷹宮の物となった。
そして聖石矢魔組はテニスコートへと追いやられていた。
「たった数日で恐ろしいねー」
「何を呑気笑っているかー!!!」
城山先輩に突っ込まれている夏目先輩。
今下手に動けば食われるのはこちら。
姫川の手腕ならこちらの出方は100%読める事だろう。
実力者たちは呑気にテニスをしながら笑っている。
「でも姫川のことだから素直に堕天組に入っているとは思えないわ。裏切った振りをしてる線も…」
「それはねーと。王臣紋とか言ったか?姫川の腕に出てたぜ」
「東条がやられるなんてそれくらいしかねーだろうしな」
「油断…しただけなんだ。次は倒す…」
「そういやアイツはどこだ?、男鹿」
「アイツ?」
「古市だよ。1人で行動したら危ねーって言ったのアイツだろ」
「古市なら風邪で家で寝込んでるらしいっす!」
「由香…なんで知ってるの?」
「鳳城先輩が言ってたっす!」
「なんで二代目が!?」
「そりゃもう怪しーすっよ。アレはもうCとか…」
「やめなさい」
「まあ、アイツ弱いし、家から出ない方がいいだろうけどな…」
ピチョンッ……
蛇口から水滴が落ちる音がする。
そんな小さな音でも他に音がしない空間なら目を覚ますには充分な音だった。
夜の学校。
そこで俺は縄で縛られていた。
「そういえばお前を拉致るのは2度目だったな…古市」
「姫川先輩……雑な招待ですね…」
コンビニ買い物に出ていたら姫川をリスペクトした集団、通称姫ラーに襲われた。
「姫川、こんなやつで男鹿が動くのか?ただのモヤシじゃねーか」
「動くさ、必ずな」
「私も調べたところ、実力は一般人並ですが小学生からの付き合いという事で相棒というポジションにいるようです」
なんかだいぶ毒舌ですけど…
「相棒?運がいいんだね。小学生に男鹿と出会えて(笑)」
えらいキャラおるな。
トランプマン?
「それにしても見事な手際でしたな、参謀どの」
「おい、縄を解け。俺と戦え、勝ったら逃がしてやる」
「毒島さ〜ん、そいつ一般人くらいしか無いんでしょ。勝てるわけないでしょ〜」
「殺さないでくださいね。今殺しては人質には使えませんから…王臣紋も無く、悪魔との契約もない」
「そんなに弱いのか…俺はどーにも信用出来ねーんだ。やっぱこいつら何か企んでるぜ。なあ、鷹宮」
名前を呼んだ方向を見ると学ランを着て、髪を揃えた不良校には珍しい髪型をしている。
「俺はなんでもいいですよ。本気の男鹿とやれるなら」
「おいっ!鷹宮!!」
それだけ残して教室から出ていこうとする。
「本気の男鹿というか強いやつだろ。実力が拮抗した方が楽しいから」
その言葉に鷹宮はピタリと止まる。
そして言葉を吐いたのは銀髪の学生……まあ、俺だ。
「へえ…」
「こいつ!縄で縛られながら何をカッコつけてやがる」
「この程度で拘束したと思い込んでるのがまず…なぁ」
ブチリ
その音で縄はスラッと床に落ちる。
「誤算は3つ。1つ目は俺が弱いというのがブラフでしか無かったということに気が付かなかったこと。まあ、小学生の時から男鹿に隠し続けてたし仕方ない」
姫ラーが数人突っかかってくるのをいなし、窓から落とす。
大丈夫だ。
漫画表現で死人は出ない。
「2つ目は藤。鷹宮お前は自分と拮抗した相手と戦いたいばかりに藤と戦うことを避けた。だから気が付かなかった。既に藤が負けていることに。茄子が食われるとっくの前に藤率いる神曲組は既に落ちている」
「!?」
「3つ目は勢力図。姫川先輩の手腕により少数勢力の9割が帝王鷹宮の物になり、帝政石矢魔となった訳だが……いくら雑魚を取り込んでも烏合の衆。吸収するなら茄子とか行っとけばよかったな」
「貴様ァ!」
毒島と呼ばれた男が突っ込んでくる。
同じくいなしてもいいが、一応幹部のようだし、丁寧に倒す。
一撃で。
人差し指を立てた状態でパンチする。
拳は肉に埋まる。
皮を突き破らないのが秘訣だ。
毒島は意識が刈り取られ、沈黙する。
「姫川先輩、すみません。当初の計画じゃ、ソロモン商会から色々聞きだして、男鹿が鷹宮に勝利して一件落着って運びだったんでしょうけど…」
それを聞き、他の鷹宮の王臣達が焦る。
「よく分かったな…」
計画に支障を来たしたのか、姫川先輩はあっさりと白状する。
「まあ、色んなところに目があるということで…それに姫川先輩も散々煮え湯を飲まされてましたし…」
「そっそんな!?姫川!それでは王臣紋は!」
「技術が学べればなんとでもなるでしょ。ソロモン商会も悪魔への対抗の為の組織なんだし。悪魔を騙すものが作れないはずもない。姫川財閥ならなおさらだな」
「じゃあ、姫川。君は聖組に戻るのかい」
鷹宮が姫川に話しかける。
「ああ、計画が破綻したからな。同じ手が2度通じるとも思えねーし、真っ向からやるしかねーだろ」
「姫川先輩が真っ向からとか似合わないっすね」
「言ってろ」
「そう……か。なら、ここは見逃してやる。次にあった時は聖組と堕天組の全面戦争だ」
そう見た目とは裏腹に強い口調でこちらに啖呵を切る。
姫川先輩は何も言わずに教室から出ようとする。
誰も止めないのは鷹宮が逃がすと言ったから。
それに従う王臣達も従者としての教育が成されているのだろう。
しかし…
「逃がす?聖組と堕天組の全面戦争?そんなこともう起きねーよ」
「何?」
「藤は堕ちた。茄子は喰われた。後は聖組と堕天組。聖組がメインなのは当然だ。なら次に落とすのは堕天組。当然だろ?」
「古市……とか言ったか?お前は何を言って…」
ドカァッンッ!!!
一際大きい音が学校全体に鳴り響く。
「本来なら俺がケータイ忘れて男鹿が来るんだけどさ。俺がケータイ持って行って今日帰れないって言ったら男鹿は絶対今日は来ない。誰も呼ばないなら聖組は1人も来ない。なら動くなら今日だろ」
「伝令です!」
姫ラーが教室に駆け込んでくる。
「裏門から魔女学が!」
「なるほど…魔女が戦わなかったのは既に吸収していたのか…だけどそれは少し気が早いんじゃないかな?第一魔女学には悪魔が」
「伝令!正面から鯖徒組が現れました!」
「!?」
「だから情報が古いんだよな〜それにメインは聖って言ってるだろ。俺は既に聖組じゃないんだよ」
「伝令!屋上に火炙組が現れました!次々に校舎を制圧しています!!」
「!!?」
「さあ、総力戦だ。俺たち聖天組と堕天組のな」
そう言って手に刻まれた契約の証を鷹宮へと見せつける。
「そして鷹の死骸を持って、聖組に宣戦布告する。俺が、俺たちが石矢魔最強だ」
「おもしろ……かかってこい」
「かかってこい?まだ帝王のつもりか。これは下克上じゃない。これは神からの制裁だ。せいぜい頑張って抵抗してみろ」