私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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咲夜「その言葉が聞きたかった」(ゲス顔)

誤字脱字等ありましたらご報告して頂けると助かります。


聖典とか、密告とか、誓いとか

 月曜の朝、朝食を取りに大広間へ入るといつもよりもふくろう便の数が多いことに気がつく。

 まあ、今日ほどじゃないにしても最近大広間に来るふくろうは多いのだ。

 日刊予言者新聞を取っている生徒が増えたらしい。

 いつもハーマイオニーの取った物を軽く読ませてもらっているが、最近はめぼしい記事は無かった。

 私はハリーとハーマイオニーの向かい側に座り朝食を取り始める。

 次の瞬間私の目の前にふくろうが降り立った。

 どうやらハリーに郵便を渡しに来たようだ。

 

「誰を探しているんだい?」

 

 ハリーは目の前に降り立ったふくろうの受取人の名前を覗き込む。

 そして自分宛ての手紙だということを確認した。

 その後も次々とふくろうがハリーの前へと降り立っていく。

 いつもよりふくろうが多い理由はこれだったのかと、私は一度席を立ちハリーたちから距離を取った。

 ハリーたちの近くは、もう物を食べれる環境ではない。

 私はテーブルからサンドイッチを手に取ると、テーブルの反対側へと回り込みハリーに来た手紙を覗き込んだ。

 

「これは一体何?」

 

 私が聞くとハリーは恥ずかしそうに笑いながらザ・クィブラーの3月号を手渡してくる。

 表紙には今のハリーと同じように気恥ずかしげに笑っているハリーの顔が印刷されていた。

 

『ハリー・ポッターついに語る 名前を呼んではいけないあの人の真相――僕がその人の復活を見た夜』

 

 表紙には真っ赤な字でそう書かれている。

 

「いいでしょう?」

 

 いつの間にか私の横にルーナが立っていた。

 

「昨日出たんだよ。パパに一部無料で貴方に送るように頼んだの。きっとこのふくろうの山は、読者からの手紙だよ」

 

「ハリー、いつの間にこんなことを? ダンブルドア先生に確認は取ったのよね?」

 

 私はザ・クィブラーを捲り内容を確認しながらハリーに聞く。

 ハリーは困ったように頭を掻いた。

 あの様子では確認はしていないのだろう。

 

「この前、バレンタインのホグズミード行でスキーターから取材を受けたんだ。でもこれはハーマイオニーが計画したことだよ。ね? ハーマイオニー」

 

 私はハーマイオニーを見る。

 その瞬間ハーマイオニーはおろおろと慌てだした。

 

「だって正しいことを世に伝える必要があると思ったのよ。だからスキーターを脅して記事を書かせて……本当は日刊予言者新聞に記事を載せたかったんだけど、スキーター曰くそれは無理だって……」

 

「……馬鹿と天才は紙一重って言うけど、本当なのね。確かに正しいことを伝えることはいいことよ。でも、タイミングというものが分かっていないわ」

 

 私はバンとザ・クィブラーを叩く。

 ハーマイオニーの体がビクリと揺れた。

 

「こんな記事、アンブリッジ先生を挑発しているだけじゃない。それだけじゃないわ。今まで曖昧だったハリーへの誹謗中傷が、この記事によって明確な物となる。日刊予言者新聞しか読んでいない人がこれの噂を聞いたらどう思うかしら。ついにあの目立ちたがり屋が本性を現したか! そのように捉えるのよ」

 

「僕、目立ちたがり屋じゃない!」

 

「そんなことは分かってるわ。認識の問題よ。いい? ハーマイオニー。今度余計なことを勝手にしたら貴方の舌をコンビネーションプライヤで挟んで引っこ抜くわよ?」

 

 ハーマイオニーは私のその言葉を聞いて涙目になる。

 ポリジュース薬の時もあの反吐の時もそうだが、どうしてハーマイオニーはこうドジを踏むのだろうか。

 ブラックや小悪魔みたいに、もう少し器用に物事を進めてほしい。

 

「あの、私……そんなつもりじゃ……」

 

「貴方、自分の失敗で人を殺してそのまま立ち直れなくなるタイプね、多分。いい? 今回は私がなんとかしてあげるから、今度から何かやる前に私に相談しなさい。いいわね?」

 

「…………」

 

 ハーマイオニーは涙目で俯いている。

 

「返事は?」

 

「はい」

 

 私が脅しをかけるとハーマイオニーは小さな声で頷いた。

 

「何事なの?」

 

 やはり来たかと、私は後ろを振り向く。

 そこにはここ半年ほどですっかり痩せたアンブリッジ先生が立っていた。

 どうやらアンブリッジエクササイズは私だけでなくアンブリッジ先生にもある程度の効果があるようだった。

 

「どうしてこんなに沢山の手紙が来たのですか?」

 

 アンブリッジ先生の言葉にハリーは困ったような顔をする。

 ハーマイオニーが一層目に涙を浮かべた。

 私の言った意味がようやく理解できたらしい。

 

「僕がインタビューを受けたので、みんなが手紙をくれたんです。6月に起きたことのインタビューです」

 

「インタビュー? どういう意味ですか?」

 

「つまり記者が……あ、記者というのは線路を走る方ではなく雑誌を書く方のですが、その記者が僕に質問をして、僕がそれに答えました」

 

「そんなことは分かっています」

 

