けんぷファーt!   作:nick

82 / 103

神は言っている、まだ…死ぬ時ではないと


……………多分………きっと………………おそらく………



番外話⑧ 6/17 全ての人の魂の詩【中】

 

目覚めたら、ほんの目と鼻の先に美少女がいた。

 

えっ、なに、どいうこと!?

 

 

「なんっ、」

「シーーー!静かに!」

 

 

咄嗟に叫ぼうとしたらその美少女に小声で注意される。

 

よく見たら美少女は天城だった。

その天城と向かい合うような体勢で、お互いにテント内で横になっている。

 

本当にどういうことなんだ?

 

「花村ー、鳴上ー、いるなー?返事しろー」

 

見つめ合ったまま、半ば硬直するように動かずにいると、テントの外からオッさんの呼びかける声がした。

 

 

「うっす、寝てます!」

「ウソつけ!起きとるじゃないか!いいから黙って早く寝ろ!全く最近の若いヤツは…」

 

 

…………

 

しばらくそのまま黙って待っていると、声の主はブツブツとつぶやきながら遠ざかっていく。

 

「ふー…焦ったー」

「こっちのセリフだっつの…たく、一気に歳くった気分だぜ」

 

 

テント内に明かりがともる。

 

俺たちと同じく横たわっていたらしく、隣で花村と里中が体を起こした。

 

ああ…なんか察したわ。あったなこんなイベント。

 

俺と天城も体を起こし、床に座り直す。

自分たちの寝場所でトラブルが発生して、こっちのテントに来たんだっけ。

 

けど、いくら仲が良いとはいえ異性の寝床にやって来るのはどうなんだ?クラスの女子とか他に行き場はいくらでもあるだろうに。

…友達いないのかな。

 

 

「ごめんね、鳴上君。急に押しかけたりして」

「え?いや、別にいいけど…」

「ほんと?よかったー、実はちょっと迷ったんだよね。きみに迷惑かけないかって」

「ぅおおい!俺はいいのかよ!」

「うっさい!またモロキン来たらどうすんのっ」

花村かわいそう…

 

「てか鳴上。お前大丈夫なのかよ?」

「? なにが?」

「なにがって…ほら、さっきので体調とか…」

 

さっきの?

 

「俺はついさっき目覚めたばっかだけど」

「いやそれは知ってるよ。そうじゃなくて、その前の晩飯の――」

「俺はついさっき目覚めたばっかだけど」

「鳴上君?」

 

 

俺はついさっき目覚めたばっかりだ。

 

鳴上の身体に憑依する前は荒野でテント張って、その中で就寝した。起きたらこんな状況でとても困惑している。

そして夕食はシチューだ。

 

 

「おっ…お前、記憶を…!いや、しょうがねえか…そうだよな。俺だって消せるんなら消してえよ、あんな物体X」

「ちょっ、あんたそんな言い方ないでしょ?」

「里中、お前あの顔見ても同じこと言えるか?鳴上のあの表情を見てもよ」

「う…」

「鳴上君…目がジュネスで売られてる魚見たいな目になってる」

 

遠回しに死んでるって言われた。天城さん酷い。

いざという時煌めくんだよ。

 

 

ぐぅー…

 

 

「あぅ…お腹へった…」

「今の里中かよ」

「うっさいなぁ。しょうがないでしょ、ご飯食べてないんだから」

 

名前を呼ばれた本人が恥ずかしそうに腹を押さえる。

 

「花村、なんか食べ物持ってない?」

「あったらとっくに食ってるよ。ったく、こんな事になるなら近くで弁当でも買っとくんだったぜ」

 

近くねぇ。

 

「この辺にコンビニとかあるのか?」

「え?ないよ?携帯も圏外だし」

 

ど田舎じゃねーか。サスペンスの舞台になりそうだよ。

 

「あークソ、ほんとに腹減ったな…菓子程度じゃ腹の足しにもなんねえ」

「中途半端な間食は空腹を促進させるぞ」

「マジかよ…」

 

チョコレートとか高カロリーな食べ物ならともかく、側に落ちてる空箱を見るに食ったのは駄菓子だろう。胃を活発にさせた分飢餓感は他より強いんじゃないかな。

 

「鳴上君は?ほら、テレビの中の時みたくなんか色々出せない?」

「なんかって…」千枝ちゃんキミ無茶苦茶言うね。

 

鳴上本人じゃないのに、アイテムの所在とか分かるわけねーだろ。探索の時とかいつも、あきらかに許容量以上の荷物をどうやって持ち歩いてんだ?

 

他の二人もどこか期待した目でこっちを見ている。オイ、ドラ◯モンじゃねえんだぞ俺は。

 

「……あったかな…」

 

居心地が悪くなったので、鳴上のカバンを引き寄せて中身を確認する。

暗くて見えねぇな…いいや。ひっくり返しちゃえ。

 

 

ドサッ、びちっ びちちっ。

 

 

カバンの底と口部分を掴んで持ち上げ、逆さまにすると中からやけに胴体が長い魚が出てきた。

しかもまるで、ついさっき釣りあげたばかりのように床の上を元気に跳びはねている。

 

…………なんだこれ。

 

「あ、これオオミズウオだね。釣るのかなり難しいのに、鳴上君すごい」

「え、そういう感想?」

 

リュックサックから魚が出てきた事に関してなにか思うところはないわけ?

 

それにこれ動き回ってるけど、魚を仕舞っていたカバンはずっと微動だにしてなかった。どうなってんだ?

