けんぷファーt!   作:nick

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俺…この戦い終わったら投稿するんだ……

人は言う。それは現実逃避だと

……死ぬほど忙しいはずなのにこんなことしてていいのかなぁ


四章 祭囃しが聞こえる
第20話 祭りの準備


「…………」

 

図書館棟の屋上。俺は今、そこに設置されている貯水タンクの上に、火の付いたタバコを咥えながら寝っ転がっている。

 

 

大地が消えてから何日か経った。

 

しかし、誰もそれを不思議に思わない。

皆『初めからそんな奴いなかった』という認識だ。

 

 

バスケ部はエースが突然消えた訳だから急激に弱くなるかと思ったが、"見覚えのない"指導ノートが出てきて、しかもそれが的確で理にかなっているのでそれに従い練習していってるからあまり弱体化はしていない。

 

精神的支柱なポジションも今は他の奴がやっている。

本当はもっと相応しい奴がいたのに

 

 

「…………」ゆらゆらと揺れる煙をぼーっと眺める。

 

すーっ…と息を吸い込むと、それに合わせてタバコの白い部分が灰に浸食されていき、口の中にニコチンが行き渡る。久々だからか、ちょっと不快感がした。

 

すぐさまふーっと息を吐き出すと、大量の煙が口から出ていき、空に溶けていく。

 

 

「……あまり感心できる行いじゃないわね」

下から突然声がした。

 

目だけでそっちを見ると、タンクの下からこっちを見つめる人影が一つ。

学園の生徒会長・三郷雫だ。

 

「未成年の喫煙は禁止されてるのよ?」

「…喫煙自体は中三のころからだ。ここ最近は色々忙しくて吸うことはなかったけどな」

 

タバコを口から離し、握りしめて火を消す。

流石に人がいるところで吸うのは気が引ける

 

「筋金入りね…、矯正は難しそう」

「それ言うためだけに来たのかあんた。暇だねぇ…授業に出ろよ」

「今は昼休みよ」

 

なんだもうそんな時間か。今日はほぼ朝からいたから、気がつかなかった。

 

身体を起こし、貯水タンクから飛び降りる。

 

「で?結局なにしに来たんだ」

「二年四組の文化祭実行委員に、放課後集まりがあることを伝えに来たのよ。あなたでしょ?」

「ふーん、ご苦労さん」

 

そういやそろそろ文化祭の時期だったな。今年は少々早くやるとかなんとか。

そもそもこの行事、昔は男子部女子部それぞれ別々にやっていたが、何年か前から同時にやることになった。むしろなんでわざわざ日にちをずらしてたんだ?

 

当日は男子部の生徒も女子部の生徒もそれぞれの校舎を行き来できるから、学校中大はしゃぎ(男子部のみを見た感想)だ。

 

噂では一部の生徒が文化祭が待ちきれなくて女子部に押しいる事件が後を絶たないとか…

それゆえ生徒会をはじめとした委員会連中は仕事が多く、もうなんともご愁傷さまとしか言いようが

 

 

「って今なんか聞き捨てならん単語が出なかったか」俺がなんだって?

 

「だから、文化祭実行委員はあなたでしょう。そう報告されてるわよ」

「はぁ!?聞いてねーぞんなこと!」

「そこまでは知らないわよ。大方いなかったから押し付けられたんじゃない?」

 

超ありえる。ここ最近は授業に出ても寝てばっかりだからな。

 

「女子部の二年四組も瀬能ナツルってなってたわよ」

「マジかよめんどくせぇ…サボろっかな」

「あなた…仮にも生徒会長の目の前でよくそんなこと言えるわね」

 

 

つーかクラス委員はどうしたんだ?こういう面倒なことはいつもあれの仕事だろう

……そういやここ最近見た記憶ねえな。死んだか?

