健人の生前話~……前話に含めても良かったかなー?
俺は生まれつき身体が弱かった。
色々な病気にもかかって、手術もした。
そんなんだから外で遊ぶ事なんて出来るわけもなかった。
小学校や中学校にも進学はしたけど、まともに授業を受けた記憶はあまりない。
保健室でテストを受けたり、家で家庭教師の先生に勉強を教わったくらいだ。
公園で元気に遊んでいる子達を見て、混ざりたいと言って母さんを困らせてたっけ。
――いつかきっと、みんなと遊べるからね。
家族は母さんと1つ下の妹、奈々だけ。
父さんは奈々が生まれて少しして事故で亡くなった。
遺されたのは俺達3人と、父さんが設計した一軒家と多額のお金。
父さんも母さんも仕事上、結構な収入がありお金に不自由した事はなかった。
病院では特別な個室が用意されていて、色々な本やテレビなどが置かれていた。
外へは遊びに行けず、運動も出来ない俺がネットをするのが日課になった。
たまに学校に行っても、変な目で見られるか無視されるかばかりで友達なんて出来なかった。
そんな俺が病院内で同じような子達やネットの中で友達をたくさん作った。
その友達の影響で色々な漫画やアニメ、ゲームにハマった。
外を見ると、楽しく登下校をしたり遊んだりする子達が溢れていて辛くなって、パソコンにばかり目を向けるようになった。
――ぼく、今日で退院なんだ。
――そっか……おめでとう。
そういう会話も何度もしていって、いつしか別れに慣れてしまって悲しくなったりする事がなくなった。
母さんは仕事が忙しいのによく見舞いに来てくれて、奈々も毎日学校帰りに来てくれたのは嬉しかった。
――お兄ちゃん、今日球技大会で私のクラス優勝したよ!
――ほら、庭に
でも、奈々の中学卒業式の帰り道、俺への見舞いに来る途中に2人共交通事故で死んだ。
俺は、家族をみんな亡くしてしまった。
父さんと母さんには親兄弟はいない。
葬儀を終えてすぐの頃、家が火事で全焼した。
幸い、俺は入院していた為何ともなかったけど、家族の思い出の品は病院に持ち込んでいた少し以外全部なくなった。
俺の手元には事故と火事の保険やら慰謝料やら多額のお金と、それ目当てで近づいてくる変なのが増えただけだった。
俺はますますネットやアニメなどにハマって、現実では誰にも心を開かなくなった。
そんな俺を看護師さん達は色々世話してくれて、おかげで少しは笑えるようになった。
で、ある日死んだ。
「いや、ちょっと待てよ! 最後! 最後がものすっごく雑じゃねぇか!?」
涙目のヴィータにつっこまれるけど、こればっかりはなんとも言いにくい事だ。
「仕方ないだろ。普通に寝て、起きたらここにいたんだから。死んだって事くらいしか分かんない」
俺は今、八神家の居間にてリンディ艦長やスカさん達にも話していない俺の生前話をした。
勿論、こなた神に出会ったとかアースラに拾われたとかスカさんとの出会いは話していない。
後、入院中に勧められてハマった一番のがリリカルなのはViVidなのも黙っている。
ま、正直ドン引きされるか信じてもらえないかの二択だったんだが、まさか大号泣祭りになるとは思わなかったわー
はやてやシャマル、ヴィータはともかく意外や意外、シグナムですら涙を拭いてるんだもん。
ザフィーラは相変わらず犬形態のまま、黙って俺の話を聞いてるけど、キリっとした中に暖かさを感じる目は口に以上に語る!
