お茶を出されたので座って飲んでいる。
あの後隣にいるという三日間を台無しにしてくれた絶望に打ち震えている内に話すことになった。
てゆーか、部屋汚ねぇ。
侍女悪魔が3人もいて、主人の生活環境悪化させんなよ。
「ヒルダに頼まれたのですか?」
いきなり確信をつくような事を話すな。
「……ラミア、あなたも久しぶりですね。二人が何をしに来たか大体察しがつきます。焔王坊っちゃまにまた、会いに来てくれて嬉しいわ。少し背が伸びたかしら?」
「はい、ちょっと見つけるまでが大変でしたけどね」
どちらの女性もニコニコと会話する姿は微笑ましいかも知れない。
しかし、不穏な空気で満たされた空間ではこの笑顔が貼り付けられたものだとヒシヒシと伝えてくる。
こぉわっ!
胃が痛くなる。
「にしてもちょっと見つかんの速えーよなー。だからちゃんと変装しろっつったんだよ!」
「していったじゃない。それに、アンタの用意した髭眼鏡じゃ余計に目立つでしょ。あらぁごめんなさいね。そっちの男の子にはちょっと刺激が強すぎたかしら?」
こちらが話している後ろでヨルダさんが着替えている。
ラミアが隣で怪訝な顔をしている。
確かに健全な男子高校生である俺も反応するが、俺は生憎と鼻血を噴き出すようなことはしない。
それこそ漫画じゃあるまし。
そして俺たちに見つかったのに慌てる素振りが無いのは次元転送悪魔だからかな。
俺らをここから出さなければ問題は外に出ないからな。
何故わかるかって?
悪魔の種類はそんなに会ってないけど、次元転送悪魔に限れば二人確実に会っているからな。
判別はしやすい。
「そういや、焔王坊っちゃまは?先程までいましたよね?」
「あぁ……坊っちゃまはシャイですから」
そう言われ自分たちが入ってきた方を見ると扉を盾にこちらを見ている。
「ラ……ラミア」
もじもじしてらっしゃる。
「はい……」
ラミアが返事すると扉に隠れ、またもや…
「ラーミア」
顔を出して、また顔を隠すというのを繰り返した。
焔王めんどくさっ!
なぜ、この世界の恋してる人はこうも奥手なのか……
俺は恋したこともされたことも無いからどうにも答えられないが。
「古市、やっぱりここはいったん戻りましょう。私達だけで交渉を進めるのは危険だわ。まずわヒルダ姉様に報告よ」
ラミアが耳打ちをしてくる。
確かにそうだが、次元転送悪魔がいるなら離れるのも得策ではない。
かといってこれでは手が足りない。
「賛成だ。直ぐに出よう」
立ち上がろうとすると肩に手を置かれる。
「まぁまぁ、そういわず……せっかく来たんだからゲームでもしていきなさいよ」
「それは聞けない提案だな!」
俺はラミアを抱え、廊下に走る。
廊下を超え、玄関を開ける。
その先は真っ暗闇で満たされていた。
空間は断絶され、奈落の底の様な印象だ。
「今、この部屋は外界から切り離した別次元にあるの。逃げられないし、助けも来ないわ」
「本当よ、ヨルダはアランドロンと同じ次元転送悪魔なの。その気になったら逃げられやしないわ。ヒルダ姉様が魔力を辿れなかったのもこの力のせいよ。次元の壁で魔力を遮断しているんだわ。いちかばちかそこから飛び降りてみる?運が良ければどこかに繋がってるかもしれないわ」
「あのオッサンと同じにしないでもらえます?明らかにレベルが違うでしょ?降りるのはオススメしないわ。私も責任持てないから。とゆーか別に命狙ってる訳でもないんだしぃ、楽しくゲームしましょうよ」
万事休すと思われた。
ピンチに駆けつけるとかヒーローじゃないんだから。
『生憎だなヨルダ、アランドロンを見くびらん方がいいぞ?』
ラミアはポケットから白い四角いものを取り出す。
それはヒルダさんから渡されたと言っていた通信機だ。
『今回のことをお前に頼んだ以上、ラミア。これくらいの保険は当然だろう?二人とも下がっていろ』
通信機からはヒルダさんの声が聞こえる。
その声には覇気が詰まっている。
やられたと聞いていたが大丈夫そうでよかった
通信機から電磁音がし、徐々に身体が実体化する。
通信機を媒介にし、肉体を転送している。
「フム、初めてにしては上出来だ。待たせたなラミア」
いつも通りの、傷など無い姿のヒルダさんが出現した。
その手には仕込み傘の刀身がギラつかせている。
「ヒルダ!あなた一体どうやってここへ…!?」
「どうやって?きまっているだろう。アランドロンの力だ。奴の新式転送術【バリサン】次元を超越する魔界の電波を使って通信機から転送を行う。対貴様用に作らせたものだ」
「おお、あのオッサン。なかなか強いな!」
素直に賞賛しよう。
レベルが違うと自称していたヨルダさんも出来ないようだし、新たな技術を確立させたのは素晴らしい事だ。
後で解析しよう。
……ん?
