けんぷファーt!   作:nick

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いたずらなKissして 何食わぬ顔する。

驚くほど 欲張り 笑えるくらいに


第28話 イタズラなKISS

(どーしたもんかな)

 

床に刺さった短剣を鎖を引っ張り回収する雫を眺めながら、胸中で独り()つ。

 

熱気立つ会場とは裏腹に、俺の心は冷める一方だ。多分向こう(雫)も同じ心境なんだろうな

 

こいつら一体なにを期待してるんだろうか。キャットファイト?

相手が刃物持ってるからバーリトゥードになるぞ

 

 

「……………」

 

 

くだらないことを考えてる最中にも、雫から「どうするのよ?」的な眼差しが飛んでくる。

 

いや、飛んでくるなんて生易しいもんじゃない。それこそ彼女の武器・(シュヴェアト)のようにガッツリと刺さってくる。身体に穴が空きそうだ

 

 

「ステージの上で睨み合う二人…ま・さ・に・クライマックス!片や全校生徒だけではなく先生方にまで頼りにされている万能無敵の生徒会長、そしてもう一人はつい数ヶ月前突如現れ瞬く間に人気をさらって行った謎の美少女!!星鐵学院ミス美少女コンテストの最後にふさわしい組み合わせにわたくし、司会者として一番近くで見れて、幸せです!!」

 

 

ますみの熱弁により場内のボルテージは分かりやすく上がっていく。

その様子は超有名アイドルのコンサートか、世界戦さながら。後で聞いた話じゃ失神者が出たとかなんとか

 

 

ともかく、一刻も早く手を打たないと取り返しがつかなくなる。すでにつかなくなってる気がしなくもないが

 

……ええい、ままよっ

 

 

「ああっ…」俺はわざとらしく額に手をやり、ふらっと床に崩れた。

 

「おおっと?ナツルさん、どうしかしたんですかー?」

 

すぐにますみがマイク越しに話しかけてくる。

 

仮にも司会をやってる奴が出場者を親しげに呼んでいいのだろうか

 

 

まあいいや

 

片手は床に手をつき、もう片方の手を額から両目を覆い隠すようにして移動させ、なるべく消え去りそうなか細い声で答える。

 

 

「…実はわたし、3分しか全力を出せないんです……っ」

 

 

 

ナニトラマンだよ

 

自分で言っといてそう思った。他にうまい理由(言い訳)は思いつかなかったのか

 

 

「えー?とてもそうは思えない動きでしたけど」

案の定ツッコミが来たし

 

「先ほどちょうど限界がきたようで…もう意識を保っているのが精一杯です……」

「ほんとうですか〜?なんか嘘っぽいですよ?」

「…ああっ、眩暈が……」

 

 

ますみが猜疑心120%な目で見つめてくる。

が、気づかない振りをする。

 

 

ガンバレ俺ガンバレよ俺。もっと熱くなれよ、ガッツ見せろ

もっとハイクオリティな演技力出せよ。奮わせろよハートのビートを

 

 

「………………」

 

しかしますみは疑り深い眼差しを一向に緩める様子はない。

 

観客たちも「まだ始めないのー?」やら「いいよそんな茶番劇は」などと好き勝手ざわつき出す。

 

 

 

お前ら炎上させてやろうか。物理的に

 

 

 

「瀬能さん!」

 

 

もういっそ魔法(ツァウバー)を使ってボヤ騒ぎでも起こそうかと考えていると、大きくはないがよく通った声が発せられた。

 

それに次いで小走りに近づいてくる人影がひとつ…雫だ。

 

一瞬、考えてることがバレた!?と思い会長エスパー疑惑を持ったのは内緒だ

 

 

「瀬能さん、大丈夫?そんな体質なのにあんな無茶をして…」

 

 

いかにも心配してる風な言い方と声だが、眼がいつもと全く変わりない。逆にすげーよあんた

 

てか続けんの?この寸劇。自分から始めといてなんだけど

こんな台本無しのアドリブオールなもんでどうやって切り抜け

 

「大変…!すぐに保健室へ!(瀬能君、ちょっとゴメンね?)」

「へ?」

 

なにを、と尋ねるひまもなく、俺の身体は宙に浮いた。

 

いや、実際に浮いたわけじゃない。(当たり前だ) 雫に抱え上げられたのだ。

 

この体勢は…お姫様抱っこ?

