けんぷファーt!   作:nick

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ズルしてもマジメにも 生きていける気がしたよ

ささやかな幸せを 潰れるほど抱きしめて




第46話 チェリー

「そういえばナツルたんたち、ここでなにしてんの?」

 

思い出したかのように副委員長が質問してくる。

 

「生徒会長は家がこの近くだから分かるけど…もしかしてナツルたんも近所に住んでるの?どこどこ?黄色いハンカチ見える?」

 

うちに出所帰りの夫を待つ母親はいねえよ。

 

「ていうかこの辺だけ道路や壁が酷いことになってるけど…まさか」

「ていっ★(どすっ)」

「あひゅん」

 

なにかしら面倒な事実を口にする直前、素早く彼女の背後に移動して、首裏に当て身を食らわせ気絶させる。罪悪感は微塵も感じなかった。

 

さらに直前の記憶を消すツボ"忘穴(ぼうけつ)"を突いておく。後々追求されると面倒だから。

 

効果の程は昔、町の不良に試したから(多分)大丈夫だ。

加減せずにやったせいか直前どころか半年分の記憶が消えたらしいけど。

 

「お姉ちゃん!?」

 

崩れ落ちた副委員長を見てシルバーフラワーが叫ぶ。

 

自分の性格が賭け事に利用されてるというのに心配するなんて、なかなか家族思いな奴だ。姉は金の亡者なのに。

 

その顔を見ると、仕方なかったとはいえいきなり暴力を振るったことに良心が痛む。

そう思い、地面に倒れ伏している副委員長の腕を掴んで引き起こし、

 

「コイツの命が惜しかったら質問に正直に答えろ」

 

これ見よがしに喉に手を添える。

 

やったことはないけど、俺の握力なら人の肉体をアイワナの主人公みたくすることも可能だ。

 

「おっ、お姉ちゃん!!?」

「おぉーっと、ついでに動くなってのも付け加えておこうか」

 

思わず近寄って来ようとした少女に、分かりやすく指先に力を込めて見せる。

それだけでぴたりと動きを止めた。

 

「くっ…卑怯者!」

「綺麗事だけじゃ世の中ってのは回んねぇんだよ…あと口の利き方には気ぃつけな」

 

今度は副委員長の頬をゆっくりと優しく撫でる。

シルバーフラワーの顔が苦渋に満ちた表情になった。

 

お前が下、俺が上なんだよ。

 

「瀬能君、流石に外道すぎるわよ…」

「俺のコンセプトは爽やかなゲスだから問題はない」

 

 

 

※ そんなコンセプトはない。by nick

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

いかにも高級!って感じの家々が立ち並ぶ住宅街を会長の後について歩く。

なんで俺こんな場違いなとこにいるんだろう、と思わなくもない。

 

ああ、シルバーフラワーについては姉諸共解放して帰らせた。とくにめぼしい情報もってなかったし。

 

とりあえず奴から引き出したものについてまとめると…

 

 

①ケンプファーになったのは(=臓物アニマルぬいぐるみを手に入れたのは)大体一年ほど前。入手方法はある日ポストに入ってたのを見つけたんだそうだ。

 

②腕輪の色はその持っていた臓物アニマル(メッセンジャー)が、完全に機能を停止した時に黒くなったらしい。それまでは赤だったとか。

検証はちょっとできないけど、俺もハラキリが喋ったり動いたりしなくなったら黒くなるのかね。

 

③使用できる武器は、分類としては(シュヴェアト)らしい。銃とか使ってたけど…

よく分からんけどモビルスーツ的なものなのかな?

 

④どうでもいいけど変身すると左右の瞳の色が変わるらしい。

もともとの色は姉と同じ金色。眼帯で隠れて見えないけど、その下にある右眼は銀色をしている(実際に見せてもらった)。

 

 

ケンプファーになってからずっと、他のケンプファーに会ったことがなかったので、今まで戦ったことはなかったそうだ。

 

それでも機能停止する前のメッセンジャーに『自分と違う色のケンプファーを倒すのが使命』というのを聞いていたので、俺の腕輪を見て襲撃したそうだ。

 

…そういえば全っ然意識してなかったな。今日なんて半袖だし、ケンプファー関係者に宣伝しながら歩いてるようなもんだ。

いい加減隠した方がいいかな…でもなんか負けたような気がしてヤなんだよな。

 

