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第二の課題当日。
私は大広間で朝食を取っていた。
懐中時計は現在午前の9時を指している。
食べてすぐ泳ぐのはどうかとも思うが、まあいいだろう。
お腹が空いて動けないよりかはいくらかマシだ。
クロワッサンをもさもさとしながら、私は懐中時計をポケットに仕舞い直す。
そしてお腹も膨れたところでグリフィンドールのテーブルから立ち上がった。
「やあ、咲夜。ハリーを見なかったか?」
私が大広間を出ようとするとディゴリーが話しかけてくる。
どうやら先ほどからハリーを探しているようだった。
「朝はまだ見ていないけど……まだ降りてきてないの?」
「どこにいるか分からないんだ。もしまだ談話室で寝ているとしたら拙いことになる。競技に遅刻というのはどうもね」
そうか、もしハリーの大切な人がロンで、クラムの大切な人がハーマイオニーだった場合、ハリーの助っ人はディゴリーしかいなくなるのか。
「流石にハリーが競技をすっぽかすということはないと思うけど……随分と魔法を教え込んだんでしょう?」
「ああ、だがハリーが教えた術を使いこなせるかと言われると……少しね。時間もそんなになかったし」
ディゴリーは困ったように頭を掻いた。
「取り敢えず私は競技場の方へ向かうわ。ハリーのことは頼んだわよ」
私はディゴリーと別れて湖の方へと向かう。
湖には大きな観客席が設けられており、既に多くの観客が詰め掛けていた。
私は審査員席へと近づく。
確か選手はそこに集合となっていたはずだ。
「やあやあ! 咲夜! 今回も期待しているよ?」
バグマン氏が声を上げ私に向けて手を振っている。
その近くにはクラムとデラクールの姿があった。
クラムは既に水泳パンツ一丁だ。
デラクールは寒そうにローブで体を包んでいるが、その下は水着なのだろう。
そこに制服でローブ姿の私が並ぶ。
その光景が少し異様なのだろう。
観客席からはざわざわと疑問の声が上がっていた。
私は懐中時計を取り出し時間を確認する。
現在の時刻は9時20分。
今のところハリーは現れていない。
審査員席にいるマダム・マクシームやカルカロフの表情からして、2人はハリーが来ないものだと思っているのだろう。
私はローブを脱ぎ鞄の中に入れる。
そして鞄を制服のポケットに突っ込んだ。
「到着……しました……」
あと1分もしないうちに競技が始まるというところでハリーが審査員席に駆け寄ってくる。
あの急ぎようと制服姿を見る限り、どうやら寝坊したようだ。
バグマン氏は湖岸に沿って3メートル間隔に選手を立たせる。
「さて、全ての選手の準備が整いました。第二の課題はわたしのホイッスルを合図に始まります。果たして選手たちはきっちり1時間のうちに奪われたものを取り戻すことができるのでしょうか! では、1、2の……3!」
ビーッ! っとバグマン氏はホイッスルを鳴らす。
その瞬間に選手たちが水の中に入る準備を始めた。
私は服に防水呪文と防寒呪文を、頭に泡頭呪文を掛ける。
そしてそのまま空を飛ぶ要領で水の中へと飛び込んだ。
はっきり言って空を飛ぶのも水の中を泳ぐのも原理は変わらない。
抵抗の違いや圧力の違い、酸素の有る無しといった違いはあるが、魔法を使えば些細な問題だった。
私は生きた魚雷のような速度で水中を進んでいく。
制限時間内に人質を助ければいいのだ。
私は全神経を集中させて水中人の歌が聞こえないか探る。
途中水魔が私の前を横切ったが、物凄い勢いで進む私の頭とぶつかり気絶して湖面へと浮かんでいった。
開始10分もしないうちに私の耳は水中人の歌を捉えた。
探す時間は 1時間
取り返すべし 大切なもの……
微かに北の方角から歌が聞こえてくる。
これは案外簡単に終わってしまうかも知れない。
私が歌の聞こえてきた方向へと進むと、藻に覆われた石の住居の群れが見えてくる。
どうやらアレが水中人の家のようだ。
水中人の村を私は杖を構えて横切っていく。
すると広場のような場所に出た。
水中人のコーラス隊らしき群れがそこで歌を歌っている。
私は周囲を見回し人質を探した。
右からデラクールの妹らしき少女、ハーマイオニー、そしてロン。
ということは右からデラクールの人質、クラムの人質、ハリーの人質として残るは一番左。
「え?」
そこにはお嬢様が潜水服のようなものを着て、楽しそうにこちらに手を振っていた。
お嬢様の口がパクパクと大きく開く。
どうやら読唇しろと言っているらしい。
『水の中にここまで深く潜ったのは初めてだけど、案外楽しいところね。潜水服は動きにくいけど』
そう言ってお嬢様は体を捻る。
『お嬢様!? どうしてここにいらっしゃるのです!?』
『アルバスから頼まれたのよ。どうやら咲夜の大切な人を沈めないといけないらしいんだけど、ハリー・ポッターは選手だし、ハーマイオニー・グレンジャーとウィーズリーの赤毛は先客がいるじゃない? そしてマルフォイ家のガキが沈んでても貴方助けないでしょ?』
