目が覚めると、俺はベットに寝かされていた。
ここはどっかの医務室のようで、周りには誰もいない。
「さっきのは夢、じゃないよな……っ!?」
いきなり頭痛がして頭を抑えると、時の庭園でプレシアにぶつかった時に出来たコブがあった。
「つ、ついにでこれも治してくれればよかったのに、あの駄神」
と思っているとすぐに痛みが消えて、コブも引っ込んだ。
どうやら自然治癒力も高まっているようだ。
さて、気を取り直して、自称神様に言われた通りなら、ここはリリカルなのはの世界でアースラの中のはずだ。
ベットから起き上がり自分の体を改めて見渡してみる。
「おぉ、ほどほどに筋肉付いてる! 体が軽い!」
両手を振り回したり、その場でジャンプすると自分の体じゃないと思うほど動きが軽やかだった。
身長も縮んでいたけど、それはこれからまた成長するからいっか。
「確かリンカーコアもついて空も飛べると言ってたけど、どうやって使うんだ?」
試しに右手を翳して力を籠めても、ふんばってみせても何も起こらない。
ただ、自分の体に今までにない強い力があるのは感じるからこれから訓練次第だな。
「魔力の使い方教わればよかった……」
こ、これから、頑張って訓練すれば……誰に教わって?
「……なのはやフェイトに教わるのもアレだし。リンディ艦長教えてくれないかなぁ」
ユーノやクロノは声が声だから、今のうちにはまだ会いたくないと言うのが本音。
ってそんな事言ってられないけどさ。
「ところで、何で無人? しかも誰も来る気配ないし」
アースラって医療スタッフいないのか?
医療ポットとかで全自動で治せるから専門医は必要なし! なわけないか。
「どっか出てるのかもしれないけど、黙って待ってるのは退屈だな」
せっかく自由に動けるんだし、リリカルなのはの世界に来たんだ、探検するっきゃない!
そうと決まれば、こんな所で寝ている場合じゃない!
「……さて、どっちに行こうかな」
医務室を出て、アースラの廊下を適当に進む。
艦長室とかブリッジとか人がいる所に出れればいいけど、まさか迷子にならないよな。
「なんて思ってた時が俺にもありました」
ただいま絶賛迷子中。
おかしいな、人の声がする方する方に歩いてきたはずなのに。
艦内案内板らしきものがある。けど、読めない!
適当に部屋に入ろうとしてもロックかかってて入れない!
すみませーん! 誰かいませんかー! と、叫ぶのはなんか負けた気がするから最終手段だ。
「不審人物が艦内ウロウロしてるんだけど、なんで誰も来ないかな?」
でも、駄神様からもらった特典のおかげで、これだけ歩いても全く疲れないのは良いな。
「昔はロクに走れもしなかったからなぁ……って、人の声?」
どこからか声が聞こえてきた。すぐ横にある見た目は普通の部屋から聞こえてくる。
ドアに聞き耳を立てると中から声が聞こえてきた。
「フェイト、今までごめんなさい……」
「かあさん、かあさん……母さん!」
えっと、これはどうやら中でプレシアとフェイトによる感動の抱擁シーンって所かな。
見てみたい気はするけど、邪魔しちゃ悪い。
そもそもロックかかってて入れないし、他の場所へ行こう。
「ん? 誰かいるのかい?」
「えっ?」
突然誰かの声が聞こえて、ドアが空いた。
寄りかかっていた俺はそのまま部屋の中へと倒れこみ、そして……
――ふにゅん
柔らかいクッションにぶつかった。
初めて味わう柔らかい感触に思わず手を触れる。
――ムニッ
うん、やっぱり柔らかい。
「ひゃうん!?」
「??」
クッションから色っぽい声が聞こえてきた。
まさかと思い、恐る恐る顔をあげると……
「……」
顔を真っ赤にしてこっちを睨みつける犬耳が生えたオレンジ髪の少女と目が合った。
訂正、クッションだと思ったのはこの女性の胸でした。
この人誰だっけかな……確か、アルフだっけ?