そういうわけで、あのクソロリと中尾の仲間ではないと分かった時点で興味を失い、連絡先だけ訊いて帰らせた。

 

別れ際に見た副委員長を"モノ"クマが肩に担いで去っていく光景はなんかこう…なんとも言えない気分にさせられたな。

 

 

閑話休題

 

 

「ずいぶん歩いたけどまだつかないのか?」

「もうすぐそこよ。疲れた?」

 

馬鹿言ってんじゃないだニよ…

 

「なわけねーだろ。ただこんだけ歩くと、学校も遠いだろーなって思っただけだ」

 

駅を挟んで向こう側にあるから…歩きで40分ぐらい?

 

「大丈夫よ。毎日6時に家を出てるから」

 

信じられねえことをしれっと言いやがった。ホントに同い年か?

 

「なんでそこまでして通ってんだよ。もっと近いとことか、全寮制のとことかあっただろ?」

 

 

これは前からわりと気になっていた疑問だ。

 

どれくらい優秀かは知らんが、噂では中一の時すでに東大を首席で卒業できるぐらいの成績を取っていたらしいから、スカウトの一つ二つなあってもおかしくないだろうに。

 

ちなみに俺は中一の時から国体に出れるくらいの運動神経を持っていたが、有名校からのオファーは一つもなかった。やっぱ性格かな。

 

 

「あなたは?どうして星鐵に入学したの?」

「質問で返すなよ…そうだな。沙倉に誘われたからってのもあるが、ある人に興味を引かれたからかな」

 

喋りながら当時を軽く振り返る。だいたいあれから一年か…

 

「中三で学校見学に行った時に偶然会ったんだがな、なかなか面白い人だった」

「ふうん…そういえば楓が昔、同じ学校の男子と見学に来たって言ってたわね」

「多分それが俺」

 

いやー。蝶々追っかけてたらはぐれて迷子になっちゃって。お恥ずかしい。

 

「少しだけ話をして別れたんだが、なんかもう一度会ってみたくなってな。それで受験したんだ」

「そう…それで?その人には再開したの?」

「それが見つからなくてな。顔は覚えてるんだが名前を訊きそびれたから調べようがないんだ」

 

男子と女子で校舎が別れてることも入学してから知ったから、余計に調べられなかった。

 

当時は休み時間になるたびに図書室に行ったりしたなぁ…そういえばその過程で東田と知り合いになったんだっけ。どうでもいいが。

 

「それに思い返してみればあの人、三年の校章つけてたんだよな。当時の俺は中三。もうとっくに卒業してんだろ」

これで留年してたら再会したときすごい気まずい。

 

 

「まーあれだ。あの人は思い出の中で永遠に生きているって感じで」死んでないだろうけど

 

「そう…ああ、喋ってる間に着いたみたいね。ここが私の家よ」

 

なんだもうか。結構歩いてたけど。

結局入学を決めた理由を訊きそびれたな。

 

彼女の目の前には、他の家より大きく、立派な豪邸が建っていた。

 

「…ここ?」

「ええ」

「……いいとこ住んでんだなあ…」

「そうかしら」

 

いや、絶対そうだろ。親父が見たら乾いた笑いしながら凹むぞ絶対。

 

 

「あがってちょうだい。送ってくれたお礼にお茶でもごちそうするわ」

「え?いやでも…」

「遠慮しなくても大丈夫よ。親ならいないから」

「一人暮らしか?」こんなデカい家に?

一人暮らしっていうか独り暮らしだな。

 

「父は外に愛人を作っていて、今はその人の家で暮らしているわね。母は仕事が好きで、職場近くで寝泊まりしているそうよ」

 

軽い気持ちで訊いたのにわりとヘビーな理由ーーーーーーーー!!

 

「………」

「どうしたの?」

「ぅゔ……どう接したらいいか分かんないよ……!」

「笑えばいいんじゃない?」

「アッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!」

 

「っておかしいだろうがよぉ流石に!!」

 

なんで知り合いの重い話で大爆笑せにゃならんのだ!

 

「あなたがおかしいのは今に始まったことじゃないでしょう」

「さらっと人を貶めること言うのヤメろ!」軽く傷つくわ!