お嬢様はやれやれと言わんばかりに手を上げて肩を竦めた。
『パチェは隠居中だから無理、リドルはダンブルドアの前に顔を出せない、美鈴は論外と考えて、残るは私しかいないじゃない! そう、私が咲夜の大切な人よ!』
お嬢様はそう口で表して胸を張る。
お嬢様の潜水服の中から鈍い音が聞こえるが、どうやら潜水服の中でいつものように羽ばたこうとしたようだ。
『それはそうかも知れませんが……吸血鬼が水に潜るなんて余りにも危険な行為ですよ?』
『あら、私はこれでも楽しんでいるのだけれどね』
また潜水服から鈍い音がする。
これ以上お嬢様の翼にアザができないうちに何とかしないといけないだろう。
『今地上にお連れします。もう少しのご辛抱を』
『あら、私を無様に地上に引っ張っていく気?』
『では最高の舞台をご用意します』
私はお嬢様を繋いでいるロープを切り、お嬢様を自由にする。
そしてお嬢様の手を取った。
『少し位置を調整します。それと、この潜水服は少々不格好ですね』
私はお嬢様が着ている潜水服に目くらましの呪文を掛ける。
すると潜水服だけが透明になり、いつものお嬢様の恰好になった。
もっとも、実際に潜水服が無くなったわけではないので、翼は窮屈そうに背中にへばりついているし、何より空気の層を纏ったような姿になっているが。
私はお嬢様の手を引いて水中を移動する。
そして観客席と審査員席の位置を確認すると、杖に魔力を籠め始めた。
『やるからにはもっとパーっとやりなさい。ほら』
お嬢様が魔力を籠めていた杖に触れる。
次の瞬間物凄い大量の魔力が杖の中に流れ込んできた。
『流石はお嬢様です。想定以上に華やかな物になるでしょう』
私は今や魔力の塊である真紅の杖を湖底へと向ける。
そしてその魔力を全て使って変身術を湖底へと掛けた。
次の瞬間湖底の岩の1つが玉座へと変わった。
お嬢様は満足そうにそこに座る。
『これで終わり?』
『ご冗談を』
お嬢様が座った玉座を中心に湖底が姿を変えていく。
ゴツゴツとした石や岩は赤いカーペットとなり広がる。
そしてそのまま地響きを立てて階段を作りながら上へ上へと盛り上がっていく。
その間にも玉座の周りの物質は変身を遂げていき、お嬢様の周りを装飾していった。
私はお嬢様の横に立ち制服をメイド服に変身させる。
そしてその場にあったロープを大きな日傘へと変えると、水中で広げお嬢様の上にかざした。
次第に玉座の高さは湖面を越え、水しぶきが上がる。
そのままぐんぐんと競りあがっていき、最終的には玉座から審査員席へと伸びるレッドカーペットの敷かれた階段が出来上がった。
私はその光景に内心びっくりしている。
私1人の魔力では、玉座を用意するぐらいしかできなかっただろう。
「なんだなんだなんだー! 湖から玉座がせりあがってきました! あそこで日傘を差しているのは十六夜選手でしょうか!?」
バグマン氏の実況が聞こえてくる。
お嬢様は玉座から立ち上がると透明な潜水服を弾き飛ばし、身軽になる。
そしてゆっくりと階段を降り始めた。
私もお嬢様の後に続いて階段を下りていく。
観衆からは大喝采が、審査員席にいる校長たちも席を立ち、お嬢様を迎えた。
「今回はご協力に感謝しております。スカーレット嬢」
ダンブルドア先生がお嬢様に恭しく礼をする。
お嬢様はそれに手を上げて答えた。
「私と貴方の仲じゃない。それに愛すべき従者の晴れ舞台だしね」
お嬢様とダンブルドア先生はがっちりと握手をする。
それに倣って他の審査員たちもお嬢様と握手を交わした。
パーシーだけはガチガチに緊張していたが。
バグマン氏は全ての審査員との握手が終わると同時に杖を喉に向け拡声の呪文を掛ける。
「十六夜咲夜選手がやりました! 華やかに自らが仕える主人を連れて38分で第二の課題をクリア! 玉座がせり出したことによって他の選手に影響がないかだけ心配ですが、多分大丈夫でしょう!」
フリットウィック先生がそそくさと審査員席の隣に椅子とパラソルを出現させる。
お嬢様は迷うことなくその椅子に座った。
「お嬢様、私は――」
「まだ競技の途中でしょう? 私についていなくてもいいわ」
お嬢様はペッペと手を払う。
そして何事もなかったかのように横にいるパーシーと話し始めた。
いや、あれは会話というよりかは一方的に弄っているだけだが。
「さて、十六夜選手は帰ってきましたが他の選手が上がっている様子がありません。クラム選手は変身術を用いて、デラクール選手は十六夜選手と同じく泡頭呪文、そしてポッター選手は鰓昆布を使用しています。水中での動作ではポッター選手に分があるかも知れませんね」
バグマン氏が実況を重ねていく。
変身術の魔力が切れたのか玉座はまたゆっくりと湖面へと消えていった。
私は杖から温風を出し髪を乾かすとメイド服を制服へと戻した。
お嬢様はいつの間にかパーシーの眼鏡を奪い、掛けて遊んでいる。