 アンブリッジ先生はハリーからザ・クィブラーをもぎ取り目を通す。

 その手はわなわなと震えていた。

 ……そろそろか。

 私はアンブリッジ先生の肩を叩く。

 そしてにっこりと微笑んだ。

 

「アンブリッジ先生、ザ・クィブラー3月号って素晴らしいですね。ホグワーツ指定の必読書にして全校生徒が持ち歩くべきです」

 

 次の瞬間、アンブリッジ先生の顔が面白い形に歪んだ。

 その顔は磔の呪いを掛けられながら無理やり笑っているかのような表情だ。

 

「で、でもここに書いてあることは全部嘘なのですよ?」

 

 アンブリッジ先生はできるだけ私の機嫌を損ねないように恐々とそう言う。

 

「先生。読めばわかると思うのですが……この場に私もいたんですよ?」

 

 アンブリッジ先生はぎょっとした顔でザ・クィブラーを捲る。

 そして目を皿のようにして内容を読み取ると、また歪に笑った。

 

「あ、あ、あああ新しい教育令を出さないといけないので……私はこの辺で失礼させてもらいます。素晴らしい内容にグリフィンドールに10点!」

 

 アンブリッジ先生は完全に裏返った声でテンパったようにそう言うと、ダカダカと大広間から出ていった。

 ハリーたちはアンブリッジ先生を見送ると、驚いたように私を見る。

 

「君一体あいつに何をしたんだ? 尋常じゃない怯え方だったぞ?」

 

「それに加えて尋常じゃないほどに媚びを売ってたね」

 

 ロンとハリーが続けざまに私に質問する。

 私は適当に誤魔化すとサンドイッチの最後のひとかけらを口の中に突っ込んだ。

 昼前には学校中に告知が出た。

 寮の掲示板だけではない。

 廊下や教室などにも貼り出されている。

 

『ホグワーツ高等尋問官令 ザ・クィブラー3月号をホグワーツ指定必読書とし、所持していないことが発覚した生徒は退学処分に処す』

 

 そして廊下や教室、談話室にザ・クィブラーの3月号がフリーペーパーのように山積みになっていた。

 どうやら持っていない生徒は今すぐに所持しろということらしい。

 いい感じにアンブリッジ先生もキマってきたようだ。

 生徒たちは半信半疑でザ・クィブラーを手にとっては鞄に仕舞っていく。

 スリザリンの生徒は最後まで渋っていたようだが、こんなことで退学になってなるものかと凄い形相になりながらザ・クィブラーを手に取っていた。

 

「こんなことになるなんて……」

 

 ハーマイオニーがザ・クィブラーを1冊鞄の中に仕舞いながらボソリと呟いた。

 フレッドとジョージなんてまるで鎧を着るかのように雑誌を体中に貼り付けている。

 

「さあさあ我こそはミスター・クィブラー! 聖典を装備し我が歩みを止められるものなら止めてみよ!」

 

 と、この調子だ。

 私も置かれたザ・クィブラーを鞄へと仕舞う。

 実はこんなことをしたのには歴とした理由がある。

 私の一言にどこまでアンブリッジ先生が影響されるのか試したのだ。

 もっとも私の話を否定されるのが癪だったという理由もないことにはないが、一番の理由はそれだ。

 結果として、私の曖昧な一言でここまでのことをしてしまうほど冷静な判断能力を失い、私に依存していることが分かった。

 これはよい傾向にあると言えるだろう。

 さて、テストが終わったところで、あとは泳がせるだけである。

 

 

 

 

 ザ・クィブラーの一件から数週間が経った。

 あの時何故あのような教育令を出してしまったのかとアンブリッジ先生は散々後悔したようだったが、数日も経つといつものウザいおばさんに戻っていた。

 私の見ていないところでハリーに意地悪をし、トレローニー先生に嫌味を言い、気に入らない生徒を不当に処罰する。

 なんというか、典型的なクズだった。

 いっそのこと私が服従の呪文で操っていたほうがマシなのではなかろうか。

 そしてついに事件は起こった。

 私が夜、談話室で本を読んでいたら玄関ホールのほうから微かに悲鳴が聞こえてきたのだ。

 私はその声に聞き覚えがあった。

 この声はトレローニー先生だ。

 私は時間を停止させると急いで玄関ホールへと向かう。

 そこは既に大広間から溢れてきた群衆でいっぱいだった。

 その群衆の中心にトレローニー先生は立っている。

 だがその姿は荒れに荒れ、あまり見れたものではなかった。

 私は群衆の中に紛れ、時間停止を解除する。

 

「いやよ! いやです! こんなことが許されるはずがありません……あたくし、受け入れませんわ!」

 

 トレローニー先生が甲高い声で誰かに叫んだ。

 私がトレローニー先生の視線を追うと、その先にはアンブリッジ先生が立っている。

 

「貴方、こういう事態になると予見できなかったの? 明日の天気でさえ予見できない無能力な貴方でも、解雇が避けられないことぐらいは予見できたでしょう?」

 

 アンブリッジ先生の言葉を聞いてトレローニー先生が泣き喚く。

 なんというか、水に溺れたコガネムシみたいになっていた。

 正直笑える。

 

「あ、あなたにそんなこと……で、できないわ! あたくしをクビにだなんて! ここにあたくしは16年も……ホグワーツはあ、あたくしの家です!」

 

