退屈だ……えぇ、数日前の俺は確かに言いましたよ、退屈だと。
でもさ、だからって……
「これはないだろー!?」
「「待て――!!」」
アースラで絶賛暇つぶし中だった俺はなぜか、全身タイツのお姉さん達に追いかけられてます。
「ホントになんでだー!?」
事の始まりはほんの数十分前、リンディ艦長に呼ばれた事から始まった。
「本局への次元転送が可能になったんですか?」
「えぇ、次元震の影響も予想より大分収まってきたわ。今アースラは本局へ向けて航行中だけど、あなたは私と一足先に行って色々検査をしてもらう事になります」
アースラの設備じゃ限界あるって言われてたもんな。
まぁ、本局で検査すれば俺に合ったデバイスや魔力の使い方とか色々分かるみたいだし、拒否する理由はないな。
アースラで後から来るフェイトやアリシアとはまたすぐに会えるし。
「それじゃクロノ、エイミィ、こっちの事は任せたわね。何かあったらすぐに連絡する事」
「はい、分かりました。すぐに2人に追いつきますよ」
「健人君もまた後でねー」
「うん。フェイトやアリシアの事お願いします」
2人にはさっき挨拶したけど、どっちも悲しそうな顔をされて、アルフに睨まれたな。
「行くわよ、健人君。すぐに着くからそんなに緊張しなくて大丈夫よ?」
「はい!」
実は緊張と言うより、初の次元転送にちょっとワクワクしてる。
でも、遊園地のアトラクションとかにも乗った事ない俺が、酔ったりしないか心配ではある。
そこら辺はどうなんだろうな?
まぁ、やってみれば分かるか。
「じゃ、眼を瞑っててね」
「転送、開始します」
眼を瞑ってエイミィの声を聞くと、何か身体がフッと浮き上がる感覚がした。
次の瞬間には……真っ逆さまに落ちる感覚になった。
「えっ?……がっ!?」
「ぅごっ!」
「ぎっ!?」
何かこう、数日前にも体感した痛みが、誰かの頭に激突した痛みが襲ってきた。
「ぃっつつ~! ……あれ、ここどこ?」
頭を抑えながら周囲を見渡してみると、どこかの広い部屋の中のようだ。
そして、目の前にはスーツ姿のお姉さんが目を見開いて驚いた顔をしていた。
他にも全身変なタイツスーツ姿をした青髪の姉さんと、銀髪の女の子がいる。
あれ? この人達どっかで見た事あるぞ?
あ、そうだ! この銀髪の女の子、確かチンク!
眼帯してないし、右目もちゃんと開いてるから分からなかった!
それにスーツを着たお姉さんはイノセントで見た、一架さん!
って事は、青髪のお姉さんは三月さんか!
いやぁ~実物見ると感動的だなぁ~……なんか思いっきり睨まれてるけど。
それに皆私服姿じゃなくブレイブデュエルでの、ウーノやらトーレみたいな姿になってる。
「お前、一体どこから来た?」
「え、えっとどこからと言われても……?」
アースラから飛んできました―って言っていいのかな?
「ひとまず、ドクター達からどいてもらおうか」
チンクにナイフのような物を付きつけながら言われ下を見てみると、白衣を着た博士っぽい人とメガネをかけたお姉さんを尻に敷いていた。
どうもさっきからやけに地面柔らかいと思ってたんだよね。
あ、2人共頭にでっかいタンコブが付いてる。
まるで漫画みたいだ(笑) なーんて言ってる場合じゃない!
「あなたが何者かはともかく、ドクターとクアットロに危害を加えたのは見過ごせないわね!」
「大人しくつかまれ!」
「断る!」
三月が手を伸ばして俺を捕まえようとしたので、ヒラリとかわし逃走開始。
「あ、こら、待て!」
「待てと言われて待つ馬鹿いるかー!」
と、こうして冒頭の鬼ごっこが始まった。
チンクと三月さん、おまけに途中から加わった二乃さんっぽいお姉さんに追いかけられて、どうにか倉庫っぽい所に隠れて状況整理。
まず、俺はアースラから本局へリンディさんと転送した。
けれども、なぜか別の場所へ転送させられ、スカリエッティとクアットロに頭から激突。
呆気にとられた一架さん達に侵入者と間違えられて、追いかけられている、と。
いや、侵入者なのは間違いないか。
走りながら気付いたんだけど、俺は一つ大きな間違いをしている。
ここはリリカルなのはの世界であって、リリカルなのはイノセントの世界じゃない。
と言う事は、チンク達は人間ではなく、戦闘機人と言う人造人間で、Stsの時代でおお暴れする犯罪予備軍なのだ。
で、一架はウーノで、三月はトーレ、二乃はドゥーエと言う事か。
チンクは確か元の世界でもイノセントでもチンクだったな。
ただ、中島家に引き取られるのはSts時代の後の話。
うん、リリカルなのはの事を教えてくれた友達からの情報を整理するとこんな感じか。
正直、チンクはともかくウーノやトーレはイノセント世界なら友達になりたいんだけどなぁ。
「なんて状況整理したはいいけど、どうしようか」
多分このまま隠れていてもすぐに見つかるだろうなぁ。
かと言ってノコノコ出て行っても殺されるだろうなぁ。
Vividやイノセントならともかく、この時代じゃ彼女達殺伐としてそうだもんなぁ。
対抗しようにも魔法まともに使えないし、使ったとしても制御不能で魔力切れで気絶してアウトだし。
「どうすればこの場を生きのびる事が出来るか」
などと考え込んでいると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「みーつけ 「のわぁ~!?」 はひっ!?」
突然すぐ横の壁から水色の女の子が出てきて、思わず払いのけようと手を伸ばしたら柔らかい感触があった。
「あわっ、あわわわっ……」
この柔らかい感触懐かしい、と言うかデジャヴ?
