けんぷファーt!   作:nick

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でデーンっ

『鳴上ー、タイキックー』

スパァンッ!「あざますっ!?」



番外話⑧ 6/18 全ての人の魂の詩【後】

 

いつ寝たかも分からぬ一夜が空けて翌日。よく知らない教師に、よく知らないジャージ姿の人間たち(多分同じ学校の生徒)と一緒に集められ、一方的に林間学校の現地解散を告げられた。

 

帰るまでが林間学校じゃねーのかよ…とか思いはしたが、面倒だからスルーした。生徒を信用してるんだろう。

ジャージ姿じゃどっか遊びにいってもすぐにバレるからかもしれんけど。

 

ぞろぞろと同じ方向に散っていく名も知らぬ生徒たちに習って、俺も歩いていく。…直前で花村に捕まった。

 

なんでも近くに川があるらしく、ついでだから泳いでいこうとの事らしい。ソロで泳いでろよ。

 

 

正直さっさと帰りたい。

というのも、何回か鳴上に憑依して気づいたんだが、俺の意識が自分の肉体に戻るには自宅…堂島宅の鳴上の部屋のベッドで眠らなきゃいけないようだ。前回やそれ以前もそうやって戻ってた。

 

なんて面倒なシステムだ。

 

もうちょっと融通きかせろよ〜〜。そうすりゃ今朝の時点でおさらばできてたのにようっ。

 

花村を適当にあしらって家に帰るのは簡単だ。しかし他の仲間にも声をかけてるようで、集まってくる人影が複数見える。

 

 

……今後も入れ替わることがあるかもしれないし、仲が悪くなるような行いは避けた方がいいだろう。仕方ない、付き合うか。

なんでこんな家族サービスみたいな気遣いせにゃならんのだ…自分の仲間じゃないのに…つかれてるのに…

 

運営に文句言ってやる。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「俺たち以外は誰もいないみたいだな」

 

貸し切りだぜ!と滝が側にある川の岸辺にたどり着いた花村が嬉しそうにはしゃぐ。

 

「…よかったな」

 

俺はその姿を恨めしく睨んだ。

 

くぉんのやるぉー。なにが『すぐ近く』だ。ここまで結構距離あったじゃねーか。歩かせやがって。

負傷してんだよこっちは、気ぐらい使えねーのか。

 

「センパイ、どうかしたんすか?腰押さえて」

 

金髪でガタイのいい男が声をかけてくる。

お前は…完二か。巽完二。

 

うん、お前はいい奴だ。先輩思いだな。花丸をあげよう。無いけど。

 

「…ちょっと痛めてな。原因は不明だ」

 

 

嘘だ。

明け方近くに千枝ちゃんに「アチョー!」と寝ながら回し蹴りを食らった。

 

衝撃と共に目覚めた時、バリケード代わりかは知らんが一列に置いてあった荷物を乗り越えて、彼女の足が俺の尻の上に置いてあった。

 

しょっちゅうシャドウ蹴り飛ばしてるだけあってなかなかいいもんを持ってるようだ。ダメージがなかなか抜けない。

クッソ痛いわこのやろう…!いつか復讐してやる。

 

 

「テント泊とか初めてだったから、寝違えたのかもしれない」

 

まぁしかし、そんな経緯を話すわけにはいかないので、適当に濁しておく。時にはつきたくないウソも必要なのさ…

 

 

「先輩大丈夫?治るまで私が摩っとこうか?」

 

手頃な岩に腰掛けようとしたが、それより早くもう一人の後輩に声をかけられた。

 

久慈川りせ。ふわふわとした茶髪のツインテールを揺らしながら、心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

 

…こいつこのイベントの時点ではまだいないんじゃなかったっけ。

精神(ソフト)肉体(ハード)が違うからシナリオに差異が出たのか?