「家だった、のよ。1時間前に魔法大臣が解雇辞令に署名なさるまではね。さあ、どうぞ。ここから出ていってちょうだい。恥さらしですよ」

 

 トレローニー先生は投げ捨てられた自分のトランクにしがみつき意地でも動こうとしない。

 アンブリッジ先生は無理やり外に出そうとはしなかった。

 どうやらこの様子を楽しんでいるようだ。

 次の瞬間トレローニー先生に近づく人影が2つ見える。

 ダンブルドア先生とマクゴナガル先生だ。

 

「さあ、シビル。落ち着いて……貴方が考えているほど酷いことにはなりません。ホグワーツを出ることにはなりませんよ」

 

 マクゴナガル先生がいつになく優しい声でトレローニー先生に語り掛ける。

 その様子を見てアンブリッジ先生が眉をひそめた。

 

「あら、マクゴナガル先生。そうですの? そう宣言なさる権限がおありで?」

 

「それはわしの権限じゃ」

 

 ダンブルドア先生がくるりとアンブリッジ先生の方へと振り返った。

 

「あなたの? どうやら貴方は立場をお分かりになっていないようですね。私の手元には魔法省大臣が署名なさった解雇辞令がありましてよ。ホグワーツ高等尋問官は教育に不適切だと思われる教師を停職に処し、解雇する権利を有するのです。トレローニー先生は基準を満たさないと私が判断し、そして解雇しました」

 

 アンブリッジ先生は誇らしげにローブから丸められた羊皮紙を取り出しダンブルドア先生に見せる。

 だがダンブルドア先生は冷静に言った。

 

「アンブリッジ先生。確かに貴方は教師を解雇する権利をお持ちじゃ。しかしこの城から追い出す権限は持っておられん。それはまだ校長であるわしの権利じゃ」

 

 お分かりかな?

 ダンブルドア先生はそのような表情を浮かべてアンブリッジ先生の顔を見る。

 アンブリッジ先生の顎にわずかに残っている脂肪がヒクついた。

 

「マクゴナガル先生、シビルに付き添って上まで連れて行ってくれるかの?」

 

 その言葉を聞いてマクゴナガル先生と、どこからともなく現れたスプラウト先生がトレローニー先生の手を取り引率していく。

 そして少し遅れてやってきたフリットウィック先生が前に出てトレローニー先生のトランクを宙に浮かせた。

 そのままフリットウィック先生も階段を上っていく。

 そんな様子にアンブリッジ先生はダンブルドア先生を見つめながら石のように突っ立っていた。

 ダンブルドア先生は逆に柔らかく微笑んでいる。

 

「それで、私が占い学の新しい教師を任命し、あの方の住処を使う必要ができたら、どうなさるおつもりですか?」

 

「心配には及ばん。わしはもう新しい占い学の教師を見つけておる。その方は1階に棲むほうが好ましいそうじゃ」

 

 ダンブルドア先生が朗らかに言うと、アンブリッジ先生は更に表情を硬くした。

 

「見つけた? 貴方が? お忘れかしら、教育令第22号によれば——」

 

「魔法省は適切な候補者を任命する権利がある。ただし、校長が候補者を見つけられなかった場合のみじゃ。さて、ではご紹介させていただこうかの」

 

 ダンブルドア先生が玄関のドアへと視線を向けると急にドアが開け放たれる。

 そこにはプラチナブロンドの髪に青い目、そして頭と胴体は人間でその下が黄金の馬になっているケンタウルスが立っていた。

 

「フィレンツェじゃ。あなたも適任だと思われることじゃろう」

 

 アンブリッジ先生の顔が今まで見たこともないようなものへと歪んだ。

 その瞬間私はアンブリッジ先生にこれまで以上に嫌悪感と憎悪を覚える。

 あの目は知っている。

 『人』が『人ならざる者』を軽蔑するときに向ける目だ。

……そうか、ようやくわかった。

 何故私がここまでアンブリッジに嫌悪感を抱くのか。

 本能的に察していたのだ。

 こいつはお嬢様の敵だと。

 私は無意識にナイフを握りこんでいたが、ふと気がつくとダンブルドア先生がこちらを真っすぐと見ている。

 そしてたしなめるようにチラリと私の手元に視線を落とした。

 私は静かに頷きナイフを袖の中に仕舞い直す。

 私はそれ以上アンブリッジの顔を見たくなかったので群衆に紛れ談話室へと戻った。

 

 

 

 

 

 フィレンツェが教師になって初めての占い学の時間。

 私はハリーとロンと共に1階の11番教室に来ていた。

 その教室にはケンタウルスのフィレンツェに合わせて森のような内装になっている。

 床は土になっており、そこから苔や樹木が生えている。

 

「ハリー・ポッター」

 

 私たちが教室に入った途端にフィレンツェはハリーに声を掛けた。

 どうやらハリーとフィレンツェは知り合いのようだ。

 ハリーは戸惑いつつもフィレンツェと握手をしている。

 

「また会うことは、予言されていました。さて、授業を始めましょう」

 

 クラスに人が揃うとフィレンツェは授業を開始した。

 

「ダンブルドア先生のご厚意でこの教室が用意されました。私の棲息地に似せてあります。できれば禁じられた森で授業をしたかったのですが……しかし、もはやそれも叶わないことです。まあ、そんなことは気にしていても仕方がないので授業に移りましょう」

 

