けんぷファーt!   作:nick

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六章 ブルーバード
第37話 ツキアカリの道しるべ


「つまり何?瀬能ナツルは男も女も同一人物で、たまに入れ代わっては戦ったり男子部や女子部で授業受けたりしてるわけ?」

「おう」

「んでもってやっぱりケンプファーで、臓物アニマルの言うことに従ってると」

「まあ、そんなとこだ」

「……どんな趣味してんのあんた」

 

趣味じゃねーし。

 

 

気絶した水琴と名も知らぬ少女(水琴曰くマコト)を担いで自宅に帰ると、計ったかのように二人が起きたため、リビングでそのまま質問&説明をすることになった。

 

ぶっちゃけ凄いメンドくさかった。

 

こういうの向いてそうな紅音は自分ちに連絡してる最中だし…今晩はうちに泊まるの?夜も遅いからべつにいいけど。

 

 

「前から変わってるとは思ってたけど、まさかここまでなんてね。あんた頭おかしいんじゃないの?男のくせに女になってレズを目指すなんて変態もいいとこじゃない」

「表出ろや。今日がキサマの命日にしてやる」

 

こうまで言われて引き下がれるか。それにコイツにだけは変とか言われたくねえ。

てかなんでこんなに言われにゃならんのだ。

 

「もう最低。むしろ最低悪」

「殺人技食らわしてやるから立て」

 

ソファーに寝転ぶに近い体勢で腰掛けてる幼なじみの腕を掴む。

今なら筋肉王家三大必殺技が使えそうだ。つーかなんでそんな寛いでんのお前?

 

そのまま引き上げようと軽く力を込めると、露骨に嫌な顔をして

 

「ちょっと触んないでよ、痛いじゃない。変態のくせに」

「俺は変態と言う名の紳士だ、問題ない」

「はぁ?ばっかじゃないの?紳士の意味を辞書で調べ直しなさいよ」

 

 

決めた、マッスルインフェルノ食らわしてやる。ダミーマットみたいにバラバラにしてやんよ。

 

 

「な…ナツルさん?一体なにを……」

 

紅蓮の殺気を出して戦闘準備をしていたら紅音が帰ってきた。

 

チッ!メンドくせえのが戻ってきやがった…もういっそ無視して沈めるか?

 

 

「……紅音ちゃんもケンプファーなんだよね?」

「えっ、ええ…」

 

水琴はぐりんッと首を回し、紅音を見つめる。

 

今のはちょっと怖かった…紅音が怯えてるのは急に矛先を向けられたからか無機質な瞳で見つめられてるからか

 

「なんで黙ってたの」

「ええっと……」

 

質問というより糾弾に近い。天真爛漫と言ってもいい水琴が、今はナタを武器にするヤンデレに見える。

 

そのあまりの豹変ぶりに、紅音は完全に飲まれたようで、早々に助けを求めてくる。

具体的にはチラ見。

 

「なんで?」

「その…」

 

普通に考えて言えんだろ、こんなこと。

 

その後も水琴は「なんで」やら「どうして?」しか言わずにじり寄るを繰り返し、紅音を圧迫し続けた。

 

もうやめたげて、彼女のライフはゼロよ。

 

もう泣きそう…ていうか半分、いや五分の四ほど泣いてる。過呼吸起こすぞ。

 

 

まあ…ほっとくけどね。面倒だし。

 

 

「それよりも他に問題が……」

「ん〜?どうしたのナッチ、頭かかえて。生理?」

 

誰がブルーデイやねん。つかナッチ呼ぶな。

 

「…おい、なんか部屋の内装が色々おかしいぞ」

「寂しいから飾り付けしてあげたの」

 

 

うちの家のリビングが魔空空間と化してる。

 

すぐにでも幻魔が出現しそうで頗る不安。

 

 

「今すぐもとに戻せ」

「えー、なんで〜?」

 

本気か?…ダメだ、マジで分からないって目してやがる。

 

「もしかしてナッチ地味なのが好き派?だめだよそんなの、感性死滅してるよ」

「お前にだけは言われたくねえ」

 

あと紅音とますみと沙倉。

…意外と多かった。

 

「せっかく頑張って飾り付けしたのに……」

「もっと別なとこで使えよ。って言ってる側から改装してるんじゃない」

「ちっ、気づいたか」

 

 

舌打ち!?なんで!?

