けんぷファーt!   作:nick

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原作でいう2巻部分が終了です。




第12話 Reason

果たし状をもらった日の夜十一時。仕方ないので学校に忍びこむことにした。

 

ちなみに紅音は連れて来てない、今日が相手の指定した日でなかったら撃たれる可能性があるからだ。

変身の時少々不安だがまあしょうがない。

 

……これで誰もいなかったら俺ただのアホだな…

 

 

正門は閉ざされていたので、女子部侵入の時と同じ方法で塀をよじ登った。将来何になるのか今から心配だ

 

中に入ったはいいが、とくに場所を指定されなかったのでしばらく女子部の敷地内をうろうろする。無論、周りを警戒しつつ。

 

その姿は誰がどう見ても立派な不審者だ。これで果たし状の主以外に見つかったらなんて言い訳しよう。

 

などと考えてると―――

「!?」

 

いきなり目の前の地面に影ができた。慌ててその場を離れて正体を確認する。

 

「ほう…。一人で来たか…」

 

やはりというかなんというか、相手は最近襲ってくる生徒会の役員であるケンプファーだった。名前は知らん、興味もないし。

 

「決闘って書いてあったからな。それに女の子をこんな夜遅くに外歩かせんのも非常識だろ」

 

なんとか変身までの時間を稼ごうと思ったが腕輪は光りさえしない。

 

「減らず口を…、まあいい。わたしはお前を倒す」

「変身するまで待ってくんない?」

 

無理だろうけど一応聞いてみる。暗くてよくわからんが顔つきから見て…

 

「断る」

 

ですよねー

素早く拳銃を向けてきたので、とっさに横に逃げる。するともう片方の手に持ってた銃で撃ってきやがった。二つあるって便利だね

 

「チィ!」俺は思わず舌打ちする。涼しげな顔しやがって、今にみてろ。

 

離れると不利なので危険を覚悟で急接近。弾丸が肩を掠める

 

「オラ!」

「なっ!?」

 

足で銃を蹴っ飛ばしてやった。ざまあ

 

しかし残りもう一丁を俺に照準をあわせてくる。ヤっべ

 

「くらえ!」

「断る!」撃たれる前に先に動く。

発砲されるが、拳銃自体を左手で払うことで銃弾を紙一重で避け、お返しに右手で裏拳!

 

――古牧流火縄封じ!!

 

「ぐっ!?」

 

相手がうまい具合に怯んでくれたので。今のうちに逃げることにする。

 

パッと見互角以上に渡り合ってはいるが、向こうはケンプファー状態だ。俺より力が下ってことはないだろう。銃も手放さなかったし

 

とりあえず校舎内に入る。

えっ、鍵はどうするんだって?窓ガラスって結構簡単に割れるんだぜ?

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「いつになったら変身すんだよ…!」

 

右腕にはまっている腕輪を見ながらあてもなく走る。閉じ込められた時のことを考えて一階のみだが。

 

そろそろケンプファーになっとかないとヤバイ。なぜかと言うと二度も同じ手にひっかかるとは思えないからだ。まさかそこまで馬鹿じゃないだろう

 

「!、チィ!」もう追い付いて来たようだ。銃声が響き、すぐ側の壁に重婚、いや銃痕ができる。結婚してどーする

 

「なんて考えてる暇ないか…!」

 

 

俺は廊下よりまだ障害物がある教室に逃げこんだ。こんなことなら紅音に相談だけでもしとくんだった。

 

「もう逃げられないぞ」

 

敵のケンプファーがドアから入って来た。相変わらずキッツイ目してんなぁ。なんかいいことあったの?

 

「あの世に送ってやる……覚悟しろ」そう言って銃を二丁とも俺に向けた。

 

 

「まてまて、なんで殺そうとすんだよ。俺なんかしたか?」

 

なるべく相手を刺激しないように両手を上げて無抵抗の意を示す。まだ死にたくはない

 

「…お前のせいであの人は傷ついた」

相手は忌ま忌ましそうに俺を睨みながらも理由を語りだした。

 

ここ最近はむしろ俺が傷ついてんだが…

 

「あの人が幸せならそれでよかった…。でもお前のせいでっ!」

「誰のことだよ…雫か?」

 

適当に言ってみたが可能性としては高い。同じ赤色だし、この前負かしたし。

 

 

「あの女は後だ。お前のせいで…楓さんは傷ついた!」

 

は?楓??沙倉のことか?