でもあの時はもっと柔らかくて張りと弾力あったよな?
「うーん、分かりやすく言えば……小さい?」
「誰の胸が小さいっ!? っていつまで胸揉んでるんだー!!」
あ、やっぱり俺胸揉んでたのか。
「あはは、ごめん。小さくて気付かなかったよ……では!」
「まちやがれぇーーー!!」
胸が小さい女の子、セインから何とか逃げる事が出来た。
いやぁ~危なかった。セインって泳ぎがうまいだけじゃなくて、壁とかすり抜ける事出来たのか。
でも能力が分かったからにはもう驚かないぞ。
「あはははっ、このまま逃げ切ってやる……ってどこへ逃げればいいんだろ?」
「ライドインパルス!」
「あっ」
とか考え込んでいる間に、ものすっごい速さでやってきたトーレにあっさり捕まってしまった。
「いやぁ~お姉さん足速いねぇ。その足で世界陸上とか出てみない?」
「確かに高速移動だが、正確には走っているのはではなく飛行している。陸上とやらでは反則になるだろう」
……渾身のボケに真面目に返されてしまった。
それから鎖でがんじがらめに拘束されたわけではなく、応接室っぽいところへ連れていかれた俺はウーノやチンク達に囲まれて尋問となった。
セインはさっきから唸り声をあげて俺を睨みつけており、チンクがなだめている。
「で、あなたは一体どこのだれなの?」
「名前は草薙健人、地球生まれの……迷子です」
正直に答えたはずなのに、みんなの視線が冷たい。
「正直に答えた方が身のためよ?」
「正直に答えたんだけど。あ、正確に言えばアースラから本局に行こうと次元転送装置で転送したらなぜかここに……」
そう言うとウーノは空間に現れたキーボードを操作し始めた。
ああいうのなんかかっこいいな。アースラにもあったけど、空間コンソールって名前かな?
「ふむ、どうやら管理局員ではなさそうね。魔力はあるけど、地球人と同じ遺伝子配列だわ」
「と言う事はこの子は本当に迷子?」
「どうやらそうみたいね。なんで二重三重にも張ったプロテクトを破って、このアジトに直接飛んでこれたのかは分からないけど」
「ならばどうする?」
「うーん、見た所人畜無害っぽいし、このまましばらく飼ってみると言うのは?」
「反対反対! 私はぜーーーったいに反対!」
どうにか俺が事故でここに来た事は分かってくれたようだけど、これからどうなるのか。
ドゥーエの口から飼うって単語出たり、それに反発するセインを見ると、心中穏やかではいられない。
「はぁ、ドクターが目を覚ましてから考えましょうか」
「その必要はない! 彼はしばらくここで保護する事に決めた!」
ババーンとドアが開き、頭に包帯を巻いた変態博士、スカリエッティが入ってきた。
その後ろには同じく包帯姿のクアットロもいる。
この2人もイノセント世界じゃ好きな部類に入るキャラだけど、ここじゃどうなんだろ?
ウーノ達のあの殺伐とした空気を見れば一目瞭然か。
「ドクター! 大丈夫なのですか!?」
「問題はないよ、ウーノ。それどころか頭がすっきりして実に気分がいい!」
「私もなんだかとっても晴れやかな気分ですわ!」
妙にハイテンションな2人に、俺はともかくウーノ達も眼をぱちぱちさせて驚いている。
「あ、あのドクター、クアットロ? 本当に大丈夫なのですか!? 精密検査をすぐにしましょうか!?」
「いや、すぐにするべきです。さぁ、ドゥーエ、セイン。2人を運ぶぞ」
「ちょっと落ちつきたまえ、ウーノにトーレ。私は何ともないさ」
「そうですよ。大げさすぎますわ」
いや、全く部外者の俺から見ても2人が異常なのは分かります。
でもこの人達って元々異常だから、これが普通なのか?
「ともかくだ。このアジトが出来て初めての小さなお客様だ。丁重におもてなししないとね」
「そーですわよ。それにトーレ姉様やセインちゃん達を相手にして二度も逃げ切るなんて、普通の人間とは思えませんし」
あー……こりゃまいった。
相当にピンチかも。
続く
この段階ではまだノーヴェ達は登場しませんが、いずれ出ます。
次回からキャラ崩壊激しくなります。と言うか誰だお前!?状態に(笑)