リアルが忙しくて一月に一回ぐらいしか投稿できなさそうです。
「若いっていいわねぇ〜。アタシ、思わずきゅんとしちゃったわっ」
「さて、問題も片付いたし…これからどうするかな」
「大会に向けて作戦立てたり他の出場者調べたりとかしないんですか?」
「あなたダメウマ!」スパァンッ
「うブァッ!?」
起きたばかりなのに寝言を言った袋の頬を平手で引っ叩く。
「あっ、アゴが…っ、手甲無くても凄い威力…、なにするんですかいきなり!」
「できる戦士は、鍛えない」
頬を撫りながら文句を言ってくる袋を無視し、モデルのような仰々しい歩き方でドアの方へと向かう。
なぜかヘリオスもついてきた。
音楽がかかりそうなくらい時間をかけてゆっくり移動し、全員の注目が集まったところで腰を捻って振り返る。
「待つの」
「悪魔と一緒になに流行り芸やってんの!?」
よく見たら隣でヘリオスも、それだけでなくいつの間にか足元にいたジェフも同じポーズ取っていた。
瀬能ナツル with B !
ノリのいい子は好きさ。
「最近はそんな芸風が流行ってるのね。現実での流行り廃りなんて忘れちゃったわ」
「ひっ!?」
「残り一週間しかねえのに研究とか特訓しても付け焼き刃にしかならんだろ」
自分のすぐ後ろに怯えた視線を向ける袋を無視して説明を続ける。
「そんな頼りない半端なモノ、あるだけ無駄だ」
『ナツルカッコイイホー!』
『こういうのを剛毅と言うのだろうな』
悪魔二体に囃し立てられる。悪い気はしないな。
「なに何事もなかったみたいに会話に花咲かせてるんですか!?この気持ち悪いガチムチの化け物ほっといて!」
「ンまー失礼ねぇ、誰が我が子を喰らうサトゥルヌスも裸足で逃げ出す怪物よ!」
「そこまで言ってねえ!?」
過去に誰かに言われたことでもあるのか?
「意識しないように頑張って避けてたのに、なんで話題に上げるかなお前は」いばらの道をあえて選ぶ戦士なの?水鏡先生なの?
本当は要件も済んだからさっさと出ていきたいんだけど、今だに紅音がキャラ崩壊中で動けないから、しょうがなく店に残っているのに。
それがなかった善くんを見送らず一緒に着いてったっつーの。
さもなきゃこんなのとおんなじ空間にいつまでもいるかよ。
こんな、こんな……名前が分からんな。まあいいか。
「そういえばあんた、キャラネームは?」
袋が恐る恐る、ムキマッチョメイドに話しかけていく。だからどうしてやらなくていい苦行をあえて行うかな。
「あらん?言ってなかったかしら。私の名前は…」
なぜかそこで一旦止めて、しなを作るように腰をくねらせる。
吐きそうになった。
「私の名前はね…クレオパトラって言うのよっ♪よろしくね?」
ゴッッ
「イタァイ!!」
「はっ!?」
気がつくと、魔王の顔面に
撃った瞬間どころか構えたところすら覚えていない。あまりの気持ち悪さに思考すら置き去りにして身体が動いたのだろうか。
よくやった。
「ヒドォい!