「そっか、健人く、さん……そんな事あったんやな。私の家を見上げて泣いてたのもしょうがないんやね。辛い事話してくれてありがとう。それとごめんな。そんな話させてしもうて」
「健人でいいよ。今の俺、9歳くらいっぽいし。それにもう終わった事だし、今はこうして生きてるから」
正直、死んだ以上に目が覚めたら身体が縮んでいたバーロー状態ってのが一番信じてもらえないと思った。
けど、はやて達はすんなり信じてくれた。
「初めて見かけた時もやけど、やっぱり健人さんは雰囲気もしっかりしてて、とても同い年には見えへんよ?」
リンディ艦長達にはそんな事言われた事ないけどな。
まぁ、なのはやフェイトも9歳に見えないほどしっかりしてたからかな。
「私も同感だ。どこか達観したように見えたのだが、18でそれだけ辛い目にあっていれば納得がいくな」
シグナムもさっきまでの警戒心はどこへやら、今は優しい目になっている。
「それを言うならはやてだってしっかりしてるじゃん。ってかさ、普通こういう話をすんなり信じないと思うんだけど?」
死んで別世界に飛ばされた。とか、気が付いたら若返ってたなんてどこの御伽話だっての。
だから、リンディ艦長達にも言ってなかった。
「うーん、なんでやろな。話してる時の健人さん、泣いてたからやろうな。嘘をついてる人には見えへんよ?」
「それは……どうも」
うわぁ~子供の前で号泣、それも2回もなんて思い出しただけで恥ずかしくなってきた。
穴があったら入りたい……
「これでも私達も色々な人を見てきてから、嘘をついてる人や悪い人は一目で分かるわ。だから、健人君はそういう人じゃない」
「私はまだ完全に信じたわけじゃねぇけどな。まぁ、はやてに危害を加えるわけじゃないって事だけは信じてやるよ」
「ありがとう、シャマル、ヴィータ、ザフィーラもな」
ザフィーラも同じような事を言いたげな目で俺を見上げていた。
「それじゃ、湿っぽい話はここまでや。健人さん、今日はもう遅いしうちで泊まっていきませんか?」
「えっ、そこまで世話になるわけには……」
確かに外を見るともう暗くなっていて、時間も時間だ。
だからと言って女性ばかりの家に泊まるのは、あ、ザフィーラいたか。
「ええって、元々私が引き止めたせいで遅くなったんやし。もっと色々話もしたいんよ」
困ったようにシグナムやシャマルを見たが、2人共笑顔で頷くだけだ。
まぁ、急ぐわけでもないし今から翠屋に行ってもどうしようもない。
ここははやての好意に甘える事にしよう。
「分かった。じゃあ泊まらせてもらうけど、健人さんは止めてくれ。こっちに来てお世話になってる人達にも俺が本当は18だって言ってないんだし」
「そっか、うん、分かった。なら健人君で呼ばせてもらうな。へへっ、初対面の私らに秘密打ち明けてくれてありがとうね」
こうして、今日は八神家にお泊りとなった。
結構遅い時間まではやて達と喋ったりゲームで遊んだりと、かなり楽しかった。
アースラでもフェイトやアリシアと遊んだりはしていたけど、こうやって友達の家で遊ぶのは生まれて初めてだった。
そして、次の日。
朝食を食べて、名残惜しそうな皆に見送られて八神家を後にした。
その際、シグナムから自分達の事は内緒にしてくれと頼まれた。
どうもこのはやて達は、まだなのはやフェイト達と出会う前みたいだし、色々事情があるんだろう。
「さーって、大分予定狂ったけど今度こそ翠屋に行ってなのはに助けてもらおう」
<その前に翠屋ってのがどこにあるのか聞かないとな>
「そうだった」
と言うわけで適当に歩いてコンビニで場所を聞き、翠屋へと向かった。
場所さえ分かれば後はシェルブリットに道のりを調べてもらえる。
同じ海鳴市内とは言え、今いる中浜町と翠屋がある藤見町近くの海鳴商店街とは少し離れているようだ。
だが、ここのお金を持っていないのでバスは使えず、結局徒歩しかない。
体力が有り余っているので疲れる事はないし、せっかくだから散歩がてらにこっちの日本を見て回ろう。
「流石にここら辺は見た事ないな」
八神家周辺は元いた世界と同じ風景だったが、少し離れると違ってきている。
何の因果か八神家周辺だけが同じだったんだろう。
「あーっ、健人君!?」
「んっ? なのは?」
突然誰かに呼ばれて振り向くと、道路の反対側になのはが俺を指さして立っていた。
なのはは俺を見ると一直線に横断歩道を走ってきた。
足速いな。
「健人君、今までどこにいたの!?」
「どこにって、えっ? 何?」
なんでここにいるの? と聞かれるのなら分かるけど、どこにいたのってどういう意味だ?