その様子をダンブルドア先生は笑いながら見ていた。
「おつかれー、さくっちゃん!」
後ろから声を掛けられ私は咄嗟に振り向こうとしたが、その前に声の主は私に後ろから抱き着く。
「はー、懐かしき咲夜ちゃん」
「……美鈴さんも来ていたんですね」
私は首をギリギリまで回しその人物の顔を見る。
そこには満面の笑みの美鈴さんが立っていた。
「おぜうさまったら酷いんですよ? 私が潜るって言ってるのに自分が潜るって言って聞かないの。吸血鬼に水はヤバいっちゅうねん。咲夜ちゃんもそう思うでしょ?」
「ちゅうねんって……まあ見た時には目を疑いましたが」
美鈴さんは私の脇腹を抱えてクルクルと自分ごと回り出す。
逃げようにも武人の彼女の拘束から逃げられるはずもなく、私は意味もなく回され続けた。
そして観客席の様子を見ていたが、殆どの生徒が暇を潰すように色々なことをやっている。
湖の中でのことは中継されているものとばかり考えていたが、どうやら競技が終わるまでは中で何が起こったのか分からないようだ。
私は回されながらも懐中時計を取り出し時刻を確認する。
10時20分、あと10分で競技時間は終了だ。
「よし、乾いた」
美鈴さんはようやく私を下ろしてくれた。
どうやら私自身を乾かしていたようなのだが、あまり変わった気はしない。
美鈴さんはお嬢様に近づいていくとお嬢様が掛けていたパーシーの眼鏡を奪い自分が掛ける。
パーシーはもう諦めたと言わんばかりに苦笑いを浮かべていた。
次の瞬間パシャンと水しぶきの音が聞こえる。
私が湖面を見るとデラクールが水中人に抱えられて湖から出てきた。
急いでマダム・マクシームとマダム・ポンフリーが駆け寄り水中人からデラクールを受け取る。
そしてあっという間にデラクールは毛布で全身を包まれた。
その手際の良さといったら素直にマダム・ポンフリーに賞賛を贈りたくなるレベルである。
人を毛布で包む選手権を開催したら、間違いなく優勝出来るだろう。
マダム・マクシームが心配そうに見つめる中マダム・ポンフリーはデラクールに次々と呪文を掛けていく。
そして数十秒もしないうちにデラクールの意識を覚醒させると元気爆発薬を無理やりデラクールに飲ませる。
次の瞬間デラクールの耳から湯気が噴き出し、デラクールは我に返ったように叫んだ。
『ガブリエル!!』
デラクールは凄い速度で跳ね起きるともう一度湖に戻ろうとする。
そんなデラクールをマダム・マクシームが必死に押さえつけた。
『フラー! 戻ってはダメです! 貴方は十分頑張りました!』
『嫌よ! 嫌! ガブリエル、返事をしてガブリエル!!』
『ガブリエルなら大丈夫ですから! 貴方は大人しくしてなさい!』
デラクールは今にも湖に飛び込んでいきそうな勢いだ。
そんなデラクールをマダム・マクシームは襟の後ろを掴み持ち上げた。
まるで親猫が子猫でも運ぶかのようにデラクールは簡単に持ち上がる。
マダム・マクシームの巨体だ。
デラクールほどの人間なら持ち上げるのも容易いということだろう。
私は審査員席をチラリと見るが、美鈴さんがお嬢様で同じことをやろうとして綺麗なボディーブローを貰っていた。
「どふっ……」
美鈴さんの口からそんな声が漏れるが、まあ彼女なら大丈夫だろう。
その様子をパーシーがおろおろとした表情で見ている。
なんというか、クラウチ氏の代理で試合の審査員になったりお嬢様に弄ばれたりと苦労が絶えない人だ。
そのうちアーサー氏のように頭部の毛が薄くならないかが心配である。
「さて! 制限時間になりました。ですがまだクラム選手とポッター選手の姿は見えません。かなり水中で手こずっているのか、それとも人質が見つからないのか」
『ぎゃあああああ。ガブリエル! ガブリエール!』
『駄目です、フラー! 競技はもう終わりました! ガブリエルは無事ですので少し大人しく……』
なんというか、あっちこっちで別のことで盛り上がっている。
観衆たちもそろそろ選手たちが上がってくると湖面を見つめている。
すると湖の中から1匹のサメが飛び出した。
いや、サメではない。
頭だけをサメに変身させたクラムがハーマイオニーを手に抱えて飛び出したのだ。
クラムはそのまま2メートルほど飛ぶとドシンと湖岸に着地する。
そして頭の変身を解いた。
「大丈夫ですか? ハーム‐オウン‐ニニー」
「けほ、うぇ。……え、ええ大丈夫。ありがとうビクトール」
「クラム選手、制限時間を3分オーバーしましたが見事人質を取り戻しました! いやはや素晴らしい!」
観客席の方から割れんばかりの拍手が聞こえてくるがクラムとハーマイオニーの耳には入っていないようだった。
すぐさまマダム・ポンフリーが飛んできて2人を毛布で包む。
これで湖から出てきていないのはハリーだけになった。
「ハリーは出てこないわね。死んだ?」
「不謹慎なこと言わないでくださいよ。美鈴さん」
いつの間に戻ってきたのか美鈴さんが私の横に立っている。
