けんぷファーt!   作:nick

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奇跡は聖夜にやってくる…



第53話 again

「ようこそ、始まりの街・ワイナへ!」

 

等というゲーム定番のやり取りもなく、普通に街に入った。

 

どうやら洞窟を抜けた先はゆきぐに…じゃない、街の裏側だったみたいだ。

 

家らしき建物を挟んだ向こう側から、街の喧騒が聞こえてくる。

ああ…すごい安心するのはなんでだろう。

 

「ここまで長かった…」

「もう終わったみたいなこと言ってんじゃねえよ」

 

思わずつぶやくと、紅音からツッコミが入る。

 

そうだった。ここから始まるんだった。

 

 

「さて、まずはどうするかな」

レンガっぽい素材でできた街並みをなんとなしに眺める。

 

やる事はたくさんあるだろう。

情報集め、武器・防具等を始めとした物資の補給、心身ともに疲れたから宿でもとってゆっくりと休みたくもある。

 

なにより動きまくって腹が減った。飯が食いたい。主に肉が。

 

肉…肉…ニク…ニクニク…

 

 

目を覚ませ(おきろ)バカヤロウ!」

「ありがとうございます!?」

 

紅音にグーで思いっきり殴られた。

 

「…ナツルさん、また虚ろな目をしてましたよ?」

「…そうかい」

 

記憶にはないがな。

 

「とにかく、さっさと移動するぞ。このままここに居続けても埒があかないからな」廃墟にいた時となにも変わらん。

 

「…その前にちょっと、いいですか」

 

袋が深刻な表情で口を開く。

 

「ナツルさんに一つ…いや二つほど訊きたいことがあるんですけど」

「なんだよ。紅音のスリーサイズなら俺も知らないぞ」

「なに言ってんだてめえは!?」

 

また紅音にグーで殴られた。地味に痛い。

 

 

実際に痛みを感じてるわけじゃないんだろうけど、衝撃はくるからそれプラス感覚的に痛いと感じる。誤認識ってやつだな。(違うか?)

 

 

「あの…話進めていいですか?」

「あーはいはい、どうぞ」

「ナツルさんって、スキル覚えてないんですよね?」

 

まあステータス欄には無いね。スキル一覧のところは空白だし。

 

「じゃあさっき使ってたのってなんですか?」

「あれはー…あれだ。退魔光弾だ」

「いやだから、どうやって使ったのかって訊いてるんです」

 

食いつくなぁ…なんかいつもと違ってやる気を感じられるんだけど。

 

「この街から落とされて三日間、外のフィールドにいたってのはもう話したよな」

「はい」

「その間、VRに慣れるためにいろいろしてたんだ。射撃訓練とかな」

 

ちらっと紅音の方を見ると、苦々しそうな表情で舌打ちをしてそっぽを向く。

 

「その内の丸一日、とりあえず延々と瞑想し続けたんだが――」

「静かだと思ったらそんなことしてたのか」

「なんでそんなことを…」

「なんか覚えると思ったんだよ。…で、集中していると体内に普段では感じられないものがあることに気づいてな」

 

それがどういう感じか…口で説明するのは難しいな。

 

なんとなく不快じゃない異物って感じで…説明になってないな。

エドワード兄弟が真理を説明できなかった理由が、今ならよく分かる。気がする。

 

「それをまあ、体外に放出できないかと思ってやってみたら、できた。さっきのはその応用だな」

「できたって…だからこの前ステータス見たときにSPがちょっと減ってたんですね」

「体外に放出っつうけど、初めてはどこから出したんだ?」

 

紅音が割とどうでもいいことを訊いてくる。

しかし他ならぬ相棒の疑問。キチンと答えてやろう。

 

 

「口から」

「汚ねえっ!?」

即答された。

 

仕方ないだろ。一番イメージしやすいのがそこだったんだから。

そのおかげで魔力放出がスムーズになって、二度目は手から出せるようにになったんだぞ。

 

「口からっておまっ、最悪すぎるだろ!どこの世界に口から魔法吐き出す主人公がいんだよ!!」

「銀さんとか」

「ちゃんと爪楊枝から出してただろうが!!」

 

むぅ、言われてみれば確かにそうだったな。

 

