けんぷファーt!   作:nick

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第3話 GIRL OF ARMS

「あたしはな、ナツル」

 

紅音は銃を突き付けながら再び口を開く。

 

俺はどうしようもないのでホールドアップをして大人しく続きを待つ。

撃たねーだろうなこいつ

 

 

「この世で我慢ならないことが二つある」

「何でしょうか」

「一つはトーストがバターを塗ったほうを下にして落ちること。もう一つは見ようと思ってたアニメが特番で潰れること。最後にちゃん付けで呼ばれることだ」

「トーストは大概落ちるとき半回転するからバター塗ったほうが下になるのはしょうがないんじゃ…それに三つ……」

「ああぁん?!」

「いえ、なんでもないです」

 

ダメだ。下手に反論したら殺される

 

二つ目は俺も許せんけど

 

 

「いいかナツル。 仲間(フレンド)は親しみをこめて、呼び捨てにするもんだ」

 

拳銃片手に脅すやつをはたして仲間と呼べるのだろうか。後ろから銃を突きつける友情なんてすごい嫌だ

つーかフレンドなら普通愛称じゃねー?

 

 

「返事は!」

「イエス、マム!!」

グリリッ!とえぐるように銃口を押し付けてくるので慌てて返事をする。変身前とエライ違いだ…

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

「そういえばなんで変身したんだ?」

「あ?」

 

後頭部に押し付けられた凶器を退かし、紅音と向き直る。そこでふと気になったので聞いてみた。

 

 

いくらなんでもテレ隠しで変身したってのはないだろう。出会って数時間だがそこまで非常識とは………多分、ちょっと思えない(自信なさげ)

 

……なんかすごい嫌な予感がする…。こういうときの俺のカンは当たるんだ

 

 

 

ゴウッ!

 

不意に、突風が吹いた。

 

ジャキィィンッッ!!

 

同時に目の前を猛スピードでなにかが横切り、今までかけていた机を真っ二つに切りさいた。

 

 

「なっ!?」

驚く暇もなくもう一撃。今度はすぐそばの本棚を貫く。

 

その際チラッと机や本棚を切り裂いたモノが見えた。

鎖の付いた短剣みたいなもの。日常ではまずありえない存在の物体。

 

明らかにケンプファー絡みのだ。武器ってこんなのもあるの?

 

 

「チィッ!このやろう!!」

 

すかさず紅音が鎖めがけて発砲。しかし着弾する前に引き戻され、鎖付きの短剣はどこかへ消えた。

 

 

『なっ、なんだいきなり?!』

『やだ今のってもしかして銃声?』

 

少なからずいた他の奴らが、にわかに騒ぎ立つ。

 

そして皆本能的にヤバイと感じたのか、一斉に逃げていく。どさくさに紛れて俺も続きゃよかった

 

しかもまた女になってるし

 

「!! ナツル!」

「あ?」

 

ゴウッ!

 

出口へと殺到する奴らに目を向けていたら、またもや猛スピードで短剣が飛んでくる。

しかも今度はさっきと違い、確実に対象を狙って放たれてる。

 

ちなみにターゲットは俺。

わずかな隙を見逃してくれるほど戦場は甘かねーぜ……

 

 

ズパンッッッ!!

 

 

「ナツル!!?」

 

すぐそばで紅音の余裕のない叫び声がした。

なんだかんだで心配はしてくれてるみたいだ。しかし…

 

 

「俺を舐めるな…大魔王!」

 

真剣、白・羽・取り!

 

直前まで迫った短剣の刃を両手で挟みこむようにして止めた。

 

「…すげーな、お前」

「はっ、これぐらいラクショー」

 

 

あっぶねー!!超ギリギリだよ!軽く走馬灯見えたんじゃね!?つーか見たよ覚えてないけど!!

