・毎日毎日、全身真っ黒の猫が店の商品を食い散らかしていくんだ。誰かなんとかしてくれ!
参加人数:指定なし
=報酬=
1000円
「猫さん!」
「猫……なのかな…本当に」
興奮気味な玲ちゃんとは裏腹に、とても冷めている自分がいる。
部分部分のパーツを見れば確かに猫なんだけど、合わさったらそうでもないような…
二足歩行してるし明らかに手があるぞこいつ。
『なにをしに来た…』
喋ってるし…
『と言っても、だいたい想像はつく。私を退治しに来たのだろう』
しかも知恵が回る…
「分かってんなら投降してくんない?俺平和主義だからさぁ、無駄に争いたくないんだよね」
『とてもそうは見えぬがな』
失礼な。
『底知れぬ脅威を感じる…私ではかなわぬほどの脅威を。しかし、私は引かぬ!究極にして至高の魚を食すまで、引くわけにはいかぬのだ!!』
「食欲全開か!」
所詮は
クールなペルシャ猫みたいな見た目してるのにとても残念な感じがする。
「そんな理由で市場を荒らすな!」
『誰しも食わねば生きてはいけない』
ちょっと哲学っぽい言いやがった!
「人の街に住んで暮らしてるんなら、人街の法を守れや!」
『できることならそうしたいが、なにぶんこの見た目だ。分かるだろう?どのような扱いをされるか』
……人間ってのは自分と違うやつを迫害したがる生き物だからな。
「たとえどんな理由があっても、罪には罰だ。おとなしくお縄を頂戴してもらおうか」
『断る』
「よろしい、ならば戦争だ」
どうせ
両拳を構え、ファイティングポーズを取る。
『私は私の主張を通す、そのためには戦うことも厭わない!』
台詞が終わると同時に、猫の姿が一陣の黒い風に変わる。
登場した時と同じ猛スピードで突っ込んできた。
ギギャギャンッッ!!
「っ!!」
速いっ―――だけじゃなく重い!
鉄甲の上から、ダンベルで殴られたかのような衝撃がやってきた。
それを一度の接触で何発も入れてきやがった。
前になにか、本で読んだ事がある。
"人と猫が檻の中で敵対した時、人は刀を持ってやっと対等である"
軽やかな身のこなしに反して、プロボクサー並のパンチ力を持つ。こんなヤツ相手じゃ、バズーカ用意しても物足りねえよ。
『ふん!』
攻撃を防がれた反動で別方向に吹っ飛ばされた猫だが、そんなことはどこ吹く風と、音もなく地面に着地する。
そしてすぐさま突進。イノシシかコイツは。
『ふっ!!』
腕を振るってきたところにカウンターを合わせる。
すると拳当たる直前、避けるように曲がった!
虚しく空を切る俺の拳…それに合わせて流れる俺の体。
その身体の、無防備な脇腹を狙う黒い猫。
やべえ、コイツ舐めてた。
所詮は獣とフルスイングしたから、すぐに動けない!
一度も変わらなかった猫の表情が、にやりと歪んだ。ように見えた。
「ダメーーーー!!」
クルルルルッ!!
「『!?』」
突如として響いた、少々と鳥の声。
それと同時に、黒猫が車に撥ねられたように勢いよく吹っ飛んだ。
「ナツルくん、大丈夫!?」
直後に玲ちゃんが声をかけてくる。
ってことは今ぶつかったのはルナか。『撥ねられたように』じゃなくて実際に撥ねたんだな。(もしくは轢いた?)
「お、おう…助かった」
さっきまでのぽややんとしたユルい雰囲気と打って変わり、真剣な眼差しを向けられて、思わず正直な感想を漏らす。
……助かった…んだよな。
『ぐっ…!』
遠くの方で苦しげな呻き声を零しながら、地面に転がっていた黒猫が手をついて起き上がるのが見えた。
うん、助けられたんだ。今確かに、俺は彼女に助けられた。
視線を戻すと、返事を聞いてほっとした表情を見せる少女がいた。
…紅音のときには無かった―――いや、気づかなかっただけかな?
「…玲ちゃん、ルナ。一つ頼みがあるんだけど」
仲間って、いいな。