 

 

「まあいいや。食うか?」

「食うかって、これをか!?」

他になにがあるって言うんだよ…

 

花村に指差されたオオミズウオをむんずと掴み上げる。

うん、いい張りだ。生きもいい。

 

「里中は?」

「流石に生はちょっと…」

「じゃ天城」

「私も食べるのは…」

 

全員して嫌な表情で拒否を示す。腹が減ったからなにかないかって言ったくせに、ワガママな奴らだ。

 

「じゃあ俺貰い」(ガブリっ)

「腹から!?」

「ひっ、こっ、こっち見た、魚がこっち見た!」

 

ブチリと噛んだところをワイルドに喰いちぎると、びくんと一度痙攣してオオミズウオは動かなくなった。

うーん、水っぽい!

 

「鳴上君…大丈夫なの?」

「うん?味は薄いけど」

「そうじゃなくて中毒とか」

ああそっち。

 

確かに川魚を生で食うと中毒を起こす。寄生虫がいるから。

気をつけろー腹めっちゃ痛いぞー。作者はやったことないから分からんけど(※事実だけどメタいから止めろ!)。

 

寄生虫は主に胃袋や体腔にいる。なので内臓を避ければ生でも大丈夫だろう。怖いから一応頭もやめとく。

 

万が一当たったとしても、他人の身体だから問題はない(※ゲス発言)。教訓だと思って諦めてくれ。

てかなんでなんの下処理もしてない生魚持ち歩いてるんだろう。しかも林間学校で…謎だ。

 

まぁいっか。

 

 

>鳴上のHPが全回復した!

 

 

「お、トランプ発見。ゲームでもやろうぜ」

 

他にはなにがあるかとカバンを漁っていると、掌に収まるサイズの長方形の箱が出てきた。

 

「お前…ほんっとマイペースだな。ゲームってなにするんだよ」

「ソリティア」

「一人用じゃねーか!」

 

ぼく、人見知りだから、多人数でやるカード遊びとか、した事ないんだ。

 

「ていうかキミ寝なくていいの?」

「睡眠取りすぎて眠くない」

 

起きたばっかな上、寝起きでかなりの衝撃を受けたせいで目が冴えてしまった。全く眠くない。

眠り状態のバステ引き起こすアイテムとか無いかな。

 

 

「鳴上君、時間を潰すのにもってこいのものがあるんだけど」

「もってこいのもの?」

 

なんだ?天城さん。むっちゃいい笑顔だけど、いったいどんな提案をするつもりなんだ?

 

「ゆ、雪子…それってもしかして」

「うん、百物語」

「ぎゃーーー、やっぱり!!」

 

里中が叫ぶのと同時に、天城の周りに複数個のロウソクが灯された状態で設置される。オイ今それらどっから出した。

 

しかもご丁寧に溶けたロウの受け皿までありやがる。なに?そういう特殊能力でも持ってるの?

 

「やめてよ雪子!あたし怖いのダメなんだから!」

「時間を忘れて何時間でも過ごせるよ?」

「できれば眠りたいんだけど…それに四人で100ってキツくない?一人25個だぞ?」

「お前なんでやる気なんだよ!」

 

いやだって、いつの間にかロウソク以外の明かり消されてんだもん。拒否しても勝手にやるよこの娘?

 

「鳴上君は怪談とか大丈夫な方なの?」

「ん?ああ、俺は見て殴れるものしか信じてないから」

「物騒な考えだなオイ」

「うん…そんな俺の持論を元に断言しよう」

 

 

 

「幽霊は…いるっ…!」

「お前幽霊になにした!?」

 

 

それは…まぁ…アレだ。うん。いいじゃないか別に。

 

 

「いやいやいや!気になるから、なにしたか普通に気になるから!」

「えー?そんな聞きたいのか?しょうがないな…」計らずとも俺がトップバッターになっちゃったな。

 

近くにあったロウソクの前に陣取り、軽く咳払いをして口を開く。

 

 

〜〜〜〜

 

 

…あれはそう、俺が中学生の時の事だ。

 

 

 

 

 

「いーよ語らなくて!聞きたくねーわ!」

「その日は酷く疲れていて、学校から帰ると私服に着替えもせずソファに横になった」

「語んなつってんだろ!しかも雰囲気作んなよ!」

「うんうん、それでそれで?」

「雪子!興味シンシンで聞かないでよ!」

 

あーうるさい。ちょっと黙れよ。見回りの教師に気づかれるだろ。

 

喋る気無くなっちゃったよ。

 

 

「もう寝んぞ!寝る!ったく…これならあの物体X(カレー)食った方がまだマシだよ」

「……カレー?」

 

カレー……カ…レー……?………

 

 

 

 

 

  ぐギャらえぶボぉぉぉぉぉ…

 

  クハっ クハはっ あら素敵な坊や 私と一緒に遊ぼう

 

  ロォォォォド…

 

  可愛い坊や 綺麗な服も珍しい花もたくさんあるよ

 

  ロォォォォぉぉぉぉぉドァァァァ

 

  お父さんお父さん魔王がくるよ 魔王が僕を攫ってく

 

  息子よアレはまぼろしだ

 

  ぁ"お"イぇ"ェェェェェェェ…

 

  クハハハハ なぁに心配することはないわ 初めは怖いかもしれないけどすぐに

 

  子の言うことくらい信じろや!

 

 

 

「あああ…ああああああああああ、あくまが…あくまがくるよぉ、」

「なっ、鳴上?」

「ちょっ、どっ、どうしたのいきなり」

「あああああああああああ」

 

 

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

 

 

 

 

 

 

>…………

 

>ロウソクの火が一本、ひとりでに消えた…

 

 





好物 → 過剰摂取 → 中毒 → 苦手意識(高) → 疎遠 → 苦手意識(低) → 克服 → トラウマ(New!)

心霊体験以上のカレーに対する恐怖。まったく分からねぇ…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。