 フィレンツェが天井に手を向けると徐々に部屋が薄暗くなっていく。

 そして天井が小さなプラネタリウムのようになった。

 

「驚き桃の木」

 

 ロンが訳の分からない驚き方をする。

 まあでも、クラスの他の生徒も驚いているようだった。

 

「床に仰向けに寝転んで。星空を観察してください。見る目を持った者にとっては我々の種族の運命がここに書かれているのです。皆さんは天文学で惑星やその衛星の名前を勉強しましたね。ケンタウルスは何世紀も掛けて天体の動きの神秘を解き明かしてきました。その結果、空には未来が隠れている可能性があると知ったのです」

 

 フィレンツェはその後ケンタウルスの行う予言がどのようなものかを説明していく。

 その予言は人間本位なものではなく、もっと壮大で複雑なものだと語った。

 

「この10年間、魔法界が2つの戦争の合間の、ほんのわずかな静けさを生きているにすぎないと印されていました。戦いをもたらす火星が我々の頭上に明るく輝いているのは、まもなく再び戦いが起こるであろうということを示唆しているのです。どのぐらい差し迫っているのかを、ケンタウルスは薬草や木の葉を燃やして、その炎や煙を読むことで占おうとしています」

 

 その後は教室内で様々な薬草を燃やしてその煙の形から占いをした。

 といっても私は煙の揺らめきから何かを察することはできないし、それは皆同じようだった。

 フィレンツェから言わせたら、人間がこのようなことが得意だった例がないとのことだ。

 フィレンツェは最後にケンタウルスの予言も外れるし、この世には確かなことは何ひとつないと授業を締めくくった。

 

「ハリー・ポッター、ちょっとお話があります。ああ、そこの男の子と女の子もいていいですよ」

 

 授業が終わるとフィレンツェは私たちを引き留める。

 男の子と女の子とはロンと私のことだろうか。

 

「ハリー・ポッター、貴方はハグリッドの友人ですね?」

 

「はい」

 

 フィレンツェの問いにハリーが答える。

 

「それなら、私からの忠告を伝えてください。ハグリッドがやろうとしていることは上手くいきません」

 

「やろうとしていることが上手くいかない?」

 

「ええ、放棄した方がいいと。自分でハグリッドに忠告してもよいのですが、私は追放された身ですので」

 

「追放された?」

 

 私は思わずフィレンツェに聞き返した。

 

「ええ、この職につくことに反対されて。まあそれは過ぎたことです。ではハリー、頼みましたよ」

 

 一通り話が終わると私たちは教室を出る。

 

「なんだか不思議な授業だったな。ケンタウルスじゃあれが普通なのか?」

 

 ロンが首を傾げた。

 まあ、一風変わった授業であったことは確かだ。

 

 

 

 

 

 DAの会合中、私の予想だにしていなかった事件が起こった。

 この頃DAではついに守護霊の練習を始め、皆必死になって杖の先から守護霊を出そうとしていたのだが、次の瞬間必要の部屋のドアが大きく開け放たれる。

 私は咄嗟にその方向に杖を向けたが、そこには屋敷しもべ妖精のドビーが息を切らせて立っていた。

 

「ハリー・ポッターさま……ドビーめはご忠告に参りました」

 

 ドビーは息も絶え絶えに必要の部屋に蹲る。

 私はゆっくりドビーを引き起こした。

 

「どうしたの? ……何かあったのね」

 

「ここへ……あの人が……」

 

 私はその言葉を聞いて一瞬混乱する。

 アンブリッジだとしたらここにくるはずはない。

 アンブリッジは私たちの活動がふくろう同好会であると信じ切っているからだ。

 そしてこれは推察だが、DAの活動がバレたとしても見て見ぬふりをするだろう。

 

「アンブリッジがここにくるのか?」

 

 その言葉を聞いてドビーは大きく首を振る。

 

「アンブリッジはその逆です。必死に閣下を引き留めようとしているのです。」

 

「閣下……ファッジ大臣がここに向かっているのね」

 

 私はドビーの少ない言葉で全てを理解すると、全員に指示を出した。

 

「全員ふくろう同好会の集会が終わったように見せかけながら自分の寮に戻りなさい! ハリー、貴方もよ。ここには私独りが残るわ」

 

 私が声を掛けると全員ドアから一目散に逃げていった。

 だがハリーだけは動こうとしない。

 

「……咲夜だけを置いてはいけない」

 

「なに馬鹿なことを言っているのよ。貴方がいると邪魔なのよ。足手まといなのが分からない?」

 

 ハリーはその言葉を聞いて悲しそうな表情を見せる。

 その後すぐにドアに向けて走り出した。

 ついに私は必要の部屋に独りになる。

 私はそこで一度目を瞑ると、必要の部屋に語り掛けた。

 この部屋を箒置き場に偽装して欲しいと。

 私の要望に応じて必要の部屋はみるみるうちに小さくなり、あっという間に箒置き場へと変わる。

 次の瞬間ファッジ大臣が必要の部屋の扉を開いた。

 

「……そこで何をしている?」

 

「おかしなことを聞きますね。箒を置く以外に何かできるのですか? それとも今から何かやろうとしているのですか?」

 

 私は適当にはぐらかしつつファッジ大臣の周囲を観察する。

 そこにはおろおろとした表情を私に向けているアンブリッジと、パーシーがいた。

 いや、それ以外にも後ろに護衛を2人引き連れている。

 そのうちの1人はキングズリーだ。

 

