私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

23 / 51
ワン! ワンワン!
第二の課題直前まで。
誤字脱字等ありましたらご報告して頂けると助かります。


ダンスパーティーとか、洞窟とか、缶詰とか

 クリスマスが刻一刻と近づいてくるのを私は主に聴覚で感じる。

 それは何故だろうか。

 そう、自分に多大なる自信を持っている生徒があの手この手で私を誘いにくるからだ。

 朝食時には毎日10通以上のふくろう便が届き、そのどれもがダンスパーティーの誘い。

 授業の合間にはひっきりなしに声を掛けられ、私はその度に既にパートナーがいると言い断った。

 何故パートナーがいると言っているのに誘いが絶えないか、それは私がパートナーの名前を誰にも教えていないからだろう。

 だから皆私のパートナーはまだ決まっていないものだと思い誘ってくるのだ。

 

「そう、僕は父上に連れられて王室の社交界に行ったことがある。社交ダンスは大の得意なんだ。咲夜が良かったらなんだけど、僕とダンスパーティーに行かないかい?」

 

 ドラコが朝食の席で話しかけてきた時、私はついに来たかと思った。

 ドラコのことなので、そのうち私に声を掛けるだろうとは思っていた。

 

「あら、噂話を聞いていないの? 私のパートナーは既に決まっているわ」

 

 私がそう告げるとドラコは分かりやすくしょぼんとする。

 

「そう、なのか……誰と行くんだい?」

 

「内緒よ」

 

 ドラコは重そうな足取りでスリザリンのテーブルへと戻っていく。

 その様子をハリーとロンが喜劇でも楽しむかのように見ていた。

 

「ざまあねえやマルフォイのやつ。なんで断られることが分かっているのに咲夜を誘うかな」

 

 ロンが今にもオートミールを噴き出しそうになりながら言った。

 

「大方私が男子を断り続けているのは僕を待っていたからに違いないとか考えているのよ。ほんと分かりやす過ぎて面白いわ」

 

 私はトーストにイチゴジャムを付けて食べる。

 シンプルで飽きることのない味というものは、完成されていると言っても過言ではないだろう。

 

「そうは言うけどロン、貴方はどうなのよ。ハリーも、パートナーは見つかった?」

 

「あー……、咲夜、僕と一緒にダンスパーティーに――」

 

「だから既にパートナーがいるって言ってるじゃない」

 

 ハーマイオニーの遠慮の欠片もない言葉にロンは私をダンスパーティーに誘ってくる。

 勿論、言い切る前に断るが。

 

「そういうハーマイオニーはどうなんだよ。ネビルの誘いを断ったって聞いたぞ? 本当はパートナーなんていないくせに」

 

「あら、お生憎様。素敵な男性が見つかったわ」

 

「え? 誰?」

 

 ハリーが自分の皿から顔を上げてハーマイオニーに尋ねた。

 

「秘密よ」

 

 ハーマイオニーはすまし顔で答える。

 

「ホント、女の子って秘密が好きだよな。あっちでコソコソこっちでコソコソ。あー、やんなっちゃう」

 

 まあロンの言いたいことも分からなくはない。

 私も同学年の女子特有のあの雰囲気にはついて行けないからだ。

 

「でも、みんなよくパートナーに誘えるよね。ようは告白大会みたいなものなんだろう?」

 

 ハリーはクロワッサンを齧りながらブツブツと呟く。

 その言葉にロンとハーマイオニーが目を丸くした。

 

「何言ってるんだよハリー。もしそうだったら殆どの生徒はパートナーを見つけられないぜ?」

 

「ハリー、貴方勘違いしているわ。ダンスのパートナーなんだから別に自分が踊りたい人と踊ればいいのよ?」

 

 ロンとハーマイオニーはハリーの勘違いを訂正するように口々に言う。

 それを聞いてハリーはゆっくりと私のほうを向いた。

 

「……咲夜?」

 

 ハリーがぽつりと私の名前を呟く。

 正直私自身驚いているのだ。

 まさかまだあの与太話を信じていたなんて。

 

「ふふっ、騙される方が悪いのよ。こんなあからさまな嘘に」

 

 私がクスクスと笑うとハリーは顔を真っ赤にして怒る。

 

「やってくれたな! あの後僕がどれ程悩んだかも知らずに!!」

 

「あら、悩むほど好きな人がホグワーツにいるの?」

 

「そうじゃなくて……あーもう」

 

 ハリーは諦めたように頭を掻くと、朝食の続きを食べ始める。

 クリスマス・ダンスパーティーまであと1週間。

 私はのほほんとホグワーツの生活を楽しんでいた。

 

