私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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今回で不死鳥の騎士団編終了です。そして大事なお知らせです。
次が最終章です。そして最終章は全て書き終わってから順次更新していこうと思います。
詳しい話は後書きで。

誤字脱字等ありましたらご報告して頂けると助かります。


命とか、思いとか、繋がりとか

 ここはどこだろう。

 私はぐるりと周囲を見回す。

 ああ、そうか。

 私は殺さなければならない。

 生あるものに死を。

 死んだ者には幸運を。

 私はロンドンの街に降り立つと歩いていた老人にナイフを振り下ろした。

 彼に幸運を。

 私は走って逃げていく女性にナイフを突き立てた。

 彼女に幸運を。

 私は机の下に隠れている男性にナイフを突き立てた。

 彼に幸運を。

 私はその横で泣いている子供にナイフを突き立てた。

 君に幸運を。

 さよなら。

 きっと貴方は幸せでしょう。

 きっと私も幸せでしょう。

 

「貴方はそれで幸せなのでしょうね」

 

 私は血に濡れたナイフを片手に声の聞こえた方を見る。

 そこには茶色い髪を腰まで伸ばした少女が立っていた。

 

「私は幸せ。彼らも幸せよ」

 

「そうね。貴方は幸せね。咲夜」

 

 少女はこちらへと歩いてくる。

 私はその少女にナイフを突き立てた。

 彼女に幸運を。

 今日も私の周囲は血に染まる。

 あぁ、いい天気だ————

 

 

 

ああああああああああアアアアアアアアァァァァァッ!!

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっつ!!」

 

 私は体の中に残っている霊力に無理やり魔力を混ぜ合わせ力を練っていく。

 パチュリー様は力を混ぜることはできないと仰っていたがそんなことは気にしない。

 私は左手をポケットの中に突っ込み、懐中時計が壊れそうになるほどのありったけの魔力を注ぎ込んだ。

 懐中時計の針は次第にゆっくりになっていき、動きを止める。

 私はそこから更に力を籠めていく。

 まだ死ぬわけにはいかない。

 ここで終わらせるわけにはいかない。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ——————ッ!!!」

 

 私の咆哮が死の世界へと響く。

 まだアーチの向こう側は見えている。

 今なら戻れる。

 例え戻れなくとも意地でも戻る。

 

「時よ戻れッ!!」

 

 バキンッ! 懐中時計の風防にヒビが入り時計の針が逆向きに動き出す。

 私はそのまま引っ張られるようにアーチの外へと飛び出した。

 

「——ッ!?」

 

 アーチから飛び出るとクラウチとレストレンジの驚愕するような顔が見える。

 どうやら巻き戻ったのは私の体の位置だけらしい。

 だが、アーチから脱出できたならそれでいい。

 私はひび割れた風防に修復呪文をかけるとポケットに仕舞い直した。

 

「お前今自滅して死んだじゃないか!? なんで生きているんだい?」

 

 レストレンジが目を剥く。

 私は肩を竦めた。

 

「さあ? 自分が入って確かめてみれば?」

 

 私の挑発にレストレンジが杖を向ける。

 だがそれをクラウチが制止させた。

 

「奴が来たと知らせが入った。撤退だ」

 

「少し遅かったのう」

 

 私は声がした方に視線を向ける。

 そこにはダンブルドア先生が立っていた。

 それを見た瞬間クラウチとレストレンジは咄嗟にダンブルドア先生と距離を取る。

 私は2人をダンブルドア先生に任せ倒れているトンクスに駆け寄った。

 トンクスは既に虫の息だ。

 腹部から流れ出ている血を必死に手で押さえ、細い呼吸をしている。

 私は結局混ぜ合わせ使うことができなかった魔力を使いトンクスの治療を進めていった。

 そうこうしている間にもダンブルドア先生とクラウチ、レストレンジの戦いの決着がつく。

 ダンブルドア先生はものの3分で2人を倒してしまった。

 

「さて、この2人さえのしてしまえば今日のところはわしらの勝利じゃ。適当に縛ってアズカバンにポイじゃよ」

 

「それはどうかな? ダンブルドア」

 

 背筋が凍るようなと比喩すればいいのだろうか、ヴォルデモートの声が部屋の入り口のところから聞こえてきた。

 私とダンブルドア先生がこちらを振り向くとヴォルデモートが単身で立っていた。

 だがおかしい。

 ヴォルデモートの体は透けており、その場に存在していないようだった。

 どうやら魔法でどこか遠くの光景をこちらに映しているようだ。

 

「トムか。いったいどこにおるのかね。君の大切なお仲間は既にここに伸びておるよ」

 

 ダンブルドア先生が指を打ち鳴らす。

 するとどこからともなく気絶した死喰い人が縄に巻かれた状態で目の前に出現した。

 

「全員残らず捕まったか。情けない」

 

 ヴォルデモートはゴミでも見るような目で死喰い人を見る。

 そしてニヤリと笑った。

 

「だがなダンブルドア、人質を持っているのはお前だけではないと教えておこう」

 