 

 

「油断も隙もない…てか戦ってるときとキャラが違うぞ」

「あれは変身してたから…ケンプファーになったらなんか、テンション上がっちゃって」

 

紅音みたい…とはいかないまでも、変身すると性格変わるタイプなのか。

 

「とても水琴に似てたけど」

「それは…ほら、あれよ、アレ」

 

あ、もういいです。なんとなく察しました。

 

とても言いづらそうに、それでいて深く語りたそうに頬を赤らめて視線を彷徨わす彼女。

その瞳の先には水琴、となれば答えは一つだろう。

 

……こいつも沙倉や葛原と同類かぁ…なんか多いな最近。流行ってるのか?

 

こいつ…ああそうだ。

 

「そういやお前、名前なんてんだ?」

 

水琴がマコト(ややこしいな)て呼んでたのは覚えているが、紳士なナツルさんとしては相手の名前を本人から直接聞いてから名前を呼びたい。

覚えるかどうかはべつとして。

 

「わたし?わたしはねー、パム・ウェルヌ・朝倉〜」

「アヤカシを召喚できるようになってから名乗れや」

それともあの刀 夜叉丸?

 

「俺が訊いてるのは本名だ、本名。自称じゃない」

「自称ってのは真偽はともかく名前・職業・肩書などを自分で称することでー、本名を名乗ってもそれは自称と―――」

「屁理屈ぬかすなはよ喋れ」

「もー、ナッチったらせっかちなんだから。ナッチのせっかち、セナカッチ!」

 

やばい、殴りそう。

 

「わたしの名前はー…菊池マコトですっ。まっこまっこりーん!」

 

 

ごっっ

 

 

「いったぁ!?」

 

横ピース&ウインクをした自称菊池マコトが突然額を押さえて叫んだ。

 

あ?なに、どうしたの?

 

 

「ひどいよナッチ!なにするの!?いきなり頭突きとか!」

 

ぷるぷると涙目になりながらマコトが抗議してくる。

 

なるほど、あまりのウザさに無意識で無拍子ヘッドバットをかましたのか。

 

ナイス、俺。

 

「サイテーだよ!鬼畜すぎるよ!女の子殴ったのになんでそんな新しいパンツはいたばかりの元旦の朝みたいな爽やかな笑顔してるの!?」

「サイコーにハイッ!って気分だからさぁ〜!」

「この外道非国民!!」

 

罪の意識がないのは当たり前。だって記憶にないんだもん。

 

「…なんかあの二人似てますね…」

「だよね、紅音ちゃんもそう思うよね」

 

少し離れたところから少女二人の、どこか疲れたような声が耳に入る。

 

「あの子、美空・ラーク・マコトっていうんだけど、どうもその名前気にいってないみたいなのよ。だからいつもああしてはぐらかしたり違う名前言って周りを混乱させるの」

 

なんてはた迷惑な…

 

「ちょっと水琴!言わないでよその名前!わたしが嫌ってるの知ってるんでしょ?」

「あんたに自己紹介任せるといつまで経っても進まないでしょ」

「確かに」

 

もう11時だよ。

幸い明日は休日だけど、ぶっちゃけそろそろ寝たい。これ以上起きてたら腹が減りそうだ。

 

「(めんどくさいが)一応訊いといてやろう。なぜ偽った」

「それは…太陽が、蒼かったからーーー……!」

「俺を見て適当なことほざくのやめろ」

あと夕陽をバックに走り出すのもな。

 

無駄に器用だ。どうやってんの?

 

 

「お前さー…もうホントいい加減にしてくんない?疲れてんだよこっちは。ここ最近色々あったから」水琴とか紅音とか雫とか沙倉とか。

 

「本当は全部無視して唯我独尊したいけど、話の流れ故仕方なく相手してやってんだから少しは協力しろよ。嫌なら帰れ」マジで

 

「むー、セナッチなんかなまいきー。変態のくせに」

「ブチコロスぞクソアマ」

 

誰が変態だ。

あとその呼び方ヤメロ。

 

「つーかなぜに変態?風呂場の一件のせいか?」

 

女が勢いよく男湯に突撃したらそう言われても仕方ないかもだが、振り返ってみるとコイツ初めっから男の俺を変態と思っていたみたいだ。

 

 

「え、だってセナっち発情して猛ってる犬の群れに叫びながら飛び込む性癖もってるんでしょ?」

 

ぶっ

 

誰ともなしに吹き出した。

 

 

「………ちなみにそれ言ったのって」

「水琴」

「ッッサマァァァアアアッッ!!」

 

リビングの窓から逃げようとしていた水琴を即座に掴む。

 

「ッ、痛い痛い!ナツル痛い離して!!」

「だが断る!!」

 