ハーマイオニーは美鈴さんの言った死という単語に敏感に反応した。
「ビクトール! そういえばハリーは?」
「彼なら大丈夫です。ヴじに人質のいる場所にたどり着いていました」
「にしては遅いわね。やっぱり死んだ?」
「美鈴さん、不謹慎です」
「いやぁお腹空いてて」
尚更アウトです。
ハーマイオニーは心配そうに湖を見つめている。
デラクールは半ば発狂したように湖に向かって誰かの名前を叫んでいた。
その悲鳴に感化されたのかようやく眼鏡を取り戻したパーシーが顔を真っ青にしながら席を立つ。
次の瞬間湖面にハリーの黒毛とロンの赤毛が見えた。
ロンは脇に銀色の髪の少女を連れている。
歳は8歳ぐらいだろうか。
その少女を見てデラクールの奇声が更に大きくなったので彼女の妹か何かだろう。
ハリーたちが湖岸へと歩いてくるとパーシーが心配そうな顔で3人に駆け寄る。
足が湖の水で濡れるのもお構いなしといった様子だった。
「ガブリエル! ガブリエル! あの子は生きてるの? 怪我してないの?」
デラクールが心配そうに少女を見て叫ぶ。
パーシーはロンの腕を掴み引っ張って行こうとしたが、ロンはそれを鬱陶しそうに断る。
そしてついにデラクールはマダム・マクシームの静止を振り切って少女をしっかり抱きしめた。
『水魔に襲われて……私、もう駄目かと。ああ、ガブリエル。もう駄目かと……』
『何をそんなに心配してるの? お姉ちゃん』
ガブリエルと呼ばれた少女はキョトンとした顔で姉を見ていた。
ハリーたちはいつの間にかすっ飛んできたマダム・ポンフリーに毛布で包まれている。
毛布で身動きが取れないハリーの口にマダム・ポンフリーは元気爆発薬を飲ませた。
私は審査員席の方を見る。
そこではダンブルドア先生が水中人と何かを話していた。
どうやらダンブルドア先生はマーミッシュ語が話せるようだ。
悲鳴のような言葉で何かを言い合っている。
「どうやら、点数をつける前に協議が必要じゃな」
その言葉を聞いてマダム・ポンフリーがパーシーをロンから引き剥がしに掛かる。
普段気取ってはいるが、パーシーも弟思いのいい兄ということだろう。
パーシーが渋々審査員席に戻ると秘密会議が始まった。
何故かそこにお嬢様も参加している。
スペシャルゲスト的な扱いなのだろうか。
「生きてたか。案外丈夫だね」
美鈴さんは湖岸の様子を見ながらケラケラと笑っている。
ハリーたちは今まさにデラクールからキスを貰って顔を真っ赤にしているところだった。
「おお、情熱的! 咲夜ちゃんもしてきたら? あの赤毛の方の子なんて飛び上がるんじゃない?」
「冗談キツイですよ。理由もないですし」
暫くするとハリーたちも余裕が出てきたのかこちらに近づいてくる。
「お疲れ、咲夜。その様子を見ると……随分前に湖からは上がったみたいだね。そっちの人はワールドカップの時の、ええっと……」
「紅美鈴、美鈴でいいわよ」
「美鈴さん、ですね。咲夜、君の人質はこの人なのかい?」
ハリーが美鈴さんにぺこりとお辞儀をしながら私に聞く。
私は審査員席の方を指示した。
「お嬢様が直々に来られたわ」
「え? 吸血鬼って確か流水はアウトじゃ……」
「そこはダンブルドア先生が上手くやってくれたみたいね。まあ私も湖底で見たときは度肝を抜かれたけど」
ハリーが審査員席の方を驚いた顔をしてみている。
お嬢様はパラソルの下で何やら意見を述べているようだった。
「ハリーは随分と遅かったけど、何かあったの? 美鈴さんなんてもうすっかりハリーが死んだことにしていたわよ」
「ああ、うん。少しね」
ハリーは私から目を背ける。
今になって自分のやったことを後悔しているといった顔をしていた。
私はそんなハリーの顔から何をやったのか察する。
「もしかして人質が全員無事に助かるように湖底でずっと待ってたの?」
ギクリとハリーの肩が反応する。
なんというか、非常に分かりやすい。
美鈴さんもそんなハリーを見て苦笑いをしている。
「まあそれが吉と出るか凶と出るかは審査員次第ね」
私は審査員席をチラリと見る。
どうやら協議は終わったようだ。
全員が席に座り直し、バグマン氏だけが立っている。
「レディース&ジェントルメン! 大変長らくお待たせしました。審査結果が出ました! 水中人の女長、マーカスが湖底でなにがあったのか仔細に話して聞かせてくれました。そこで、50点満点で各代表選手の得点を発表していきたいと思います……」
「最初に湖から姿を現したのは十六夜咲夜! 湖の中では泡頭呪文と防水呪文、防寒呪文を使い、水中人でも追いつけないほどの速度で水中を自由自在に移動していたようです。そして最後の変身術を用いた演出。文句なしの満点! 50点です!」
どっと観客席が沸く。
拍手や歓声が私へと飛んできた。
「次にミス・デラクール。素晴らしい泡頭呪文でしたが、途中で水魔に襲われゴールにたどり着けませんでした。得点は25点!」
スタンドから、それも主に男子から多大なる拍手が沸き起こる。