 

「お前が男の自分が好きと言ったせいで…」

 

相手は顔を赤くして続けた。怒りか恥ずかしさ故にかは分からんが。

 

「もう立ち直ってんじゃん」

「表向きはそう見えるかもしれない…、だが心にはまだ傷が残っている!だからわたしはお前を許さない!!」

 

アっホくさっ。俺は被害者だぞ

 

「逃げるなよ…。逃げたらお前の本当の恋人を殺す」

「気になってたんだがそもそもその恋人って誰だよ。俺にそんなのいないぞ?」

 

いたらもう少し学園生活に彩りが加えられてる。

 

「惚けたことを…いつも一緒にいるだろう」

 

いつも一緒に?はて……?

 

「あの赤毛の女だ」

「紅音か?!ちげーよ!!」

 

とりあえず全力で否定した。や、嫌いじゃねーんだけど

 

「問題無用…」相手はそのまま引き金に指をかける。

 

 

……なんかだんだんムカついてきたぞ。なんで逆恨みで殺されなきゃなんねーんだ。こっちは迷惑してるって言うのに

 

拳を強く握りしめると、右腕の腕輪から力が湧いてくる感じがしてきた。

そのまま右手を勢いよく相手の方へ突き出す。

 

「!!」

「な!?」

 

その手から炎が出た。

どうやら自分の意思でケンプファーに変身できた……のかな?ま、今はいいや

 

 

「条件が五分になったとこで仕切り直しといこうか…」負ける気しないけど

 

「くっ…!」

 

ダッ

 

ゴオッ!!

 

相手がドアから逃げようとしたが、それよりも早く俺は魔法(ツァウバー)で出口付近に炎を放ち退路を絶つ。

 

「そんな…炎を曲げて…!」

 

向こうが驚愕の表情でもって見つめてくる。

 

色々応用が効くなこれ…。まさかホントに曲がると思わなかった

 

 

「散々人を殺そうとしといて自分は逃げれると思ってんのか?甘いんだよ」

「貴様…!」

 

銃口を向けるがそれより早く俺が懐に入る、そのまま右手に炎を集中させて拳を作った。

 

「言っとくけど紅音は恋人じゃない…」

 

相手は焦りをあらわにした顔つきを見せる。

今更遅いんだよ。

 

「相棒だ」

 

俺は勢いをつけて拳を叩きこんでやった。

予想以上に威力があって俺まで後方に吹っ飛んだけど、久々にすっきりした。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「派手にやったわね」

 

ケンプファーになり、一対一での初勝利に浸るっているといきなり声がした。この声は…

 

 

「身構えなくていいわよ。争う気はないから」

「会長…」

 

いつの間にか立っていたのは生徒会長・三郷雫だった。

 

「…あんたが仕組んだってことか?」

「何をかしら」

惚けやがって

 

「俺を女子部に入れたのも、変な噂流したのも、全部コイツを倒させるためだろ」

倒れてる敵のケンプファーを親指で差す

 

「それを肯定すると問題がありそうね」

「腹割って話そうぜ。他にいねぇんだから」

 

俺の言葉に雫はしばらく考えたように黙った。

その間に変身できるか試そうと…してやめる。一応敵どうしなんだよなこいつとも

 

「彼女…葛原は邪魔だったのよ、わたしの行動を監視して報告していたから」

「誰にだよ」

「モデレーター」

 

俺たちをケンプファーにしたやつか…、どんなのかは検討もつかんな。

人に変身能力を与えることができるんだから普通じゃねーんだろーけど。

 

「私が味方を倒すわけにもいかないでしょ」

「だから俺にやらしたのか」

「美嶋さんと二人で来ると思っていたのだけれどね」

 

雫はまだ倒れてる女―――葛原だっけ?―――に近づき、腕を引っ張って背負う。

 

「そいつどうすんだ?つーか生きてんのか?」

後先考えずに思いっきりぶっ飛ばしちゃったけど

 

「生きてるわ…。……そういえば負けたケンプファーがどうなるのか、あなたは知らなかったわね」

 

 

そういや、前もそんなこと言ってたな。どうなんだ?

 

 

「この世から消滅するのよ、綺麗にね」

「――?!」

 

何だと――?

 

勝手に選ばれた上に負けたら消える?いくらなんでも無茶苦茶過ぎだ。

 

俺が驚きで口がきけなくなっていると、雫が思い出したかのように言った。

 

「そうそう、瀬能君。女子部の生徒証は返す必要はないから」

「は?」

「これからも女子部にいらっしゃいね」

 

そう言って雫は気絶した葛原を背負ったまま去っていった。

 

今回の報酬は生徒証と変身、あとはマイナスにしかならない噂くらいか…

 

「割に合わねぇ…」

 

突っ立っててもしょーがないので、帰ることにした。

 

――が、

 

「会長!」

一つ気になることを思い出したので、廊下を歩く雫を追いかけて声をかける。

 

「なにかしら」

「そいつは…葛原はソロなのか?」

 

雫は足を止めて、こっちに向き直る。

といっても、人一人担いでるから顔だけだけど。

 

「どういう意味?」

「俺にここに来るよう手紙を出した奴はそいつじゃなかった。…誰か他に協力者がいるんじゃないのか?」

「…………」

 

彼女は口を閉ざしてなにも言わない。どう説明しようか考えてるのか……

いや、なにも言えないのか?