 

「ちょっ…!」

「(騒がないの)」

会場のあちこちから「オー!」という感嘆のため息が漏れる中、雫は俺を抱えたまま走る。

 

向こうも道を譲ってくれているとはいえ、観客が密集してる所を移動できるのは普通に凄い。

身長のわりには軽いって言われたことあるけど、そこそこ体重あるのにどんな膂力してんだこいつ

 

 

「(会長、恥ずいよ!)」

「(男の子でしょ、我慢なさい)」

 

 

抗議するもさらりと流される。

男だから余計に恥ずかしいンだよ

 

下手に抵抗したら事故と称して垂直落下させられそうだったので、されるがままに運ばれていったが、この日は間違いなく人生でワースト3に入るほど最悪の日だった

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

数分後。

ミスコン会場からそこそこ離れていて、人の出入りの少ない…なんかの準備室?までやって来た。

 

ここまでの道のり、ずっとお姫様抱っこの状態で運ばれて、しかもそれを大勢の人間に目撃された。解放されたのはついさっき。

 

もうやだ…しにたい

 

 

「いつまでも引きずるのは男らしくないわよ」

「誰のせいだと思ってんだ…!」

 

絶対にいつか復讐してやる。なんか酷い仕返し実行してやる…!

 

「それより瀬能君、あなたいつまで変身しているつもり?」

 

 

下駄箱にところてんをみっしり詰め込まれたら流石の(コイツ)も嫌な気分になるかな。等と考えていたら、本人が訳のわからないことを口にした。

 

当然なにを言っているんだキミは?

 

 

「代えの服がないんだからこのままでいるしかねーだろ。馬鹿かあんたは」

「…人に馬鹿にされたのは初めてね」

 

なんか腹立つわその言い方

 

「今から少し真面目な話をするから、ちょっとの間戻りなさい」

「意味わかんねーし…別にこのままでもいいだろ。てかなんで俺が会長と話し合わなきゃいけねえんだよ」

「私に借りがあるでしょ?」

 

 

絶対に逆らえないカードをこともなげに切ってきやがった。

しかも普段は見せないような微笑付きで。

 

さらに、俺がぐうの音も出せずにいると愉快そうに目を細めてくる。

 

(はらわた)が煮えくり返りすぎて爆発しそうだ。

 

 

……ミニスカメイド服姿で男に戻された別次元の俺よりはマシだと思おう

 

そう自分を誤魔化し、断腸の思いで変身を解いた。

 

 

 

「…まさかホントにやるとは思わなかったわ」

「ぶち殺すぞてめえ」

「意外と違和感ないわね」

「傷ついた!あんたは何気なく言ったつもりだろうけどその一言で俺は今晩枕を濡らすほどに傷ついた!」

 

 

運動神経のわりに華奢な身体付きしてるよね。

昔、幼なじみにそう言われた。

 

お前女装似合いそうな顔してるよな。

中学の時、仲がよかった友にそう言われた。

 

 

「もうホント…あんたホントなにがしたいわけ!?俺をどうしたいの!?」

「冗談よ」

 

嘘だ絶対嘘だ

よしんばジョークだったとしてもタチが悪すぎる

 

「そろそろふざけるのは止めて本題に入りましょう。あまり時間も取ってられないし」

 

あんたが始めたんだろ―――そう反論してやろうかとも思ったが、これ以上蒸し返すと本当に話が進まないので止めておく。

俺って大人

 

「多分、そう遠くないうちに出てくるわよ」

「なにがだよ…マックロクロスケか」

「新たなケンプファーよ」

「ふーん」

「ふーんって…興味ないの?」

 

気のない返事をすると、微かにだが彼女は眉をひそめた。

 

「なんで俺が関心を持つと思ったのか逆に聞きたいんだが」

「普通は持つでしょう…敵対するかもしれないのよ?」

「だから?」

 

次に出てくるケンプファーが赤青どっちかは知らんが、襲ってくるなら迎え撃つだけ。火の粉を浴びる趣味はない

 

今まで散々そうしてきた。この見た目と性格だからか、どこからか来て因縁吹っかける奴はごまんといる。

 

 

「大地の件があるから簡単に焚きつけられると思ってんなら無駄だよ。そのことはすでに俺の中では片が付いてるから」

雫の表情は変わらない。

 

「残念だったな当てが外れて。最終的にはモデレーターと()るための頭数にするつもりだったんだろ?俺を」

「……………」

「喧嘩ばっかしてる単純バカなら、操られてることも気づかずに駒にできるとでも思ったか?舐めてんじゃねーぞバーカ。モデレーターとやってること変わんねーんだよ」

「……そんなことっ」

「ないって言えんのか?どこまでも上から目線な三郷雫さんよ」

「…っ…」

 

なにかしら思い当たる節があったのか悔しそうに顔をしかめる。

 

いつも無表情な面しか見たことないからなんか新鮮ー。こいつもこんな顔すんだな

 

「俺他人(ひと)にいいように使われるの好きじゃないんですよ。アホみたいにプライド高いから」

「……みたいね」

「だから協力してやるよ」

「…………………え?」

 

今、この瞬間ほど手元にカメラがないことを悔やんだことはない。

 

星鐵二大美女であり万能無敵な生徒会長。男女共に強い憧れを持つ彼女が、俺の一言でぽかんとした表情をしたんだからな!