だがデラクール自身はその拍手に納得していないらしく、「本来なら0点」だと呟いていた。
「ビクトール・クラム君は変身術が中途半端でしたが、効果的なことには変わりありません。人質を連れ戻したのは2番目でした。得点は40点!」
ダームストラングの生徒が大喝采をクラムに贈る。
バグマン氏の解説は続いた。
「ハリー・ポッター君の用いた鰓昆布は特に効果が大きい。戻ってきたのは最後でしたし制限時間も大幅にオーバーしています。ですがマーカスの報告によればポッター君はミス・十六夜に続いて2番目に人質のもとへと到着したとのことです。遅れたのは自分の人質だけでなく、全部の人質を安全に戻らせようと決意した為だとのことです」
バグマン氏はカルカロフをちらりと見てから言葉を続ける。
「これこそ道徳的な力を示すものであり、満場一致で50点満点に値するとの意見が出ました。よって得点はミス・十六夜と並んで50点!」
ホグワーツの生徒がワッと歓声をハリーに贈る。
ハリーはきょとんとした顔で審査員席を見ていたが、すぐに我に返りロンと一緒に飛び跳ねた。
「やったぜハリー! 君は結局マヌケじゃなかった。道徳的な力を見せたんだ!」
審査員席では苦しげな表情でカルカロフがお嬢様を見ている。
お嬢様はハリーの得点を聞いて満足そうに頷いた。
「ありゃカルカロフを抑え込んだのはおぜうさまね」
美鈴さんが隣で呟く。
私も同じことを考えていたところだ。
ハリーを満点にしようと言ったときにカルカロフだけが反対したに違いない。
だがお嬢様が脅すか何かして無理やり納得させたのだろう。
「第三の課題、最終課題は6月24日の夕暮れ時に行われます。代表選手はその1か月前に課題の内容を知らされることになります。諸君、代表選手の応援ありがとう!」
バグマン氏はそこで言葉を切ると審査員席と観客席に軽く頭を下げる。
どうやら第二の課題はこれで終わりのようだ。
私は観衆に大きく手を振ると美鈴さんと共にお嬢様のもとへと向かう。
お嬢様は軽く伸びをすると椅子から立ち上がった。
「お疲れ、咲夜。今のところ50点50点の100点満点じゃない」
「恐れ入ります」
「優勝は出来そう?」
「勿論です。優勝しますわ」
私はお嬢様に頭を下げる。
その様子を見てお嬢様は満足そうに頷いた。
「さて……と。美鈴、帰るわよ」
「お送りしましょうか?」
「大丈夫よ。来た方法で帰るわ」
お嬢様はポケットから汽車のチケットを取り出す。
どうやらホグワーツ特急で帰る予定のようだ。
「あれ? おぜうさま。そのチケット1枚しかないように見えるんですが……気のせいですよね?」
「交通費が出るわけないでしょう? 行きは出してあげたんだから帰りは走って帰りなさい」
「マジっすか!?」
おぜうさま~、と美鈴さんは日傘を持ってお嬢様に駆け寄っていく。
「あ、そうだ咲夜。優勝杯は偽物とすり替えてでも持ってくること。いいわね?」
お嬢様は私にそう言い残すとホグズミード村の方に美鈴さんを連れて歩いていった。
どうやら優勝杯を飾りたいというのは冗談や比喩ではなかったらしい。
これは第三の課題までに双子の呪文の復習をしておかなければならないだろう。
私はお嬢様を見送るとハリーたちと合流する。
なんの対策もしていなかったせいか、ハリーたちは全身びしょ濡れだった。
「お疲れさま。3人とも」
私が声を掛けると3人は振り返る。
「お嬢様についていなくていいのか?」
「今日は美鈴さんがいるからね」
「咲夜のお嬢様って吸血鬼でしょう? 水の中に沈められて大丈夫だったの?」
ハーマイオニーが心配そうな声を出した。
「潜水服のようなものを着ていたから取り敢えず大丈夫よ。それと水中で生きてはいけないのは人間も同じでしょう? 貴方たちこそ大丈夫だったの?」
「ダンブルドアが眠りの魔法をかけたの。水から上がった時に目が覚めるようになってると説明を受けたわ。……そういえばハリー、鰓昆布なんてどこで手に入れたの? あれって凄く貴重だと思うんだけど。セドリックが泡頭呪文を教えてくれたじゃない」
「うん、実は今朝寝坊して……ドビーが起こしに来てくれたんだけどその時に貰ったんだよ。泡頭呪文は……ほら、あんまり成功率高くなかっただろう?」
どうやら当初はハリーも泡頭呪文を使う予定だったようだ。
「そう言えば咲夜は泡頭呪文を使ったんだよね。移動はどうしていたの?」
ハリーが誤魔化そうと私に話を振る。
私は飛行能力のことは言わずに呼び寄せ呪文で自らを引っ張ったと説明した。
「なるほど、呼び寄せ呪文か……ハリー、湖岸から僕を呼び寄せればよかったんだよ!」
ロンのそんな呑気な言葉に私たちはため息をついた。
「そんな簡単に競技が終わるなら誰も苦労しないさ。ロンだって水に沈まなくてもよかった」
「冗談だよ。流石の僕だってそれぐらいは理解してるさ」
私は3人と共に城の中へと入る。
あと残すは第三の課題だけだ。
3月に入ると寒い日も少なくなり、随分と過ごしやすくなった。