ちなみに俺の握力は四桁だ。

 

体力測定で機器ぶっ壊してから記入欄に"測定不可"kgって書かれるようになった。(測定不能じゃないんだ…)

 

「ナンでそんなこと言ったァァァ…てかありもしないエピソードでっち上げて人を貶めんなや」

「でっち上げじゃないわよ、小学三年生の時実際にあった話しだし」

「はあ?………ああ、あれか。ってあれお前のせいじゃねーか!!」

 

昔、理由は忘れたが水琴が野犬の群れに襲われるという出来事があった。

 

そのとき住んでた所は沖縄だったんだが、なんであんな数(20匹くらいだったかな?)の野良がいたんだろう。当時は考えなかったが、謎だ。

 

とにかく、現場にいた俺は必死になって水琴を守った。

殴る蹴る噛みつくなど動物愛護団体に知られたら確実に訴えられそうな手段を用いて護りぬいた。

 

俺を無視して水琴を狙い、連携も駆使して攻撃してきたときも間に割り込んでわざと噛まれたり―――今振り返ってみると随分無茶なことしてたな俺。向こうが狂犬病にかかってたらどうしてたんだ?

 

「確かにあのときかかって来いやとか言った気はするが…」

「でしょう?」

「でしょうじゃねーよ!!面白おかしく笑い話に語るんならともかく、恩人を貶めるようなエピソードに仕立てんなや!」

「あたしなりに面白くしてみたの!」

「ブッ殺すぞ!!」逆ギレすんな!

 

最悪だコイツ、助けなきゃよかった…助けなきゃよかった庇わなきゃよかった!

こっちはあの日からなんとなく犬が嫌いになったっていうのに!(気のせいかあいつらも近づくと威嚇してくるし)

 

やっぱり幼なじみってのぁろくなもんじゃねぇ。なんで世間に人気があるのか全くわからん。

 

 

「そういえばナツルさん、鳩サブレちゃんはどこにいるんですか?」

「やつはピジョンに進化して旅立っていった」

 

 




「ほーら鳩サブレー、ご飯だぞー(ザラザラ)」
『ポー(主よ、折り入って頼みがあります)』
「どうした、いつもなら真っ先に食いつくのに…病気か?」
『ポー(主に拾われてはや行く年…我は思ったのです。このままでいいのか、と)』
「なんだよジッと外見て」
『………(そこそこ成長したとはいえ、所詮はしがない鳩…できることなどたかがしれているでしょう)』
「…もしかして外に出たいのか?」
『クルックー(しかし!我は主の役に立ちたい!そのために今一度、野に出て己を鍛えたいのです!!)』
「まさか野良に帰りたいのか!?」
『クルッポー(不義理だというのは百も承知、しかし我は…この先ずっと愛玩動物としての地位に甘んじるのは我慢ならぬのです!お願いします!)』
「ええい!(適当に河原で捕まえてきたとはいえ)拾ってやった恩義も忘れてからに!上等だ、出てけ!!(ガチャッ)」
『…!(主!)』バサバサバサッ
「帰れ帰れ!二度と戻ってくんな!!………元気でね…」
『ポー!(いつか…いつの日か……あなたにふさわしい鳥になって帰って来ます。だから…)』

『(その日まで、どうかお元気で…)』

ハラキリ「…(なんなんでしょう、この茶番)」


〜土鳩拳風録〜 第一話・旅立ち

次回、第二話・白いカラスとの別れ



ウソです。




ネタバラシ

筋肉王家三大必殺技
 言わずと知れた筋肉マン。うちのセノー君は空中移動を抜かせばインフェルノとリベンジャーが出来ます。
そろそろこれ関連のネタは鉄板になりつつあるなぁ

魔空空間
 鬼武者。最深部まで行くとものすんごいお宝が手にはいるゲームにありきたりなダンジョン。

パム・ウェルヌ・朝倉
 AYAKASHIのヒロイン。こちら昔深夜アニメにもなったゲームです。アヤカシ、夜叉丸も同作品に登場。
ちなみに作者は原作派。

菊池マコト
 アイドルマスター。プチます始まりましたね。ほぼ毎日見てます。

ピジョン→ポケモン

(なんとなく)二話に分けました。思ったよりマコちゃんとナツルと水琴の絡みに力が入っちゃって…

ちなみにラーク( lark )は日本語で雲雀という意味です。つまりマコトのフルネームは美空ひば…これ以上は野暮ですね

調べてみて他にもふざけるとかあった時は運命を感じた。


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