けんぷファーt!   作:nick

57 / 103

この作品はフィクションであり実際の企業・団体とは一切関係ありません。



第49話 ホログラム

 

二階・特設ブース。

 

いや、正確にはブースと言っていいものか…

 

なにしろ二階すべてが企業の専用スペースになっているのだ。

ちらほらと聞こえてくる他の奴らの会話から、階段部分からすでに立ち入り禁止になっていたらしい。一階部分しか回ってなかったから気づかなかった。

 

そしてその二階だが…結構、いやかなり?すごいことになってる。

 

 

「…映画の世界に迷い込んだ気分だな」

 

すぐ側に設置してある機械を見て思わずつぶやく。

 

見た目は直立状態のタマゴ。しかしそのサイズは5メートルを優に超えている。

そんなのが辺り一面大量に存在してるんだ。感嘆や恐怖を覚えても無理はないだろう。中からエイリアンとか出てこないよな。

 

 

『ハイ、皆さんちゅうもーく!』

 

 

いきなり大声がブース中に響いた。

 

声の発生元を見てみると、拡声器を持ったおっさんが、傍に秘書らしき女性を従わせて立っていた。

 

『厳選なる抽選の結果、見事最新技術を体験する資格を得た勇者たち!まずは皆さんに拍手を送ろう』

 

そう言うとおっさんは拡声器を持ったまま、器用に拍手をする。

 

おかしいと思うのは俺だけだろうか。

 

「おい、あれ…」

「ああ、間違いない。天才プログラマーの神谷晶彦だ」

 

周りの一般大衆がざわ…ざわ…としだす。

 

「おい紅音、あのおっさん神谷っていうらしいぞ」

「知ってんよ。人口知能開発とか、プログラミングの第一人者だろ」

なんと、そうなのか。

 

そんなお偉いさんがどうしてゲームショウの会場に…という疑問はもちろん持っているが、それよりもこの狂犬が存在を知っていたことが驚きだ。

 

 

『さてそれでは、時間も勿体ないのでサクサク行きましょう。今回体験してもらう新技術…簡単に言うと、VRMMOです』

 

ざわっ…!おっさんの一言で、ざわつきが一層大きくなる。

 

『現在の技術力では不可能と言われている仮想空間へのダイブ…そんなSFのようなひと時を、皆さんにご提供いたしましょう』

 

 

プシュー―――…

 

 

若干の白い蒸気とともに、タマゴ型のカプセルが一斉に開きだす。

 

『皆さんどうぞ、自分の近くにある機器にお入りください。中の座席に座りましたなら、ヘッドギアをつけてリラックスした状態でお待ちください』

 

おっさんの声に促され、皆一斉にカプセルの中に入りだす。

 

目の前には人一人が座れるだけのシートと、その上に置かれているヘッドギア。

なにかが引っかかる気がする…

 

「ナツル、どうかしたのか?」

 

隣のカプセルに入ろうとしてた紅音が、止まったまま動こうとしない俺を(いぶか)しんだのか声をかけてくる。

 

「いや…なんか形状が龍がごとくのIFに似て――」

「向こうで落ち合うぞ」

「お前から訊ねたんだから最後まで聞いてよ」

お兄ちゃん寂しいです。

 

プシュー

 

こちらを振り向きもせずにカプセルを閉じた紅音を見て、少し凹んだ。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

 

……

 

………

 

「…はっ」

 

起きた。

ていうか寝てた?

 

えっと…確か、最新技術のタマゴからプログラミングがダイブ?違うか。

 

「カプセル入ってヘッドギアして目を閉じたまでは覚えてるんだが…」

 

気がついたら辺り一面真っ白い空間に一人で立っていた。

 

しかもいつの間にか服装が変わっている。さっきまできちんとした私服だったのに、今は白いズボンとシャツ、それに青地に白線が入ったコートを着ている。

 

な…何を言っているかわからねーと思うが以下略。

 

さて…とりあえず、どうしようか。

 

 

「真理の扉でも探せばいいのかね」身体のどの部分持ってかれるのか微妙に興味がある。

 

何かリアクションを取れるものはないか――と周囲を見回した瞬間、それ(・・)が目に入った。

 

「なんだこりゃ」

 

それは宙に浮くパソコン…じゃないな。一面白いから分かりづらいが、地面が盛り上がってテーブルみたいになってる。

 

とりあえずパソコン画面に向き直る。

 

 

>名前を入力してください。

 

 

「名前…キャラクターネームか?」

 

とくに深く考えず、『ジョバンニ』と打ち込む。

 

そしてエンターキーを押そうとして――はたと思い直す。

紅音もいるんだし、ヘタに変な名前つけるのはマズイな。

 

打ち込んだ文字をデリートして、改めて『ナツル』とタイピング。これで笑われる心配はないだろう。

 

 

>使用する武器を選択してください。

 

 

ったーん、とエンターキーを弾くとすぐに次の項目が出てきた。

 

「武器とか必要なのかよ…」思わずため息をつく。が…

 

よくよく考えてみれば必要だよな。ゲームだし。

 

どうするかな…普段通りなら臨機応変で素手にするんだが、それは選択できないっぽい。

 

仕方ないから一番似ているようなものを選ぼう。『鉄甲』っと…

 

 

>名前:ナツル

使用武器:鉄甲

 

>以上でよろしいですか?

 

 

Yes…と。

 

 

>変更は出来ません。本当によろしいですね?

 

 

しつこいな。YesだYes。

 

 

>……設定が完了しました。

 

>それでは、行ってらっしゃいませ!

 

 

え、もう?早くね?

もっとこう…外見いじったりとかのキャラメイクはないの?