私はあれから毎週1週間分の食料を持ってブラックのもとを訪れている。
ブラックは私の姿が誰かに見られていないかを心配していたようだが、私に限ってその心配はなかった。
何回目かの訪問の時、ぽつりとブラックが思い出したかのように言う。
「そうだ、ハリーと少し話したいことがあるんだ」
ブラックは缶詰を開けながらこちらを向いた。
どうやら連れてくる機会がないかと窺っているようだ。
「それなら明日がホグズミード村行きよ」
「それ丁度いい。是非とも3人を連れてきてくれ」
「それは別にいいけど……。じゃあ大人しく待ってなさいよ。迎えに行こうとしてすれ違いましたなんて笑えないわ」
「勿論だとも。ついでにもう少し何か味気のあるものがあると嬉しい」
「缶詰のパスタは嫌い?」
「コーンビーフは上手いんだが、所詮は缶詰だ」
ブラックは肩を竦める。
なんとも贅沢な犬だ。
「あまり文句言うとドッグフード持ってくるわよ。あれなら日持ちするし」
「んな殺生な!」
「流石に冗談よ。わかった。チキンでいいかしら」
私はブラックに軽く手を振ると時間を止め姿くらましする。
そしてホグワーツ城の中で姿現しすると物陰に隠れ時間停止を解除した。
この時間ならハリーたちは談話室にいるだろうか。
私は太った婦人の肖像画を開け談話室へと入る。
私の予想通りハリーたちは談話室の端にいた。
3人で固まってヒソヒソと何かを話している。
「ちょっといいかしら?」
私が声を掛けるとビクンとハリーたちの肩がはねた。
どうやら聞かれたくない話をしていたらしい。
「ど、どう、どうし――なんだ咲夜か」
ロンが安心したようにため息をつく。
私はロンの額に1発デコピンを食らわせる。
バチンという音が鳴りロンが後ろ向きに倒れた。
「なんだとはなによ」
「ぶつことないだろ!? いってー……デコピンの威力じゃないよ、まったく……」
ロンは頭を押さえて起き上がる。
だが自業自得だろう。
「なんの話をしていたの? 随分と話し込んでいるようだったけど」
私がハリーに行くとハリーは少し迷ったような顔をした。
話していいものかと悩んでいるのだろう。
「まあ言いたくないならいいわ。明日はホグズミード行きだけど、少しいいかしら」
私は早速本題に入る。
ロンはそれは困ると言わんばかりに声を上げた。
「明日はゾンコの悪戯専門店で色々と買い込まないといけないんだ。咲夜が付いてくるのは勝手だけど用事には付き合ってられないかもな」
ロンは頭を摩りながらそう言う。
ハリーもその意見に同意しているようだった。
「そう、まあそれなら無理にとは言わないわ。パッドフットにはハリーは忙しそうって伝えておくわね」
ハリーは私の言葉に目を輝かせる。
そして先ほどよりもヒソヒソ声になって私に囁いた。
「シリウスが近くまで来てるの?」
「少し前からホグズミード村の外れの山の中にいるわ。明日案内してあげる。それと、パッドフットの名前は出さない方がいいわよ」
ハリーはロンとハーマイオニーと顔を見合わせる。
そしてコクリと頷いた。
「わかった。明日案内してよ」
「ええ。じゃあ明日の朝。ホグワーツの玄関前に集合でいいわね」
私は約束を取り付けると暖炉の前のソファーに移動する。
そして鞄から本を取り出し読み始めた。
翌日私はホグズミード村に行く生徒に交じり玄関ホールへと来ていた。
既にハリーたちとは合流している。
「少し寄り道をしてもいいかい? ドビーにプレゼントを買ってあげたいんだ。鰓昆布のお礼に」
「ええ、勿論大丈夫よ。別に時間を指定して約束しているわけじゃないしね」
ハリーの提案でブラックの隠れ家に行く前にグラドラグス・魔法ファッション店に寄り道することとなった。
ロンのタキシードの素材を買ったのもこの店だ。
「靴下を集めているみたいでさ。いいのがあるといいんだけど……」
「それなら心配することはないみたいよ」
ハーマイオニーが店内の一角を指さす。
そこには多種多様の靴下が並んでいる。
「思いっきりケバケバしいのを買ってやろうぜ。やっこさんその方が喜ぶだろう」
ロンが点滅している靴下を持ち上げた。
確かにドビーは普通の靴下よりもそっちの方を好むだろう。
私は手元にある紫色の靴下を手に取る。
一瞬パチュリー様にどうかと思ったが、上品さに欠けるので却下した。
ドビーのプレゼント選びが終わると私たちはブラックのいる隠れ家へと足を向ける。
山の麓に向かい、そのまま岩だらけの山道へと入っていく。
山道は結構険しく、私以外の3人はすぐに息を切らしてしまった。
「まったく、だらしないわね」
「なんで……さ、さくやは……息ひとつ切らしてないんだよ……」
ロンが喘ぎ喘ぎに言った。
「メイドだから?」
「それは理由にはなってないわ」
ロンよりもハーマイオニーのほうが元気な気がする。
案外ハーマイオニーは家族と共に山登りなどに出かけるのかも知れない。
そして一番キツそうなのはハリーだ。
