「次は柱爵じゃの」
悪魔だけあってダメージからの回復が早いのか最初に倒した雑魚兵も観客席からこちらを見ていた。
戦闘に復帰することはできるほどの回復ではない。
やれて野次を飛ばすことぐらいだろう。
しかし、今はそれもしない。
ただ息を潜め、戦いを眺め続ける。
古市は最後の敵をはるか空中へと投げ飛ばす。
その哀れな被害者は第五の柱エリムだ。
小さな子どもの姿をしていた為に暴力で解決はできない故の配慮だがそれは命綱の無いバンジージャンプと同じ。
落ちてきたエリムを殴るフリをして寸止めしてキャッチする。
やられるという未来を予見してしまったエリムは簡単に意識を途絶えさせてしまった。
そうして柱将は全滅した。
「これ以上はメンツに関わるのう」
顔に大きな傷を持つ大男は大きな両刃斧を持ち上げ、戦いの場に降りてくる。
「私は低血圧なんだ。さっさと終わらせるぞ」
中性的な容姿を持つ女性が気だるそうに降り立つ。
「あの時の戦いは私たちで練習してたという訳ね」
中華風の女性も降りてくる。
夜襲の時の事を言っているのだろう。
それは正解だ。
あの時の戦いのお陰で、攻撃を避ける事と命をかけた戦いに感覚を戻せた。
この頃平和ボケしていたからな。
「お前らもいけ」
団長席に座るジャバウォックから声がかかり、彼の直属の柱も降りてくる。
他にも強キャラのオーラを纏った悪魔が降りてくる。
そして、
「副団長として負ける訳にはいきません。ラミアの事もあります。殺しはしません」
ベヘモット34柱師団副団長、レイミア。
ラミアの母であり、副団長という役職を抜きにしてもジャバウォックに意見できる人物。
その実力は残念ながら原作では出されなかった。
しかし、サタン相手に時間稼ぎができる人物。
さすがにここまでかな。
「では、初めじゃ」
俺は地面に倒れていた。
俺の他にも柱爵が数人倒れている。
邪眼を持つ大男、バジリスク。
新調したであろう日本刀が速攻で折られた夜刀。
ピエロの格好をした男、ケツァルコアトル。
中華風の容姿をした女性、アナンタ。
目元以外布を巻き付け、体全体を隠したフィフニール。
三つ編みと壮年な顔をしている、応龍。
色黒の肌に鞭を持つ女性、ルナナ。
柱爵を半分以上破った。
しかし、届かなかった。
「まじでただの人間かよ。ここまで俺らを倒すとは思っても無かったぜ」
折れたビリヤードのキューを持った、リンドブルムが汗を拭いながら話す。
「しかし、ここまでだ」
片方しかないトンファーを古市に向けるキリン。
「団員全て倒すと息巻くだけはあります。次に倒れていたのは私だったでしょうに」
銀色長髪のサラマンダーは残った魔力で炎を具現化させ、守りに入った。
その一瞬のタイムロスで倒れるとなったといっても過言ではない。
ヴリトラ、ナーガも既に息絶えだえ。
言葉を発しない。
「これで終わりです。負けを認めなさい」
副団長レイミアが武器であるレイピアを向け、勧告する。
やはり、無理か。
さすがに傲慢だったかな。
「ここまでだな……」
その言葉を聞き、悪魔は戦闘態勢を止める。
しかし、次の言葉で思考が止まる。
「魔力を回せ、決めにいかせてもらう」
!!!
その言葉に1番早く反応したのはレイミアだった。
「魔力を回せ?そんな言い方…まるで彼は今まで魔力を使わなかったとでもいうの…」
そして納得したのも1人。
「やはり……ですか。余りにも有り得ない話だったので勘違いかと思ったのですが……次の戦い私は辞退させてもらいましょう。このまま残っても足でまといでしょうし…」
サラマンダーはそういって、舞台から降りようとする。
「やはりとはどういう事だ!?答えろサラマンダー!!」
ナーガはサラマンダーに問いただす。
「いえ、先程の一撃を受けた時に気づいたのですよ。他の方も倒され、気を失う瞬間には気づいたでしょうがね。彼は今の今まで魔力を使ってません。彼は己の肉体の力のみで我々柱師団を圧倒したのですよ」
「それが本当ならこの人間は…あの契約者よりも強い。肉体のみで我々を倒すなどできるはずが…」
「実際無理です。魔力以外にも世界にはエネルギー源が存在するんですよ。これは気力…いや、仙力ともいえるものです。人間としての限界を超えた時に備わる悪魔には無い人間の力です」
そう説明されても知識の幅が広がっただけだ。
これから自分たちは今の仙力と新たな魔力で戦うというのだから。
そしてこの人間は複数の悪魔と契約できるという。
それは既に試しているということ。
そしてその内の一体は容易く想像できる。
「……お前が契約悪魔か。ヘカドス」
「そうだ」
ジャバウォックの言葉に反応する、ヘカドス。
そして自分の持っていた槍を舞台へと投げ飛ばす。
投げ飛ばされた槍は俺に飛来した。
俺は片手でそれを取る。
「第3ラウンドだが、サラマンダーの様に降りたいのは降りていい。どうする?…って聞くまでもないか」