 

 

「集会には必ず出なさい。いろいろと連絡することがあるんだから、ただでさえ忙しい生徒会の仕事を増やさないでちょうだい」

「へーへー分かりましたよ」

 

釘を刺されてしまった。黙っておくべきだったか。

 

どうせ四組(うち)(男)は去年と同じで適当に休憩所とか楽な出し物やるんだろうけど、こういう学校をあげての一大イベント委員やったことないからな…

仕方ない、女子部側のは紅音に代わってもらおう。そうでもしなきゃ身がもたん

 

 

 

「瀬能君」

 

校舎内に入ろうと、雫の横を通り過ぎたらその瞬間声をかけられた。

 

「あなた、大丈夫なの?」

「あ?なにが」

「…………」

 

一瞬口を開いてなにか言いかけたが、すぐに閉じてしまった。

雫の顔はいつもの無表情だが、なにか躊躇しているみたいだ。珍しいな

 

 

「…なんでもないわ。忘れてちょうだい」

 

雫はしばらく黙っていたが、結局最後には長い黒髪を流し優雅に去っていった。

 

 

………なんだったんだいったい

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

放課後。

 

俺は会議に出るため図書館へと向かった。

本当は超サボりたかったけど後が怖…メンドそうだから出席だけはしとく。

 

大会議室に入ると、すでに紅音が席に座っていた。

よかった。昼にすぐメールを送ったんだけど、きちんと読んでくれたみたいだな

 

近づくと向こうも気付いたらしく、軽く頭を下げた。適当に会釈を返し、隣に座る。

 

異性交際を禁止する学校だが女子の隣に座るくらいはいいだろ。席順もとくに決まってないみたいだし

 

「悪いな紅音ちゃん」他に来てる奴もいないので普通に声をかける。「急に代役なんか頼んで」

「ふぇ…?あ、いえ、特に用事もなかったし大丈夫ですよ」

「そうか?ならよかった」

「…えと、それよりナツルさん」「ん?なに」

 

「連絡方法に伝書鳩を使うのはやめてください。…教室に入ってきてちょっとした騒ぎになりました…」

 

紅音が疲れきった顔で苦笑いを浮かべる目の前には、忙しなく頭を動かす一羽のハト。

目が合うとクルッポーと一声鳴いた。

 

 

「帰ってこないと思ったら紅音ちゃんのとこにいたのか、鳩サブレ」

「そんな名前だったんですか!?」

 

驚く彼女をよそに、とてとてと長机上を歩いて移動し、俺の目の前でこてんと横になる。

 

「なんだ、撫でてほしいのか?」ハハッ、かわいい奴め

 

遠慮せず腹部をモフモフと触る。

うーん見事な鳩胸だ

 

「…ナツルさんは動物に好かれるタイプなんですか?」

「んー?あーそうかも」

 

大概の動物は触らせてくれるしな…

 

いつだったかサーカス見に行った時、檻から脱走したライオンも目が合った途端に腹を見せてじゃれてきたからなぁ。

後から聞いた団員の話じゃ、かなり気むずかしい性格してる上に興奮状態だったらしいけど…沈静フェロモンでも出してんのかな俺

 

「あの…それってナツルさんに怯えて服従のポーズを取っただけなんじゃ…」

「いやいやいやいや、いくら飼われてるとはいえ百獣の王が威嚇する間もなく降伏するなんて」

「でも…その鳩さんも震えてますよ?」

 

鳩ってもともと震えてる生き物じゃなかったっけ

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

「今年の文化祭のテーマは『伝統』です。ですから、昔に廃止された行事を復活させます」

 

会議室。黒板を背に、雫が教室中に響き渡る声で説明をしていく。

 

「その内容としては、2つ以上のクラス合同寸劇。後夜祭。そして生徒会が主催するミスコンです」

 

最後まで言い切ると周りがオー!とざわめいた。と思う。

 

なぜ"思う"と曖昧なのかというと、俺は超眠くて半分夢の中だからだ。

 

