結局その日は動物エリアはいかず、翌日行くことになった。
俺達の食べるペースに巻き込まれて、普段以上に大食いしたゲンヤさんが倒れたからだ。
仕方なく早めにホテルに戻って休養となった。
ティーダとティアナも少し食べ過ぎたみたいだったしな。
今は2人そろって隣の部屋で休んでいる。
「す、すまねぇなぁ」
「それはいいっこなしだよ、おとっつあん」
「なんですかその三文芝居は」
まるでどっかの時代劇コントみたいだ。
「この前見た地球の番組でこんなやり取りあって面白そうだったからつい、ね」
「色白の有名なお殿様が結構ツボにはまってな。ギンガとスバルも大笑いしてたぞ」
「バカ殿! バカ殿!」
「アイーン!」
と思ってたらホントにそうだったよ!
しかも、ギンガとスバルまではまっちゃったんかい!
「DVD、はやてちゃんから貰ったのよ」
「やっぱりかい、あの関西人!」
お笑いと言えばはやてしか浮かばなかったよ。
なのはだったら驚きだったけどね。
「アリシアお姉ちゃんからはドリフってDVD貰ったよー」
「まさかのアリシア……」
頼むからうちの可愛い義妹達を変に染めないでくれよ……
まぁ、はやて達が染めなくてもスカさん達から影響受けまくりそうだけど。
そして、翌日、4日目の朝を迎えた。
一週間とは言ったが、明日には別の場所でキャンプをすることになっているので実質的にランドは今日が最終日だ。
今日回るのは最後のエリア、アニマルランドだ。
ここには各次元世界のいろいろな動物が集まっている。
水族館や小動物と触れ合える広場、地下に広がり恐竜ほどの巨大動物をバスに乗って見るコーナーもある。
まずは触れ合い広場にやってきたのだが、気が付いたらクイントさんの姿がなかった。
「あれ? クイントさんは?」
「あぁ、あいつなら、ほれあそこだ」
苦笑いを浮かべながらゲンヤさんが指さした先には……
「うわっ、この子可愛い。あっ、こっちの子もふわふわしてて気持ちいいわねぇ」
目をキラキラさせてウサギやタヌキっぽい小動物と戯れるクイントさんの姿があった。
いや、訂正。目をキラキラ、ではなく、ギラギラさせている。
いかにクイントさんが美人でも、あそこまでギラついていたら、周りにいる他のお客達はドン引きするか、見て見ぬふりをしている。
動物達もその迫力にビビッて……はいなかった。
寧ろ積極的にクイントさんの元に駆け寄ってくるものまでいる。
そのうちの1匹のしっぽが3本ある猫のような動物と目があった気がした。
――フッ、伊達に可愛い癒し動物やってんじゃないんですよ、旦那。
その猫は言葉は話さなかったが、その眼は今まで数多くの動物園で様々な種類のお客をその身1つで癒してきた歴戦の勇士にも似たプライドと自信が垣間見えた気がした。
ちょっと感動。
「こうなるとはわかっていはいたが、ああなったクイントはしばらく止まらないぞ。さて、お前たちはどうする? ここでしばらく遊んでいくか?」
「うーん、もっといろいろなお魚さん見たい!」
「うん、私も水族館がいい! ティアナちゃんは?」
「わ、私も水族館いきたい」
ちびっ子3人は水族館がお望みのようだけど、しっかりとクイントさんに背を向け、視界に入れないようにしてるのはバレバレだぞ。
ティアナなんて少しおびえちゃってるし!
かくいう俺も、今のクイントさんの傍で動物と遊ぶ勇気はない。
「じゃ、俺はクイントとここに残ってるから、悪いがこの子達頼めるか、ティーダ?」
「えぇ、いいですよ。お二人でゆっくりしてください。じゃ、行こうか、みんな」
こうして、監視……付添としてゲンヤさんが残り、俺達はティーダに連れられて水族館へとやってきた。
チンクの話だと、ここでもナンバーズがバイトしてるんだったな。
昨日はセインの人魚姿見られたけど、また人魚になってたりするのかな。
結構似合ってて綺麗だったからまた見たいなーと水族館の中に入って行くと……
「いらっしゃー……い“!?」
なんとそこに待っていたのは、入口でちびっ子達に風船を配るどっかで見たことある魚の着ぐるみを着たセインだった。
彼女は魚の口から出た顔をこっちに向けると、昨日同様そのまま固まった。
「あ、コ◎キングだコ◎キング!」
スバルが一目散に〇イキングに駆け寄ると、セインはすぐに再起動しスバルに魚の姿をした風船を渡した。
切り替えの早さは流石プロだな。
てか、スバルよ。目の前のコイキ〇グは、お前が憧れるナンバーズの1人だって気付いてないのか。
ギンガとティアナにも順番に風船を渡し、俺の番になるとコイキングがずずいっと迫ってきた。
着ぐるみとはいえ、口開けた魚が真正面から迫ってくるのはなかなかに怖いな。
しかも、その口の中には真顔のセインがいて、迫力満点だ。
「なんでお前達が今日来るんだよ」
コイキ〇グに食われそうなくらい密着すると、セインは小声で文句を言ってきた。
てか距離近い!