 

 

 

 クリスマス・ダンスパーティー当日。

 私は3階にある女子トイレでリドルを待っていた。

 ここに住み着いている嘆きのマートルは一時的に追い出している。

 今頃はホグワーツの湖にでもいるだろう。

 私は今現在紅魔館から持ってきた黒のドレスを着ている。

 違う色も持ってはいるが、これが一番きっちりして見えるだろう。

 私が指定した時間はダンスパーティーの1時間前。

 あと3秒でその時間になる。

 そしてその時間ぴったりにトイレにポンという姿現し特有の音が響いた。

 

「時間ぴったりってのは、なんだか一番印象が悪い気がするわ。そうは思わない?」

 

 私はリドルであろう人物に声を掛ける。

 

「1秒でもズレると文句を言う人のセリフじゃないね」

 

 声が中性的になっているが、この軽口は間違いなくリドル本人だろう。

 リドルはタキシードを着ており、顔にはピエロのような仮面を付けている。

 

「先生にありったけの認識阻害呪文を掛けてもらった。ダンブルドアでも僕の正体を見抜くことは出来ないだろう」

 

 リドルは自信満々に言う。

 確かに私もリドルが来るということを認識していなかったら今ここにいるのがリドルだと分からなかっただろう。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

 リドルと合流することができたので、私たちは玄関ホールへと向かう。

 確か代表選手はそこに集合ということになっていたはずだ。

 

「ホグワーツは懐かしい? ……ってほどでもなかったわね」

 

「そうだね。一昨年ジニー越しに嫌というほど見たよ。だけどここは僕の始まりの場所でもある。僕はここで自分を磨いた」

 

「そう言えば貴方はちゃんと学校を卒業しているのよね。なんだか意外だわ」

 

「ここにいる記憶の僕はまだ卒業はしていないけどね。さて、そろそろ玄関ホールだ。僕のことはジョン・ドゥとでも呼んでくれ」

 

「分かったわ、ジョン」

 

 玄関ホールは生徒でごった返していた。

 皆が大広間のドアが開放される8時を待っているのである。

 

「しばらく人混みに紛れていたほうがいいかしら。貴方のその仮面凄く目立つし」

 

「なに、問題ないよ。君の方が目立っている。美鈴から聞いたよ。君学校でデンジャラス・クイーンだとかキリングマシーンとか言われているんだって? 僕より酷いじゃないか」

 

「貴方と違って優等生演じてないもの」

 

 そう、リドルの言葉通り私たちは凄く目立っていた。

 それが私が代表選手であるせいなのか、リドルの仮面のせいなのかは分からないが、周囲の生徒は私たちを見ながら囁き合っている。

 暫く待っているとハリーがパーバティを連れて、ロンがその後を追うように玄関ホールに入ってきた。

 

「やあ、咲夜。……そっちの人は君のパートナー?」

 

 ハリーがリドルを見ながら呟く。

 リドルは一言もしゃべらず静かに一礼した。

 

「親友のジョンよ。ジョン、こちらはハリー・ポッターとパーバティ・パチル。そしてそっちのノッポがロナルド・ウィーズリーね」

 

 ハリーたちはリドルの見事な礼に思わず礼を返す。

 私はロンの方をチラリと見た。

 

「あら、ロン。あのボロボロはどうしたの?」

 

 ロンは今私がプレゼントした深いブルーのタキシードを着ている。

 ロンは満足そうに自分の服装を眺めた。

 

「サイズもぴったりだったよ。今までのクリスマスで最高のプレゼントさ」

 

「そう、気に入って貰えてなによりよ。私はあのヒラヒラも悪くないと思うけどね」

 

 私がそういうとハリーが苦笑する。

 この1週間ほど、ロンはずっと自分のドレスローブについて愚痴っていたのだ。

 暫くするとパーバティが妹のパドマを連れてきた。

 どうやらロンのパートナーはパドマのようだ。

 パドマはロンの服装を上から下まで眺め、安堵のため息をつく。

 どうやら、ロンのドレスローブの噂は聞き及んでいたらしい。

 

「代表選手はこちらへ!」

 

 マクゴナガル先生の声が玄関ホールに響く。

 私たちはロンと別れると声の聞こえた方へと向かった。

 私たちが玄関ホールを歩くとモーセが海を割るように人垣が割れていく。

 マクゴナガル先生の指示を聞く限りだと、私たちは他の生徒が入場し終えてから列を作って入場するようだ。

 私たちはそこでクラムとデラクールと合流する。

 デラクールのパートナーはロジャー・デイビースというレイブンクロー生だ。

 そしてクラムのパートナーは驚くことにハーマイオニーだった。

 ハーマイオニーはいつものボサボサのくせ毛ではなく、艶のある滑らかな髪をシニョンにしている。

 前歯を矯正したのは知っていたが、磨けばここまで輝く少女だとは思わなかった。

 