 宙に浮かぶ映像はヴォルデモートではなくその周囲を映す。

 そこにはホグワーツから来た子供たちとブラック、それと帰ってきたのであろう魔法省の役人たちが縄で縛られていた。

 あの様子から察するにハリーとブラックはいち早く子供たちを回収し上の階に上がったが、そこでヴォルデモートに鉢合わせたようだ。

 そして結果は言わずもがなということだろう。

 ファッジ大臣などありえないものを見るような目でヴォルデモートを見ている。

 

「ふむ、困ったのう。トム、ここは一時休戦といかんか? お互い生きておればまた戦う機会もあるじゃろ」

 

 ダンブルドア先生は朗らかに笑うと羊皮紙を折り部屋の外に向けて飛ばす。

 その様子を見てヴォルデモートも同じように羊皮紙を飛ばした。

 

「予言はどうやら失われてしまったらしい。私としてもこれ以上ここに滞在する意味はなくなってしまったわけだ。互いに馬鹿じゃない。ここは一度仕切りなおそう」

 

 数分もしないうちにヴォルデモートが送ってきた羊皮紙をダンブルドア先生が受け取る。

 次の瞬間死喰い人たちが消え、ハリーたちとブラック、魔法省の役人たちに変わった。

 

「先生、今のは?」

 

「昔の戦場で使われた捕虜交換用の魔法じゃよ」

 

 私の質問にダンブルドア先生は答える。

 ハリーはいち早く自分の状況を理解するとダンブルドア先生に食ってかかった。

 

「先生! 逃がして良かったのですか!?」

 

「ハリー、落ち着くのじゃ。あのままでは多数の死者が出た。そのようなことはわしもヴォルデモートも望んではおらん」

 

 私としてはそちらの方が望ましいのだが、と口から出かかるが、私はグッと我慢する。

 ブラックは立ち上がると犬に変身し縄を抜け、拘束されている人間たちの縄を次々とかみ切っていった。

 

「ダンブルドア……これは一体どういうことだ? なぜあの人がいる!? なぜ魔法省に例のあの人がいるんだ!!」

 

 ファッジは混乱したようにダンブルドア先生に喚き散らす。

 ダンブルドア先生はファッジの顔を見て冷静に言った。

 

「ここ1年間、わしはずっと貴方に警告を続けてきたはずじゃ。あの人が帰ってきたと。それを信じず何の対策もしておらなんだ無能大臣はどこのどいつかのう?」

 

 ダンブルドア先生は送られてきた役人たちを見回す。

 ファッジは苦々しげに呻いた。

 ダンブルドア先生は近くに落ちていた瓦礫を2つ手元に引き寄せ、ポートキーを作る。

 そしてその1つをブラックに、もう1つを私に手渡した。

 

「咲夜、ハリーと一緒に校長室へと行きなさい。シリウス、子供たちを医務室へ。そのどちらも目的の場所へと行くポートキーになっておる」

 

「ちょっと待ってくれダンブルドア! 君にはポートキーを作る権限はない。魔法大臣の前で堂々と……君は……君は……」

 

「そうじゃの、君はドローレス・アンブリッジをホグワーツから除籍する命令を出すとよい。そして部下たちにハグリッドを追跡するのをやめさせ職に復帰できるようにするのじゃ」

 

 ファッジ大臣の言葉を受け流しダンブルドア先生は私のほうに向く。

 私はハリーへと近づき共にポートキーに触れた。

 次の瞬間へその奥を引っ張られるような感覚を受け、私の両足は地面から離れる。

 そして飛ばされるまま飛ばされ私とハリーは校長室へと降り立った。

 

「………………。今夜のはヴォルデモートが仕掛けた罠だった。僕のせいで多くのけが人が出てしまった」

 

 ハリーはそう言って項垂れる。

 私はハリーの言葉に耳を疑った。

 

「怪我人が出た? ……もしかして誰も死んでないんじゃないでしょうね?」

 

「ああ、本当に死者が出なかったのは奇跡だ」

 

 ……どうやら聞き間違えではないようだ。

 あれだけの乱戦があったのに、誰1人死んでいないとハリーは言う。

 それは、なんというか、あまりよろしくない。

 お嬢様は多数の戦死者を望んでいるのだ。

 

「死喰い人はどうなのかしら。誰か1人でも死んでいるのを見た?」

 

「いや、僕は確認していないけ……ど、って、なんでそんなことを気にするんだ?」

 

 ハリーの言葉に私は咄嗟に口を噤む。

 そして自分のことを話題に上げて誤魔化した。

 

「いや、もし死んだのが私だけなんだとしたら少し恥ずかしいなと」

 

「咲夜は生きているじゃないか」

 

 ハリーは私の言葉に目を白黒させる。

 私は軽く微笑んで空いている椅子に腰かけた。

 と、次の瞬間ダンブルドア先生が校長室の暖炉へと現れる。

 ハリーは思わずその場から飛びのいた。

 

「咲夜、護衛ご苦労じゃった。30分だけ、席を外してくれるかの? 少しハリーと2人だけで話したいことがあるんじゃよ」

 

「分かりました」

 

 現在私の霊力は尽きている。

 魔力自体はまだあるので生命活動に支障はないが、自由に時間の操作ができないのは流石に拙い。

 いい機会なので30分の間に霊力を回復させるとしよう。

 私は校長室から出るとそのまま大図書館へと姿現しする。

 そしてふらふらとパチュリー様の前に腰かけた。

 

「おかえり、なんかやつれてるわよ?」

 