 

「…黙っていても仕方ないわね。確かに、葛原には協力者らしき人がいたみたいよ」

「みたいって…」「残念ながら誰なのかは私も知らないわ」

 

こいつでさえも分からないのかよ

 

「ただ星鐵の生徒であることは間違いないみたいだから、注意だけはしておいた方がいいでしょうね。あなたも私も」

 

それだけ言うと、会長は再び歩いていく。

 

俺はそれを厳しい顔で見送ることしかできなかった。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「そんなことがあったんですか…」

 

次の日、紅音に葛原との戦闘と雫との会話を一部始終話した。

 

『なぜ相談してくれなかったのか』と初めてのうちは散々責められたが、まあそれはそれで。

 

一応葛原の協力者についても話したが、これは相手の素性さえ分からないので警戒はしつつも保留。ということで結論を出した。

ケンプファーは皆必ず腕輪をしてるから見れば分かるはずなんだが…あの雫でさえ掴めないんだ。焦っても仕方ない

 

 

「ナツルさん。自分の意思で変身できるようになったんですね」

「いや、それは…」

 

紅音の言葉にお茶を濁す。

 

あの後家に帰ってから散々練習したんだが、結局変身は出来なかった。

 

腕輪は光りはするんだが……あと一歩のところで変身できない。いったいなにが足りないんだ?

 

 

「変身のタイミングをズラすとかはできそだけど、自分の意思でケンプファーになるのはちょっと…」

「無理そうですか…」

 

紅音の一言にガックリくる。

……なに一つ解決しないまま問題だけが増えていく

 

朝からブルーな気分で通学路を歩いてると、

 

「ナーツル!」

声と一緒に背中に衝撃がきた。水琴だろう、見えないけど。

 

「元気ないじゃん。どうかしたの?」

「……寝不足なんだよ…。いいから降りろ」重い…ってわけでもないな、むしろ柔らかい。

 

 

「あの…水琴さん。人前でそれはちょっと…」

紅音がたしなめるように話しかける。

 

「およ、紅音ちゃん」

水琴が俺から降りて今気付いたかのような声を上げる。

 

「…ナツルってさ、モテるよね」

 

なんだ薮から棒に

 

「あんたに興味あんのあたしだけだと思ってた」

「経験談か?告白までしたもんな」「なっ…!」

 

瞬間的に水琴の顔が真っ赤になる。おもしれー

 

「ナツルさん告白されたんですか?!」紅音ちゃんが叫ぶように声を出した。心なしか顔が赤い。

 

 

「中学のころに屋上でね、その時のナツル(こいつ)の返事が…」

「俺どっちかっつーと巨乳派だから」

「死ね!!」

「がぼッ!!」

 

言った瞬間、ショートのボディブロー(むしろスマッシュ)。間髪いれずに背中越しに弧をえがいてのスイング。技名ドラゴンフィシュブローが綺麗に決まった。

しかもボディブローは鳩尾目掛けてだ。なに?好きなのソーラープレキサス?

 

 

「ぐおおぉ…!」

「ふん!こんなバカほっといて行こ、紅音ちゃん!」

「は…はあ……」

 

顔を青くした紅音を連れて水琴は女子部の校門へ歩いていった。いつの間にか学校まで来てたようだ。

 

そういえば『ミコトスペシャル』を食らったのが(多分)告白された時なんだよなぁ…結局アレどんな技だったんだろ

 

 

「ナツルさん」

 

昔に思いを馳せていたら、後ろからまた声をかけられた。この声は沙倉だな。

 

「……なにさ…」

 

まだ痛む腹部と頬を押さえながら振り返る。

 

なんで俺を睨んでんだこいつ?

 

 

「わたし、負けませんから」

「は?」

「わたし…。必ずあの(ひと)を手にいれてみせますから!」

 

それだけ言って沙倉は去っていった。

 

正直、昨日の雫の衝撃発言よりも水琴の一撃よりも、沙倉にライバル宣言されたことの方がショックがデカかった。

 

しばらく動く気がせず、道路の真ん中で空を見上げて立ち尽くす。

登校時間ゆえに多くの人間が奇異の目で見ては通り過ぎるが、そんなのは気にはならなかった。

 

 

 

 

 

その数分後、通り雨に降られた。

大っ嫌いだ…大ッ嫌いだ青い空なんて……!

 


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