「はぁい。ハーマイオニー。貴方のパートナーってクラムだったのね」

 

 私は静かに手を振りながらハーマイオニーに挨拶する。

 ハリーとパーバティは信じられないといった顔でハーマイオニーを見ていた。

 

「こんばんは、ハリー、パーバティ、咲夜。ええっと……咲夜のパートナーの仮面の人はどなた?」

 

「ジョンよ。ジョン・ドゥ」

 

「……いや、つまり誰よ?」

 

 ハーマイオニーが眉を顰める。

 

「秘密だって言ったじゃない。そういう意味よ」

 

 リドルはハーマイオニーに優雅にお辞儀をした。

 ハーマイオニーもそのお辞儀に苦笑いで返す。

 

「まあ、さくやがふつーうの人をつれてくることは、ありえないでーす」

 

 デラクールがリドルを見ながら笑う。

 確かに滑稽ではあるが。

 

「随分な言いぐさだね。まあ普通じゃないから仮面をつけているわけだけど」

 

「あら、ジョン。無口キャラで通すんじゃなかったの?」

 

「喋ってないと釣り合わないだろう? 君の軽口を封殺してこそのパートナーだ」

 

「できてないけどね」

 

「君がそう思うんならそうなんだろう。君の中ではね」

 

 私はリドルの頭をぺしりと叩く。

 その光景をハリーとハーマイオニーは唖然とした顔で見ていた。

 

「なんというか、咲夜が親友というだけはあるね」

 

「褒められているのかな?」

 

 ハリーの言葉にリドルが返す。

 

「いえ、ただ珍しいだけです。ジョンさん。咲夜ってあまり人と仲良くしないから」

 

 ハーマイオニーが困ったように言った。

 身長からリドルのことを上級生だと思ったのだろう。

 

「言われているよ、咲夜。どうやら君は人間に馴染めていないらしい」

 

「貴方に言われたくないわ」

 

「君が仮面をつけろと言ったんだろう?」

 

「一言も仮面をつけろとは言ってないわ。正体を隠せとは言ったけど」

 

「静粛に、ミス・十六夜。そして仮面のパートナーさん。今から入場します。それぞれ組になって私についてきてください」

 

 マクゴナガル先生の声が私たちの言い合いに水を差した。

 私はピタリと口を閉じると、右手をリドルに差し出す。

 リドルはそれを優雅に取った。

 ハリーたちも私たちに倣い手をつないでいく。

 マクゴナガル先生はそれを見ると大広間入り口の扉を開けた。

 入った瞬間に私たちは拍手に包まれる。

 そして先生の後に続き審査員用の大きな丸テーブルのほうへと歩いていく。

 審査員テーブルには3人の校長とバグマン氏、そして何故かパーシーが座っている。

 私たち代表選手は空いている席へと腰かけた。

 

「これはこれは、ダンスの前には食事があるのか。仮面なんてつけてくるべきじゃなかったかも知れない」

 

 リドルが愚痴るように言う。

 もっとも、リドルはただの記憶なので食べることも飲むことも出来はしないのだが。

 

「あら、じゃあ先生方の前でその仮面を剥いであげましょうか? きっと面白いことになるわよ」

 

「僕が思うに面白いのは僕のほうではなく、その後色々と追及される君の方だとは思うけどね」

 

 テーブルの上には金色の皿が置かれているが、その上に料理は載っていない。

 ダンブルドア先生が実演したが、どうやらメニューの中から選択して口に出すとその料理が現れるらしい。

 

「ルービックキューブ」

 

 リドルが冗談めかして言うと、金の皿の上に本当にルービックキューブが現れた。

 

「へえ。貴方の主食ってパズルだったのね」

 

「ああ、これが意外と栄養になるんだ。カラフルなのがいい」

 

 私は適当に料理を頼む。

 私はリドルとは違い食べないと死んでしまう生き物だ。

 

「色のないルービックキューブでもいいじゃない。無限に回せるわよ」

 

「そもそもそれでは初めから完成しているじゃないか」

 

「なにやら愉快なパートナーを連れておるのう。咲夜」

 

 私がリドルと楽しく会話をしていると、やはりダンブルドア先生が話しかけてきた。

 ダンブルドア先生の顔は笑っているが、目はしっかりとリドルの方を向いている。

 

「これはこれは、ダンブルドア校長先生」

 

