けんぷファーt!   作:nick

77 / 103

『キャハハっ、どう?楽しんでる?』
「だめ、全然当たんない!」
「くそっ、攻撃が全部読まれてるみたいだ!」
「これが情報解析型シャドウの力なの…?」
「っ、ヤバい、デカイのくんぞ!?」
どッガンッッ!!
「きゃあっ!」「ぐわぁっ!?」
「よっ、ヨースケ!みんな!!」
「クマっ、りせを連れて逃げろ!!」
『させなーいわよッ!』
「がはっ!」
「センセー!」
「ぐ……ここまで…か…………」



番外話⑦ 6/4 私以外私じゃないの【前】

 

 

 

……………………

 

…………

 

 

 

 

「……ん…あ?」

 

なんだ…?なんか変だな…

さっき寝たはずなのに…もう起きたのか?

 

うつ伏せで、しかも直接頬に張り付いていた地面に手をつき、ゆっくりと起き上がる。

 

いや、寝たと思った次の瞬間に意識が覚醒したーとかなら普通のことだ。おかしくはない。

でもなんか違和感があるな…なんだ?

 

違和感…違和感…そういえば俺、布団に包まって寝なかったっけ?

場所もこんな…絨毯?ぽい材質じゃなかったし、きちんとした寝床で横になったような。

 

なによりここどこだ?それに俺の格好…学ランかこれ?

 

「せっ、センセイ!無事だったクマか!?」

『チッ、まだ動けたのォ?』

「あ?、ぅおぉっ!!?」

 

急に殺気を感じ、慌てて掌の中にあったものを掴み直してその場から飛び去る。

 

どガンッッ!!

 

立ち上がった(いどう)した瞬間、今まで転がっていた場所に火柱が上がる。

危ねえ!もうちょっとでローストされるところだった!ナツル焼きなんて最期はイヤだ。

 

「……ん?」

 

ぺたぺたと片手で自分の頬などを確かめる。

 

服装…学ラン。手に持っている物…日本刀。視界に入る髪の色…灰色?

そして先ほど叫んだのはずんぐりとしたぬいぐるみ…

 

うん。俺の外見、鳴上悠になってるね。

またこの夢かよ。疲れてるんだから勘弁してくれよな。

 

「センセイッ!」

「、っ!」

 

クマの声に反応して地面を蹴る。

直後、また火柱が上がった。

 

『チィっ、ちょこまかとうざったいわね!!』

 

攻撃が飛んできた方向を見ると、人型らしきものが鉄筒のような物を腰だめに構えていた。

 

虹色のマーブル模様。ピンク色をしたツインテール。顔面の位置には花が開いたようなアンテナ。

 

りせの影か…となるとここはストリップ劇場?

 

来たことないからよく分からんがなんか、ヤクザが主役のゲームの三作目に出てきたボス戦ステージみたいだ。

 

周りを見れば花村や里中といった主人公パーティの面子が倒れてる。負け戦闘後かよ。

 

つかどうすりゃいいんだよ。負けた後なんだろ?やる事ないじゃん。

さっさとイベント行けよ。

 

「はぁ…メンドくさ」

 

文句を零しながら刀の切っ先をシャドウに向ける。

ここでまた負けたりしたらどうなるか分からん。ヤるしかないな。

 

「こいよデカブツ、第二ラウンドだ!」

『なによ生意気言っちゃって、またボコボコにしてアゲルわ!』

 

刀を両手で構え直し、勢いよくダッシュ。

 

それに合わせて、りせの影(シャドウ)が鉄筒を捨て、地面と垂直に伸びている鉄棒に絡みつくように登っていく。

 

よし、まず狙うは!…どこだろう?

ゲームだと武器を振るだけで攻撃が入ったり外れたりしてるけど、明確にどこに当ててるかの描写はない。

さらに言うと相手の移動のスピードも結構速いし…そもそも高すぎて届かねえよ。よく攻撃できるな鳴上たち。

 

『アハっ、なーにぃ?威張ってたくせに、もう降参なのぉ?』

 

どうしたもんかと攻めあぐねていると、シャドウが小馬鹿にしたような口調で語りかけてくる。

 

『たぁいしたことないのねぇ。カッコわるぅい!』

あ"あ"ん?

 

「大したことないだと?この俺が、大したことないだとぉぉ!?」

許さん!

 

「ペルソナ!!」

 

虚空から出現したアルカナカードを握り潰すと、赤色の光と共に巨人が現れる。

 

前に見た夢の時と同じ、黒い全身に青の筋が走っているブリキ人形みたいな身体をしているペルソナ・ダークオルフェウスだ。

 

「喰らえっ!!」

 

――サウンドバズーカ!

 

ゥヴォッッ!!