 

そんな文句を言うよりも早く、パソコン画面から光が溢れ、真っ白な空間をより白く塗りつぶす。

 

反射的に目を閉じ、しばらくそのままでいると突然人々の声のざわめきが聞こえてきた。

 

目を開くと、大勢の人間が困惑してたり興奮した様子で叫んでいたりと、思い思いの行動を取っていた。

 

音の発生の仕方が消してあるテレビをつけたみたいな感じだったぞ。転移でもしたのかな。

 

「まぁいいか。それより紅音探さなきゃ」

 

早く見つけないと銃撃される。どうせあいつの使用武器は拳銃だろ。

 

しかしなぁ…ぱっと見100人くらいいる中で特定の一人を探し出すのは、毬栗(いがぐり)の山の中からウニを見つけるくらい困難な作業と――

 

「あ、いた」案外簡単だったわ。

 

「おーい、紅音ー」

 

見慣れた赤毛の後ろ姿に近づきながら話しかける。

 

向こうも声をかけられたことに気づいたようで、振り返って笑顔を浮かべる…わけもなく、いつも通りの仏頂面(ひょうじょう)で睨みつけてきて、

 

「てめえか、遅えんだよクソが」

「いや、見たとこ来たばっかだよね君も」

 

こいつどころか、ここにいる全員が来たばかりだろう。

 

じゃなきゃ何かしらのアクションを取った奴がいるはずだ。

見たところここは…街の広場か?広さは学校のグラウンドくらいだ。

 

街並みはファンタジーもの特有の中世チックな建物がずらりと並んでいる。

ブレ○4ブストーリーやFFTAを彷彿とさせるな。

 

 

「で、どうするよ。これから」

「なにをだよ」

なにをって…

 

 

………なにをだろう。

 

 

仮想空間にダイブしたのはいいけど、そういえばここからどうすりゃいいんだ?

 

「まずはどうやったらステータス確認できるか調べようぜ」

 

周りの奴らの行動を見ると、メニューは開けるみたいだ。

自分の初期パラメータ覗くのってちょっとドキドキする。低かったらどうしよう!

 

 

「VRのお約束としては、ログアウト不可でデスゲームってのがあるよな」

「マンガやアニメの見すぎだ」

 

意外に簡単に開けたメニュー画面で色々とできることを確認しながら、たわいのない会話を繰り広げる。

ふーん。初期装備は『サムライ制服』か、確かに言われてみれば侍っぽいな。

 

とりあえずフレンドとパーティに紅音を設定…と。こいつも本名にしたのか、つまらん。

 

 

「「…ん?」」

 

 

ある項目を見て、思わず声が出たら紅音とハモった。ちょっと気まずい。

 

「…どうした」

「てめえこそどうしたんだよ」

「いや、アイテム欄によく分からないものがあるからついな」

 

『管理者からの手紙』ってなんだ?

 

「そっちは?」

「…ログアウトの項目がない」

「は?」

仮想空間(ここ)から出るためのボタンがねえ。自力で目覚めるのは無理だ」

 

…………………………………………

 

なぜか避難するような目を向けてくる紅音と、数十秒ほど無言で向き合う。

 

周りも状況がなにかおかしいのを察し始めたのか、次第にざわめきに焦りが帯びてくる。

 

 

OK、まだ決まったわけじゃない。

そうだ、決め付けはよくない。

 

慌てず急がず、冷静を装いながらアイテム欄の『管理者からの手紙』をタップする。

 

 

ったーん。

 

ヴォン。

 

 

足下に大きな穴が開いた。

 

「え?」

 

マンガのように数秒間その場に留まりはした(!?)が、すぐに重力に従って落下する。

 

「っナツル――てあたしもか!?」

「紅音!」

 

咄嗟に手を伸ばしてきた彼女の足下にも穴が開き、俺と同様に落ちていく。

 

穴に入りきる直前、他にも何人かが俺たちと同じように落ちていくのが目に入った。

自分だけじゃないことにちょっと安心感を覚えた俺はクズかな?

 

 

開きっぱなしのウインドウから管理者からの手紙の内容が目に入ってきた。

 

 

 

『100人の勇者たちよ、察しのいい者はもう分かっているとは思うが、君たちのステータスメニューにログアウト。つまり現実に帰還するための項目は設定されていない』

 

『この空間から脱出する方法はただ一つ!"最果ての地"へ行きこのゲームをクリアすることだ』

 

『外部からの助けは期待しない方がいい。ここでは時間が加速しており、この世界での1日は現実での1秒だからだ』

 

『人間には限界を超える力がある!私はそう思い、信じて今回のイベントを敢行した。どうか引きこもることをせず、危険に立ち向かっていってほしい!この難関を乗り越えてほしい!!』

 

『選び抜かれた勇者たちよ!諸君らの健闘を祈る』

 

 

 

「好き勝手言いやがって…!」

人の可能性云々抜かすんなら、まず自分が限界超えてみろや。

 

「…上等だ」

 

絶対に脱出してあのクソプログラマーの顔面、性格と同じくらいいかれた造形に変えてやんよ。

 

 

 

 

 

…しかしこの作品、性転換変身もののはずなのにこんなこと(デスゲーム)やっちゃっていいのかね。

 

 

 





一度やってみたかった。後悔も反省もしていない。
原作の流れ無視ってレベルじゃないなー。今更か!

■龍がごとくのIF
 ブレインバトルができるあれ。何気に超技術だけど連続使用すると精神に異常きたしそうだよね。

■お兄ちゃん寂しいです。
 洞窟物語の坂本カズマのセリフ。分かりづらいけどね。

■サムライ制服
 真女神転生ⅳの初期装備。あれを基本に今回の話を考えました。

トロフィー獲得!
(銅):オシャレ伝道師




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。