隣の紅音が必死に注意を呼びかけてくるが、ただ揺らしてくるだけだからまったく効果はない。

むしろ余計眠くなってきた

 

 

「……今回も去年と同様に、訪れた人数の多さで順位を決め―――」

 

なんか雫が咎めるような目で見てたような気がしたが、すぐにどうでもよくなってくる。

 

 

ナツルはめのまえがまっくらになった…。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「ナツルさん」

会議も終わり(結局ずっと寝てた)、教室に戻ろうと階段を下っていたら声をかけられる。

振り返るとそこには佐倉がいた。

 

………クソ!階段上に立たれてるのに、スカートの中が見えそうで見えない…!

 

 

「わたし、負けませんから」

 

いっそ屈もうかと悩んでいると、佐倉が階段を下りながら言葉を続けた。

 

「絶対にあの(ひと)と付き合ってみせます」

目前まで来てキッとこちらを睨む。

 

 

あの人と言われて、一瞬誰のことか分からなかった。

そういや俺、こいつにライバル発言されてたんだっけ

 

「…なんですかその顔、勝者の余裕ですか?」

 

つい何週間か前までそこそこ仲よかったのに、もうこんな発言…正直へこむ。

 

「わたし、気付いたんです。あの人はあんなに素敵なのに、知らない人が多いって。だからみんなに知ってもらおうと思います」

「結構知ってる奴多いと思うけど…」学校新聞の一面飾ったし

「勘違いしてる人ばかりです!本当はもっと素敵で、魅力的なんです!それを分かって貰いたいからこそ、雫ちゃんにミスコンで推薦ありにしてもらったんです」

 

え、なに、どういうこと?

俺が魂離脱中の間にいったいなにがあったの?

 

「あの人なら絶対優勝できます。そして星鐵一の美女をわたしのものにしてみせます」

 

そこまで言ってからキッと俺を睨み。

「負けませんから」

去っていった。

 

……えー…とー…

ちょっと整理してみよう

 

まず沙倉は女の瀬能ナツルが好きで、付き合いたいと思っている。

それも他人には内緒でじゃなくて、第三者…学校公認の仲に

 

そうなるために女の俺をミスコンに出場させて、しかも優勝させて、全校生徒の前で告白しよう。としている。

 

 

…なんだそりゃ。どこのB級ラブストーリーだよ。今時流行んねーよ

 

…そのB級映画の脚本にむりやり組み込まれてるんだよな……気が重い…

 

 

沙倉(あいつ)に好きな奴が出来たってんなら陰日向から応援したいとは昔から思ってはいたが、まさか自分がその対象になるとは思っても見なかった。どこで間違えたんだろう

 

挙げ句の果てにライバル認定までされちゃったし。意中の人が女の俺って時点で、付き合う確率はかなり低いのにな。

選択肢がナルかレズの二択ってどんなクソゲルートだよ

 

「ナツルさん?」

 

しばらくそうやって立ち尽くしていると、やって来た紅音に声をかけられた。

 

「…白か……」

「ふえ?」

「いや、なんでも」

 

思ってることがそのまま口から出てしまった。危ない危ない。

 

「どうかしたんですか?」

「あーいや、実は…」まだ不思議がってる紅音にさっきの会話の内容を教える。

 

「ナツルさんがミスコンに?」

「ああ…最悪だ、出たくない」

「そんな…ナツルさん、綺麗なのに」

 

なんで君そんなに残念そうなの?同じ立場になってみろってんだマジで

 

「どうしたもんかな……辞退とかできないかな」

「できますけど…もったいない…」

「あのな…。とにかく、雫に言ってみよう」

あいつ苦手なんだよな…今はそうも言ってられないか

 

「紅音ちゃん、ついて来てくれ」

一人だと心細い

俺ってばか弱い草食男子だから…見た目は

 

「それは……いいですけど…」

「じゃあ、鞄取って来るからここで待っててくれ」そう言い残し俺は男子部の自分の教室へと走った。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「よう、遅かったな」

教室に行ったら東田がいた。

 

なんで?