 

 

「そこまで大げさじゃないから大丈夫だよ。少し休めば回復する」

「ダメだよ!腰のダメージはほっとくと大変だって、おばあちゃんも言ってたんだから!」

「いや…痛いのは腰よりも臀部の方だから…流石に尻を他人、それも女の子に触られるのはちょっと…」

「……先輩なら、私は大丈夫!」

 

俺がダメだっつってんだろ。顔赤らめるくらい恥ずかしいんなら言うなよ。

つーかせめてそういうのは鳴上(ほんにん)に言ってやれ。タイミングの悪いやっちゃな。

 

「くっ、久慈川さん?人前でそういうこと言うのは、どうかと思いますですけど?」

 

少し離れたところでやり取りを聞いていた里中が、引き攣った表情で口を挟んでくる。

 

「えー?あ、じゃあ人前じゃなかったらOKですね!先輩、行きましょ?」

「そっ、そういう意味じゃないし!」

「りせちゃん、そういった軽はずみな行動は駄目だと思うの」

 

 

おおっと、チエチャンだけじゃなくユキチャンまで参戦してきたクマ。

 

ここで「OKベイビー!僕のために荒らそわないで!」とか言ったらどうなるだろう。殴られる?殴られるよね絶対…

 

でも言ってみたい。

 

言っちゃおうかなー、後先考えずに。うん言うべきだ。その方が俺らしい。

よし言おう!

 

 

「おいおい、なに熱くなってんだよお前ら。川の水で頭でも冷ませよ」

 

喉元まで出かかった言葉を咄嗟に飲み込む。

 

おのれ花村、邪魔しよって…鳴上を救ったのか?

腐っても相棒か。ちょっと羨ましいぞ。

 

「花村先輩、マジで泳ぐんスか?ダリぃんで俺はパスで」

「同じく」

 

巽に続いて声を上げる。

座った方が痛えや。立ってよう。

 

「えっ、先輩泳がないの?」

なんでそこまで驚くんだ?

 

「ああ」

「え?私、鳴上君がどうしても川で泳ぎたいって聞いたんだけど…」

「あ。あたしも」

 

なぬ?

 

予想外の言葉に頭が真っ白になる。

 

次いで花村の方に顔を向けると…おうコラ、こっち向けや坊主。

 

「どうやって集めたのかと不思議に思ってたが…俺を出汁に使ったな」

「いやその…お、お前だってりせちーとかの水着姿見たいと思うだろ!?」

「否定はしない」

 

水着の美少女と聞けば九割方が好きなものだ。

残りの一割?好みのタイプに嵌らなかったかホモのどっちかかな。

 

「そっか…先輩楽しみにしてくれてたんだ……水着持ってくるんだったなぁ…」

 

久慈川がなんか小声でぼやいてる。

 

こいつの鳴上好きは原作で知ってはいるが、それでも好感度が高すぎる気がする。俺の周りにいないタイプ…強いて上げるなら沙倉か。

 

中身が違うのにガンガン来られても困るんだけど…正直無駄だし。不憫な奴だ。

 

一度ドキッとした事がある?忘れたな。

 

 

「否定はしないけど川で泳ぎたいかどうかは別だ。第一水着持ってないし」

昨日漁ったカバンの中にもそれらしい物はなかった。

 

「ふっふっふっ、その点抜かりはねーぜ…見よ!」

 

そう言って花村はジャージのポケットに手を突っ込み――なにか布のような物を取り出す。

 

「じゃじゃーん!ジュネスオリジナルブランド

、初夏の新作水着だぜ!」

「…………」

 

得意げな様子で両手に水着を持ってるがその姿はどっからどう見ても不審者のソレだった。

 

「うわぁ…」

「花村先輩…」

「それずっと持ってたの…?」

 

女子陣も同じ気持ちらしく、みんなドン引きしてた。

 

「花村…お前………キモいな(用意がいいな)」

「おぉい!?ストレートすぎんだろ!!」

 

おっと失礼、つい本音が。

 

「てかそれ二セットしかねーじゃん。俺のは?」

「いや、てっきり自分で持ってくると思って…悪かったよ」

 

そんな本気ですまなそうな顔すんなよ…なにも言えないだろ。いや言う気もないけど。

というか会話の流れおかしくね?俺のを用意してないなら抜かりまくりじゃねーか。

 