「さっさと入るわよ。路上で騒ぐと近所迷惑になるから」

 

雫は返答も聞かずに鉄門を開け、中へ入っていった。

 

 

確信した。

 

知ってたけど再確認した。俺は、ヤツが、嫌いだ。

 

 

 

   ☆   ★   ☆

 

 

 

「おや雫、外出してたのか」

 

家の中に入るなり、生真面目そうな初老のオッサンに出くわした。

誰だこの人。いや普通に考えて答えは決まってるんだけど

 

「お父さん。…お久しぶりですね」

 

やっぱり父親か。

ん?久しぶり?

 

「家に帰ってくるなんて、珍しいですね」

「昔の資料が必要になったからな。…ところでそっちの男は……?」

 

おーぅ。飛び火したよ。できればスルーしてほしかったのに

 

「えー、初めまして。自分、下僕の瀬能です」

「そうか」

 

なんの感慨もない、そっけない言葉が帰ってきた。

微塵も興味なさそうだ。

 

おかしくねー?実の娘が男連れて帰ってきたあげく、下僕って名乗ったんだぜ?もっとこう…いろいろあんだろ普通。

 

 

「それじゃあ、私はもう行く。なにか用事があったら携帯にメールしなさい。緊急でなければ電話はするな」

「分かってます」

 

俺どころか、娘の顔もろくに見ずに雫父はさっさと外に出ていった。

 

典型的な家庭を顧みない親の姿だ。俺が妻だったら愛想をつかすぞ。

 

「…見苦しいものを見せてしまったわね」

 

おっさんが出ていってからもしばらく、玄関のドアを見つめていたら、突然雫が口を開いた。

 

振り返ると彼女は…無表情なんだけど、悲しいような寂しいような、泣きたいのに泣けないみたいな憂いを帯びた顔をしていた。

 

「帰ってきてるとは思わなくて…ごめんなさい。今日は、もう帰っていいわよ」

「ああ?なに言ってんだあんた」

 

 

 

「自分から招いたくせに、客人に茶の一杯もださずに追い返すのか?常識で物言えよ」

 

 

 

彼女は少しの間目を見開いてポカンとしていたが、すぐに元の表情に戻った…いや、若干だが微笑みを浮かべている。雰囲気もどこか嬉しそうだ。

 

「…お茶菓子はケーキぐらいしか出せないわよ」

「わたしは一向に構わんっ」

 

俺の返事を聞いてから家の奥へ歩いていく。目的地はキッチンだろう。

 

 

あいつなら、どうしても一人になりたかったなら後日改めて詫びをするとか普通に言っただろう。

例えどんなに嫌っていようとも、これぐらいのお節介は大丈夫だろう。借りもあるし。

 

 

 

   ☆   ★   ☆

 

 

 

モクモクモクモク…

 

雫が出したケーキを、口に運んで順調にやっつけていく。ちなみにイチゴのショートケーキだ。

 

ただし二段重ねのホールサイズ。

 

おかしくねー?さっき父親がいたとは言っても基本一人暮らしだろ?そんな家になんで二段ケーキがあんのさ。

 

しかもそれを切り分けもせずに客に出すとか。なにこれ、嫌がらせ?もはや軽いイジメだよね?

 

ていうかこれどうやって客間に運んだんだ?通されたときすでに置いてあったけど直径がだいたい1メートルぐらいあるんですけどこれ。

 

「お待たせ。お茶よ」

 

お盆を持って雫が客間に入って来た。

 

前準備がまったくない状態だったから、湯を沸かすところから始めなきゃいけない。

 

そんな感じのことを言われたから先にケーキを食ってたんだが、流石に飽きてきた。お茶で口の中をさっぱりさせよう。

 

「はいどうぞ」

 

そう俺の前のテーブルに差し出されたのは、グラグラと煮えたぎる紅茶だった。

 

…おかしくねー?

 

夏が近いシーズンに、なんでホットティー?ケーキの相方には丁度いいかもだけど、せめて冷ませよ。

俺は猫舌なんだぞ。時間をおかなきゃ飲めねぇじゃねえか。

 

呆然と紅茶を眺めている俺に構わず、雫は自分の分の茶をテーブルに置いて席につく。ちなみに氷を浮かべた麦茶だった。

 

その氷寄越せや。

 

つーかなんで当然のように隣に座ってんの?こういうのって対面座位が普通じゃないの?