「処女かどうかは別として、人の顔を殴るとか割と日常茶飯事だ」
反論をしつつ、即座に後方に飛び退いて距離を取る。
思い返せば同性はもとより、女・子供にも迷わずやってるな…顔面攻撃。そういや紅音にもやったわ。
「それよりテメーだろ。なんだクレオパトラって!嘘つくんじゃねえ!」
「失礼ねぇ、本名よ」
そう言って魔王は目の前にウィンドウを開き、こちらに見せてくる。
…確かに、名前の欄に『クレオパトラ』って表示されてあるな。まぁこの世界、初めに自分で名前設定できるからな。実際の名前じゃないだろう。
「…レベルが80って書いてるように見えるんだけど」
「この世界に来て随分経つからねぇ、イヤでも上がっちゃうのよ」
通りで殴った時、大岩にゴム版貼り付けたみたいな感触したと思ったわ。なんでこんなとこでバーテンやってんだコイツ。
「これだけレベル高いんなら、積極的にゲーム攻略に動いてもいいんじゃ?」袋が尋ねる。
「私も現実には戻りたいのだけれどねぇ…一人だと限界があるのよ。下手に動くとこの世界での生活が気に入っている人たちから襲撃を受けるし」
「やっぱあるのか、妨害みたいなこと」
「ええ。かなり昔のことなんだけど、本格的にゲームを攻略しようと大型のレイドパーティを組んだプレイヤーたちが、街の北の峡谷から船に乗って旅立っていったわ。でも谷の中腹辺りで大爆発を起こして、その船はそれっきり。今も谷底に沈んでいるはずよ。大勢の人たちと一緒にね」
なにそれ怖い。テロリズムかよ。
「燃え盛りながら落ちていく船を見た時、先に進む事を諦めたわ。この街に未練もあるし、無駄に死ぬ訳にはいかなかったから」
「…」
「それに…」
「ん?」
憂いを帯びた顔から一転、いたずらっぽく舌を出して
「こんなか弱い処女が若い身空で爆散なんてしたら、世界中の男の子たちが絶望しちゃうしね♪」
「スターダストレボリューション!!」
掛け声と共に発生した無数の光の矢が、流星のように走り魔王を切り裂く!
「…それも今流行ってるの?」
―――なんて事はなく、ただ俺の大声だけが室内に虚しくこだました。
流石にちょっと、恥ずかしい。
「おぉい、ヘリ坊!なにしてんのお前!?」
生暖かい眼差しで見つめてくる魔王の視線から逃れるように、隣に顔を向ける。
そこには何をするでもなく、両腕を組んで佇む黒猫がいた。
『何とは?』
「お前が協力してくれないと
『相談も無しにいきなり出来る筈も無いだろう』
前回も段取りなしのぶっつけだったじゃねーか!
『それにここは街中だぞ。そんな所であのような大技を放つのは…実害も無いのに変な事を言われた程度で即座に攻撃するという短絡的な行動に移るのはどうかと――』
「うるせぇーーーー!そんな、そんな正論聞きたいんじゃなぃんだよ俺はぁっ!!
自分が短絡的な行動した自覚はあるようだ。By作者。
「クソが!!お前なんてこうしてやる!喰らえ!」
素早くヘリオスの背後に回って、自らの両脚を相手の両脚に絡めながらその背中にのしかかり、黒い両腕をひねり上げる!
超久しぶりのパロ・スペシャル!しかし完璧に決まった!
「躾のなってない黒猫にはお仕置きの時間だベイベー!!」
『…………』
掴む手に力を込めるが、そんな攻撃どこ吹く風と言わんばかりに無反応を示すヘリオス。
まさか効いてないのか?いや、どうせただの痩我慢だ。その無表情を涙とかでぐしゃぐしゃに変えてやんよ!
『ふんっ』「あ?」
より一層締め上げようと体重をかけて身体を倒すと、それに合わせるようにヘリオスがその身を前方に沈める。
するとしゅるんと、掴んでいた腕が手の中から滑り抜けた。
―――猫の身体は非常に柔軟性が高く、関節が緩やかで筋肉や靭帯も柔らかい。
―――つまり対人を想定した関節技はほぼ無意味と言ってもいい。
―――加えて全身が体毛に覆われているため、人間の手で拘束されても無理矢理抜け出す事は難しくない。
「え?」
予想外の出来事に頭が真っ白になる。
その間にヘリオスは上体を前のめりに倒し続けて――ぐにゃりと地面すれすれで方向転換。
脚のロックを苦もなく外して、俺の股下を潜り抜けると、立ち上がり―――
『ふん!』
「ぐぉあ!?」
素早く俺の両脚を自分の脚で制し、両腕をひねり上げる!
こっ これは、この技は!まさか!?
「オラップ!?」「オラップで返された!」
袋と若干被った。
バカな!パロスペシャルを外すだけでも驚愕なのに、その上でこんな反撃するなんて!?
しかも完璧にがっちり決まってやがる!脱出できん!
ていうかどこで覚えたこんなん。俺は教えてねえぞ。
「ぐっぐぐぐ…!だっ、だが所詮は猿まね…ケビンオリジナルのオラップには遠く及びはしない!!」
『修羅転生!』
「ギーーブッ!ギバッーーーーップ!!」
「早っ!」
黙れ袋!お前見てるだけだからそんな事言えるんだ!
