ViVidかと思ったら無印でした……   作:カガヤ

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お待たせしました!
2019年最初の更新です。


なんだこれ


第47話「季節外れにもほどがある」

「いやぁ、すみませんティーダさん。さっきは俺のせいで川に落ちちゃって。風邪、引かないでくださいね?」

「あはは、大丈夫だよ。あの後すぐに助けてもらったし、健人君の炎で暖めてもらったからね」

「……いえ、あれはただの誤爆で火だるまにしただけです」

 

ティーダ流しを終えて、俺とティーダは所要の為、キャンプ場から少し離れた川の上流に向かっている。

辺りはすっかり真っ暗でランタンは持ってきているが、今日は天気がいいので月明りだけでも歩くには十分だ。

さて、このまま男だけで深夜の散歩を楽しむのも悪くないが、今回は……

 

「あの、すみません……」

「「はいぃ?」」

 

と、突然背後から声をかけられ俺とティーダは思わず間の抜けた声をあげてしまった。

さっきまで誰の気配もしなかった。

これでも、クイントさんやゼスト隊長からデバイスに頼らない人の気配の探り方は教わっている。

マテリアルズ事件の時は、まーーーったく役に立たなかったけどね、シュテルとかシュテルとかシュテルとかに。

で、今回全く気配がなかった。

と言う事は、と言う事になるわけで、恐る恐る振り向くとそこにいた人の姿に更に驚いた。

ティーダもギョッとした顔をしているけど、気配に気づかなかっただけじゃない。

 

「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

管理局員でなくても、人を見かけで判断しちゃいけない。

例えそれが、見るからにザ・不審者って恰好だとしてもだ。

 

「私って……綺麗でしょうか?」

「えっ?」

 

えっ、何いきなりナルシスト発言? しかもその割にはものすっごく謙虚で自信なさげ言い方だし。

声からしてたぶん女性なんだろうけど、その服装から全く性別が分からない。

 

「綺麗、かどうか、ですか?」

「はい。私って、綺麗、でしょうか?」

 

どう答えていいか分からない。

なので、ティーダに視線で助けを求める。

あ、念話があったね。

 

『ティーダさん。あと、任せます!』

『ちょっと!? 何1人だけ逃げようとしてるの!?』

『いや、こういう時、頼りになるのは先輩の務めでしょう。それにぼくこどもだからどうこたえていいかわかんない』

『思いっきり棒読みだね。はぁ、でも、僕が言うしかないよね。わかった。でも、頼むから1人にしないでくれないかな?』

『……頼りになるように見えて、あまり頼りになってないですね』

 

ともかく、あとはティーダに任せよう。

まずは、見た目をつっこんでもらおう。

 

「綺麗、かどうかですよね? すみませんけど、その状態じゃあなたがどういう人かわかりません。せめてマスクと包帯と眼鏡取ってもらえますか? あ、包帯してるのはケガとかでしたらすみません」

 

そう。この女性、なぜか知らないけど全身重装備にもほどがあるのだ。

足の先から頭の上まで髪の毛ごと包帯でぐるぐる巻きだし、更にその上に帽子をかぶりサングラスとマスク。

おまけのおまけに真っ黒いコートと手袋をしている。

どこからどうみても不審者。

せめて髪の毛は出した方がいいと思うんだけどな。

 

「あ、はい、そうでよね。では……」

 

そういうと女性はおどおどしながらも口にしているマスクを外した。

 

「あの、これでも、綺麗、ですか?」

「いや、あのですね……包帯取らなきゃ意味ないじゃないですか」

 

女性はマスクだけ外したが、口は包帯で覆われていてかろうじて鼻とよく見ると耳に穴があいている。

何、この人日に当たると溶けたりするの?

てかこんな真夜中になぜにそんな恰好する必要がある?

 

「い、いえ、このままで……怖がってもらえないかなぁと、顔見せるの恥ずかしくて」

 

この人さっきから何がしたいんだろ?

待てよ? マスクをしていて私、綺麗と聞く女性? で、マスクを取ってこれでも綺麗? って聞く……あっ!

 

「あの、あなたまさか口裂け女?」

「えっ? あなた、私の事知ってるんですか!?」

 

その名を口にした途端、いつの間にか女性は目の前までやってきて、俺の肩をガシッと掴み嬉しそうに目を細めた様に見えた。

 

「ねぇ、もう一度、もう一度! さっき言った言葉繰り返してくれますか!?」

「あ、あなた、口裂け女さん、でしょうか?」

「うん、はい! そうです! 私が、口裂け女です!」

 

敬語で答えると、包帯女、改め口裂け女はブワっと涙を流しながら喜んだ。

うーん、また面倒ごとになってるな。

 

「うぅ~やっと怖がってもらえそうな子に出会えました。では、さっそく気を取り直して、コホン、私、綺麗?」

「いえ、全く」

「Σ( ̄ロ ̄lll)……で、では、これなら……って私もうマスク取ってたんでした。この場合、どうすればいいんでしょうか?」

「俺に聞かないでよ……」

 

頭いたくなってきた。

 

「健人君、口裂け女って何かな? 有名人なの?」

「有名と言えば有名ですけど、人じゃないですよ?」

 

それからティーダに口裂け女について説明すると、妙に納得が言ったのかウンウン頷いていた。

 

「なるほど。つまり、あなたはマスクを取ってその裂けた口で僕たちを驚かすつもりだったんですね?」

「はい、そうです」

 

真顔で事情聴取のようなやり取りを始めたティーダに、口裂け女も面食らったようで、ハキハキした喋りだったのにさっきまでのオドオドした喋り方に戻った。

まぁ、元々俺達はこの為にきたんだしな。

 

