PC復活やら身内の不幸やらで年末ぎりぎりになりました!
しかも、本編ではなくシリアスなIF最終決戦です。
34話でぐだぐだ粒子が消滅するとこのルートになります(笑)
「はぁ、はぁ……っ、はぁ」
乱れた息をどうにか整えながら、周りを見渡す。
もう、俺とジークしか残っていない。
「……大丈夫? 健人君?」
俺を守るようにして前に立つジーク。
彼女も全身ボロボロで、両の手甲は骨ごと砕けていて拳を握るのも満足にできていない。
かくいう俺もシェルブリットはほぼ全壊状態で、魔力もほとんど残っていない。
あのこなた神からもらった力も、スカさん達に作ってもらったデバイスも今や完全に無力だ。
全ては、あいつのせいだ。
「うふふっ、どうですか健人様? そろそろ降参しない?」
次元震の影響で雷鳴が轟き血のように紅く染まった空をバックに、妖美なオーラを纏い悠然とこちらを見下ろす金髪の女性。
彼女の名は、砕けえぬ闇、U-D。
その姿は俺が知るユーリ・エーベルヴァインよりもずっと年上な大人の姿で、3対6枚の赤紫色の翼がある。
全身には紅い稲妻のような刺青が走っていて、とてもイノセントのユーリとは思えない。
全ては俺達がリリィの案内でこの世界へ来て、マテリアルズやキリエと戦闘した直後に起きた。
今回の事件の全てをキリエから聞いた直後、突然マテリアルズとキリエが何かに吸収されて消滅し、現れたのがU-Dだった。
U-Dは話す間もなく俺達に、正確には俺以外の全員に襲いかかってきた。
応戦したなのは達だったが、あらゆる魔法が彼女の前では無力だった。
なのは、フェイト、はやてのトリプルブレイカーも、ジークのエレミアの神髄も、トーマのディバイドゼロ・エクリプスも全く効果なし。
そればかりか、惑星への悪影響も覚悟の上で何とか放ったアースラのアルカンシェルすらも彼女には効かなかった。
そして……なのは達までもが、U-Dに吸収された。
残ったのは俺と、たまたま近くにいたジークだけだった。
アースラはU-Dの攻撃で墜落した。
奇跡的にリンディ艦長たちは無事だったが、とてもこちらに応援に来れる怪我ではなかった。
更に、U-Dはこの次元世界に結界を張り、周辺世界や本局への通信、転移もできなくされた。
おまけになのは達を吸収した事で、U-Dの魔力はさらに膨大になり、次元震すら起こすほどで、この次元世界が崩壊するのも時間の問題だ。
まさに、絶体絶命。
「……はっ。降参? 降参すればどうなるっていうんだ?」
「もちろん、すぐにあなたを連れてどこか遠い世界に避難するだけ。この世界はもうすぐ崩壊するもの」
「ジークや、なのは達は解放してくれるのか?」
「するわけない。必要なのは健人様1人。そこの女も強いから吸収する」
こいつ、狂っているにもほどがある。
「ははっ、私を吸収したらお腹壊すよ?」
「なら殺す」
U-Dが右手をあげると、ジークの周りに数百個もの赤黒いダガーが現れた。
これは、ブラッディダガー!?