「あら、皆さんお揃いで。……あの、そこを通してもらいたいのですが」

 

 私は出口を塞いでいるファッジ大臣の顔を困ったように見つめた。

 その瞬間アンブリッジ先生は更にどうしていいかといった顔をし、キングズリーとパーシーも心配そうな顔をファッジ大臣に向ける。

 

「ここで何人もの生徒が集まって戦闘訓練をしていると聞いたのだが……首謀者はお前とハリー・ポッターらしいな」

 

 ……なるほど、密告か。

 私はファッジ大臣の言葉で大体のことを察する。

 大方DAメンバーの誰かが先生に会合のことを密告したのだろう。

 この可能性は考えていなかったわけではないが、まさかファッジ大臣が直々に来るとは思ってもみなかった。

 

「一体誰がそんなことを? そして、何故ここに来たのです?」

 

 私はそう言ってアンブリッジをチラリと見る。

 次の瞬間アンブリッジは弾かれるように生徒の名前を口にした。

 

「マリエッタ・エッジコムよ! ……あ」

 

 ファッジ大臣はギロリとアンブリッジ先生を睨みつける。

 なるほど、レイブンクローのマリエッタか。

 

「戦闘訓練なんて……マリエッタの言葉を信じたのですか?」

 

 私は肩を竦めて見せる。

 そしてファッジ大臣の横を通り抜けようとした。

 

「待ちたまえ。裏は取れている」

 

 ファッジ大臣は私の肩を掴み無理やり私を引き留めた。

 

「「「おおっ……」」」

 

 途端に私のことを知っている3人が変な声を出す。

 ファッジ大臣を称えているようなそんな声だ。

 裏を返せば「いい度胸してる」といった感じだろうか。

 まあ、流石の私も引き留められたぐらいでナイフを投げるほど器の小さい女ではない。

 

「裏は取れているとは?」

 

「ついてきたまえ。校長室だ。キングズリー、咲夜を逃がすなよ」

 

「分かりました閣下」

 

 キングズリーはファッジ大臣に返事をすると、私の後ろについた。

 まあ、逃げようと思えばいつでも逃げられるのだし、私は素直にファッジ大臣について行くことにする。

 しばらく歩きガーゴイル像を抜け、私はファッジ大臣に連れられて校長室に入った。

 そこにはダンブルドア先生がいつものように椅子に腰かけている。

 

「一体何事かね。コーネリウス」

 

 ダンブルドア先生はそう言いつつも私へと視線を向けた。

 私はその視線の意味をよく知っている。

 「何もするな」ダンブルドア先生の視線はそう告げていた。

 

「校則を破った生徒を1人連れてきたまでだ」

 

「破ってませんわ。ふくろう同好会はアンブリッジ先生が認めてくださってます」

 

 私がケロリとした表情でそういうと、アンブリッジが縮こまった。

 

「ああ、ふくろう同好会に関しては確かにドローレスが許可を出したかもしれん。だがDAに関してはどうだ? 白を切るつもりなら通報者を連れてきてもいい。ドローレス、連れてきなさい」

 

 ファッジ大臣がそう指示して数分、アンブリッジはすすり泣いているマリエッタを連れて校長室に入ってきた。

 マリエッタの額は膿んだできもので覆われており、そのできものは大きく『密告者』という文字を形作っていた。

 ……よし、ハーマイオニーを殴ろう。

 私はそう心の中で決意をする。

 あんな呪い、密告者が本当のことを言ってますよと言わんばかりではないか。

 

「この少女が全てを話してくれた。お前が始めたDAのことや練習していた内容。ふくろう同好会など全くの嘘で本当は軍隊を組織していたのだろう!?」

 

 ファッジ大臣が力強くマリエッタの肩を叩く。

 その瞬間マリエッタが必要以上にビクンと跳ねた。

 今まで我を忘れていたと言わんばかりに校長室内を見回し、そして私を見つける。

 

「いや、いやぁぁぁぁあああああああああああっ!! 殺さないで! 殺さないでぇええええええ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………………」

 

 そのまま蹲りマリエッタは動かなくなった。

 その様子を見てダンブルドア先生は椅子から立ち上がる。

 キングズリーがすぐに駆け寄り、生死を確認した。

 

「気絶しているだけです」

 

 キングズリーはほっとしたように息をつく。

 当たり前だ。

 私は何もしていない。

 

「動かぬ証拠ではないか! 彼女がDAについて密告している時にこのブツブツが浮かび上がってきたそうだ」

 

 まったくハーマイオニーも余計なことをしてくれる。

 私は頭の中で新しい言い訳を構築させると口を開いた。

 

「ファッジ大臣——」

 

「コーネリウス、DAがなんの略かご存知かの?」

 

 そんな私の言葉を遮るように立ち上がったダンブルドア先生が1歩前に出る。

 私は咄嗟にダンブルドア先生の顔を見るが、あれは何か考えがある顔だった。

 

「……なんの話だ。DAがなんだと言うんだ」

 

 ファッジ大臣は迫ってきたダンブルドア先生から1歩退いた。

 ダンブルドア先生は微笑んだまま、ファッジ大臣に告げる。

 

「ダンブルドア軍の略じゃよ。ダンブルドア・アーミーじゃ」

 

