ちょいと短めです
なのはやはやて達の通う私立聖祥大学付属小学校に転入して早数週間がすぎた。
こんなに長い期間、連続で学校に通った事がない俺は毎日が楽しくて仕方なかった。
流石に小学4年の授業は、元は18歳だった俺からすればレベルが低過ぎるが、それでも楽しかった。
テストはまだやっていないが、先生にあてられても程々に答える様にしようと思っている。
『私らと仲が良いってだけで目立ってるんやから、あまり授業で高レベルな答えしたらもっと目立ってまうで?』
『健人は、身体能力が異常な程高くて、ただでさえ目立つのだからな。気を付けた方がいい。変なのに目を付けられないとは限らないからな』
これは、俺の本来の年齢を知ってるはやてやシグナムから忠告された事だ。
ミッドでならともかく、地球で変に目立つのは色々と良くない。
それに、俺は身体能力がかなり高く、クイントさんやゼストさん達に鍛えられたおかげで魔法なしでも一般的な魔導師にも楽に勝てるほどになっている。
これじゃあ地球の小学校では目立つのは当たり前だ。
だから自重しようと思っていたのだが……
「フェイトちゃん、いっくよー!」
「うん、なのは!」
なのはの投げたボールが凄まじい回転をしながらフェイトへと向かう。
大人でも止められなさそうなボールは、そのままフェイトに当たってアウトになるかと思った。
だが、フェイトはボールを真正面から受け止めた。
少し後退りはしたが、ラインを越えるほどじゃない。
「今度は、こっちの番!」
フェイトは、ボールを構えたまま天高く舞い上がりきりもみ回転をしながら、なのはへ投げつけた。
「流石、フェイトちゃん!」
なのはは、避けるのでも受け止めるのでもなく、ボールに向かって走り出して片手で掴み、その威力を利用して一回転しフェイトが空中から着地する瞬間を狙いカウンターで投げ返した。
流石のフェイトも今度は受け止められそうになかったが、着地してすぐにその場を飛びのき、ボールを避けた。
避けられたボールはフェイトの後ろにいたすずかがキャッチし、すぐに投げ返す。
その先にいたのはアリサだったが、彼女も難なくボールをキャッチして攻防に参加した。
こうして、ドッジボールは一進一退のまま膠着状態へと突入した。
「……なぁ、はやて。目立つなって忠告はありがたかったけどさ。あの2人はいいの?」
「あ、あはは、最初にみた時は私も驚いたわ」
今俺達は、体育の授業でドッジボールをしている。
数人のチームに分かれてやっていて、俺とはやては同じチームでまだ出番がないので見学中だ。
で、このドッジボールだが、明らかになのはとフェイトがトンデモナイ身体能力を発揮して目立ちまくってる!
しかも、ただの人間であるはずのすずかとアリサもなのは達に負けず劣らずの活躍を見せている。
で、他の生徒や先生もこの光景にあまり驚いていない。
この世界の小学生ってみんなこうなのか?
あれ? なのはって運動音痴じゃなかったっけ?
「はやてもはやてで、この前の徒競走でぶっちぎりの走り見せたし」
「いや、ほら、あれは……自分の足で自由に走れるのがうれしくて、つい。それに健人君と一緒の授業受け取るのがうれしかったんよ」
「ん? 何か言った?」
「それ絶対ワザとやろ? なんで隣に座ってるのに聞こえなかったんや!?」
「ごめんごめん、うれしかったんよ。までしか聞こえなかった」
「ちゃんと最後まで聞いとるんやないかーい!」
俺とはやてが漫才をしている中、とある男子生徒がジッと睨んでいる事に俺はその時気付いて……た。
「おのれくさなぎぃ~! 今日は八神とべたべたしやがってぇ!」
おまけに大声で叫んでるし。
普通そういうセリフは心の中で言うか、陰でコッソリと言うものじゃないかなぁ。
それがよりにもよって……
「なんで俺達の真後ろで言うかな、楯宮?」
俺達の後ろで悔しそうな表情を浮かべて睨んできてるのは、楯宮友樹(たてみや ともき)
なのはやはやて達と仲が良い俺を目の敵にしている……のだが、なぜか初めての男友達になった。
最初は、普通に向こうから話しかけてきてなのは達も混ざって楽しく話して友達になった。
生前含めて同い年の男友達は彼が初めてだったので、少し感動したなぁ。
で、俺がフェイトとアリシアと住んでいて、なのはやはやてとも親友だと知り、態度を一変……させたわけでもなく、せいぜいたまにこうしてパルパルしてくるようになっただけだ。
まぁ、それでも挨拶もするし、彼の家に遊びに行ったりした事も何度もある。
「よしっ、と言うわけで放課後勝負だ!」
「いいぞ。今日はいくら賭ける?」
「軽い! と言うか、賭けなんていつもしてないだろ!?」
だって、このやりとりだってほぼ毎日やってるし。
「ふふっ、健人君も楯宮君も仲がええなぁ♪」
「八神、いい加減ぼくも名前で呼んでほしいんだけど……」
「ん~楯宮君が健人君に勝てたら名前で呼んであげるって、約束やろ?」
何がどうしてこうなったのか知らないが、楯宮が俺に勝負して勝てたら、はやてだけでなくなのは達も楯宮の事を名前で呼ぶ、と言う事になってしまった。
「で、今日は何するんだ? サッカー?」
「サッカーはお前のせいで禁止になっただろ?」
「あ、そうだったそうだった」
先週、PK勝負して俺が蹴ったボールがゴールネットを破って禁止になったんだよな。