「ジーク!」
とっさにジークをかばうように抱き着いた。。
「健人君っ!?」
「ちっ」
ダガーは俺達の寸前、ほんの数ミリの所で止まっていた。
こうなると分かっていたわけじゃないけど、ともかく助かった。
「どいてください健人様」
「断る!」
「離れて健人君! U-Dは君を殺さない。だから、健人君だけでも……」
「いやだ! 絶対にいやだ!」
ジークは、せめて俺だけでも助けようとしている。
でも、俺だけ助かっても意味はないんだ。
「なぜです、健人様? あなたには私がいるじゃないですか。それとも私よりもその女が好きとでも?」
「……いいや、そうじゃない。ジークだけじゃない、俺はなのはもフェイトもはやてもみんな、みんな大好きだ!」
この1年近くの出来事が次々と頭に浮かんでくる。
これが、走馬灯か。前に死んだ時はこんなのなくて、あっけなく気づいたら死んでたもんな。
産まれた世界で死んで、こなた神に力をもらって9歳になって生き返り、この世界に来てプレシアと激突した事。
目が覚めたらアースラにいて、たまたまアリシアの着替えを覗いてアルフに追いかけられた事。
なのはやフェイト達と友達になり、スカさん達の秘密基地に飛ばされて数か月過ごした事。
その間にクアットロやチンク達ナンバーズと家族のように過ごした事。
スカさんにシェルブリットという相棒を作ってもらった事。
今度は地球に飛ばされてはやて達とも友達になった事
それからさらに地上本部に飛ばされて、クイントさんに預けられて、ギンガとスバルに兄のように懐かれた事。
闇の書事件が起きて、リインフォースを助けた事。
今回の事件で、ジークやヴィヴィオ達とも友達になれた事。
マテリアルズ達が変に騒ぎを起こして頭や胃が痛くなった事。
他にも楽しい事やつらい事、色々あったけどその全てが、俺の大切な思い出だ。
「俺はさ、わがままなんだよ。なのはがいないとダメ、フェイトもはやてもクイントさんやギンガ達、みんな、みんな大好きだからいないとダメなんだよ!」
「健人君……」
「この世界に来てから沢山の人に出会って、色々な事があったけど、楽しかった! つらい事もあったけど、みんながいたから楽しかった!」
気が付けば、俺は涙を流していた。
「……何が言いたいのですか?」
U-Dは、さっきまでよりももっと声が冷たくなった。
殺気の籠った目で俺を睨んでくる。
でも、怖くはない。
「みんながいない世界なんて意味がないんだ! 俺だけ助かっても、そこにみんながいなかったら死んだ方がマシだ!」
「そう、そうですか。そこまで言いますか……だったら、一緒に死ね」
U-Dの声がさらに冷たくなり、さっきまで俺を愛しげに見つめていた目に憎しみと怒りと、殺意の炎が見えた。
「あぁ、死ぬかもな……けど、その代わりにみんなを助ける!」
「っ!? 健人君、何をするつもりや!?」
「シェルブリット! まだ動けるな? アレを使うぞ」
<……ガッ……し…ぬ、きか、ますたー?>
もうシェルブリットはボロボロでまともに返事もできないが、わずかでも動いているのなら、発動できる。
これはスカさんが、デバイスが機能不全になるほど追いつめられた時の為にと作ってくれた、正真正銘最後の手だ。
でも、これを使うという事は体にどんな反動が来るか分からないとも言われた。
なんでそんな物騒な機能付けた! と後でウーノやクアットロがスカさんを袋叩きにしたけど、それは実は俺が頼んだ機能だ。
「このままじゃ、みんな死んじゃうんだ。それだけは死んでも嫌だ!」
<……りょ、うかい、さいご、ま、で、付き合うぜ……マスター!>
「やめっ、やめるんや健人君!」
最後にジークに微笑み、俺は切り札を発動させた。
「オーバードライブ……」
<アルティメットブラスター>
「ぐっ、ああぁぁぁ~~!!!」
俺の中で、魔力が爆発した。
アルティメットブラスター、それは俺の中に眠っている魔力を強制解放させるモード。
スカさんが俺を調べた時、俺のリンカーコアの奥底にとんでもない潜在魔力が眠っているのが分かった。
ただし、あまりにも強すぎてリミッターを無意識に掛けていると言っていた。
本当は無意識ではなく、こなた神の処置だと思ったがどっちでもよかった。
体をもっと鍛えて成長すれば、徐々に使いこなせる力だったけど、それを強制的に発動できるようにしてもらった。
なぜか分からないけど、必要になってくる予感があの時はした。
でも、まさかこんな形ですぐに使う事になるとは思ってなかったけど。
「な、なんなの、この魔力!」
U-Dが妨害しようと魔法を繰り出してくるが、全て膨大な魔力が発する防壁に弾かれた。
俺やなのは達の魔法を防がれた時とは立場が真逆だな。
「まだ、まだだ……もっと、もっと輝けぇ~!!」
俺の体から噴き上がった膨大な黄金の魔力は、そのまま柱となってU-Dが張った結界を貫き、この世界を崩壊させていた次元震をも抑え込んでいった。
「ば、ばかな……」
「健人君、すごい……えっ?」
黄金の柱が徐々に収まると、そこにいたのはさっきまでの俺ではなかった。
崩れ落ちかけていた両手足の装甲は完全に修復され、そればかりか巨大化していた。
全身を金色の装甲が覆い、フェイスマスクも追加され頭をすっぽり覆う紅い鬣のような兜もついた。
見た目はスクライドのシェルブリット最終形態だ。
ここまでは予想通りだったが、予想外の事も起きた。
「……俺、成長してる?」
元々18歳で死んでこなた神のせいで、9歳まで縮んでしまっていたが、今は元の18歳の時の姿に戻っている。
更には、病気のせいでやせ細っていた生前と違い、全身に筋肉がバランスよくついている。
これは、こなた神のプレゼントかな?