 ファッジ大臣に電流走る。

 ぎょっとなって後退りし、短い悲鳴をあげダンブルドア先生を見た。

 

「し……しかし。貴方が?」

 

「そうじゃ」

 

「貴方がこれを組織した?」

 

「いかにも」

 

「貴方が生徒を集めて、貴方の軍隊を?」

 

「おお、そうじゃとも。コーネリウス。全てわしが計画したことじゃよ」

 

 ダンブルドア先生はそう言い切った。

 私は流石に我慢できなくなり、時間を停止させてダンブルドア先生だけの時間を動かす。

 ダンブルドア先生は部屋を見回すと状況を確認したように頷いた。

 

「止まった時間の中を動くのはこれが2回目じゃのう」

 

 ダンブルドア先生はそんな呑気なことを言いながら私へと向き直る。

 

「さて、時間が止まっているということは、全てを説明してくれるということかの?」

 

「先生が何をしようとしているのか、後で話してくれるというのでしたら」

 

 私の言葉にダンブルドア先生は微笑みながら頷いた。

 私はDAの始まったきっかけから今までの活動の内容まで事細かにダンブルドア先生に説明をする。

 ダンブルドア先生はそれを静かに聞くと、一度頷いた。

 

「なるほどの。ハリーとハーマイオニーが中心になって活動が始まったと。君が計画したにしては情報管理がずさんじゃと思ったらそういうことじゃったか。じゃが安心するといい。この状況、わしが利用させてもらう」

 

「利用?」

 

 私は思わずダンブルドア先生に聞き返した。

 

「暫し時間が欲しいのじゃ。実をいうと優雅に学校の校長をしているほどわしも暇ではないのでのう。いい機会じゃから少し自由に使える時間が欲しい」

 

 私はダンブルドア先生が分霊箱の捜索を始めるのだと察した。

 もしそうだとすると少し拙いことになる。

 小悪魔と鉢合わせる可能性が出てくるのだ。

 だが、引き留めることはできない。

 

「ヴォルデモートを倒す為……ですか?」

 

 私は自分の立場や、去年ダンブルドア先生に打ち明けた心境などを利用して神妙な声でダンブルドア先生に尋ねた。

 ダンブルドア先生は一度にっこりと微笑むと、しっかりと頷く。

 

「君がハリーたちの手伝いをしてくれていたのも、その為なのじゃろう? 騎士団には顔を出すじゃろうし、話すのがこれで最後とは思わん。じゃがこれは急を要することじゃから伝えておこうかの。マリエッタを殺すでないぞ? 怪我を負わすのも精神的に苛めぬくのも禁止じゃ。アンブリッジ先生のようにの」

 

「何の話やら」

 

「ほっほ。では、時間を進めておくれ。何も口出しするでないぞ。コーネリウスから何か聞かれても適当にはぐらかすのじゃ」

 

 ダンブルドア先生は先ほどと同じ体勢を取り直す。

 それを見て私も同じ体勢を取り時間停止を解除した。

 

「では、やっぱり貴方は私を陥れようとしていたのだな!」

 

 時間を動かした瞬間にファッジ大臣が喚く。

 

「その通りじゃ」

 

 ダンブルドア先生は朗らかに言い返した。

 ファッジ大臣は私とダンブルドア先生を交互に見ると、恐怖と喜びが入り混じったような顔をして軽く笑う。

 

「ウィーズリー! 今のを全部書き取ったか? ダンブルドアの告白を、一語一句」

 

「はい、閣下。大丈夫です」

 

 パーシーは待ってましたと言わんばかりに答えた。

 

「すぐさま日刊予言者新聞に送れ! ……さてさてダンブルドア。お前をこれから魔法省に連行する。そこで正式に起訴されアズカバンに送られるのだ」

 

「残念じゃがコーネリウス。わしはびっくりワクワク脱出ゲームを楽しんでいる時間など無いのじゃ。ということで失礼させてもらおうかの」

 

 ダンブルドア先生はそのまま校長室を出ていこうとする。

 そこにファッジ大臣が連れていた闇祓いのもう一人の方であるドーリッシュが立ちはだかった。

 ドーリッシュはまっすぐダンブルドア先生に杖を構えている。

 

「ドーリッシュ、愚かなことはやめるがよい。君がいもり試験でいい点を取ったのは覚えておる。しかし、君ではわしに勝てんじゃろ」

 

 完全に図星だったようだ。

 ドーリッシュと呼ばれた魔法使いは困ったようにファッジ大臣に視線を向ける。

 

「すると、お前はたった1人で私たち4人を相手にする気かね? え? ダンブルドア」

 

「いやまさか。貴方が愚かにも無理やりそうさせるなら別じゃが」

 

 私がダンブルドア先生に加勢しようと杖を振り上げるのをダンブルドア先生がたしなめる。

 

「そのまさかだ! ドーリッシュ、シャックルボルト! かかれ!」

 

 次の瞬間ダンブルドア先生は高速で杖を抜き放ちファッジ大臣、アンブリッジ、キングズリー、ドーリッシュに失神の呪文を掛ける。

 その余りの速さに私でも目で追うのがやっとだった。

 次々と4人が床に倒れていき、積み重なる。

 

「さて、咲夜よ。マリエッタに忘却術を掛けておいてほしい。コーネリウスやアンブリッジ先生がこれ以上何かをしないうちにの。わしはちょっと出かけてくる。おお、そうじゃ。マクゴナガル先生にわしの不在を伝えておいてくれんか」