 

『キャアアァッ!?』

 

ダークオルフェウスの口から発せられた轟音と、それに伴う衝撃波がシャドウを襲う。

フハハッ、暴風に踊らされる木の葉のように激しく揺られておるわ。

 

「なにあれ…さっきのと全然違う…」

「センセイは色々なペルソナを何体も持ってるクマ!あのペルソナは大きな音とかで相手を攻撃できるクマ!」

 

攻撃してる最中にクマが久慈川(本体の方か?)に解説を施す。

格闘技の放送席みたいなことしてんなや。倒れてる奴の介抱でもしてろ。

 

『くっ、このっ!!』

 

ポールに捕まってゆらゆらと、飛ばされるのをなんとか耐えているシャドウが苦しまぎれに蹴りを放ってくる。俺にじゃなくダークオルフェウスに。

 

「ガードしろ!」

 

言葉に反応して巨人が胸の前で両腕をクロスし身を守る。

反撃のつもりか?そんな不安定すぎる体勢からの一撃なんてたかが知れて――

 

>ペルソナブレイク!

「ぐぶォッ!?」

 

一瞬で砕け散った。

ペルソナはスタンド方式なのか、ダメージが本体である俺にも伝わってきた。

 

お…おい待てちょっと待て。今のガードの上からの攻撃だぞ。そんなにシャドウって攻撃力高いのか?

いや、それでも当たった瞬間に消滅させられるのはおかしい。

 

…まさかオルフェウス(こいつ)、防御力が全く無いのか?濡れた和紙レベル?

能力が凄い分、他のスペックがクズとかよくあるけど、こいつもその口か?

もっと早く知りたかった。

 

『アハッ、大チャ〜ンス!』

「ちょっまっ、待って待ってちょい待って!」

 

衝撃波が止んでシャドウが勢いを取り戻し、直接攻撃を開始する。連続で。

 

ひぃっ!早い速いはやいデカイ怖い!!

ブォンって音する!

 

 

「タイム!タイムタイム!タイム――っつってんだろが!!」(カッ!)

 

 

キレ気味に叫ぶと、先ほどと同じ色の光が発せられられ、虚空からアルカナカードが出現する。

ただ描かれている絵柄――寓意(ぐうい)画だっけ?――が違う。

 

表記されている番号は "Ⅰ" 、文字は"Sorcerer"。

 

別のアルカナか?

俺も複数のペルソナを所有して扱うことができるワイルドなんだな。(鳴上の肉体だから?)

 

「くっ!」シャドウの猛攻を捌きながらカードに手を伸ばす。

 

じっくり検分をしたいところだが、いかんせん状況が悪い。身体の動きも悪い。

 

敵の動きは見えてる。しかし、身体がそれについていけない。他人の肉体なんて慣れないもの使ってるからな。

 

それに加えて負け戦闘後らしいボロボロ具合。疲労がハンパない。

もうちょっと余裕をもって攻撃を躱したいが、武器使って軌道を逸らすのが精一杯だ。カードが掴めん!

 

「もうヤダ、キツイ、シンドスギ」鋭い爪や蹴りを躱しながら、思わず弱音が溢れる。

 

なんで俺話したこともない他人の事にこんな必死になってんだ?もう何もかも忘れて、一風呂浴びて眠りたい…

 

『違う!ヤダッ、嫌い、シンドスギ!!』

 

小さなつぶやき全力で拾われた!?

攻撃の手を止めてまでダメ出しすることかそれ?

 

『マネするならキチンとマネること!後発言はハッキリ!声出して!テレビだとカットだよ今の!』

「知るか!ここ自体がテレビの中なんだからスルーしとけ!!」

 

俺を見据えて指を差してくるシャドウに指差し返す。

そして刀で素早くアルカナカードをぶった斬る!

 

『ちょっ、キタナイ!』

「聞こえんな」

戦いに卑怯は付き物だ。

 

破壊されたカードの代わりに、摩訶不思議な物体(ペルソナ)が新しく出現する。

雪だるまのような白い体躯に、青色の帽子。

 

『ホー!』

 

ジェフ!?

 

あ、いや。霜の妖精ジャックフロストか。見た目そっくりだからややこしいな。

 

 

『そんなものっ!』

 

ドグシャッ!

 

ちょっと停止してたらシャドウの蹴りで粉々に散らされた。

 

 

「ジャックフロストーーー!?」

文字通り一蹴された?!何しに出てきたお前!

 

てか俺のペルソナ弱くね!?

 

『ホンット大したことないわねーっ、もう面倒だからさっさとやられちゃいなさいよ。このザコみたいに!(グシャッ)』

やめて!雪だるまの残骸(ぼくのペルソナ)を踏まないで!悲しくなるわ!

 

 

 

  …ヒドいホー

 

 

 

「?」

『なによ今の?』

 

不意に聞こえた非難の声に、戦闘中だというのに思わず辺りを見回す。

シャドウも俺とおなじく、声の発生源を見つけようと自然をキョロキョロと動かす。

 

 

  いたいホー

  かなしいホー

  反撃するホー?