「実は、ここのキャンプ場の利用客から川の上流に不審者が出たと相談があり、僕と健人君が調査に来たんですよ」

「はぁ、不審者ですか? 私は見かけていませんね」

 

こいつは天然なのかわざとなのか。

 

「いやいや、あなたがその不審者だから」

 

思わず突っ込んでしまった。

 

「えーっ!? 私のどこが不審者なんですか!? 口裂け女だからって差別ですよ、それ」

「そもそも全身包帯まみれなのに不審者なわけないでしょ! というか、口裂け女って時点で不審者!」

「あーそういえばそうですね。私、恥ずかしがり屋なものでして。見られるの恥ずかしいから、透明人間ちゃんに包帯もらって隠してきたんですよ」

 

もうツッコミ所が多すぎる。

 

「そもそもなんでこんなところにいるんですか? キャンプ場があるとはいえ、人来ないでしょここ?」

 

というか、ここ日本どころか地球ですらないんだが。

 

「えっと、ですね。もう日本じゃ私の事知らない人多くて、私綺麗? って、聞いてもスルーされる事が多くなって。子供に話しかけようとしただけで警察が来たり……」

 

マスク姿の女性にいきなり話しかけられたら不審がるご時勢だもんな。世知辛い。

 

「それでどこか新天地を探して旅をしていたら、いつの間にかここにたどり着いたんです。で、せっかくなのでここで人を驚かそうかと」

 

次元漂流者かな。いや、でも彼女は人間じゃないし、何が起きても不思議じゃないかな。

 

「私、人見知りなので出来れば人が多くないところがいいなーって思ってたんですよ」

 

うん、ツッコミを放棄しよう。

 

「裂けた口が売りなのに、そんな口まで包帯巻いてたら驚かす事なんて出来ないでしょ?」

 

裂けた口が売りってティーダ。彼女、芸人じゃないんだから。

 

「うぅ、やっぱり包帯取らなきゃダメでしょうか?」

「ダメ、というかなんというか……」

 

なんで俺達にそれを聞くかな。

 

「仕方ないですよね」

 

そういって口裂け女はいそいそと顔に巻いた包帯を取り始めた。

ティーダと2人どうしようかと顔を見合わせたが、ここは黙って待っていてあげようという事になった。

やがて口裂け女の顔から包帯が取れて、その下からは裂けた口以外は至って普通の女子大生みたいな顔が現れた。

思ってたより若いね。

 

「えーっと、コホン、で、では改めまして……私って、綺麗ですか?」

「「………」」

 

そこは相変わらず自信なさげかい。

いや、そうじゃなくて手順が色々おかしいから。

口裂け女の事をよく知らないティーダも無言になってしまうほど、何とも言えない空気が流れた。

 

「あれ? どうかしましたか?」

「いや、どうしたもこうしたも……マスク外したまま言われても。せめてマスク付け直さないんですか?」

「えっ? あ、あぁー! わ、忘れてました! も、もう1度やり直させてください」

 

改めて口裂け女はマスクを付け直した。

ぐだぐだだなー

 

「で、では……コホン、私って、綺麗でしょうか?」

「「普通です」」

「Σ(゚д゚lll)……で、でしたら、これでも綺麗、でしょうか?」

 

口裂け女はマスクを外して、裂けた口で精いっぱいの笑みを浮かべた。

 

「「いえ、普通です」」

「これでも普通ですか!?」

 

俺達の淡白な反応に、驚かすはずの口裂け女が逆に目を丸くしてビックリしている。

いや、確かに普通なら口裂けて怖いのだろうけど、俺もティーダも色々見なれてるから特には怖いと思わないな。

数日前にゾンビゲームでもっとグロいの撃ったり、ホラーハウスで首なしとか見たばっかりだし。

 

「うーん、別に綺麗じゃないわけじゃないんだけど」

 

ホント、普通な顔してるんだよな。

ここは綺麗です。って言えば良かったかな。

でも、クイントさんとかナンバーズとか、綺麗な人沢山いるから目が肥えたかな?

 

――ケントサマー

 

――ゾクッ!

 

うっ、なんか寒気がしたぞ。気のせいかな?

 

「健人君の周りには綺麗な人沢山いるものね」

「ですね、クイントさんとか。でも、ティーダさんだって、昼間に会った二乃さんの方が綺麗ですもんねー?」

「ぐっ!? い、言うねぇ健人君」

 

俺をからかおうとするから反撃したのだが、これはティーダ、二乃に本気で惚れてるかな?

 

「はぁ……そうですか、私が驚かれないのは普通な顔だったからなんですね」

「それだけが原因じゃない気がするんだけど」

「いえ、慰めてくれなくていいんです。ちょっと自分でも普通の顔だなーって思ってたんで。でも、ありがとうございました……」

 

苦笑いを浮かべながら口裂け女はスーッと溶け込むように消えてしまった。

残された俺達は、何とも言えない空気のまま、無言でキャンプへ戻った。

クイントさんやゲンヤさんから何があったか聞かれたけど、何も答えずそのまま寝た。

 

 

それから数年後、このキャンプ場ではとてもきれいな女性の幽霊が出ると噂になり、有名な心霊スポット化したのだけど。

その幽霊が口裂け女の整形した姿だと知った時は、色々な意味で心底驚いたのだった。

 

 

続く




なんでこんなのが今年最初の更新なんだろ(爆)

さて、キャンプ編も終わり、次回からまた舞台が地球へと戻ります。
やっとなのは達のヒロイン話……になればいいなー(トオイメ

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