 パチュリー様は本から視線を上げずに私を出迎えてくれる。

 

「ただいま戻りました」

 

 私は机の上にへばりながら口を開いた。

 

「霊力が殆ど残っていないじゃない。言っておくけど大図書館は宿屋じゃないのよ?」

 

「ここが私の家のようなものです」

 

 私は「はぁ……」と一息ついた。

 

「お疲れのようですね。咲夜」

 

 私がグルリと反対の方向を向くと、そこには小悪魔が立っている。

 そして私に宝石のようなものを差し出した。

 

「……これは?」

 

「賢者の石です。霊力が中に籠められているので少しは元気出ますよ」

 

 私は小悪魔から賢者の石を受け取ると胸ポケットに入れる。

 すると小悪魔の言う通り徐々に力が私の中に入ってくるのが分かった。

 

「……いいわねこれ」

 

「そう思うなら賢者の石を数個あげるわ。暇な時間にでも霊力を注ぎ込んでおきなさい」

 

 私がぽつりと言葉を零すとパチュリー様がポケットの中から賢者の石を数個取り出して私のほうに投げた。

 私は力なくそれを受け取りポケットの中へとしまう。

 そんな私の様子を笑いながら小悪魔が私に聞いた。

 

「一体何をやったんです? 霊力が空っぽになるまで力を行使するなんて」

 

「ちょっと死んじゃって。生き返るのに使ったのよ」

 

 パチュリー様はそれを聞いて初めて本から顔を上げた。

 小悪魔もぽかんとした表情でこちらを見ている。

 

「今なんて言ったのかしら。生き返った?」

 

「はい、神秘部にあるアーチをくぐってしまって。直観的に「あ、死んだ」と思ったのですが何とかなりました」

 

 パチュリー様と小悪魔は顔を見合わせる。

 そして2人して立ち上がると私を椅子から立たせ全身を調べ始めた。

 

「え? ちょ、なんですか? きゃ!」

 

「動いたら調べにくいでしょう?」

 

「そうですよ。少し我慢しててください」

 

 私はくすぐったくて身を捩るが、2人はそんなことはお構いなしだった。

 流石に裸に剥かれることはなかったが、10分ほど好き放題体を触られる。

 それが終わった後、またもや2人して首を傾げた。

 

「外傷はなし、バイタルも正常」

 

「死の呪文のようなものなのでしょうか。ですが帰ってこれたところを見るに……咲夜、どうやってこっちへ帰ってきたのです?」

 

 どうやら2人は私の体に怪我や傷がないか調べていたようだ。

 私は小悪魔の言葉にアーチの中へ入ったあとのことを思い出す。

 

「私は確か時間を戻そうとしたんです。ですが実際に時間が戻ったわけではなく、私の体の動きだけが巻き戻るように動いて、アーチから飛び出た感じでしょうか」

 

「よく思い出しなさい。生き返ったのは術を発動させた後? それともアーチを潜った後?」

 

 パチュリー様はもう少し具体的に話を聞いてくる。

 

「アーチを潜った後です」

 

 私はそこだけは確信があった。

 アーチを潜った瞬間に死んで、反対から潜った瞬間生き返ったのだ。

 

「なるほど、多分貴方は時間を戻したわけではないわね。自分の体の位置を巻き戻した。話を聞く限りアーチには生と死を切り替える力があると思われるわ。アーチを死の世界へと潜ったから死んで、反対に生の世界へと潜ったから生き返った。これは面白いわ」

 

 パチュリー様は1人で納得したように呟くと図書館のあちこちから本を取り寄せ何かを調べ始める。

 私が首をかしげていると小悪魔が説明してくれた。

 

「つまり死後の世界でアーチを見つけることができれば、生き返ることができるかもしれないということです。といっても、体の位置を巻き戻すというぐらいの荒業を使わないと潜れないのであれば、何か条件があるのかもしれませんが」

 

 入り口は出口、逆から通れば出口が入り口になるということだろう。

 

「レミィが神秘部は面白いというのが頷けるわね。……クィレルのが上手くいったら私も見学に行こうかしら。咲夜、多分そろそろよ」

 

 パチュリー様は調べ物をしながら私に言った。

 私はそれを聞いて急いで懐中時計を確認する。

 確かにもうすぐ30分になるだろう。

 私は椅子から立ち上がるとパチュリー様と小悪魔にお礼を言って図書館を後にする。

 そして校長室の前へと姿現しした。

 次の瞬間、校長室の扉が開き、ハリーが疲れきった表情で出てくる。

 私はすれ違うように中へと入った。

 

「おお、待たせたのう。咲夜。ちと散らかっておるが好きに掛けてくれ」

 

 私は校長室に入った瞬間足を止める。

 部屋の中は荒れに荒れており、様々な小物が床に散らばり壊れていた。

 

「……部屋の中で竜巻でも発生したのですか?」

 

「そうじゃな、若さとはハリケーンのようなものじゃ」

 

 ダンブルドア先生は柔らかな笑みを浮かべる。

 ダンブルドア先生の言葉から察するにこれをやったのはハリーらしい。

 先生が杖を振るうと壊れたものがひとりでに動き直っていく。

 部屋が完全に元通りになると、改めて私に声をかけてきた。

 