ヘリオスが一言発した途端に両腕にかかる負担が増え、関節が悲鳴を上げる。
他人使って何度も経験した俺には分かる、これはヤバイやつだ。あと少し力を込められたら骨が折れる。
>しかし、攻撃は止まらない!
「オォい!!ギブだっつってんだろ!?」フリじゃねえよ!?
『ギブとはなんだ?』
「降参!敗北!!土下座でもなんでもするから許してぇぇーーー!!」
意味を理解してヘリオスが手を離し、俺の上から退く。
俺はそのまま前のめりに地面に倒れこみ、顔面から木の板張りの床にダイブする。
普通なら痛みを感じるような鈍い音がしたが、微塵も気にする事なく――いや、その余裕も無く――ノロノロと自分の両肩を抱きしめるように押さえる。
…くっ……!うっ…腕…俺の腕……ちゃんとあるよな?
正直もげ千切れたかと思うくらい痛かった。
床に額を擦り付けた状態で、目だけで周りを見回す。…どうやら紅音はまだぐずってる最中で、今のやり取りは見てなかったっぽい。よかった、知られたら面倒だったからな。
しばらく蹲って痛みに耐えていると、ふつふつと苦い感情が湧き上がってくる。
なんだこれ……かなり昔に祖父に
これが…敗北…!
「ふ…ふふふ……俺からギブを取った男はお前が初めてだぜ…!」
「どんな負け惜しみなのよ…」
魔王がなんか言ってきたけど無視。他に言葉が浮かばなかったんだよ。
『私は雌なのだが』
黒猫がなんでもないようにサラッと発言する。
………………………………ん?
「ワンモア」
『私は雌なのだが』
思わず本人を見つめて尋ねると、一言一句違わずに返ってきた。
……っておい。
「えっ?雌?メス?医療に使われる刃物?」
『性別の方のメスだ』
「性別の方!ヘリ
『ただの呼び名だろう』
「なんで男装してんの!?」
『自己の存在を認識した時には既にこの格好だった。…この衣服は雄しか着用してはいけないのか?』
いやそういう訳じゃないけど。
立ち上がって詰め寄ると無表情に見つめ返してくる。
………女的な要素があるとはとても見えない。ていうか悪魔に性別ってあったのか?
旅の途中で何体か女型の悪魔(敵モンスター)に遭遇したことはあったけど、あれはアレでアレだから女型しかいないんだと思っていたが、
胸がデカイ男ってなんだよ!ハト胸か!
ダメだ、考えが廻らない。いや回ってる。逆の意味でグルグルグルグルと。
な…なにか……何か言わないと…最初のっ、最後のっ、
「こっ、この!この貧乳がッッ!!」
『………』
「ムぷっ、やめっ、肉球で俺の顔を塞ぐな!」
ヘリオスが無言で手のひらを押し当ててきた。
ダメ…ぷにぷにとした触感に抗えない…!てかもしかして気にしてたのか?
「っ…、ブっ、この…!いい加減にしろ!どいつもこいつもふざけやがって、真剣って言葉をどこに置いてきた!」
「こっ、このっ…!いけしゃあしゃあとっ」←袋
『清々しいまでに自分を棚上げしたな』←ヘリオス
「もう許さねぇ!俺は怒ったぞ、フリ――」
「うるせぇよバカ!!」
「ブルァア!?」横から頬を思っ切り殴られた。
この場面で紅音さん復活!?まさかの展開だよ!
最後まで言わせてくれたって
「だからうるせえよ!」
「ブルァア!?」同じ箇所をまた殴られた。
今喋ってなかったよね!?
「チクショー、グレてやるーーーーー!!!」
「あっ ナツルくん!?」
あまりのあんまりさに、つい店のドアを押し開けて外に飛び出した。
そのままがむしゃらに猛スピードで街中を走り回る。
どこまで行くのかって?ふっ、風にでも聞いてくれ。
〜ナツルがいなくなった後の店内〜
紅音「あいつあれ以上どうグレるんだ?」
袋「さあ…?」
正直詰め込みすぎたと思う。でも後悔はしていない。
①主人公を圧倒 ②寡黙的で表情が変わらない ③よく行動を共にする女(メス)
ヘリオス実は、異世界の呂布子ちゃんポジション。