そのせいで、はやて達から忠告受けたんだった。
「どうやったらゴールネットをサッカーボールで貫通出来るんやろうなぁ」
「100Mを8秒で走ったはやてには言われたくないぞ」
「フェイトちゃんは7秒で走ったから問題なしや」
「お前ら揃いも揃ってツッコミどころしかないんだけどー!?」
「「ツッコミは(おまえ・楯宮君)に一任してるから♪」」
はやてと2人でサムズアップ。
それを見た楯宮はがっくりと項垂れてそれ以上何も言わなかった。
そんなこんなで、放課後。
約束通り、グラウンドで楯宮との野球勝負だ。
なのはとすずか、アリサは家の用事があるので先に帰ったが、残ったフェイトとアリシア、はやてはギャラリーとして見物する事になった。
「で、ピッチャはお前、バッターは俺で固定。打てば俺の勝ち、アウトならお前の勝ち、でいいのか?」
「あぁ、俺のボールが打てるものなら打ってみろ!」
「そーいえば、お前って野球クラブに所属してたっけ」
これでも結構なエースとして活躍してるんだったよな。
と、さっそく勝負をしようとしたらアリシアが待ったをかけた。
「キャッチャーと審判は? 2人でやるにしても必要でしょ?」
「あ、忘れた……どうするかな」
「じゃあ、俺がキャッチャーやるから、野球に詳しい楯宮は審判任せた」
「おう、任せておけ! って違うだろ! 俺とお前の勝負なのにそれじゃ意味ないだろ!」
ちっ、面倒になったからこれで逃げようと思ったのに。
「あ、あはは。私とフェイトがやろうか?」
「うん。野球の事なら詳しいから任せて」
何を隠そうこのテスタロッサ姉妹、地球に住んで野球にハマってしまったらしい。
と言ってもみる専門で、アリシアが巨●、フェイトが阪〇が好きなようだ。
あの2チームが対戦する時は2人してテレビの前で白熱してて、プレシアが引いてたな。
「いや、でも、テスタロッサさんにもし当たったら危ないし」
それは俺も思うけど、もう2人はやる気満々だし止められないな。
2人共どっから持ってきたのか知らないけど、サイズピッタリのキャッチャーと審判の防具を身に着けて準備万端だし。
「大丈夫大丈夫、2人に当たる前に俺が打つから」
「うん、頼りにしてるよ健人♪」
「頑張ってね」
わざとらしく挑発したら、悪戯っ子な笑みを浮かべたアリシアがちゃっかりと乗っかってきた。
おまけにフェイトまで乗っかかってきたし。
いや、アリシアはともかく、フェイトはただ普通に応援しただけだな。
あー楯宮が目に嫉妬の炎を灯らせて俺を睨んできてる。
と、ここではやてがとびっきりの笑顔を浮かべて楯宮に向けて声援を送った。
「楯宮くーん、がんばってなー♪」
「おっけーい! 八神さん、俺がんばるぞーーー!」
「うわっ、単純すぎ」
アリシア、バッサリと言ってやるな。
「それじゃ、プレイボール!」
審判アリシアの掛け声でとうとう始まった俺と楯宮の野球勝負。
正直、野球なんて実際にやるのは今日が初めてだ。
最低限のルールは知ってるけど、試合を見る事すらこっちの世界に来てからだ。
そればかりか、地球に来るまで野球を知らなかったフェイトとアリシアに教えてもらう事すらある程だ。
まぁ、要はボールにバットを当てればいいだけだ。
「じゃあ、いくぜー!」
「楯宮選手、振りかぶって第一球、投げたー!」
「ボール!」
「健人選手、見送って判定は、ボール!」
1人暇なはやては実況役になったようだけど、ノリノリだな。
流石関西人。ん、関係ないか?
「むっ、誘いには乗らないか。なら、これはどうだ!」
「ストライク!」
「楯宮選手、第二球も直球! これは決まった、ストライクッ! これで1ストライク1ボールになりました!」
はやて、それ誰かのモノマネかな?
「おいおい、健人。せめて振ってくれよぉ。これじゃあ張り合いないだろ」
「うん、次は振るよ」
ハッキリ言って、今の2球は当てようと思えば多分当たった。
いくら野球クラブのエースとはいえ、普段訓練で撃たれている魔力弾に比べたら遅すぎる。
野球がどういうものか味わいたくて、ちょっと遊んだんだ。
なーんて余裕ぶってると痛い目に合いそうだから次は真剣にやろう。
「さぁ、楯宮選手の第三球です」
「そらっ!」
――カッーン!!
三球目の直球がうまくバットに当たり、いい音がした。
打球はそのまま真っすぐ飛んで行った……楯宮の方へ。
――シュッ!
「……えっ?」
「「「「あっ」」」」
打球は楯宮の顔のすぐ真横を飛んで行った。
当たったようには見えなかったが、俺達はすぐに楯宮に駆け寄った。
「ごめん、楯宮! 大丈夫か?」
「楯宮君、ケガしてない!?」
「なぁ……今、ひょっとして俺の横、すぐ、飛んで行った? ははっ、あははは……キュウ」
楯宮は、最初何が起きたのか理解できていなかったようだったけど、自分の顔面向かって打球が飛んできた事を理解し白目をむいて気絶した。
「楯宮ー!?」
すぐに保健室へと運んだが、幸い打球はかすりもしていなく、ただ驚いて気絶しただけだった。
その後、先生に怒られ、野球は禁止になった。
それからというもの、楯宮が俺に勝負を仕掛けて来る事はなくなった。
仕掛けてこなくなったのは、はやて達が楯宮の事も名前で呼ぶようになったから……だと思いたい。
続く
学校生活編、オリキャラ出ますがそれほど多く出さない予定です。
出番もクラスメートAとかBとかその程度です。