 

余裕しゃくしゃくを装ってはいるものの、内心冷や汗だらだらものだった。

 

身体が反応したからよかったけど…しなかったらとてもスプラッタな事態に発展してたぞ。あやうく第三話目にして連載が終わるところだった

 

 

「よしナツルそのまま抑えてーーってうおっ!?」

「どうした?って危なっ!?」

 

紅音が鎖に銃口を向けて引き金を引こうとした瞬間に、またしても短剣が勢いよく突っ込んできた。

 

咄嗟の出来事に思わず両手を離して避ける。二本あるなんて聞いてねーぞ

 

「クソ、ふざけやがって…おいナツル!もっかい抑えろ!」

「無茶言うな」

 

片方掴んだら速攻でもう片方に串刺しにされるわ。ナツルBBQ(バーベキュー)なんて冗談じゃねえ

 

「俺の手は二本しかねえんだぞ」

「チッ、使えねぇ…」

 

そういうお前はなんかやったのかよ。ただ乱射して本棚傷つけただけだろ

 

 

ゴウッ!!

 

会話の最中にもかかわらず、再三(再四?)目のアタック。流石に慣れたよ

 

 

しかし今度の標的は…軌道からして紅音か!どっちを狙った方がリスクが少ないか分かったみたいだな

しかもなんかまずいことに本人気づいてないっぽい!?

 

「紅音危ねえ!」咄嗟に両腕を突き出し飛びかかる。

 

俺は紅音を押し倒す形になり、地面に倒れたらその頭上を猛スピードで短剣が通過していった。

 

ふう、危機は去ったか

 

 

「……てめえ、どさくさに紛れていい度胸してんな」

「え?」

 

今気がついたが、俺の手は紅音の胸を触っていた。

 

思わず―――っていうかほぼ無意識に―――変身前とはあきらかに違う(目測)そのふくよかな塊を揉む。

 

ああ、やーらかい……

 

「ブチコロス」正面から額に銃突きつけられた。美嶋さん怖い

 

「本当にごめんなさい」上から退いてから本気で謝る。なぜなら相手の目が血を求めていたからだ。美嶋さん、マジ怖いっす

「だめだ、罰として囮になれ」

 

ぅえー?囮ぃー?

 

「てめーが敵の注意を引いて、相手が攻撃してきたとこをあたしが(ゲヴェアー)で蜂の巣にする」

 

完璧だと言わんばかりに口元を吊り上げる。

 

 

それ下手したら俺、切られた上に撃ち殺されるだけじゃねーか?

 

 

「ふざけんな、第一俺は自分の武器も知らねーんだぞ。どうやって身を守るんだ」

「根性でなんとかしろ」

 

無茶言うな

 

「もうちょいまともな案だせよ。俺が納得できるだけの」

「使えねえくせに文句ばかりたらしやがって…ゆとり世代が」

あ、ちょっとカチンときちゃったな今の

 

「スミマセンねぇ、使えなくて。本棚に風穴空けるプロフェッショナルさんの足を引っ張ってほんと申し訳ない」

「てめぇ…喧嘩売ってんのか?てめーから先に蜂の巣にしてやろうか」

「おー上等だ、やってみろよ。ただしその頃にはアンタは八つ裂きになってるだろうけどな」

 

お互いに睨み合って拳と銃を構える。

もはや戦闘中とかそういう些細なことは関係ねえ。俺の敵はただ一人だ

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

動こうとしたらタイミングよく昼休み終了のチャイムがなる。

 

 

「やべえ。遅刻する」

 

紅音がそんなことを言った。

その顔にさっきまでの険悪な感じはどこにもない。単純そうだからもう忘れたんだろ

 

 

「……そういえば敵は?」

「あぁ?」

 

(さっきからずっとだけど)敵の追撃がない。短剣どころか風を切る音さえ聞こえないのだ。

 

「トイレ休憩か?」

「馬鹿かおめえ」

 

馬鹿に馬鹿と言われた。ふざけないと真面目に頭が回んないんだよ。

 

「チャイムが鳴ったのと関係あるのかな」

「チャイム…、もしかして星鐵の生徒か!?」

 

「かもな」多分外れてないだろう。

 

「……あたしは女子部に帰る」

図書館(ここ)はどーすんだ?」

「知るか、ほっとけ」

 

いいのかそれで。キミ仮にも図書委員でしょ?