 

「先生はこれからどちらに?」

 

 私が聞くと先生は人差し指を立て口に当てた。

 

「秘密じゃ。何せ極秘裏に動く必要があるのでの。フォークス」

 

 ダンブルドア先生の一声で不死鳥が宙を舞い先生はその尾羽を掴んだ。

 その瞬間炎が上がり、ダンブルドア先生は姿を消す。

 どうやら不死鳥を用いた特殊な姿現しらしい。

 私は動くもののいなくなった校長室を改めて見回す。

 そして倒れている4人に忘却術を掛けここに私がいたという記憶を消すと、マリエッタの首根っこを掴んで引きずり校長室を後にした。

 私は一度しっかりとマリエッタに失神呪文をかけ、起きないようにする。

 その後時間を止め、必要の部屋前へと姿現しした。

 私はそこで必要の部屋に念じる。

 白く、真ん中に椅子が1つ置かれた部屋が欲しいと。

 3回部屋の前を往復して目を開けるとそこには小さな扉が現れていた。

 私はその中にマリエッタを放り込むと自分も中に入る。

 そしてマリエッタを中央にポツンと1つ置かれた椅子に鎖で縛りつけた。

 

「エネルベート、活きよ」

 

 マリエッタに呪文を掛けるとマリエッタはすぐさま意識を取り戻す。

 そして部屋を見回し、私の姿を捉えた。

 

「ひっ!」

 

 マリエッタは小さく悲鳴をあげ、椅子から立ち上がろうとする。

 だが巻き付いている鎖がそれを許さなかった。

 

「マリエッタ。貴方は何をしたのか理解できている?」

 

 私はマリエッタのできものだらけの顔を覗き込む。

 マリエッタは少しでも私から逃げようと体を捩った。

 

「失望したわ。レイブンクロー生の貴方ならもう少し賢いものだと思ったのだけど。私の思い違いだったみたいね。さて、これなんだかわかる?」

 

 私はポケットから裁縫針を取り出す。

 マリエッタはまるでそれがナイフにでも見えているかのように悲鳴をあげた。

 

「治癒の呪文で完璧に治せるのは軽傷までなの。大きな傷になればなるほど完全に治すのは困難になっていくわ」

 

 私はマリエッタの髪の毛を掴み頭部を固定させる。

 そしてできものの1つに裁縫針を突き立てた。

 

「あああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 マリエッタが悲鳴をあげて頭を振る。

 だが針は固定させているのでその行為でさらに傷口を広げることになってしまった。

 

「エピスキー、癒えよ」

 

 私が治癒の呪文を唱えると出血していた血は止まり、傷口だけが静かに塞がる。

 

「や、やめて……反省、してます」

 

「本当に?」

 

「本当です!」

 

 マリエッタは涙目で訴えた。

 

「そう、じゃあチャンスを与えましょう」

 

 私は先ほどマリエッタのできものを刺した裁縫針をマリエッタに手渡す。

 そしてマリエッタの両手を自由にした。

 

「その針を自分自身のどこでもいいから刺しなさい。刺した場所と刺した深さによって貴方がどれだけ反省しているか判断するわ。安心しなさい。針で刺した程度だったら私でも完璧に治してあげれるわ。だから、何処に刺してもいいわよ」

 

 私のその言葉にマリエッタは絶望的な顔をする。

 そして恐る恐る針を右手で持つと、左腕の二の腕へと近づけた。

 

「そう、貴方はその程度しか反省していないのね。貴方は仲間を売ったのよ?」

 

 私がそう言うとマリエッタの手が止まる。

 

「おすすめは眼球、爪と指の間よ。何でもないところに刺すんだったら3センチは欲しいわね」

 

 マリエッタの体が震え出し、針を取り落としてしまう。

 私はその針を拾いマリエッタに渡しながら微笑みかけた。

 

「次落としたら2本に増やすわ」

 

「ご、ごめ……。ごめんなざい……」

 

 マリエッタは顔を涙でぐちゃぐちゃにして私に謝る。

 

「反省しているのね?」

 

「反省しでいまず!!」

 

「じゃあできるわよね」

 

「……へ?」

 

 私は微笑みながら1歩下がった。

 マリエッタは私の言葉に驚いたのか、また針を落としてしまった。

 

「あら、残念ね。1本追加よ。そうね、1本だけ手伝ってあげるわ」

 

 私は床に落ちた針を拾い上げマリエッタの指に近づける。

 それをそのままマリエッタの爪の間に————

 

 

 

 

 

 

 

 時間を止めて30時間余り。

 私は一通りの拷問が終わるとマリエッタに治癒の呪文を掛け、拷問の痕を消し去った。

 さらにその上から忘却術を掛け、記憶を操作していく。

 そして自分がDAについて密告し、それを深く反省したという記憶だけを残し、DAが何をやっていたのか何故自分が反省したのかなどの記憶は綺麗さっぱり消し去った。

 私はマリエッタが混乱している間に医務室に届け、自分は夕食を取りに大広間へと向かう。

 その途中でアンブリッジに捕まった。

 

「咲夜。夕食前にちょっとお話を聞いてもらってもいいかしら?」

 

 私は面倒くさそうにアンブリッジを見る。

 そしてその後ろにドラコ率いるスリザリンの生徒がいることに気がついた。

 