「じゃ ナツとか」

「火だよ!あれは炎を吐いてんだ!」

「同じようなもんだろ。だいたい口から魔力放出したって言っても、SFのドラゴンなんてしょっちゅう出してんじゃねーか。それを俺がしたっていうだけで過剰な反応を――」

「うるせえ言い訳すんな!」

 

また殴られた。すこぶる理不尽。

 

「あーもう、次だ次!袋!さっさともう一つの疑問解決させろ!」

「あっ、ハイ。分かりました」

どうでもいいがなんで紅音(こいつ)が怒ってんだろう。

 

「じゃあえっと…ナツルさん、どうして片手剣を使えたんですか?」

「? どうしてって…」

 

言ってる意味が分からない。

腕があるんだから使うことぐらいできるだろ。

 

「…なに言ってんだって顔ですね、じゃあ説明します。アカネさん、この…ボウガンを装備してみてください」

そう言ってどこからか(多分アイテムボックス)武器を出現させる。

 

「ああ?なんであたしが」

「いいからお願いします」

「いいじゃねえか。試しにやってみろよ」

「……ちっ」

 

紅音は渋々とボウガンを受け取り、ステータスを開く。

 

…?さっき俺は開かずとも装備できたんだけどな。

 

 

「(バチッ!)っ、なんだ?」

「どうした?」

「いや、装備しようとしたら弾かれた」

「えー?嫌われたか。『銃なんて使ってる女なんか、お断りよっ!』て感じで」

「なに言ってんだおめえ」

 

冷めた目で見られる。

いつもならぶん殴ってくるのにそんな…雫みたいな氷の眼差しを。くっ、くやしいっ、でもかんじちゃうびくんびくん。

 

 

ナツル(バカ)は無視して、なんで装備できないか説明しろ」

「あ、はい。えっとですね…」

 

ボントに無視しやがった。

くやしいっ、でもかんじ(略)

 

「どうもこの世界、システム制限みたいなものがあるみたいなんですよ。MPが0の時は魔法や魔法スキルが使えないとか」

「俺はSPだぞ」

「装備品にも、男なら男専用女なら女専用という縛りがあります」

 

完っ全に無視しやがった!

 

「よく分かんねえけど…今のはその制限に引っかかったってことか?」

「はい。最初に選択した武器と同種類しか装備できないんです。俺なら短剣ですね」

「なるほどな…ん?でもナツルはさっき片手剣使ってたよな?」

「ええ、だから不思議なんですよ。どうやったんですか?」

 

再び注目される。

どうやったって言われてもなぁ…システム制限に引っかからなかったのは多分…

 

「武器持ってないからじゃないかな」

「え?武器持ってないって…ちゃんと装備してるじゃないですか。鉄甲」

「なんか勘違いしてるみたいだけど、俺が使ってる鉄甲って武器じゃなくて防具だぞ」

「…へ?」

袋が間の抜けた声を出す。

 

 

D字型の鉄甲なら、琉球古武道で使われる武器の一種だが、俺のは腕全体を覆っているから"小手"に近いな。

 

開発スタッフが間違えでもしたのか?

 

「甲冑の一種でもあるから防具なんだろ。だから他の武器が使えるんじゃないか?」

「なっ…!?不人気装備にそんな利点があったなんて!」

 

不人気なんだ鉄甲って。

確かにログインした当初、俺以外に選んでる奴はいなかったな…少なくとも見える範囲には。(こんな目立つもんつけてたら一発で分かる)

 

「ちなみに不人気の理由は?」

「鉄甲で獲得できる職業(ジョブ)称号は、ほぼ確実に『拳闘家』なんです。仮想空間にまで来てまで好き好んで修行僧のまね事とか普通はしませんから。で、この拳闘家ですけど、覚えるスキルは近接戦闘オンリーな上、ステータスがもの凄く上がりづらいんですよ。とくに"魔"なんてレベルを10くらい上げてやっと1増える程度です」

「コアなユーザー向けすぎんだろ」

 

ゲームを何度も周回クリアしたプレイヤーしか選ばねえぞ。結構綱渡りで今のジョブ(モンク)になったんだな俺って…

 

こいつがPKしようと思った理由もその辺にありそうだな。

 

 

「てことは武器使用から派生する職業称号は軒並み手に入れられるってことか…くそっ俺も選べば良かった」

 