「今日はご苦労じゃった。クラウチとレストレンジ相手に大立ち回りだったと聞いた。じゃが、無茶をしすぎるのはよくない。アーチを潜ったそうじゃな」

 

 ダンブルドア先生はまっすぐ私の目を見る。

 私はダンブルドア先生に近づき椅子へと座った。

 

「少し失礼かもしれんが、言わせてほしい。何故生きてるんじゃ?」

 

 ……本当に失礼だった。

 私はダンブルドア先生に向けて手首を差し出す。

 

「脈があるかどうか確認しますか?」

 

「いや、どうやら予想以上に元気なようじゃの。……あのアーチを潜ると戻ってはこれないと言われておる。じゃが、君は確かに戻ってきた。一体どうやって?」

 

「……わかりません。あの時は無我夢中で。柄にもなく叫んでしまったぐらいですので」

 

 私は嘘をついた。

 どのように帰ってきたかは理解しているが、教えてしまったら拙いことは確かだろう。

 

「……そうか、ではナイフで呪文を弾いたのは、あれはどうやったのじゃ?」

 

 やはりそれも聞いてくるか。

 というか、そのような話を誰から聞いたのだろう。

 ダンブルドア先生には時間を操る能力を持っているという話しかしていない。

 霊力に関する情報は一切与えていないのだ。

 

「……そうですね」

 

 私は手の平の上に霊力を集める。

 それを静かに空中へと浮かべた。

 ダンブルドア先生の目が大きく開く。

 まるで初めて霊力を見たかのような反応だった。

 

「これは……一体」

 

「霊力ですが……もしかしてご存じないのですか?」

 

 だとしたら見せたのは少し拙かったかもしれない。

 パチュリー様とダンブルドア先生の能力の差が、霊力を知っているかいないかといったものだったら……うん、拙い。

 ダンブルドア先生は恐る恐る霊力の塊へと手を伸ばす。

 

「危ない!」

 

 私が叫ぶとダンブルドア先生はビクンと動きを止めた。

 その様子から私はダンブルドア先生が霊力に関して完全に無知であることを悟る。

 私はすぐさま霊力の塊を消した。

 

「下手に触ると指が消し飛ぶところでしたよ?」

 

 勿論嘘だ。

 霊力はそこまで危険なものではない。

 ただダンブルドア先生に詳しく調べさせたくなかっただけである。

 ダンブルドア先生は一度目を瞑ると、改めて私に聞いた。

 

「霊力……と言うんじゃったな。君はそれを何処で教わったのじゃ? その力は魔法界には存在しない。まさしく神秘の力と言えよう」

 

「生まれつきです。誰かに何かを教わった経験はありませんよ」

 

 私はダンブルドア先生の意識を反らすために椅子から浮き上がる。

 そのままふわふわと校長室を浮遊し、ダンブルドア先生から少し距離を取って床に降り立った。

 

「調べますか? 私の力を。勿論、私は抵抗しますし、無理やり調べようとしたらセクハラで訴えますが」

 

 私は冗談めかして言う。

 ダンブルドア先生は少し悩んだあと、いつものように朗らかに微笑み首を横に振った。

 

「わしに残されておる時間は残り少ない。今更新しい力に手を付けても遅いじゃろ。だが、約束して欲しい。その力を、自分の大切な者を守るのに使うと」

 

 ダンブルドア先生は真剣な顔で私の顔を見る。

 私は軽く微笑むとしっかりと頷いた。

 

「勿論です」

 

 私の大切な者を守るために。

 大切な者を守るためだったら私はホグワーツの全生徒でも殺そう。

 大切な者を守るためだったら罪無き命を奪おう。

 全ては私が仕えるお嬢様の為に。

 

 

 

 

 

 

 『名前を呼んではいけないあの人 復活す』

 

 私は予言者新聞をテーブルの上に広げながらトーストにジャムを塗っていた。

 どうやら魔法省はヴォルデモートが復活したことを認めたらしい。

 まあ、魔法省の役人の多くがヴォルデモートの人質にされたので、認めないほうがどうかしているのだが。

 なんにしても、これでファッジ大臣は辞任せざるを得なくなるだろう。

 新聞には魔法省がヴォルデモートの復活を認めたという記事の他に、ダンブルドア先生が校長に復職したという記事や、ハリーの独占インタビューなどが載っていた。

 もっとも、独占インタビューは3月にザ・クィブラーに掲載されたものだったが。

 多分ルーナの父親あたりが予言者新聞に記事を売ったのだろう。

 私は新聞を折りたたむと鞄に仕舞い、私は大広間を後にした。

 確かハリーたちが医務室で寝ているはずである。

 医務室にはふくろうは入れなかったはずなので、まだ新聞を読んでいないだろう。

 私はそのままホグワーツの廊下を歩き、少し時間をかけて医務室へと向かった。

 姿現しをすれば一瞬でつくが、たまには時間をかけるのもいいだろう。

 医務室に入るとハリー、ロン、ハーマイオニー、ジニー、ネビル、ルーナが1か所に固まって何かを話していた。

 どうやら互いの怪我の状態を確認しているようだ。

 

「調子はどう?」

 

 私はハーマイオニーに新聞を渡しながら声をかける。

 ハーマイオニーは待ってましたと言わんばかりに新聞を広げた。

 

「うーん、ぼちぼち?」

 