「ま・まぁ、あれだ。今回は女子の水着姿を見れるだけでよしとしといてくれ!お前だって見たいだろ?」

「否定はしない」

「お前ならそう言ってくれると思ってたぜ!って事で」

手に持っていた水着を二人の女子に突きつける。

 

「着てくれるよな?クッソマズい物体X食わされたり、モロキンから庇ってやったりしたんだからさ」

「うっ…」

「鳴上も期待してるって、言ってるしよー」

「えっと…」

 

花村の台詞に苦虫を噛み潰したような表情を見せる里中と天城。

チラチラとこっちを伺い、迷う二人。

そこにとどめの一言(いちげき)を放ったのは久慈川だった。

 

「先輩たち着ないんですか?じゃあ私が悠先輩のために、代わりに着ますねっ?」

「なっ、だだっ、ダメだってそんなの!」

「うん、着ないとは言ってないっ」

 

そんな台詞を残し、花村の手から水着を引ったくって足早に去っていった。

 

……なかなか業が深いパーティだな…

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

しばらくして、早々に着替えを終わらせて戻ってきた。

んんー、これは…

 

「イマイチ」

「う〜ん。無難、って感じ?」

「なんか…フツーっすね、先輩」

 

「いきなりなんだよお前ら!」

 

評価された花村が騒ぎ立てる。

事前の打ち合わせとかは一切してない。それなのに全員辛口コメントとは…正直予想してなかった。

 

「というか、本当に泳ぐのか?」てっきり女子の水着姿見るための方便だと思ったわ。

 

「川で泳ぐ機会なんて滅多にないだろ?今やんねーでどうすんだよ」

「俺は泳ぐんなら海の方がいいけどな」

 

沖縄出身だから。

もっとも、故郷では遊び目的じゃなく魚を取るために泳いでたから、ほぼ素潜だったけど。(楽しかったからいっか)

 

「先輩、それなら夏休みに一緒に海に行きません?もちろん二人っきりで…」

「ちょっとりせちゃん!なに言ってるの!?」

 

露骨な誘いに待ったをかける声が、森の方からやって来る。

 

「まったくもーこの()は…油断も隙もないわ」

「ち…千枝っ、先行かないでっ」

 

小走りに駆け寄ってくる二人の人影…里中と天城が姿を現す。

水着姿で。

 

「うぉ…コレは…!」「………」

「ちょっ、そんなジロジロ見ないでよ!」

「や、やだ…もう」

 

花村たちの視線に顔を赤らめて身体を縮こませる二人。

 

「いやー、なんか想像以上にいいんじゃね?なあ鳴上」

「え?あー、…うん」

 

急に向けられた言葉に、頭を掻きながら俯いて答える。

 

「なんだよその気のない反応。…もしかしてお前、照れてんのか?」

「え?そうなの先輩?」

 

見るな…僕を、見るなっ!(cv.高山みなみ)

 

「…いや…よくよく考えれば、同世代の女子の水着姿を生で見るのほぼ初めてというか……その…正直恥ずかしいというか…」

 

中学の時は水泳の授業、あるにはあったが男女別だった。

沙倉と知り合ったのは三年の秋口辺りだったし、他に友達いなかったからので海やプールに行ったりもしなかった。(東田?誰それ?)

 

高校に至っては校舎すら別だ。

 

「ちょっ、鳴上君!そういう反応やめてよ!」

「余計恥ずかしい…!」

 

顔どころか首すじまで赤く染める天城と里中。

 

必死に肌を隠そうと身を(よじ)らす姿は…うん、より一層照れ臭くなってきた。吐血しそうだ。

 

「マジかよ…お前こんなのがタイプだったのか?まだまだガキっぽいじゃねーか」

 

我慢ができなくなり、そっぽを向いたところで花村が呆れた口調で話しかけてくる。

 

「普通に可愛いと思うけど」

「色気が足りねーよ色気が。そりゃ将来はいい感じのオネーサンになりそうだけどさ、今はまだまだ」

 

花村はワガママさんねー、そんなんじゃモテないクマよ?(cv.山口勝平)

 

 

「…黙って聞いてれば言いたい放題…すっげー不愉快」

「うん…本当…!」

 

怒りを押し殺すようなつぶやきが聞こえたと思ったら、目の前を二つの影が横切る。

 

それを追うように、男の困惑する声が響く。さらに数秒遅れて川から大きな水柱も上がった。

 

 

バッシャーンッ!!