大きく息を切らし肩で呼吸をしている。
「大丈夫。あと10分もしないうちに到着するわ」
私がそう告げると3人の表情が少し明るくなった。
私たちはその後も曲がりくねった険しい山道をひたすら歩いて登っていく。
そして20分もしないうちにブラックの隠れ家へと到着した。
「いらっしゃい。ようこそ我が家へ」
「家って呼べるのかしらね」
「住めば都さ」
ブラックは私たち4人を招き入れる。
私は鞄からローストチキンを取り出すとブラックに与えた。
「ありがとう。本当に咲夜に見つけてもらえて助かった。ここに来た当初はネズミばかり食べていたからね」
「それって大丈夫なの?」
ハリーが心配そうな顔でブラックを見る。
ブラックは洞窟の隅に積まれている空き缶を指さした。
「1月の下旬ごろだったか。ホグズミード村で咲夜に会ってね。去年と同じように食料を届けてもらっている。といっても今回は隠れているところが遠く目に付きやすいから缶詰だがね」
「そんな! シリウスがここにいると知ってるならそう言ってよ!」
「言ってどうするのよ? どうせホグズミード村行きの時しか会えないでしょうに」
ハリーが抗議の声を上げる。
「それに1月の下旬っていったら貴方卵の謎を解くのに必死だったじゃない」
「ちょっと待って。その言い方から考えると、咲夜は少なくともホグズミード村行き以外の日にここに来ているってこと?」
「ああ、毎週のように食料を届けてもらっている」
ブラックがチキンを齧りながら言った。
ハーマイオニーは信じられないといった顔をしているが、反対にロンは目を輝かせている。
「すげぇや咲夜。姿現しが使えるのか?」
「ロン、何度も言わせないで。ホグワーツの敷地内で姿現しは出来ないわ」
「だが咲夜はいつも姿現しでここから出ていくぞ?」
ハリーたちとブラックは同時にこちらを見る。
私は時間を止めるとバックビークの方へと歩き時間停止を解除した。
「ほら……消えて、そこに!」
ロンが大声を上げる。
「確かに姿現しだ! すっげえや咲夜。第二の課題も滅茶苦茶やったみたいだし、同学年とは思えないよ」
「でも姿現しするときはもっと大きな音がするはずよ」
「そんなことはどうでもいいでしょう? ブラック、ハリーと話があるのよね」
私の言葉を聞いてハリーはブラックの方を見る。
「シリウスおじさん、どうしてこんなところにいるの?」
「後見人としての役目を果たしている。ああ、なに。私のことは心配しなくていい。愛くるしい野良犬のふりをしているから」
ブラックは食べ終わったチキンの骨をバックビークに投げた。
「もっとマシな物食べさせなさいよ。バックビークにはこれね」
私は鞄から大きな豚の生肉を取り出す。
「私のと大きさが違う」
「貴方とこの鳥じゃ大きさが違う」
私はブラックの言葉を受け流した。
ブラックはガシガシと頭を掻くとハリーに向き直る。
「私は現場にいたいだけだ。君が最後にくれた手紙、ますますきな臭くなっているとだけは言っておこう」
そこから先はクラウチ氏と闇の印に関する話題へとシフトしていった。
私はここで待っていてもよかったが、ホッグズ・ヘッドで待つことにする。
私はブラックとハリーに一声ずつかけると時間を止めてホッグズ・ヘッドの店の裏に姿現しした。
そしてそのまま人目のない場所まで移動すると時間停止を解除する。
私は店の戸を開け中に入った。
「いつもの」
店主に一言注文を告げると店主はガンッとブランデーの入ったボトルとグラスをカウンターへと置く。
私はボトルからブランデーをグラスに注ぎ、リドルの日記を取り出した。
『そっちで何か変わったことはない? この前お嬢様が学校に来られたけど、何か情報が漏れてたりはしないわよね』
『ああ、大丈夫だ。ダンブルドアからは書面で協力の依頼が届いた。お嬢様と美鈴は争うようにホグワーツにすっ飛んでいったよ。まったくあの2人の親バカには困ったものだ。……クィレルに関しては上手くやっているらしい。これは新しい情報だが、どうやらホグワーツにヴォルデモートの手の者が紛れ込んでいるようだ』
『スパイがいるというわけではなくて?』
『ああ、スパイではない。何か不自然な行動を取った人物はいなかったかい?』
私はグラスを右手で回す。
芳醇なブドウの香りが私の鼻を撫でた。
『1人いるわね。ムーディ先生よ。アラスター・ムーディ。元闇祓いね』
『根拠は何か?』
『ハリーの名前をゴブレットに入れたのはムーディ先生よ。なんの目的があってそうしているかは分からないけど』
『ハリー・ポッターの名前をゴブレットに……確かに怪しいな。クィレルは自由に連絡が取れるような環境にいない。もし直接あったら時間を止めてでもよく話し合ってくれ。認識の食い違いがあっては困る』
『分かった。気を付けるわ。それと……少し気になることがあるの。調べてもらえないかしら』
私は万年筆を一度止め、リドルの言葉を待った。
『いいよ。なんだい?』