「昨日、エイミィさんから連絡があったんだよ! 健人君が行方不明で私の所に来てないかって!」
「お、落ちつけなのは。顔が近い近い!」
間近で見るとなのはは可愛いよなぁ、目がくりくりしてるし。
「あっ、ごめんね。でも健人君探してたんだよ?」
「俺を、探していた?」
なのはが言うにはこうだ。
昨日、海鳴市へ飛ばされた時、すぐにドクターブライト、もといスカさんからアースラに連絡が入った。
なぜか俺が海鳴市のどこかに飛ばされたとの事で、アースラからなのはに連絡が入り昨日今日と周囲を探していたらしい。
「そっか、それは迷惑かけたな、ごめん」
「ううん、謝らなくていいよ。健人君が悪いんじゃないんだし、無事でよかった」
なのはは俺の元気そうな姿を見て、心底安心したような顔をした。
フェイト達と違ってそんなに話していないのに、もうここまで心配するなんて……
はやてといい、お人好しが多いんだなここは。
「それで健人君は昨日から今までどこにいたの? どこかに向かってたみたいだけど?」
「翠屋に行こうとしたんだよ。なのはにアースラへ連絡取ってもらおうと思って。昨日は親切な人に泊めてもらったんだよ」
「そうだったんだ。だったら一緒に行こう。お母さんやお父さん達にも紹介したいし」
紹介? 気が早いな!? ってそんなわけないか。
それから翠屋へ向かう最中にこれまでの事を色々話した。
勿論、スカさんの事やはやての事は内緒だ。
……俺、色々な人に秘密にしてる事多いな。
「それにしても健人君って運が良いよね。親切な人に何度も助けてもらうなんて」
「そうだな。ドクターブライトにはデバイスまで作ってもらったし」
「えっ、健人君デバイスあるの!?」
「あぁ、シェルブリットって言うんだ」
周りに誰もいない事を確認して、なのはに左手のブレスレットを見せた。
<よぉ、俺の名はシェルブリットだ。よろしくな!>
「わっ、こ、こちらこそ初めまして、高町なのはです」
突然流暢に話しだしたシェルブリットに面食らったなのはは、思わず敬語で挨拶しペコリとお辞儀までした。
<へぇ、あんたがマスターがよく言ってた高町なのはか、思っていたよりも普通な子供だな>
「あれ? 健人君、私の事何か言っていたの?」
「あ、シェルブリットそれは黙ってろ」
<あぁ、言ってたぜ。なんでも地球には高町なのはっていうトンデモなくめちゃくちゃな魔砲少女がいるって>
シェルブリットに口止めしようとしたが、遅かったようでなのはは何とも言えない表情で固まっていた。
「と、トンでもない、めちゃくちゃな……まほうしょうじょ、それも何だか字が違う気がするの」
「あーいや、ほら、なのはは才能があるから……な?」
「ううん、健人君。私全然気にしてないから大丈夫なの♪」
笑顔が怖いです、流石連邦の、じゃなかった地球の白い悪魔。
結局、翠屋に着くまでなのはは絶対零度の笑顔のままだった。
続く
今の所、はやてが一歩リードな気がしてきたメインヒロイン争い。
しかし、一番メインヒロインにしたいキャラがまだ出てこないし出せない!
とっとと話進めちゃいたい!(笑)