 

 

「ッめてー!?お おおおおい!ななにもつつっつ突き落とすことねーだろ!?」

「うっさいバーカ!」

 

崖下から寒さに耐えながらも喚く花村に、里中が怒声を返す。

 

小規模とはいえすぐ側に滝があるところに強制飛び込みさせるのはどうかと…当たりどころ悪かったら死ぬレベルの大岩もあるし。

ていうか俺は?放置?

 

「まったく…最低すぎでしょ、ねぇりせちゃん?」

「あはは…」

 

急に話を振られた久慈川は困ったように苦笑いを浮かべる。

すぐ近くに本人いるのに先輩を批判するような発言させようとするなよ。

 

「………」

「カンジ、どうしたの?さっきからずっと黙ってるけど」

 

久慈川が崖下の花村を静かに見下ろして立ち尽くしている大男に話しかける。

気になったから…というより話題を変えるためにそうしたんだろうけど、確かこの先の展開は…

 

「…あ?なんすか」

「――!やだ!」

「うぉっ!?」

 

振り返った巽は鼻から血をたれ流しており、それを見た天城が勢いよくドンと…再び上がる水柱。

 

運命は変えられなかったようだ。

 

つーか半ば不意打ちとはいえ、自分より頭一個分は身長が高い男を突き落とすってどんだけだよ。あの細腕のどこにあんなパワーが?

 

「ああアブねーだろコラ!いきなり何すんすか先輩!?」

「身の危険を感じて…」

「ああ!?」

「水着姿で鼻血出す人初めて見たんだけど」

「言えてる」

 

普通いないよ。そんな奴。

 

でも元アイドル(だったっけ?)としていいのかそれ。ファンに鼻血出させる実力ないってことだろ?

 

割とどうでもいいこと考えながら、川の中で寒そうに震える二人の男を眺めていると、どこからか何か不快な音が聞こえてきた。

まるで醜いおっさんがえずくような…

 

「うわっ、川上でモロキンが吐いてる。だからウチら以外誰もいなかったのか…よかった〜、入る前に気付いて」

 

実際にえづいてたようだ。

 

そうか、そういえばゲームでもそういうシナリオだったな。男三人がゲロの混じった川に浸かるって…

 

……本来なら滝壺(あそこ)に俺もいたのか。水着慣れしてなくて助かった。

 

 

ム"ー

 

 

自分が持ってる(鳴上の)携帯が唐突に震える。

 

ポケットから取り出して、開いた携帯の液晶画面には三つの選択肢があった。

 

 

 

〜ノルンチョイス〜

 

 

>友情を深めるために自ら飛び込む

 見なかった事にする

 むしろ忘れる

 

 

 

……………………

 

俺はちょっと考えて――崖下の花村たちをチラッと見て――すぐに携帯を操作する。

 

 

 

〜ノルンチョイス〜

 

 

 友情を深めるために自ら飛び込む

 見なかった事にする

>むしろ忘れる(決定)

 

 

 

携帯を閉じて女子陣に向き直る。

 

「帰りに愛家寄ってかない?」

「お、いいねー。あたし肉丼!」

「千枝そればっかり」

「愛家って一度も行ったことないんだよね〜。……先輩と二人っきりじゃないのはちょっと残念だけど…まいっか」

 

誰も否定しなかったので、天城と里中が着替えるのを待って中華料理屋に行く事にした。

いやあ、実はゲームでも一度見てからずっと気になってたんだよね。食べるとパラメータが上がる料理ってどんなんだろう。

 

 

「おっおおおい、お置いてくなよっ!」

「せせっ先輩っ、さささ寒いっす…」

 

 

背後から汚らしい鳴咽(BGM)とともに何か聞こえたけど、後ろは決して振り返らなかった。

 

 

>忘れよう…それが彼らのためと信じて……

 




P4林間学校終了。次回からVRに戻ります。

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