「なんでって言われても、今日はアニマルランド巡りだからここに来たんだけど?」
「そうじゃなくて、なんで寄りにもよって今日なんだよ! 昨日だったら人魚役だったのに、てか昨日来るって言うから……ブツブツ」
えっと、これはアレか? 昨日来ると思ってスタンバってました的な奴か?
「あー待たせたようでごめんな。昨日はあれからホテルに戻って休んでたんだよ」
「べっ、別に待ってなんか! ただ昨日ならまだしも、今日は着ぐるみ役だから見られたくなかったんだよ」
えっ? なにこのセイン。いつにもまして可愛い。
ただコイキン〇の着ぐるみを着てるのがマイナスなんだよな。
「あぁ~! お兄ちゃんがコ〇キングに食われてる!」
「ははっ、大丈夫だよ、スバルちゃん。あれはコイ〇ングが歓迎のキスしてるだけだよ。健人君はモテモテだね」
ティーダー!? お前何余計な事言ってるの!?
いや、確かにそう見えるだろうけども!
「……キッ、キスゥ~!?」
やっとセインが俺とほぼ密着してるこの状況に気づき、顔を真っ赤にして俺を放そうと暴れだした。
「ちょっ! セイン、暴れるなって! 抜けない!」
俺を口に加えたまま暴れるコイキン〇。
これじゃ、俺が益々コイキングに踊り食いされてるように見えちゃう!
その時、両足を誰かに掴まれ、一気に引き抜かれた。
――スポンッ!
「大丈夫? 兄さん?」
助けてくれたのはギンガだった、のだが。
「あ、アリガトウギンガ……」
最近分かったことがある。ギンガが俺を兄さんと呼ぶ時は、大抵目からハイライトが消えてて怖いという事だ。
「あれがタイプゼロ・ファースト、怖いな」
シリアス顔で言ってもその恰好で台無しだぞ、セイン。
セインからもうすぐイルカショーが行われると聞き、館内を見るより先にイルカショーを楽しむ事にした。
結構な大人数が詰めかけていたが、幸いな事にすぐにいい場所に座ることができた。
「ここのイルカは地球産らしくショーも地球のを真似したようだけど、健人君はイルカショーは初めてかな?」
「はい。水族館も初めてです」
「それは良かった。かくいう僕も少しワクワクしてるんだ」
ギンガ達はもちろん、ティーダもイルカショーが楽しみだったようだ。
――それでは、これからイルカのリース君による、ショーが始まります。
ワーパチパチ!
場内アナウンスと共に、ステージ中央に水で出来た巨大な球が現れた。
――キューイ♪
水球の中から鳴き声と共に、イルカが勢い良く飛び出してきて、客席向けて泳いできた。
「えっ? 空を泳いでるの?」
「いや、よく見てご覧ティアナ。イルカの周りを水が覆ってるでしょ? 魔法でイルカの道を作ってるんだよ、細かいなぁ」
ティーダが言うように、水球から現れたリース君の道を作るようにウォーターコースターのように水が流れている。
昨日、レストランの室内を泳いだ時と同じように、客席の周りをぐるぐる泳いでいる。
「リース!」
突然、ステージに響き渡る声と共に、水球が弾けて中から水着姿の、クアットロが出てきた。
ただ昨日同様、狐のような獣耳としっぽを付けて、パラソル片手に某メリー〇ピンズ見たく空中をふわふわと待っていた。
そこへ空中を泳いでいたリース君が駆け寄って、クアットロならぬ玉ットロがその背に乗った。
と、同時に壮大なBGMが流れ出した。
「そーれ!」
玉ットロがいつの間にか手に持っていた、輪をいくつも空中に放った。
放たれた輪は、大きく広がりそれぞれ様々な色に輝きだした。
それと同時にステージ全体が薄暗くなり始めた。
玉ットロを背に載せたリース君は空中に光り輝く輪の中を次々とくぐり抜けていく。
その度に客席からは歓声と拍手が巻き起こる。
てか、イルカショーってこういうもんだっけ?
生前、テレビで見ていたのとはかなり違う。
空中を泳ぐイルカと、その背に立っている水着〇藻なクアットロ。
魔法と変態の技術が組み合わさればこんな風になるか。
「これはまたずいぶんと凝った演出だ」
「すっごーい、きれい……」
ギンガやティアナ達はすっかりステージに魅了されている。
まぁ、彼女達が楽しそうならそれでいっか。
俺もこの光景に目を奪われてるしな。
続く
ホントは水着ジャンヌのコスをさせたかったけど、リリカル世界に坂本ボイスな人いませんもんねぇ……
さて、そろそろランド編も次回で終わり、キャンプ編の後ドキドキ入学編です。