 

「おめえが何とかできんのか?」

 

そう言われたらなにも言い返せない。

 

ナツルさんか弱い一般市民ですから

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

図書館を放置してその場から立ち去ったはいいが、別の問題が一つ発生した。

 

いや、発覚したって言った方が正しいだろう。男に戻れないのだ。

 

ケンプファーになりたてのころは変身はランダムで、戻るのもランダムとか紅音が言ってたけど…、もう少し早く戻ってもいいじゃん

 

その紅音は俺を見捨ててさっさと自分の教室へ行っちまうし。変身したままだったけどいいのか?

 

 

とにかく。この格好で男子部に行く訳にもいかないので、仕方なく、そうホント仕方なく女子部で時間を潰すことにした。

 

流石に初めのうちは誰かに見られるのはまずいんじゃないかな?と思い物陰でボーッとしていたが、数分で飽きて女子部を探索することにした。

 

そして現在に至る。

 

 

 

これが女の花園…。やべえ、ドキドキしてきた。

 

俺は廊下を堂々と、しかしスネークになった気持ちで歩いた。

 

すると前から女子生徒が歩いてきた。一年生のようだ。

気持ちがスネークさんだったので思わず攻撃しそうになったが、ギリギリで踏み止まった。

 

危ねえ危ねえ。騒ぎを起こす訳にはいかんからな

 

俺はごく普通に女子生徒を通り過ぎる。

 

 

「あの!!」

 

いきなり後ろから大声をかけられた。心臓が止まるかと思ったぞ

 

「先輩格好いいですねっ!わたしまだ一年生なんですけど星鐵のことよく知らなくて生徒会室ってどこにあるのかよく分からないんですよだから詳しい先輩に教えて欲しいなってできれば案内してくれませんか?!あと先輩のクラスと身長と体重と3サイズと―――」

 

ここまでノンストップだ、なんて滑舌のよさだ。肺活量もいい。

 

「名前を教えてください!」

 

聞く順番おかしくないか?っていうかその質問は困る。

 

どうしたもんかな……、知らんぷりして逃げるか?追いかけてきそうだな…

 

 

「ナツルさん?」

 

名前を呼ばれたので振り返ると紅音がぽかんとした顔で立っていた。

もしかしてもう授業終わってたのか?マシンガンのようなトークのせいでチャイムが聞こえなかった。

 

「あーっ、紅音じゃん!なーに?紅音って先輩の知り合いだったの?」

「えっ?ますみちゃ,えっ?」

 

色々と情報がありすぎて困惑しているようだ。

 

「(知り合い?)」

「(はい…小さいときからの……。一歳下なんですけど、友達です)」

 

幼馴染みたいなもんか…ウチのはいまどこにいるかな。この前マプトにいるっつってたけど。どこだよそれ

 

調べたらマプトって南部アフリカのモザンビークって国の首都らしい。何してんのそんなとこで?

 

 

「ふ~ん。ナツルさんって言うんだ…」

 

紅音が言った俺の名を聞いてたのか。

そんなに大きな声じゃなかったはずなのに、目ざとい奴…

 

「ナツルさ~ん。放課後どこか遊びに行きましょうよ~」猫なで声をだすなすり寄ってくるな胸を触ろうとするな気持ち悪い!

 

 

「えっ?放課後はあたしと服を買いに…」

 

こ…この馬鹿……!俺がそう思ったときにはすでに遅かった。

 

ますみは肉食獣のような笑みをうかべて

 

「わたしも行きますっ!!」駄目だと言ってもついてくる目をしていた。

 

 

今日は厄日だ……

 


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