 ロンが苦笑いを浮かべながら私に返事をする。

 この中で一番の重傷はロンなのだが、ロンがあの状態だとしたらまあ大丈夫だろう。

 

「咲夜は怪我してないんだね。なんというか、流石だよ」

 

 ネビルが私に尊敬の眼差しを向けてくる。

 ジニーもそれに同意しているようだった。

 

「ねえみんなこれ見て。咲夜が持ってきてくれた今日の新聞なんだけど」

 

 ハーマイオニーはある程度の見出しに目を通し終わったのか全員の前に新聞を広げる。

 一面にはファッジ大臣がアタフタとしながら会見をしている写真が載っていた。

 

「『ファッジ大臣は金曜の夜、短い声明を発表し、名前を呼んではいけないあの人が再び活動を始めたことを確認したと話した』そのあとは魔法省批判とハリーのよいしょね。本当にマスコミって都合のいい生き物だわ」

 

 ハーマイオニーが呆れたように声を上げる。

 

「でもこれでハリーはまた生き残った男の子になったわけだ。この1年新聞の上ではハリーは頭のイカれた目立ちたがり屋だったもんな」

 

 ロンが顔を顰めていうと、ハリーは苦笑いをする。

 確かにこの1年、予言者新聞は散々ハリーを馬鹿にしたような記事を書いていた。

 だが今日の新聞には褒め称える文章しか載っていない。

 気持ちのいいぐらいの手のひら返しである。

 そういえばファッジ大臣がこの調子だとアンブリッジはどういう風に思うのだろう。

 私はカーテンで囲まれているベッドの方を見る。

 あの中にダンブルドア先生が持って帰ってきたアンブリッジがあるはずだ。

 

「ああ、咲夜。あれは見ない方がいいぜ。人間の形をしてない」

 

 ロンは嫌なものを思い出したかのように首を振る。

 

「元から人の形をしてなかったじゃない。……生きてるの?」

 

「僕だったら死んでたほうがましだと思うね。あんな状態だと」

 

 ロンが肩を竦めていう。

 ハーマイオニーも顔を青ざめさせた。

 

「ダンブルドアの話では、体がどうにか整ったらアズカバンに投獄されるそうよ。それはそうよね。咲夜に対して磔の呪文を使ったんですもの。去年習った通り、許されざる呪文を同族に対して使ったらアズカバンで終身刑になる。まさかファッジも自分の部下をアズカバンに送ることになるなんて思いもよらなかったでしょうね」

 

 ジニーは楽しそうにそう語る。

 どうやらあの場にいた生徒がそう証言してくれたそうだ。

 だが、ハリーたちだけでは証拠不十分となっていただろう。

 アンブリッジにトドメを刺したのは何とドラコだ。

 親衛隊だったドラコがハリーと同じ証言をしたことによって呪文の行使の信憑性が増し、アンブリッジのアズカバン行きが決定したらしい。

 

「そういや、こうやると生きているって証拠を見せるぜ」

 

 ロンが軽く舌を鳴らし馬の足音のような音を出す。

 次の瞬間ゴボボボという何かが泡立つような音が聞こえた。

 

「うえ……ほんとどんな格好になってもキモイよな」

 

 口直しと言わんばかりにロンはカエルチョコを口に突っ込む。

 ネビルとジニーも吐き出しそうな顔をした。

 ルーナは話を聞いているのか聞いていないのか、ベッドの端の方に腰かけてザ・クィブラーを読んでいた。

 

「そういえば、逃げた死喰い人たちはどこに行ったんだろう。結局全員逃げられてしまったんだろう?」

 

 ネビルが少し不安そうに私に聞く。

 ハーマイオニーはそのことに関して何か載っていないか新聞にくまなく目を通し始めた。

 

「さあ? 死喰い人の行く先なんて知らないわ。重要なのは今後ヴォルデモートがどんな手を打ってくるかよ。敵の目的は何なのか、どういった手段を用いてくるのか」

 

「目的なら簡単さ。世界征服。そうだろう?」

 

 ロンが何を分かり切ったことをといった表情をする。

 皆も概ねそれに同意しているようだった。

 つまりそれが魔法界に住んでいる人間の認識ということだ。

 だがハリーだけはロンの言葉に生返事をした。

 何かを思い詰めるような、そんな顔だ。

 

「ハリー、大丈夫? まだ体調が優れないんじゃない?」

 

 私はその何かを探るようにハリーに声をかける。

 ハリーはふと我に返り私の顔を正面から見つめると、顔を赤くしてすぐさま視線をベッドに向ける。

 

「大丈夫、大丈夫だから……。ああ、そうだ。僕、ハグリッドに会いに行ってくるよ」

 

 そういうとハリーは逃げるように医務室からいなくなる。

 ハーマイオニーはやれやれといった顔で肩を竦めた。

 

「ほんと、男子って不器用ね」

 

「ん? 今ちょっと馬鹿にした?」

 

 ロンがハーマイオニーの言葉に眉を顰める。

 その様子を見てジニーがクスクスと笑った。

 私はそんな会話を聞きながら思考を巡らせる。

 今回、死者は1人も出なかった。

 そして新聞の記事を読む限り死喰い人の方にも死者は出ていないらしい。

 果たしてあの乱戦の中でそれがあり得るのだろうか。

 頭上を死の呪文が飛び交うような戦場で、死者が出ないというのは本当に奇跡に近い。

 この結果が偶然なのか、必然なのか。

 ……確かめる術はないだろう。

 私は空いているベッドに腰かけると会話に交じる。

 なんにしても、今年も1年が終わったのだ。

 