「できれば早く夕食を取りたいと思っているので、巻きでお願いします」

 

「大丈夫。時間は取らせませんわ。貴方を校長補佐官に任命したいの。つまり、私の補佐官を務めて欲しいのよ。授業や試験は全部免除します。私の部屋にいれば好きなことをしててもいいわ」

 

 なるほど、どうやらアンブリッジはダンブルドア先生に代わって校長になったようだ。

 そして多分これは悪霊対策だが、私を補佐官に任命したいらしい。

 

「ですが今年はふくろう試験が……」

 

「全て免除して全ての試験に『O』の判定を付けます。悪い話ではないでしょう?」

 

「ふむ」

 

 私は一瞬考え込んでしまう。

 はっきり言ってダンブルドアがいない今、学校でいい子ちゃんぶる必要もない。

 試験の点数も、あまり眼中にない。

 そしてなにより私はアンブリッジが嫌いだ。

 なので私はその提案を飲むことにした。

 

「いいですよ。お受けしましょう。……後ろのドラコたちは?」

 

「彼らは私が認定した私の親衛隊です。特別に監督生からも減点する権限を持っています」

 

 アンブリッジ先生は得意げにそう言った。

 ドラコは胸を張り私に『I』の形をした小さな銀バッジを見せてくる。

 なんというか、本当にバッジが好きだなホグワーツ生。

 

「先生、1ついいでしょうか。なっても良いですが約束して欲しいことがあります。一度約束したら必ず守ってもらいます」

 

 その言葉にアンブリッジはキョトンとする。

 

「私に罰則をくださないこと、私を退学にしないこと、私の行動でグリフィンドールから減点しないこと。この3つを飲んでくださるなら私は校長補佐官になります」

 

 アンブリッジは私に対して微笑む。

 

「補佐官に対してそんなことするはずないでしょう? 約束しますよ」

 

「では契約の握手を」

 

 私はアンブリッジに右手を差し出した。

 アンブリッジは私の右手を握った。

 私はそのままアンブリッジの手を引き床に座らせる。

 

「ドラコ、結び手をお願いするわ」

 

「ちょちょちょ、ちょっと待って? 破れぬ誓いを結ぶの?」

 

 アンブリッジは咄嗟に手を振り解こうとするが、私は手を離さない。

 

「約束を違えないなら、何の問題もありません」

 

 私の言葉を聞いてドラコが意気揚々と杖を取り出す。

 アンブリッジも渋々それに応じた。

 

「私、ドローレス・アンブリッジは十六夜咲夜に処罰を下したり、退学にさせたりすることをしません。また、彼女を口実にグリフィンドールから点を引きません」

 

「私、十六夜咲夜はドローレス・アンブリッジ校長が私を退任させない限り、校長であり続ける限り、補佐官であり続けます」

 

 次の瞬間ドラコの杖から蛇の舌のような眩しい炎が飛び出し、私とアンブリッジに巻き付く。

 そして両者の頷きをもって誓いを成立させた。

 私は儀式が終わると満足げに頷き、そっと立ち上がる。

 そしていい位置にあるアンブリッジの頭を思いっきり蹴りつけた。

 

「――ッ!? こ、ここここの感覚ぅぅうううう!?!?」

 

 アンブリッジは口から血を流しながら目を白黒させて私を見る。

 私は口を三日月の形に歪め舌を出し、アンブリッジに言った。

 

「ひっかかった馬鹿がここに1人」

 

 私はもう一度アンブリッジの頭部を蹴飛ばす。

 アンブリッジはようやく状況を理解したらしく、わなわなと拳を握った。

 

「い、今までのは全て貴方だったの?」

 

「はい」

 

「私を騙していたのね?」

 

「はい。そうです」

 

「貴方をた――……たい、退が……」

 

「いいんですか先生。破れぬ誓いを破ると死にますよ?」

 

 途端にアンブリッジの顔色が真っ青になった。

 ようやく自分が嵌められたことに気がついたらしい。

 私はダメ押しにもう1発アンブリッジの腹を蹴飛ばすと、ニッコリと笑う。

 

「では、これから補佐官として精一杯先生の補佐をつとめるので、先生も死なない程度に頑張ってくださいね」

 

 私は呆然と地面に転がっている汚物に背を向けると、大広間へと向かった。

 いやあ、少し大変だったが頑張った甲斐あり、ようやくこの状況にありつくことができた。

 これで私がアンブリッジになにをしようが、私が学校で何をしようが退学にできなければ減点することもできない。

 私はグリフィンドールの机に着くと平然とした表情で夕食を取り始めた。




用語解説


ザ・クィブラー
咲夜の一言で崇め奉られる対象に。

悪霊の予見をしたのに追い出されるトレローニー
無能云々よりも性格が気に入らなかったようです。

フィレンツェ
上半身人間で、下半身だけ馬 弓を持ってる。

ファッジ大臣
アンブリッジの様子が変なので視察に来た結果がこれです。

自由な時間が欲しいダンブルドア
分霊箱を探すのと並行してあることもしています。

自主規制
長々とマリエッタの拷問シーン書いても仕方がないので適当に自主規制という名のカットをしました。

破れぬ誓い
咲夜「その言葉が聞きたかった」
アンブリッジ「!?」
これで何をしても学校から追放されることがありません。


追記
文章を修正しました。

2018/12/08 加筆修正

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