 

こっちもビックリして固まったぞ。ホント今日はいろんな驚きがてんこ盛りだ

 

すぐに我に返って携帯を探しポケットを漁る。が、あいにく持ち歩いてはいなかった。

そういや衣装替えの時一緒に置いてきてたんだった。

 

千枚通しは持ってるのに携帯電話を携帯してないってどういうことだよ

 

まあ、たとえ持ってたとしてもバッテリーが常に危篤状態なアレじゃ役に立たんだろうけどな(なんであんなの使ってんだろう…)

 

 

「…意味が分からないわ。あなたたった今人に使われるのは嫌だって言ったじゃない」

「好きじゃないって言ったんだよ。協力だともな」

 

 

ヤドカリの中には自分の貝殻にイソギンチャクを取り付けて外敵に備える奴がいるらしい。

一方のイソギンチャクもただ利用されるだけじゃなく、いろんな場所で生活できたり餌のおこぼれをもらうことがあるとか

 

 

「あんたは戦力を、俺は頭脳をそれぞれ必要としている。そしておそらく目的はほぼ同じ」

「…お互い利害は一致していると?」

正解(エサクタ)っ」←雫を指差す。

「忌塚君の件は折り合いがついてるんじゃないの?」

「それはそれ、これはこれ」

 

箱状のものを自分の前から横にずらし、そしてまた自分の前に戻すジェスチャーをする。

少し古かったかな

 

「そこらの不良連中から俺がなんて呼ばれてるか知ってるか?『トラバサミロールキャベツ』だとよ」

 

俺もこの前偶然知ったんだけどね

煮ても焼いても食えなさそうな素敵なあだ名じゃないの

 

「売られた喧嘩は全力で買う、ってのが我が家の伝統でね」

「物騒な伝統ね」

「否定はしない」

 

それでも武闘派な祖父、元レディースな母が守ってきたモットーを俺の代で捨てるのもどうかと思うんだよ

じいさんと血縁関係があるのは親父なのになんでおふくろが継いでるのかよくわからんけど

 

「モデレーターだかなんだか知らんが、誰に喧嘩売ったか思い知ってもらわんとな」

「……まあ、手を貸してくれるなら理由はなんだっていいわ」

 

はぁ…とため息をつきながら言った。

 

理由…協力する理由ならもう一つある

 

 

「女の子が強敵に挑もうとしてるのに『怖い』で逃げちゃあ男が廃る」

 

 

「………その姿で格好つけても滑稽なだけよ」

「なんで俺いきなりダメだし食らってんの!?」

なんかした覚えないんですけど

 

「…もしかして無自覚?……筋金入りね…」

 

ホントになんで?なんでこうまでいいように言われてんの?

ちょっとぼーっと考えてただけなのに

 

 

「そろそろ戻るわ。会場の後始末をしなきゃいけないし」

 

呆れたようにつぶやくのを止め、唐突に話しかけてきた。

どうやらコント混じりの真面目な話は終わったようだ。

 

 

会場…そういやミスコンは誰が優勝ってことになったんだろうか。最悪俺じゃなきゃいいって気になってきた

 

てかすっかり忘れてたけど紅音や沙倉はどうしたんだ?とくに紅音は気絶したら変身が解けるから放置しとくのはまずいと思うんだけど

 

 

「心配しなくても、ちゃんと手配はしておいたわ」

不意に声をかけられた。

 

「…俺が考えてること分かったのか?」

「顔に書いてあるわよ」

 

 

ウソマジで?俺ってそんな分かりやすい?

 

ていうか手配してたっていつ?ステージからここまでほとんどずっと一緒にいたけどそんなそぶりはしてなかったぞ?

 

 

…これが我が校の生徒会長か……!

