お料理バトルを制して、残ったペアは俺たち古市谷村ペア。邦枝出馬ペア。
そして今から戦いあう東条七海ペアと男鹿ヒルダペア。
この内の二組みが決勝戦へと行くが……どうなることやら。
ふと、スマートフォンを確認する。
メールだ。
もしかしたら手にはいるかも。
手にはいったらまた連絡します。
カルタツイスターゲームというツイスターを男子がやるというなんの魅力の無い闘いが終わる。
これで一応男鹿と東条先輩の因縁の対決は二勝一負一引き分けとなった訳だ。
そういえば東条先輩と喧嘩してないけど多分本人が忘れているんだろうな。
ひょっこりどこかで勝負をつけるときが来るかも知れないな。
「行きますよ、ネーヴェ」
「目的は達成できそうだけど、そこまで頑張ろう」
リングに上がる。
そこには邦枝先輩と少しやる気を失った出馬先輩がいた。
『今回の競技はガチンコバトルです!ここまでくれば小細工は必要ありません!目の前の敵を倒してください。ルールはそれだけです!はじめ!!!』
今までのイチャイチャバトルをガン無視してただの喧嘩となる。
ネタが無いというより尺がないのだろう。
「千秋……手加減しないわよ」
「本気で行きます」
「三代目と五代目候補の二人の対決だね。こっちはやる気の無くした先輩を倒すとするよ」
「相変わらず観察眼がええなー。確かに少しやる気は落ちとったけど、君が相手ならやる気だすで」
確かに顎を引き、こちらに目を向けてくる。
相手に油断せず、相対してくる。
「俺たちって因縁ありましたっけ?」
「いやな、バレーボールの時に技真似されとるやろ?武術家としてあのまま終わるのは癪やったんよ。ここで返させてもらうわ」
「お手柔らかに……」
最初に動いたのはオータムだった。
後手に回れば不利なのはこちら。
太ももに隠し持った2丁拳銃で邦枝先輩の目を狙う。
中身はペイント弾。
当たれば視覚を奪える。
邦枝先輩なら視覚を奪われても動くことは出来るだろう。
しかし、本物の戦闘に慣れはじめて殺気の無い攻撃は久しぶりだろう。
それに歓声やらなにやらで聴覚も万全とは言い難い。
狙うならそこだろう。
こちらは全ての攻撃が肉体を破壊する八佳をいなす。
それでいて二人を近づかせないように立ち回る。
武術を嗜む二人だ。
二人での戦闘も慣れがあるだろう。
余裕があれば。
「オータム!」
「スイッチ!!」
ゲームで慣らしたタイミング合わせで切り替えて戦う。
銃弾の線も男の俺の身体に隠して見切らせない。
それにしても……
「「攻めずらい…」」
言葉は重なった。
この戦いは早目に終わると思われていた。
捌くのが得意とはいえ攻撃の方法が無い俺と手段はあるが手数のオータム。
邦枝出馬ペアはどちらも手数もあれば一撃の重さもある。
はなから消耗戦だ。
こちらは一撃喰らえばアウト。
時間をかければ手数が減る。
短期決戦がこちらの最善手だ。
それはあちらも同じだったろう。
決勝戦が控えているなかここで体力の使いすぎは望めない。
しかし、選択肢としてそれを選んだだけ。
対して俺たちに選択肢は無い。
こちらの敗北は決まっている。
では、今やっているのは?
意地の張り合いだ。
俺ではなく、オータム……谷村さんの。
谷村さんも分かっているのだろう。
三代目である邦枝先輩。
四代目は大森先輩。
次に実力のある一年は自分とパー澤さんだ。
しかし、組織運営におくならパー澤さんは力不足だ。
なんとなく分かっているのだろう。
次は自分だと。
自分では力不足だと。
確かにみんなに鍛えられた。
強くなった。
しかし、未だに実力不足を抜けられない。
聖石矢魔でのぬるま湯を上がれば激化した闘いが始まる。
そんな気がしている。
それは自分だけでなく、知ってか知らずか勘の良いものはなんとなくだが気づいている節がある。
そこで自分は足手まといになると。
また葵姉さんに助けられる、と。
そんな守られるだけなんて嫌だ。
親は滅多に帰ってこない。
弟二人と妹がいる。
私が守らないといけない。
そんな義務感に殺されそうなときに。
自分が壊れそうな時に葵姉さんにあった。
守られて、鍛えられて、憧れて、助けられて。
そんな私も二年も経てば総長となる。
でも、私にそんな資格があるの?
守られてしかいない私がなれるの?