下ろしていた武器は既に構えられている。
そして舞台外から飛来した炎を槍でたたき落とす。
「だと思ったよ、サラマンダー。それでこそ戦闘集団。しかし、それだけだ」
「さすが智将とだけはありますね。それではこれで本当にギブアップです」
サラマンダーの溝に一撃いれる。
しかし、既に先頭の火蓋は切って落とされた。
背後から迫る悪魔の影が見える。
俺は槍を構えた。
残った柱爵が散開し、各々に攻撃を仕掛ける。
しかし、戦闘集団。
一切の打ち合わせなく、隙間のない攻撃。
逃げ場など無い、全方位の攻撃。
それを俺は……
1番後ろにいたはずのケツァルコアトルの後ろに出現した。
魔術使いはいるだけで厄介の種となる。
サラマンダーの時の同じ轍を踏む気は無い。
背後からの攻撃に反応さえ出来ても防ぐ事は出来なかった。
ケツァルコアトルがダウン。
そしてそれにいち早く反応したジャバウォックの直属の柱の3人、リンドブルム、ルナナ、キリンが向かってくる。
それを槍で受け流す。
それに乗じ、3人の武器を払いあげる。
武器を失った隙に魔力を込めた拳で腹を掌底する。
バジリスクの能力が飛ぶ。
目を合わせた敵の動きを止める邪眼。
しかし、これは目を合わせ続ける事で能力が発動する。
そして止まるのはあくまでも肉体の動きのみ。
つまり、もう一度視界の外に逃げれば肉体の動きは解放され、それに集中していたバジリスクは真下からの攻撃に対応できない。
顎を狙い、脳震盪を与える。
挟み込むように夜刀と応龍、フィフニールが攻撃してきた。
俺を狙った攻撃ではなく、槍を狙い、たたき落とすことにしたようだ。
ならば、俺は槍を手放す。
既に地面に落ちていく槍に攻撃してしまった、3人。
がら空きの懐にまたもや魔力を込め、掌底を与える。
「図らずとも残りが女性だけになってしまいましたね。痛めつける趣味はありません。早めに終わらせましょう」
「甘く見ないでっ!」
「「「おおぉっ!!!」」」
副団長レイミアの主武器レイピアが右肩を貫く。
かすり傷などはあったが戦闘に支障のでる傷はこの戦いで初めてであった。
「……ようやく…」
「?……っ!!」
ボソりと何かを呟いた古市に不審に思ったが時既に遅し、レイピアの刃が抜けない。
筋肉で完全に掴まされている。
「副団長のレイピアの初撃で奪えなければ勝機など皆無になっていたでしょう。貴方は娘の友人には甘い」
「レイミアの負けだな…」
気を失わなければこの人達は戦いを辞めない。
頭に触り、魔力の乱雑な波長を流す。
自身の魔力と敵の魔力を戦いのさなか感じることはあっても、頭に直接的に、何十種類の魔力を流される。
意識を失うのは悪魔のような人間以外には効果抜群だ。
しかし、この技。
敵が攻撃するに十分な時間が生じる。
ヴリトラ、アナンタが近接、いや身体を捕まえに来る。
ナーガが魔術の発射体制に入っている。
「りゅうじんだくだく」
「その技は既に見ている」
一つ一つ丁寧に対処する。
ヴリトラの剣を掠め取り、そのまま転ばせる。
アナンタは掌底を放つ。
その勢いのままに腕を掴み、ヴリトラの方に投げ飛ばす。
ナーガの腕を下から蹴りあげ、魔力攻撃を逸らす。
そして頭を掴み、そのままヴリトラの方に投げる。
3人が固まったところにヴリトラの剣を投げつける。
地面に刺さったそれは目印だ。
後はこちらが放つだけだ。
左手を向ける。
紫電が走る。
気づいた時には遅い。
全身の痺れ。
意識を失う。
「393人達成……後はラスボスだけだ」
レイピアに刺された肩を抑えながら、焔王の次に高い位置にいる男に目をやる。
「降りてこいよ。男鹿に倒されて更に強くなるために修行とかしようと考えてるかも知れないけど、更に敗北を重ねさせてやる」
思いっきり挑発してやる。
ジャヴァウォックは立ち上がり、一飛びでこちらに来る。
「始まる前に1つ聞きたい事がある」
ベヘモットが睨み合う俺たちに話しかける。
「お主の契約悪魔を当てて良いかの?」
「どうぞ」
「まず、空間転移のカラクリは次元転送悪魔。ベルゼ様のお付のアランドロン。そして槍はウチのヘカドスじゃな」
「違うね。アランドロンの娘のアンジェリカだ。魔界に行った時に少しね。そしてヘカドスは合ってるがもう1人いる」
「そうじゃろうな。最後の1人が分からん。雷はベルゼ様の魔力じゃ。それ以外で雷となると……お主、まさか……!!」
「じじい、どうした?」
俺の後ろに並び立つものが現れる。
「彼の名は
「悪魔で炎を使う者は多い。火とは人の力だ。しかし、雷は殆どいない。大魔王のご子息以外ある者しか使えない。それは雷が神のモノだからだ」
「つまり、
「さあ、問答はこれくらいにしてラストバトルだ」
俺はヘカドスの槍を構える。
そしてバラキエルの魔力を槍に纏わせる。
その矛先をジャヴァウォックに向けた。
「おもしれぇ……掛かってこい!!」