ためしに手足を軽く動かしたが、まるで羽のように軽く、風圧だけで岩が砕けたほどだ。
これなら、いける。
「U-D、みんなを返してもらうぞ」
「何を、うごっ!?」
一瞬でU-Dの眼前まで接近し、拳を叩きこんだ。
女の子を殴るのは躊躇いがあるけど、今はそんな場合じゃない。
それに叩き込んでいるのは主に魔力ダメージだし。
吸収されたなのは達助けるには、膨大な魔力をU-Dにぶつけて吹き飛ばすしかない。
なぜか頭にその解決策が浮かんだ。
「時間はかけない。一気に行くぜ! オラオラオラオラッ!」
両手にありったけの魔力を集中させて、U-Dに反撃の隙を与えない程の、強烈なラッシュを叩きこむ。
「あがっ、がっ、ば、ばか……な」
拳を叩きこむ度、U-Dの体から魔力が漏れ出して俺の両手に吸い込まれていく事に気が付いた。
「この魔力は、なのは、はやて、フェイト、みんな!」
それは吸収されたみんなの魔力だった。
U-Dの体からあふれ出してきたのかと思ったが、違った。
魔力と共に、みんなの声が聞こえてきた。
『がんばって、健人君!』
『私の魔力を使って!』
『でも、死んだからあかんで!』
『我らの魔力も使え!』
『けんちゃん、やっちゃえぇ~!』
力をくれるのは、なのはやヴィヴィオ達だけじゃない。
ディアーチェ達も俺に力をくれている。
「健人君……私のも!」
ジークも俺に向けて手をのばし、魔力を送ってくれている。
もうほとんど魔力が残っていないのに無茶をする。
これは、ホントに早く決めないとな。
「……はぐっ、あぁ……うぁ、けんと、さま」
U-Dは、瞬間移動で俺から離れた。
その表情はさっきとは打って変わって涙を流し、沈痛な面持ちだ。
「……健人様、健人様健人様健人様ぁ!!」
流す涙が血の涙へと変わっていく。
U-Dは、両手を掲げアースラよりも巨大な杭を生み出した。
この世界ごと俺を消し飛ばす気らしいな。
いや、自分も一緒に死ぬ気のようだ。
「みんな、ありがとう……行くぜ!」
「『『『(うん・えぇ・おぉ)!』』』」
両手の装甲カバーが開き、そこからみんなの魔力がどんどん吸収されていく。
みんなの魔力を纏った拳の輝きは、黄金から虹色へと変化していった。
「あぁ、あたたかい……」
みんなの暖かい魔力と声援に包まれる。
この暖かさに、俺は何度救われたか分からない。
だから、今度は俺がみんなを救う番だ。
両手を腰に構えて、両足にも魔力を集束させる。
「……一緒に死んで、健人様?」
「いいや、お前は死なないさ。ちょっときつめのお仕置きは受けてもらうけどな! さぁ、覚悟しろ。これが俺の、俺達の、自慢の拳だぁ~!!」
「けんと、さまぁ~~!!」
U-Dが投げた巨大な杭と俺の虹色の拳が激突した。
拮抗したのは1秒にも満たないほんの一瞬。
巨大な杭は、虹色の拳に簡単に砕かれた。
「どう……して?」
「簡単なことだ。みんなから奪った力でお前が1人で作り出した杭に、みんなが分けてくれた力が籠ったこの拳が負けるはずがない!」
虹色の拳がU-Dの身体に突き刺さり、眩しい光があふれ出した。
「あぁ、そうですね……それでこそ、健人様」
U-Dは、俺の知るユーリの姿になり、笑顔を浮かべて虹色の奔流に飲み込まれた。
と、同時に奔流から次々と人影が飛び出してくるのが見えた。
それはU-Dに吸収されたなのは達だった。
「あぁ、みんな……よかった」
なのは達だけではなく、ディアーチェやキリエ達も出てくるのを確認して、俺の意識は途切れた。
はい、IFルートです。
これ、まだ続きますがひとまず本編に戻ります。
今年最後の更新がIFか……
来年こそは完結させたいなー
では、みなさんよいお年を!
えっ?栗酢鱒?それ、どんな鱒ですか?