 

ダメだ。なにからつっこめばいいか分からなくなってきた。

 

「なにも言わないのね」

「なんで二段ケーキなんて…」

「無作為抽出とかで送られてきたのよ」

 

どこのどいつだ。ケーキなんて長期保存にそぐわないもん送りつけたヤツ。

 

「そうじゃなくて、さっきの父のことよ」

「訊いてほしいのか?」

「……………」(たず)ね返した途端に、玄関でした深刻そうな顔で俯いく。

 

訊いてほしくねーなら言うなよメンドクセェな。

食う手を休めて頬杖をつく。

 

「生きてりゃ誰だって人に言いたくないことの一つや二つ必ずあるだろ。俺にだってあるぜ?知られたくないことや秘密にしてること」

 

もっとも一つ二つと言わず十や二十単位であるが。

 

「あんたにとっての一つに、今日たまたま出くわしただけだ。そんな日もある」

「……」

「あいにく俺は訊いてほしくないことを無理に訊き出すほど無粋じゃないんでね、喋りたくなったら勝手に話しゃいいさ。場合によっちゃあ真面目に聞いてやるよ。でもな―――」

 

 

「どんな秘密があってもあんたはあんた。三郷雫だ。態度は変えんぞ」

 

 

そこまで一気に喋って再びケーキに手を伸ばす。つい熱がこもっちまったな。

 

しかし一息入れたせいかすぐに気持ち悪くなってきた。

 

「っあ"ーもうダメだ、食えねえや。ギブアップ」

言いながらフォークをテーブルに転がす。胸やけが酷い。

 

「…もう食べれないって、半分以上無くなってるじゃない。普通一人でそこまで食べられないわよ」

「ちょっと限界超えてみた」

「しかも外側を削るみたいに…クリームがなくなって、ショートケーキなのにスポンジケーキみたいになってるじゃない」

 

普通に食ってたら重みで倒れるかと思って。

 

「私だけじゃ食べきれないから、少しでも消費してくれたらと思って出したんだけど、予想以上に無くなったわね」

「やめろよそういう人を試すような行いするの。あと邪魔だからどいてくんない?」

 

雫は今、俺にもたれかかるように密着している。

 

正直ちょっと暑い。

 

「…邪魔は流石に酷いんじゃないかしら。ここで頭を撫でるなりすれば好感度が上がると思うのだけど」

「あなたに対する私の好感度はすでに最大です」

 

数字で表すとだいたい46%ぐらいかな。

 

「瀬能君の空気の読めなさは異常ね」

「それ昼も聞いた」常に異なってるならそれが普通だろ。

「…せめてもう少しだけ、こうさせてて」

 

そう言うと雫は俺に身体を預けたまま目を閉じた。

 

 

……

 

雫と長い時間を過ごした…

 

 

 

 

 

 

 

オチに困ったからってペルソナ風に逃げるのヤメろ。

 

 

 

 

 




トロフィー獲得!
(銅):ゲスの極み乙女(♂)
(銅):フードファイター
(銅):真の絆

■アイワナ
 I Wanna Be the Guy。主人公が必ず飛び散り肉片になる死にゲー。

■ぅゔ……どう接したらいいか分かんないよ……!
 ソウルイーターよりクロナの台詞。
誰でも最初は分からないものだよ…

■わたしは一向に構わんっ
 バキシリーズより烈海王の台詞。
死んじゃったけどクローンで復活とかあるのかな。

■あなたに対する私の好感度はすでに最大です
 これはゾンビですかよりセラフィムの台詞。
あの作品は中々面白かった。まだ最終巻まで読んでないけど(オイ)


雫編ようやく終了。これだけで一年かかるってすげーな。

いろいろ追加したけど(一花のせいで)、もともと今回の46話、プロトタイプ時代の『戦士』でやろうと考えてたお話です。
『t!』でやった方が話の流れ的にしっくりくるような気がしたので、今回日の目をみることになりました。

そのせいで出番を食われる幼なじみ…水琴ファンからクレームが来そうだ。

今後の予定では ①ギャグオンリー→②コメディチック→③→シリアス で短編風に書き上げ、そこからストーリーを進めようかと思います。

当然遅いけどネ

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