ヒルダさんとヨルダさんが静止し、その間を見て固まっている。
「まさか……有り得ない!!」
「ヨルダの次元遮断を破るか……無能な家臣ではないようだな……」
黒い穴の様なものが二人のあいだに出現し、大きくなっていく。
それに反応したのか二人の侍女悪魔も廊下に出てくる。
「ヨルダ!何事っ……あれは……転送玉による空間の歪み……!!」
「ご苦労だったな、侍女悪魔」
歪みから一人の男が出てくる。
それはヨルダの首に手を当て、締め上げる。
「ヨルダ!」
「動くな……てめぇらもシメてやるよ。そう慌てんな」
いつの間にやら更に二人出現し、侍女悪魔二人の前に陣取っている。
「なっ……どういう事だよ!!あたしらは焔王様の侍女悪魔だぞ!!」
「だったらどうした?焔王様にとって害悪にしかならん者は全て敵だ。……理解してなかったか?この数日間人間界で自分たちがやっていた事を考えろ」
出てきた悪魔の中で中性的な悪魔が問いかけている。
まあ、あそこまで部屋汚くちゃな。
「主君を甘やかし、堕落させる侍女悪魔など、もはや害悪!!目的を忘れたか?クズ共が」
締め上げる力をどんどんと強くさせていく。
ヨルダさんの顔に余裕が無くなっていく。
そんな締め上げている男に刃を添える。
それはヒルダさんだった。
「貴様の相手は私だ……順番を間違えるな…ヘカドス」
「……フンっ、この間で実力の違いが分からなかったのか…?」
そんな嘲笑するように刃に手を触れ、破壊しようとするヘカドスと呼ばれる男。
しかし、する時間も無く、ヒルダさんの魔力によって拘束される。
その凄まじい魔力でヨルダさんから手を離してしまう。
「あぁ、そうだな。しかし、生憎とこの間はほぼ魔力を使い果たした状態だったのでな。実力の違いとやらを……確かめてみようか」
刀身に魔力を集め、綿飴のように練り固まっていく。
「なめるな!!!侍女悪魔風情がっっ!!!!!」
ドゴォッ!!!!
その思い響きは部屋に響く。
この上の階が無人でよかった。
ヒルダさんの一撃は太陽の光が見えるほどだ。
つまり、屋上まで貫通したということだ。
そしてそれを追うようにヒルダさんは貫通した部屋を駆け上がっていった。
それに合わせ、残っていた悪魔二人も上へと上がって行く。
それにしても何故、ヨルダさんの次元遮断が破られたのは何故だろう。
『主様!心配しました!!主様の魔力が遮断されましたので我ら4人で力を合わせ、結界を突破致しました。ご安心ください、我らはお側に……あれ?』
ああ、なるほど。
俺か、原因は。