 リドルが礼をした。

 礼はしたがルービックキューブを回すのはやめない。

 リドルはたった10手でルービックキューブを完成させ、金の皿の上に戻した。

 

「ダンブルドア先生、紹介します。親友のジョン・ドゥです」

 

「ほっほ、咲夜、君が自分の口から親友と言うのは少々意外じゃのう」

 

 ダンブルドア先生がポークチョップを食べながら言う。

 

「ほれ、ジョン君。君も何か食べるとよい。ここの厨房にいるシェフの腕はわしが保証しよう」

 

 どうやらダンブルドア先生はリドルに仮面を取らせる気が満々のようだった。

 それはそうだろう。

 リドルには今凄い数の魔法が掛かっている。

 そのどれもがリドルの正体を隠す為のものだ。

 リドルの言葉を信じるならばパチュリー様が直々に魔法をかけまくったとのことなので、例えダンブルドア先生でも見破ることは出来ないだろう。

 だがそれが却ってダンブルドア先生の警戒心を強めている。

 

「申し訳ない。虫歯の治療をしたところでね。歯科医から今夜一晩は何も食べるなと言われているんです」

 

「ほほう。マグル式の治療かね。わしはあれに少々興味があっての。なんでも悪い歯を抜いてしまうんじゃろ? そして偽物の歯を埋め込むとか」

 

「そこまで酷い虫歯ではないですが……基本的にはドリルで削り取ります」

 

「それは恐ろしい。よく耐えたものじゃ。それ、メニューに書いてある飲み物なら大丈夫じゃろ。こんな場で何も飲まないというのも勿体ない」

 

「申し訳ない。胃に穴が開いているんです。主に咲夜のせいで」

 

「あら、私の言葉ってそんな殺傷能力を持っていたのね。まるで一寸法師だわ」

 

「日本の昔話じゃったかのう。鬼の口に入ってチクチクと。わしはあれとレプラコーンの区別がつかなくて苦労したものじゃ」

 

 私は皿の上に載っている牛肉を口へと運ぶ。

 ……ふむ、やはりダンスパーティーだけあっていい肉を使っている。

 

「ダンブルドア先生、これでもジョンは食べたいのを我慢しているのです。その苦労を酌んでやってください」

 

「これは悪いことをしたのう。ほれ、お詫びのレモンキャンディーじゃ」

 

「これはどうも」

 

 リドルはダンブルドア先生からレモンキャンディーを受け取る。

 ダンブルドア先生はリドルに触れることで何かを感じ取ろうとしたらしいが、結局それは叶わなかったようだ。

 少し悔しそうな顔をしている。

 

「それにしても、今日はこんな場に呼んでもらうことができて大変うれしいです。咲夜から誘われたときは僕がパートナーでいいものかと散々悩んだものですよ」

 

「あら、貴方でも悩むのね」

 

「ほっほ、そう硬い場でもないからの。……咲夜、この方はホグワーツの生徒ではないのか?」

 

「何言ってるんですか。ダンブルドア先生。ホグワーツの生徒ですよ」

 

「やっぱり僕は印象が薄いみたいですね。いやぁ仮面をつけてきて正解だった」

 

 リドルはカラカラと笑うとルービックキューブを指で弾く。

 そして器用に指の上で回転させた。

 その頃になるとダンブルドア先生も諦めたのか今度はカルカロフと話を始める。

 何やら必要の部屋のことに関して話しているが、どうやらダンブルドア先生自身必要の部屋に関しては詳しくはないようだった。

 料理もあらかた食べ終わると私たちは一度席を立ち、テーブルから離れる。

 ダンブルドア先生が杖を振るうと、テーブルが壁際に退き中央に広いスペースが出来た。

 どうやらダンスが始まるみたいだ。

 私はリドルの手を取り腰に手を回す。

 そして物悲しい音楽に合わせてゆっくりと踊り出した。

 

「あら、上手いじゃない。ジョン」

 

「パーティーではいつも忙しそうに走り回っている君に言われたくはないな。礼儀作法は基本だ。礼儀を知らない人間は猿と区別がつかないくらいだな」

 

「美鈴さんは危うそうね」

 

「美鈴はやろうと思えばできる。やらないけどね」

 

 私はリドルと共にダンスフロアを縫うように移動していく。

 そして隅の方まで移動し、周囲の視線が切れたことを確認すると時間を停止させた。

 

「さて、咲夜。まずこれを渡しておこう。先生が改良したものだ。姿現しを妨害する魔法を無効化する指輪。魔術的なものは外部から感じ取ることが出来ないようになっているから他の指輪と交ぜてはいけないよ」