  倍がえしだホー!

 

 

『「ひぃっ!?」』

 

踏みつけている足の下、雪の塊がどんどん分裂して増殖していく。

しかもそれはすぐにジャックフロストの形を作り、そこからまた分裂・増殖を繰り返す。

 

怖っ!!あまりの異様っぷりにシャドウとシンクロしてしまった。

 

『くっ、この…ウッザったいのよさっきから!!』

 

りせの影がポールを引き抜き、ショットガンのように構えて銃口(?)をフロストたちに向ける。

 

 

  ブフ! ブフ! マハブフ! ブフーラ! ブフ! ブフーラ! ブフダイン! マハブフ! ブフ!

 

 

ドンッ!!

 

パキィィィイインンッッ!!

 

 

砲撃が発射されるのと、フロストたちが魔法の一斉に発動させるのはほぼ同時だった。

炎と氷の弾幕合戦。勝ったのは――

 

『きゃあああーーーーーー!!?』

 

シャドウが氷の猛撃に耐えきれなくなり、背後に弾き飛ばされる。

 

「――――」

 

その後を追い、全速力で近づく。

そして刀を振りかぶり、思い切り横薙ぎ!

 

『くっ!』

 

身体を捻って躱された!意外と技巧派だ!

負けるか!!

 

振り切った刀を素早く切り返し、小さく弧を描いて刃を再びシャドウに向ける。

 

「燕返し!」

ザシュッ!『ああッ!!』

 

胴体部を斬り裂かれ、シャドウが悲鳴を上げる。

 

『ぅ…ぁっ!…なによ…あんたも…さっきまでと全然違う……なんなのよアンタらァァァアアアッッッ!!』

 

絶叫とともにシャドウから光が放たれる。

 

!? なんだ!破壊光線か!?

 

『なっ、解析できない!?』

 

と思ったらシャドウが急に狼狽え始める。

今のってスキャンの合図だったのか。驚かせやがって。

 

でも解析できないってなんでだろう。ハード本体(鳴上)に別データ(俺)が入ってるせいかな?

説明できないし、する義理もないから適当に返しておこう。

 

「テメェの短えものさしで俺が測れるかよ。ばーか、バーカ、」一旦止めて深呼吸。

 

「ぶあぁぁぁぁぁぁぁぁか!あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」

『このっ、こいつムカつく!』

俺もそう思う。

 

「俺が何かなんて俺自身知らねーよ。俺は俺だ」

 

例えば俺が俺以外の俺だったら、ここにいる俺はいったいなんなんだ?

自分で言ってて訳が分からなくなってきた。

 

「"我思う、故に我あり"。自分がなんなのかなんてどーでもいいわ。今人間として生きている。それが全てだ」

 

細けえ事はいいんだよ。

小難しく考えてると頭痛くなってくるから。

 

『そんな単純じゃないでしょ!』

「たーんじゅーんだよー 世の中なんて」

難しく考えるから複雑なんであって、単純に考えた方が色々都合が

 

 

「どうでも、いい?」

 

 

急にきた背後からの声に、悪寒が走った。

 

「自分が、なにものか、どうでも、いい?」

「あなた、なに言って…」

 

シャドウの方を警戒しながら振り返ると、呆然としている久慈川と、虚空を見つめるクマの姿が――

 

「くっ・クマは、クマは本当に、本気で、自分がなんなのか知りたっ、知りたくって、」

「く…クマ?」

 

「クマは、クマはあああああああああああああああああああ――――――――!!!」

 

壊れたラジオみたいなおかしな口調で喋っていたが、いきなりクマの全身からドス黒いもや(・・)のようなものが噴き出す。

 

「きゃあ!?」

「っ、!」

 

咄嗟に走って、クマの側にいた久慈川を引っ張る。

その勢いを利用して即座に離脱。もう少しで巻き添え食らうところだった。

 

『我は、影。真なる、我』

 

ホッとするのもつかの間、辺りを巨大な影が覆う。

先ほどまで愛くるしい(と、思う。多分)ぬいくがいた地点を見れば、なんとも言えない…ジャンクモノ"クマ"みたいなブツが床から生えていた。

 

ひび割れた顔面。その中の空洞から覗かせる怪しげに浮かぶ瞳がゆっくりと動く。

 

『自らの存在を軽視するものよ…』

 

双眸が一点に集中する。

その視線の先にいるのはもちろん、俺だ。

 

 

『滅ぶがいい』

「……ガンくれてんじゃねーよ」

 

 

とりあえず強がってみたけど、ソロでボス級二連戦は結構キツイと思うんだよね。

 




■燕返し
 死が二人を分かつまで。主人公土方の持ち技。
 実は技使用後手首痛めてる。


本編の一区切りとして番外編。P4のりせの影・クマの影戦です。

書いてるうちにどんどん文量が増えてって、分割せざるを得なくなりました。後二話続きます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。