 

 

 

 学校も終わり私たちはいつものようにホグワーツ特急で帰路につく。

 もうすっかり元気を取り戻したのか、魔法省に行った面々は思い思いのことをしていた。

 ハーマイオニーは予言者新聞を読んでおり、時折ぶつくさと批評を言う。

 ジニーはザ・クィブラーのクイズに興じ、ネビルはこの1年で大きく育ったミンビュラス・ミンブルトニアを撫でている。

 ハリーとロンは時折ハーマイオニーが読み上げる予言者新聞の抜粋を聞きながら魔法チェスをしていた。

 私はというと、いつものごとく読書だ。

 キングズ・クロス駅に近づいてくると列車は徐々に速度を落としていく。

 そしてそのまま9と4分の3番線へと停車した。

 止まった瞬間ルーナが一番にトランクを転がして列車を降りていく。

 そのあとにネビル、ジニーと続いていき、私もそのあとを追った。

 列車を降りた次の瞬間、私の足が地面から離れる。

 一体何事かと思ったが、どうやら美鈴さんの仕業のようだ。

 美鈴さんは列車の上に腰かけており、私の襟をつかんで上に持ち上げていた。

 

「あの……降ろしていただけないでしょうか?」

 

「何を?」

 

 美鈴さんは器用にそのまま手首を捻ると私を反転させる。

 首を捩じらなくても美鈴さんの姿が見えるようになったが、持ち上げられているこの状況はあまりいい気はしない。

 

「冗談だって! よっと!」

 

 美鈴さんは私を掴んだまま列車から飛び降りるとハリーたちの前に着地する。

 そしてドスンと私を地面に下した。

 

「こんにちは、美鈴さん」

 

 ハーマイオニーが戸惑いつつも美鈴さんに挨拶をする。

 それに倣いハリーとロンも頭を下げた。

 

「やあやあ、こんにちは諸君。咲夜ちゃんは今年1年いい子にしてたのかな?」

 

「ふざけないでください。館の気品が落ちます」

 

「私ってそんなに!?」

 

 私は美鈴さんの頭を叩く。

 そういえば、もう普通に美鈴さんの頭に手が届くようになっていた。

 私たちは美鈴さんと共に柵を潜り抜けマグルのホームへと行く。

 そこには少々意外な集団が私たちを出迎えた。

 ムーディにトンクス、ルーピン。

 さらにはモリーさんにフレッド、ジョージだ。

 美鈴さんはその全員に丁寧に挨拶をすると、がっちりと私の手を握る。

 私は無理やり引き剥がそうとしたが、妖怪の彼女の力に勝てるわけがなかった。

 ムーディとルーピンは意外そうな顔をし、トンクスはクスクスと笑っている。

 

「やはりまだ小娘だな」

 

 ムーディはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ところで貴方たちはハリーの護衛?」

 

 私は美鈴さんの手を振りほどくのを諦めてルーピンに聞く。

 

「いや、彼の保護者に少し話があるだけだよ。君は家の人と一緒に帰るといい」

 

 ルーピンはそういうとムーディとトンクスと共にダーズリー一家へと近づいていった。

 3人と入れ替わるように今度はフレッドとジョージが近づいてくる。

 2人はケバケバしい緑色の鱗生地でできた新品のジャケットを着ていた。

 

「素敵なジャケットね」

 

「最高級のドラゴンの革さ。事業は大繁盛。これは自分たちへのちょっとしたご褒美ってところだな」

 

 フレッドは私の顔を見て嬉しそうに笑う。

 ジョージは目ざとくも私が美鈴さんと手を繋いでいることに気が付いたようだ。

 

「咲夜こそ素敵な状況だな。そうしている方が可愛く見えるぜ」

 

「ああ、子供っぽいとも言えるが。15だったらその方がいい」

 

 2人してケラケラと笑う。

 いや、美鈴さんも笑ったので実質3人に笑われたことになるのか。

 私はその怒りを全力で美鈴さんの足へとぶつける。

 脛をガンガン蹴るが、全く効いていないようだった。

 

「勉強不足だな咲夜ちゃん! 武人は脛すら鍛えるのよ」

 

 蹴ってみるとわかるが、彼女の脛は鋼鉄のように硬い。

 体力の無駄だとわかると、私は小さくため息をつき蹴るのをやめた。

 私は美鈴さんと手を繋ぎながらハリーたちに手を振る。

 そして美鈴さんと共に人混みへと紛れると、時間を止めた。

 

「おかえり、咲夜ちゃん」

 

 美鈴さんは私の手を握ったまま空へと飛びあがる。

 

「ただいま。美鈴さん」

 

 私も笑いながら空へと飛びあがる。

 その瞬間、私はふと思いついたことがあった。

 そうか、これが幸せというものなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

用語解説

 

 