そんなに色んな武器使いたかったのか…気持ちは分かるが。

 

「おい、どうでもいいけどあたしはいつまでこれを持ってりゃいいんだ」

「あ、はい。すいません」

 

紅音がボウガンをちらつかせて不機嫌そうに会話に入ってくる。まだ持ってたのか。

 

「訊きたい事ってそれで終わりか?ならさっさと宿にでも行くぞ。もう3日も風呂に入ってないんだからな」

 

そういやそうだな。仮想空間とはいえ散々野宿をしたんだ、俺もいい加減身体を綺麗にしたい。

 

「この世界って風呂やトイレってちゃんとしてんのか?」

「街並みと比べると不自然なほどちゃんとしてますよ。現代の日本と差異はありません」

 

それはそれでどうなんだろう。中世ヨーロッパみたいな家にタイル張りのバスルームとか世界観ぶち壊しな気がするんですけど。

 

「設定としてはその昔、どこからか現れた異邦人が広めたとかなんとか…」

「超曖昧だな」

「ただ俺たちプレイヤーは全員、トイレは必要ないみたいですけど。3日過ごして排泄したことあります?」

 

…ないな、そういえば。

VR(ここ)に来て尿意や便意を覚えた瞬間はなかった。

 

目覚めたらすぐにトイレに駆け込む奴が大勢いそうだ。(俺も含めて)

 

 

「くだらねえこと喋ってねえでさっさといくぞクソバカども。あたしはもう1秒たりとも我慢したくねぇんだからな」

「まてまて、そうは言っても先立つものを持ってないだろ」ゼニ的ブツを

 

「まずは持ち物を売って路銀を手に入れるべきだ。袋、換金施設とかはちゃんとあるよな?」

「ありますよ。ちなみに通貨は円です」

 

もうちょっと捻れや運営。

 

「でも二人とも、今のままだと換金も宿泊もできませんよ」

「ああ?どういう意味だ!」

 

紅音が袋の胸倉を掴んでメンチを切る。

 

落ち着けお前。街に風呂の話出た瞬間俺以上にキャラが変わってんぞ。

 

「いやその、…正規の手段で街に入ったわけじゃないので、言わば俺たちは密入国者みたいなものなんですよ」

 

 

……………………………

 

 

「だから街の入り口で正式に手続きしないと、街の施設は一切使えません。例外は屋台ぐらいですかね」

「…言われてみりゃ当然だわな」

「ちっ、そういうことは先に言えよ」

 

紅音は袋を掴んでいた手を離し、バツが悪そうに顔を明後日の方向に向ける。

 

もうっ、紅音ちゃんったら、そそっかしいんだから!

 

 

グーで殴られた。

 

 

「なんで!?」

「今おかしなこと考えてただろ。だからだ」

否定はしないけど理不尽すぎじゃね?

 

地味にダメージ入るんだよなこいつのツッコミ。

 

「くっ…いつまでもここで駄弁ってたら力尽きそうだ…袋!街の正門はどこだ!」

「あ、はい えっと、そこの路地抜けて、右手にまっすぐ行ったところにあります」

「右か。よし、こんなところにいられるか!俺は逃げるぜ!」

 

 

 

―――出会いはいつだって突然だ。

 

 

 

「あんたさっき街に入ったばっかでしょう…」

「逃げるってどこに逃げるんだよ。地獄か?」

「素でツッコむなよ泣くぞ!」

 

 

 

(ぜん)、ぜーんー!あっち、あそこ!ドーナツ売ってるよ!」

「ああ、そうだな。(れい)、あまり離れるな」

「早く早く!売り切れちゃう!」

 

 

 

―――偶然、必然、運命。決められているのか、決められていないのか、それは誰にも分からない。

 

 

 

「もういい!お前らなど知らん!先に行って手続き済ませてやる!!」

「どうせ俺らもしなきゃいけないんですけどね」

「なに考えて生きてんだあいつ」

「人の全てを否定するような発言止めろ!」

 

 

「玲、そんなによそ見して走ってたら転ぶぞ」

「あははっ、大丈夫大丈夫!」

 

 

 

―――曲がり角の多い世の中。人と人との道なんて簡単に交差するだろう。

 