『アリアナという女性を調べてもらえないかしら。多分何かをしているか、その親族が有名な人かだとは思うんだけど……』
『アリアナだね。わかった』
私はパタンと日記帳を閉じる。
あとはハリーたちが戻ってくるのを待つだけだ。
私はゆっくりとお酒を楽しんだ。
5月も終わりに差し掛かった変身術の授業の後、私とハリーはマクゴナガル先生に呼び止められる。
「ポッター、十六夜。今夜の9時にクィディッチ競技場に行きなさい。バグマンさんから第三の課題の説明があります」
そこで私とハリーは夜の8時半に談話室を後にし階段を下りていく。
その途中でハリーが私に聞いた。
「今度は何が来ると思う?」
「そうね、デラクールは地下トンネルのことばかり話していたわよ。宝探しをやらされると思っているみたいね」
「それならハグリッドからニフラーを借りれば早そうだ」
私たちは玄関ホールを抜けるとクィディッチの競技場の方へと歩いていく。
スタンドの隙間を通ってグラウンドに出ると、そこには背の低い生垣のようなものが植わっていた。
その生垣は四方八方に入り組んでおり、まさに迷路でも作ろうかとしているようだ。
ハリーは無残に姿を変えたグラウンドを見て口をパクパクとさせている。
「はい、代表選手の諸君。さあ、どうかね?」
ピッチの真ん中に立っていたバグマン氏が私たちへと向けて声を掛けた。
傍らには既にデラクールとクラムも立っている。
デラクールはハリーの姿を捉えるとにこやかに笑いかけた。
どうやら第二の課題の時の恩をまだ持っているようだ。
「しっかり育っているだろう? あと1か月もすればハグリッドが6メートルほどの高さにしてくれるはずだ。ああ、ハリー、そんな顔をしないでくれ。心配ご無用。課題が終わればクィディッチのピッチは元通りにして返すよ。さて、私たちがここに何を作っているか、想像はできるかね?」
「見たまんまじゃない。迷路でしょ?」
「その通り!」
私がそう答えるとバグマン氏が声を張り上げた。
「迷路だ。第三の課題は、極めて明快だ。迷路の中心に三校対抗優勝杯が置かれる。最初にその優勝杯に触れた者が満点だ」
「迷路をあやく抜けるだーけでーすか?」
チッチッチ、とバグマン氏は指を振る。
「障害物がある。ハグリッドが色んな生き物を置く。それに、いろいろ呪いを破らないと進めないようになっている。まあ、そんなところだ」
「ちょっと待ってください。優勝杯は1つしかないのですよね? そして最初に触れた選手が満点と言うことは他の選手は? 今までの課題が無駄ってことになりませんか?」
私がそう指摘すると、バグマン氏は首を振った。
「勿論、最初に杯に触ったものが優勝というのは変わらないが、第一、第二と課題をこなした意味はある。今までで獲得した点数が多い者から順にスタートして迷路に入る。まず、100点の十六夜君、その次にハリー、クラム、デラクールの順番だ。全員に優勝のチャンスはあるが、それは頑張り次第と言えるだろう」
まあそれなら文句はない。
誰よりも早くスタートできるということは、誰よりも早く優勝杯にたどり着くことができるということだ。
「よろしい、質問がなければ城に戻るとしよう。ここは少し冷えるようだ……」
私は育ちかけの生垣をチラリと見る。
そして見通せる分だけ記憶すると城へと足を向けた。
第三の課題は迷路。
迷路であるならこれ以上にないぐらい勝算がある。
時間を止めてゆっくりと攻略すればいいのだ。
だが、ダンブルドア先生がどのような妨害をしてくるかはわからない。
もしかしたらムーディ先生も何か手を出してくるかもしれない。
十分に用心して課題に臨んだ方がいいだろう。
途中で私は他の代表選手と別れると、談話室へと上がる。
そして鞄から紅茶とリドルの日記を取り出した。
『課題の内容が分かったわ。迷路よ。ようは障害物走のようなものね』
『大の得意分野じゃないか。負ける気がしないだろう?』
『そうでもないわ。得意分野だからこそ警戒が必要だと思うし』
『まあ用心に越したことはないだろう』
『お嬢様に伝えておいて。必ず優勝するって』
『第三の課題も見に行くみたいだよ。うちのお嬢様は』
『それはいいこと聞いたわ』
私はぱたりと日記帳を閉じる。
そしてそのまま女子寮へと上がるとベッドへと潜り込んだ。
用語解説
おろおろするセドリック
セドリックからしたらハリーが競技場にも何処にもいないという不安な状態。それもその筈、ハリーは競技10分前までベッドで寝てました。
水中を移動。
空を箒無しで飛ぶ要領で水中を飛ぶイメージ。
潜水服おぜう
何故だろう。ピンクの潜水服を着たおぜうを容易に想像できます。
おぜうから魔力注入
言ってしまえばトンネルの爆破工事に核爆弾を使うようなもの。
湖面から玉座がゴゴゴゴ
この時が一番観客席が盛り上がったのは言うまでもない。
ハリーが満点
原作ではカルカロフがいちゃもんをつけたせいで45点でした。
追記
文章を修正しました。
2018-10-15 加筆修正