アーチ

ヤバイ。アーチヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。

アーチヤバイ。

まず石。もう石造りなんてもんじゃない。超石。

石とかっても

「最高級大理石?」

とか、もう、そういうレベルじゃない。

何しろ死ぬ。スゲェ!なんかラグとか無いの。バイタルとか超越して(ry

そんなヤバイアーチに入っていった咲夜とか超偉い。もっとがんばれ。超がんばれ。

 

懐中時計の風防

文字盤前のガラスのことです。

 

一時休戦

意外と話が分かるヴォルデモート

 

おにゃのこ2人に全身を調べられる咲夜

やましいことは何もないです。ええ。

 

霊力を知らないダンブルドア

意外と無知、いや、探求をやめてしまった末路ともいえる。

 

フレッド、ジョージ

商売大繁盛です。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は少し人間に冷たすぎる。このままでは川を渡れないかも知れない」

 

 どこからか声が聞こえる。

 誰の声だろう。

 

「川の幅は、その霊の歴史の幅。生前の行いで幅が決まるのです」

 

 川? 幅?

 何の話をしているのだろう。

 

「貴方は人に生まれるべきではなかった。人として生まれてしまったばっかりに、自覚することなく罪を重ねてしまった。私が判決を下すまでもなく、貴方は真っ黒です」

 

 人として生まれた? 私が黒い?

 

「ですが、まだその時では無いようです。行きなさい、十六夜咲夜。その罪で穢れた身を清める為に、善行を積みなさい」

 

 声の主はどこかへ行ってしまった。

 ここはどこだ?

 私は……一体。

 

「み~つけた」

 

 妹様だ。

 

「咲夜、こんなところにいたのね。アリアナが教えてくれなかったら気が付かなかったわ」

 

 妹様が私の目の前にいる。

 

「咲夜~。置いてくわよ?」

 

 妹様がどうしてここにいるのだろう。

 いや、まずここが何処かわからないのだが。

 そもそも、なぜ私は妹様だとわかった?

 

「あ、そっか。慣れないとこの世界では動きにくいものね。大丈夫。私が導いてあげるわ」

 

 妹様に連れられて私は進む。

 いや、そもそも進んでいることすらわからない。

 

「人を死へと導く門よ。その中に取り込みし魂と肉体を現世に返せ」

 

 今度はパチュリー様の声が聞こえてくる。

 どうやら何かに近づいているようだ。

 

「咲夜」

 

 誰かが私の名前を呼んだ。

 

「十六夜咲夜」

 

 誰かが優しく私の名前を呼んでいる。

 

「咲夜。おかえり」

 

 お嬢様が私の体を抱きしめ、アーチから引きずり出した。

 

「あ、あぁあああ。え?」

 

 途端に私は我に返る。

 ここはどこだ?

 何故私はお嬢様に抱きしめられている?

 何故私は『今』アーチから引きずり出された?

 

「お、お嬢様。ここは一体……」

 

 私はお嬢様に抱きかかえられながら周囲を見回す。

 そこには涙目になっている美鈴さんと、安堵のため息をついている小悪魔とクィレル。

 そして今まさに魔導書を閉じたパチュリー様がいた。

 私は後ろを振り返る。

 そこにはクラウチとレストレンジと戦っているときにうっかり入ってしまった石のアーチが立っている。

 私は今どこにいるのかをようやく理解した。

 

「ここは……神秘部ですか?」

 

 私が問うとパチュリー様が頷いた。

 私は自分の足で立とうとするが、お嬢様が放してくれない。

 

「あの、お嬢様? もう大丈夫ですので」

 

 私はお嬢様に声をかけるが、お嬢様は放してくれない。

 逆にさらに強く、そして優しく抱きしめられた。

 

「私の命令も無しに死ぬなんて……ほんとに、ほんとに……」

 

「お嬢様?」

 

「本当に……――っ、勝手に、居なくなっちゃ駄目なんだから! おかえりっ!」

 

 お嬢様はそのまま私を押し倒す。

 お嬢様に覆いかぶさるように美鈴さんが上に乗り、そこに乗っかるようにパチュリー様と小悪魔が覆いかぶさった。

 クィレルだけがその光景を部屋の端で見ている。

 

「重いです! 潰れちゃいますって!」

 

「潰れちゃえばいいのよ! 体があるってことじゃない!」

 

「そうだよ咲夜ちゃん! おかえり!」

 

「おかえり、咲夜」

 

「よく帰ってきましたね。咲夜」

 

「無事帰ってこれて何よりだ。十六夜君」

 

 全員が畳みかけるように私に声を掛けてくる。

 次の瞬間姿現しの感覚を体に受け、気が付いた時には紅魔館の大図書館に転がっていた。

 私はこのままでは窒息してしまうと思い命からがら抜け出す。

 そしてよろよろとテーブルの椅子に腰かけた。

 

「えっと、何がどうなったのでしょう。私はホグワーツ特急で学校から帰ってきて、美鈴さんとロンドンの街を飛んで……」

 

「一体なんの話をしているの? まあ確かにホグワーツは夏休みに入っているけど」

 

 パチュリー様が怪訝な声を出す。

 

「咲夜ちゃん、大丈夫? 混乱してる?」

 

 美鈴さんが心配そうに声を掛けた。

 ゴホンと一度咳払いをしてパチュリー様が言葉を続ける。

 

「6月19日の朝一番にレミィ宛てにふくろう便が届いたわ。貴方が神秘部の戦いで死亡したという知らせよ」

 

「そんなはずはありません! 私は体の時間を巻き戻してアーチから飛び出し生き返ったんです。そのあと——」

 

「だから混乱していると言っているの」

 

 パチュリー様が私の言葉を遮る。

 

「いい? 貴方はアーチを潜ってしまい死んだの。その後ダンブルドアが駆けつけて死喰い人を一網打尽にし、ハリーたちがヴォルデモートに捕まって人質交換。貴方はこの戦いで唯一の戦死者になったのよ」

 

「ですが私は生きています」

 

「そうね、私とレミィが全力を上げて取り戻したのだもの」

 

 私は告げられた真実に戸惑いを隠せない。

 では、私がアーチから飛び出した後に見ていたのはなんだ?