―――交差はすれどすれ違い、そのまま二度と出会うことがない。ということも中にはある。

―――もしくは出会い頭に衝突し、悪い印象を持つ又は持たれることもある。

 

 

 

「っ、玲!」

「え?」

「ん?」

 

路地から大通りに出た瞬間、クリーム色でふんわりとウェーブがかった長髪の少女とぶつかりそうになった。

 

なぜなったと過去形なのかというと、

 

 

「きゃっ、わ―――」

「めんっそーれっ」ブンっ

「わー―――――――――」

 

 

当たる直前、巴投げの要領で少女を投げ飛ばしたからだ。

 

 

「玲ぃーーーーーーーーー!!!?」

 

少女がやってきたであろう方向から、こげ茶色の髪と肌をした少年が叫ぶ。

 

「ぉおい!?なにしてんだてめーは!!」

 

一部始終を見ていたであろう紅音と袋が慌てた様子で走りよって来る。

 

「ああいかん、ついうっかり投げてしまった」

「つい!?うっかり!?」

「頭湧いてんのかてめえは!なんだめんそーれって!?」

「いやほら、俺沖縄出身なもので」

「貴様よくも玲を!」

 

茶髪の少年がボウガンを突きつけてきた。

 

おいおい、ここ街中だぞ。武器とか使えんの?

…強姦とかできる世界だし、できてもおかしくはないか。

 

 

「…?っ!?お前、……瀬能…か…?」

「あん?そーでがんすが」

 

 

茶髪の少年はなにかに気づいたか、ハッと目を見開いて見つめてくる。

せめてボウガンは外してくれ。クリーンヒット受けたら死ぬかもしれないから。

 

つーかこいつ、よくよく見れば奇抜なファッションしてんな。サムライ制服にガントレットしてる俺が言うのもなんだが。

 

それでもサムライ制服に裾が破けてる黒マントとトゲ付きの首輪はどうかと思う。

つかこいつもプレイヤー?会場にいたかなこんなの…

 

 

「本当に…お前なのか?」

「俺以外の俺は知らんな」少なくとも俺は。

「なぜこんなところに…」

 

なに言ってんだこいつ。

 

どうもさっきからおかしいな。それに俺のことを知っているみたいだし、どっかで会ったか?

 

 

 

……ドッ ドッ ドッ ドッドッドッドッドッドッドッ!

 

 

 

「善ーーーーー!」

クルルルルルルルルッ!

 

 

ちょっとした地鳴りと共に、全身が黄色い羽根で覆われたダチョウのような鳥が駆け寄ってきた。

 

…チョ○ボだ!

いや、違うか。あれにしてはちょっとずんぐりむっくりしている…ピカーシャか!

 

「いるんだな騎獣」

「馬なりなんなり、大概いると思いますけど」

それもそうか。

 

「玲!無事だったか!」

「うんっ、この子が受け止めてくれたの」

 

クルッポー

 

「鳩!?」

 

二人の感動の再会(←別れさせた張本人)に水を差すのもアレかと思い、できるだけ空気になっていたが、鳴き声を聞いて思わずツッコんでしまった。

 

 

「えっ…? !! ナツルくん!?」

 

クリーム色の髪した少女も俺のことを知っていたらしく、馬上(鳥上(ちょうじょう)?)から驚愕の表情を浮かべる。

 

 

 

―――交わるはずがなかった複数の(きずな)が、歯車が噛み合うように交差した。

 

 




2015年冬、奇跡は空を飛んだ。

■銀さん
 銀魂。ジャンプでドット絵見たのあれが初めてかもしれない。

■ナツ
 フェアリーテール。主人公?です。

■チョコ○
 FFシリーズで代表的な騎獣。

■ピカーシャ
 とあるおっさんのVRMMO活動記。姿には2パターンほどありますが、ずんぐりむっくりとしてる方です。

■善と玲
 ペルソナQの登場人物。なぜか二人ともナツルを知っているようだ…


というわけで、主人公一行はようやく街中に入ることができました。

次回はようやくスキル取得…紅音とナツル、ユニークスキルとか正直いらないくらいのチートっぷりだねっ。

最近ちょっと無理して書いてたんで、しばらく間を空けます。じっくりと構想練りたいから。

年内に更新できるかな…

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