 

 

心の中で冷や汗を拭う。早めに敵認定外してもらえると嬉しいなぁ

 

 

そんな俺の心情を露知らず、雫は優雅に髪をかき上げて出口へと歩いていく。

が、急に立ち止まり

 

「瀬能君。あらためて、よろしくね?」

そう言いつつ右手を差し出してくる。

 

どうやら握手を求めているようだ。

 

少し前まで敵対してた相手。…普通なら罠だと拒否するが、流石に同盟を組んだ瞬間に裏切りを考えるほどバカじゃねーだろ。メリットも(多分)ないし

 

「ああ…ま、よろしく」

 

雫に倣って、ゆっくりと右手を差し出す。

 

お互いの掌が触れた瞬間―――ぐいっと引っ張られた。

 

「、っ!」

まるで警戒していなかったので、勢いよく前につんのめる。

 

そのまま倒れそうになり、慌てて下半身に力を込める。

 

努力の甲斐もあり転倒はまぬがれたが、上に点がないひらがなの「う」みたいな姿勢になった。そこ、笑うんじゃねえよ

 

 

「テメエ…いきなりなにを」

 

突然の奇行に文句を言おうと口を開くが、不意に頭を両手で掴まれる。

 

 

今度はなにをされるのかと考えるヒマもなく

 

 

 

次の瞬間、雫の唇と自分の口が接触した。

 

 

 

 

「……………え?」

 

 

 

 

咄嗟に声が出る。

 

しかしその声は音として発せられることはなく、雫の口内へと消えた。

 

 

 

数分ほど―――実際には一分にも満たない時間だっただろうが―――して、両手はそのままに雫が離れる。

 

しかし俺は身体を動かすことができなかった。

 

 

「対等な関係であるためにはきちんと返してもらわなきゃね?」

 

一瞬、なんのことだかサッパリだった。

もしかして貸しのことか?

 

 

「そうそう。このことは美嶋さんには言わないほうがいいわよ」

 

少しでも表情を変えてくれればまだ救いがあったのに、雫の顔はいつもと変わった様子はない。

パニックになりすぎて普段と違うところがあるか見る余裕がなかった。ってのもあるが

 

「言えるか……んなもん………!」

かろうじて一言返すのが精一杯だった。

 

「そ、ならいいわ」

 

逆にあちらさんは余裕シャクシャクな様子で、両手を離すと「それじゃ瀬能君、ご機嫌よう」と気遣いまでして去っていった。

 

 

「………………」

 

それからおよそ十数分、床に座り込んだまま呆然と雫が出ていったドアを見つめる。

 

ただ、人通りがないとはいえそろそろ移動しないとな。とか

俺のファーストキスの相手は年上か。とか

着替えどうしよう。とか

 

いろいろなことが頭の中でぐるぐる回っている

 

 

「…見事にしてやられた…」

 

ぜってーいつかギャフンと言わせてやる

 




「エサクタ!(正解)」
 BLEACH。破面編で出てきたフィンドール・キャリアスの口癖。

久々投稿。28話です。
やっと原作で言う3巻目が終わりました。いやー長いね。
最後までやっていけるのかちょっと不安です。

でも「俺たちの戦いはこれからだー」みたいな終わり方だけはしたくないので、がんばります。(原作も終わってるし)

以下、思いつきです。


・瀬能ナツル
 原作より魔改造された主人公。見た目は草食系だけど中身は…という、いわゆるひとつのロールキャベツ男子。ただし爪楊枝の代わりにドスで固定されている。
 文化祭一日目の夜は男のまま性別を偽って女子部に編入し、より一層神経をすり減らしながら2-4のオモチャにされる。という内容の夢をみて枕を濡らした(嫌な汗で)

・美嶋紅音
 ヒロインその一。最近ナツルのこと男でも女でもどっちでもいいかも?とちょっと危ない恋愛感情を持ち始めた正統派図書委員。
 気絶から覚めた後は自分(変身後)のしたことを思い出し、一目散に自宅に帰ってヒッキー種布団かぶりになった。

・三郷雫
 ヒロインその二。誰もが認める万能無敵の生徒会長。原作よりちょっとアレな感じなのは朱に交われば赤くなるとかなんとか
 数日後、女子部にある彼女指定の下駄箱からパックもずく(未開封)がダース単位で発見された。

・沙倉楓
 (多分)ヒロインその三。主人公が恋慕していないためか結構な割合で放置される人材。目が覚めた後は女ナツルを探し回ってた。
 ちなみに楓の花言葉には「確保」「遠慮」「自制」などがあります。正直ビミョー

・近堂水琴
 ヒロインその四。アグレッシブ幼なじみ。だけどいざって時は引っ込み思案。だって女の子だもん。
 ナツルがハイスペックすぎて気絶しなかったため、ラストの出番を失った哀れな少女。なんかゴメンね
 ミスコン終了後はしばらくナツル(男)を探していたが、見つからなかったため早々に見切りをつけて普通に模擬店をはしごした。

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