 そこから先、私はパチュリー様の話を黙って聞いた。

 お嬢様が知らせを受け取った瞬間に美鈴を連れてホグワーツの校長室に殴り込みをかけた。

 お嬢様はそこで私がアーチに飛び込んでしまったことを知ったらしい。

 そのあとすぐお嬢様は館へと戻り、パチュリー様に相談したようだ。

 死んだ私を取り戻しに行きたいと。

 幸い、パチュリー様の手元に道具は揃っていたらしい。

 神秘部の戦い前に見せてもらった蘇りの石。

 それを媒質にしてアーチ付近に巨大な魔法陣を作り上げ、お嬢様と私の主従の繋がりを利用して私を死後の世界から引きずり出したそうだ。

 

「というわけで、魔法界では既に貴方は死んだことになっているわ」

 

 パチュリー様はそう話を締めくくる。

 そうか、私は死んだことになっているのか。

 私はアーチに入った後、私が見ていたのであろう『夢』の話をしていく。

 皆、静かに私が見た夢を聞いていた。

 

「概ねその通りだ」

 

 クィレルが口を開く。

 

「人質のくだりも魔法省がヴォルデモートを認めたというくだりも、そしてアンブリッジのアズカバン行きが決まった話もな」

 

「ええそうね。違うところを挙げるとすれば、貴方が死んだか死んでいないかということよ」

 

 パチュリー様がクィレルの言葉に同意した。

 

「では、私はどうすればよいのでしょう。このまま新学期、普通に学校に通ったほうがいいでしょうか?」

 

 私の問いにお嬢様は顎に手を当てて考える。

 

「そうね、ダンブルドアの動き方次第かしら。ダンブルドアは貴方という大きな武器を失ったことで何かしらの行動に出るはずよ。それを見てから決めても遅くはないわ。それまで、館から出ることを禁ずる。いいわね? 貴方が生きているということは極秘中の極秘よ」

 

「かしこまりました」

 

 ということは、私はしばらく館の仕事に専念できるということだろう。

 私が見ていた夢の世界とのギャップも気になるので、願ったり叶ったりだ。

 

「咲夜奪還作戦も成功したことだし、今日のところは解散! ほら、みんな寝るわよ。もう朝も更けてきたわ」

 

 お嬢様は大きく欠伸をすると図書館を出ていく。

 それを追うように美鈴さんも図書館を出ていった。

 クィレルも図書館にある暖炉から煙突飛行でどこかへと消える。

 

「小悪魔、咲夜の看病をしてあげなさい。死に上がりでまだ本調子じゃなさそうだし、1日しっかり寝た方がいいわ」

 

「了解です、先生。咲夜、行きましょう」

 

 私が椅子から立ち上がると小悪魔は私を横抱きにする。

 なんというか、非常に恥ずかしい。

 

「小悪魔、自分で歩けるから……」

 

「さっきまで死んでたんですよ? ほら、力を抜いてください」

 

 私は真っ赤になった顔を伏せ、小悪魔から見えないようにする。

 小悪魔はそのまま私を私の部屋へと運び、ベッドに寝かせた。

 

「咲夜。眠る前に少しいいですか?」

 

 小悪魔は私の服を寝間着へと着替えさせながら口を開く。

 

「……あまり無茶はなさらないでください。お嬢様を筆頭に館の全員がそれなりに悲しんだのですよ?」

 

 小悪魔は寝間着姿になった私にシーツを掛けた。

 

「命令を守るのも大切ですが、貴方の命が一番大事だと、ここにいる全員が思っています」

 

「悪魔のセリフじゃないわね」

 

「あくまで、元人間ですから」

 

 小悪魔はクスクス笑うと私の頭を優しく撫でる。

 私はそれが妙に心地よく、次第に深い眠りにへと落ちていった。




最終章お知らせ


最終章を書くにあたって回収し忘れた伏線や話に矛盾が無いようにしたいので、一度原作を読み直し、更に自分の書いた作品を読み直し、そのうえで最終章を完結まで書き終わってから更新したいと思っています。
故に早くても次回の更新は1か月ほど先になることかと思います。
更新が一度ここで止まりますが、時間の許す限り全力で執筆していくので、どうかゆっくりとお茶でも飲んでお待ちください。

最終章という言葉で気が付いた人もいるかもしれませんが、この作品は死の秘宝までは行きません。1997年で完結します。

重ね重ね申し上げますが、マジで明日以降更新ないです。ご了承ください。


追記
文章を修正しました。

2018/12/23 加筆修正

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