ともかくこの状況はヤバすぎるので、ひとまず挨拶して場を和ませる事にしよう。
「……ど、どうも~迷子で~っす」
「こ、こんのぉ~、私の胸から離れろ~!!」
挨拶作戦、失敗。
「ご、ごめんなさ~い!」
怒り狂った猛犬から全力全開で逃走開始!
猛犬の後ろで、プレシアとフェイトがポカーンとしているのがなんか笑えた。
猛る猛犬ことアルフからどうにかこうにか逃げられた。
途中、数人の管理局員っぽい人とすれ違ったけど、誰もかれもが何事かと固まっただけで特にコンタクトなし。
リリカルなのはキャラのファーストコンタクトが俺の知らないキャラ、アルフとは……なのは、とは言わなくてもせめてフェイトがよかったな。
あ、ファーストコンタクトはプレシアか。ロケット頭突きかましただけだけど。
「はぁはぁはぁ……ま、全く、トんでもない目にあった」
自業自得な気がしないでもないけど、アレは事故だ事故。
「ん、待てよ。あれが世に言うラッキースケベと言う奴か! おぉそうかそうか、アレがそうだったのか!」
と謎の感動に浸る。
しかし、アルフは使い魔だけど格闘戦向きで身体能力も高いはず。
それなのに追いかけっこで捕まりもせず逃げ切れた俺って、何気にすごい?
「こなた神のおかげか。一応感謝しよう」
感謝の印に駄神からこなた神へランクアップだ。
「さて、いい加減に誰かに会ってちゃんと話がしたいんだけど……ここどこだろ?」
また迷ったようだ。
おかしいな。アースラってこんなにでかくて迷いやすい船だっけ?
「ま、自分の家の近所以外か病院以外ロクに歩き回った事ないから、方向感覚がおかしくても仕方ない、か」
さてはて、ここからどうしようか。
幸いさっきの騒ぎを結構目撃されてるからここにいれば誰かが来てくれると思うけど。
「ん~こっちから匂うぞ?」
げげっ!? 誰かとは言ったけど、よりにもよって猛犬がきやがった!?
どうしようどうしよう……よしっ、全力全開土下座だ!
「その前に……悪あがきしようか」
近くにあった少し大きめのドアに手をかける。
ここが開かなかったら、諦めよう。
「神様、仏様~……いや、仏様だけでいい!」
一瞬頭にこなた神が満面の笑みを浮かべてきた。
――プシュッ
「おっ、開い……た」
仏様だけに願ったのが功を奏したのか、ドアはあっさり開いた。
開いたが……中にいたのは。
「えっ、君は…」
「……へっ?」
女性看護師らしき人と、その女性に上着を脱がされてたと思われる上半身裸の金髪美少女。
「キャッ……キャアァァ~!?」
「なんでだー!?」
なんでこういうイベントばっか!? これも駄神のせいか!?
と、ともかくあの子の裸を見ないように、後ろを向かないと
「よしっ、これで……「おしり~!?」……あ、さっきの猛犬の攻撃で」
アルフにチェーンのようなものを投げられて、うまく避けられたけどお尻が少し掠ったんだった。
で、服が裂けてお尻がベロンと丸見え。
今少女に向けて背中を見せている。
少女に俺のお尻が丸見え……
「イィ~ヤァ~!」
「ちょっとそれ私のセリフ! なんで裸見られた奴のお尻を見なきゃならないのよ!」
「……喧嘩両成敗? 見てしまったのだから、見せてしまえばいい?」
「そんなの、ただの私の二重苦だぁ!」
ごもっとも
「ア、アリシアちゃん。まずは服を着て服を!」
「はっ!? 見るなぁ! ……尻向けるなぁ!」
「そんな、どうしろと?」
「目をつぶればいいでしょ!」
あ、そっか。
「ここかぁ!」
猛犬までやってきたー! 考えてみれば部屋に逃げ込む程度じゃ逃げ場なくすだけだった!
「ってなんであんた尻丸出し何だよ!」
「そりゃお前のせいだぁ!」
くそぉ、こんな事になったのもあのこなた神、もとい駄神のせいだぁ!!
――私、迷子属性もラッキースケベ属性もつけてないよ?
何か聞こえた気がしたけど、空耳だよな……
続く
ラッキースケベって憧れますよねぇ(トオイメ