 

「お前に用があってな、待ってたんだ」

「もう6時だぞ」とっとと帰れよ

「お前に頼みたいことがあるんだ」

「…なんだよ」

 

一目でこっちの話を聞く気がないとわかったので、仕方なく耳を傾ける。

紅音を待たしてるからそんなに時間をかける訳にはいかん

 

わざとらしく時計をチラチラと窺うが、東田はさして気にした様子もない。いい根性してんじゃねえかてめェ…

 

「二つある。一つはミスコンの情報を逐一教えてくれ」

「なんでミスコンのこと知ってんだ」議題に挙がったのは今日のはずだぞ。

 

「生徒会にこっちの工作員がいるからな。表向きは生徒会内の発案だが、ありゃ美少女研究会(ウチ)のイベントだ」

 

そうかそうか…つまり今俺が苦境に立たされてる原因を作ったのはキサマという訳だな?

 

美女絡みだと無駄な行動力発揮しやがって、煩悩は留まることを知らないとはこのことだ

 

「なんで俺に頼むんだよ。スパイがいるんならソイツに聞きゃいいだろ」

「もっともだがそれは駄目だ。会長は感がいいからな、当分活動停止(スリープ)させるつもりだ」

文化祭前に摘発されても困るからな、と東田は続けた。

 

そこまで徹底して、なお情報が欲しいんなら初めから研究会の誰かを実行委員にしとけよ

 

「美少女研究会特別顧問として、協力してくれ」

 

ぅえーなんだそりゃ。そんな変なのになった覚えねーぞ

コイツの脳内じゃすでに俺は身内になってるみたいだな…マインドブラストかましたろうか

 

反論しようかと本気で思ったが、これ以上紅音を待たす訳にもいかないので今は置いとくことにする。あとが厄介だろうけど

 

「聞かれたことだけ答えりゃいいだろ。もう行っていいか」

「まだちょっと待て、もう一つの方を言ってない」

「なんだよそれは」

「穴掘ってくれ」

 

は?

 

「以前掘り進めてたが途中で中断したトンネルがある。責任持って掘削してくれ」

「まてまて、なんで俺がやんなきゃいけねーんだよ」

「お前のせいで以前使ってたルートが潰されたからだ」

 

……沙倉を救出しようとした時に使ったやつか?

 

「お前が協力してくれれば、またルートが復活するんだ。お前が協力してくれれば」

東田は鬼気迫る勢いで詰め寄って来る。

 

額にうっすらと汗をかき、眼が狂気じみている。気持ち悪っ

 

あるいは『攻撃されるかもしれない』という恐怖心が浮かび上がっているのかもしれない。こういう状況前にも何度かあったから。

 

 

どうするかな…本音を言えば即座に断りたいんだが、一応借りがあるのも事実だ。

 

それにこいつこれでもクラス内でなかなか高い発言権を持ってるから、下手すると孤立しかねん。三年後期ならともかく二年生の中盤でいきなりぼっちはキツイ

 

チッ、仕方ねえ…

 

「分かった、分かったよ。やりゃいーんだろ」

 

また厄介事が一つ増えてしまった

 

 

 

その後は早々に東田と別れ、紅音と合流した。

 

そのまま生徒会室に向かおうとする彼女に、「急に掘削の用事ができた」と伝えたら、とても不思議そうな顔をされた。

 

事のあらましを説明すると、納得するどころか余計に混乱した様子で

 

「…どうしてそんなことになったんですか?」と尋ねられた。

 

俺にもさっぱりだよ…




 ナツルはめのまえがまっくらになった…。
  ポケモン。今時のはどうか知らないけど初代のはこうだった。
○○は めのまえが まっくらに なった…
 マインドブラスト
  FFシリーズでたまに出てくる青魔法。敵を麻痺状態にする技ですがナツルのは(物理)がつく混乱技。

次回。高校生、穴を掘る

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