何の気なしに誘われたクリスマス会。
ネーヴェは私を助けてくれる。
二人の攻撃を捌き、代わりに受けてくれる。
切り替えるタイミングも私が戦いやすいようにサポートしてくれる。
ゲームでも他の人を生かす戦いかたをする。
でも、一番強いのは個人戦。
私も弟たちも敵わない。
けれど彼は笑い、続けるのだ。
彼に助けられたのは一度だけではない。
MK5に襲われたとき。
ゲームセンターで絡まれたとき。
そして今も。
この戦いは負けだ。
優勝はできない。
このペアが私以外ならもしかしたら優勝出来たかも知れない。
寧々さんや六騎生のあの子、葵姉さんも男鹿が優勝してほしくないから出ているんだ。私の代わりにネーヴェと出れば……
嫌だ。
なんだろうこの気持ちは。
私が誘われたのは弟たちの約束のためだ。
だけど、私は断らなかった。
そんな約束気にしなくていいのに。
なんて言葉が浮かんだのに口から出ることはなかった。
六騎生のあの子や寧々さん、誰にも負けたくない。
そんな事を考えてしまう。
今まで生きて来てこの感情は初めてだ。
「オータムっ!」
ネーヴェの声で現実に戻される。
スイッチが遅れた。
ゲームに集中してればこんなことはないのに。
葵姉さんの手が迫る。
その間に頼れる背中が割り込む。
攻撃を受けて、彼は倒れ込む。
また、私を守って。
このままなんて嫌だ。
守られてばかりなんて。
私は変わらなければ……!!
ようやく攻撃が当たった。
男鹿の近くで目立たない彼、古市くん。
おおよそ不良とは見えない彼は武人だ。
二人の攻撃を殆ど彼一人で捌ききった。
しかし、これで終わり。
後は千秋を止めれば。
そう思い、千秋を見る。
2丁拳銃を構え、こちらを見ている。
いつもと拳銃の持ち方が違う…?
あれでは銃を撃つのではなく、まるでメリケンサックのように…
そう思考した瞬間、千秋はこちらの間合いに入り込む。
退避しよう、行動が終わる前に銃身がみぞに入る。
一瞬呼吸が出来ない。
襟を捕まれ、離される。
出馬さんが引っ張ったようだ。
それにしても油断した。
まさか千秋があんな戦いかたをするなんて…
いつの間に近距離戦闘を学んだの。
今の間に古市くんは立ち上がっている。
ダメージはあるものの、サポートのみなら動けるだろう。
この戦いは終わるはずだった。
その起点が足りない威力を手にいれてひっくり返った。
この戦いは長引く…
そう考えたとき。
シャバドュビダッチヘンシーン
シャバドュビダッチヘンシーン
日朝のヒーローものの変身音が鳴り響く。
「あ、すみません。タンマ!」
古市はポケットからスマフォを取り出す。
それを耳に当て、応答する。
「はい、もしもし。あ、リンちゃん!どうしたの?手に入った?あ、ありがとう。じゃ、はい。はーい」
ピッ
通話を切り、スマフォをしまう。
そして片手を上げ、宣言する。
「サレンダーします」
「はい?」
『サレンダー?あ、敗けを認めるということですか?い、いいですけど、理由は?』
「参加理由が谷村さんちの弟さんたちにプレゼントあげようとしてたんですよ。で、プレゼント内容が売り切れ続出だったのでサンタさんに頼もうって話になりました。それが手に入りましたし、これ以上ガチでやるとマジで危なそうなのでストップしました」
『す、すこし不完全燃焼感は否めませんが決勝戦の時間もあるのでここは素直に受け入れます!古市谷村ペアは脱落!決勝は男鹿ヒルダペアと出馬邦枝ペアです!!』
「ごめんね。もう少しやりたかったかも知れないけど」
「いえ、大丈夫です」
「出馬先輩も今度きちんとやりなおしましょう。タッグ選じゃどっちにしろ不完全燃焼でしょ?」
「そうやなーまあ、楽しみにしてるで」
「邦枝先輩もこの後も頑張って下さい」
「え、ええ」
先輩たちと挨拶をして体育館から出た。
なんとか千秋達を倒して決勝戦へと向かう。
そういえば千秋。
いつの間にあんなに強く…
あの太ももで光っていた6の数字はなんだったんだろう…
いけない。
決勝戦に集中しなきゃ!
「邦枝さん…あのさ。静さん負けたし…もう僕でる意味ないやん。モチベーションあがらんちゅーか」
「え?えっーーーー!!!」