 

 私とリドルは何も示し合わせていなかったが、思っていたことは同じようだった。

 時間が止まったのでリドルは当たり前のようにパチュリー様が作った魔法具を私に持たせ、私も当たり前のようにそれを受け取る。

 

「まあこのために呼んだわけじゃないんだけど、こういう何かを持ってくるとは思っていたわ。他には?」

 

「お嬢様から伝言だ。不死鳥の騎士団に入るとき、ダンブルドアを説得する材料に咲夜の能力の話をしてもいいと。それとクィレルが大きく動いている。どうやらヴォルデモートと接触することができたようだ。ヴォルデモートはハリーを狙っている」

 

 リドルは仮面を外す。

 そこにはいつも紅魔館で見るリドルの顔があった。

 

「クィレルとは随分と連絡が取りにくくてね。なんせ『僕』の目を盗まないといけない。クィレルから何か情報が入ったらまた連絡するよ」

 

 ポンという音と共にリドルは姿くらましでその場から消えた。

 ダンブルドア先生のあの様子からして、長居するのはよくないと思ったのだろう。

 私はリドルから貰った指輪を左手の人差し指につけると静かに時間停止を解除する。

 これで独りになってしまったが、まあいいだろう。

 私はフラフラとその辺を彷徨い歩き、やがてハーマイオニーとクラムのところにたどり着いた。

 

「咲夜! ……ジョンはどうしたの?」

 

 ハーマイオニーはバタービールの瓶を持ちながらキョロキョロと周囲を見渡す。

 

「帰ったわ。こういう場はあまり得意ではないみたい。仮面舞踏会だったらよかったんだけどね」

 

「あー……そうね、確かに少し浮いてたかも」

 

「確かに、あの仮面のヴぃとは、少し浮いていました。ですが、ヴぉくよりも落ち着きがあったとヴぁ思います」

 

 クラムが少したどたどしい英語で答える。

 

「ハーム‐オウン‐ニニー、咲夜も一緒でもいいかい?」

 

 どうやらクラムは私の同席をハーマイオニーに確認しているようだ。

 ハーマイオニーはその提案を快く飲んでくれた。

 私はハーマイオニーの隣の椅子に腰かける。

 どうやら先ほどまでは踊っていたらしく、ハーマイオニーとクラムは少し汗を掻いていた。

 

「そう言えヴぁ、咲夜はあんな変身術をどこでおヴぉえたんですか?」

 

「そうよ。第一の課題の時のやつ。びっくりしたわ」

 

 小石をナイフに変えた時のことを話しているのだろう。

 私は2人に理由を説明していく。

 

「そう難しい話でもないのよ。例えばだけど、人から話を聞いたことがあるものと、実際に見たことのあるものでは変身術の難易度は全然違うでしょう? それと同じで非常に見慣れた物というのは変身させやすいのよ」

 

 私は手元にあったフォークを変身術でナイフに変える。

 そして袖の下から本物のナイフを取り出した。

 

「こんな感じでモデルがあると尚の事変身させやすいわね。例えばあの数の小石を全てそれぞれ違う形に変えようと思ったら私には無理。全部見慣れて触れ慣れたナイフだからこそ、あそこまで一瞬で大量に変身させることが出来るの」

 

 私は左手でトランプを取り出すとバラバラと落としてく。

 私は右手でそれに変身術を掛けた。

 するとトランプは空中でナイフへと変身し、床へと落ちていく。

 最終的に54本のナイフが床に降り積もった。

 

「こんな感じ」

 

 おぉー! という歓声が2人から上がる。

 私がそれに魔法を掛けると13本ずつ輪をつくり、私の周囲を衛星のように回り出す。

 

「で、あとは基本的な物体浮遊系の呪文」

 

 ナイフたちは私の左手目指して飛び、手に刺さる寸前にトランプへと変わって54枚全てが左手の中に収まった。

 

「人にはそれぞれ得意分野があるものよ。クラムは世界レベルのクィディッチのシーカーでしょう?」

 

「はい、ヴぉくがシーカーをすれば、スニッチを相手にうヴぁわれるということはないです」

 

「アイルランド戦見たわ。貴方素晴らしかった! 試合には負けちゃったけどあの判断で正しいと思う」

 

 ハーマイオニーが興奮したように言う。

 クラムは褒め言葉など言われなれているはずなのに、初めて褒められたかのように顔を赤くして照れた。

 そういえばクラムの方からハーマイオニーを誘ったのだったか。

 

「さて、ジョンの相手をしていたら予想以上に疲れたみたい。私ももう寝に行くわね」

 

 邪魔しては悪いと思い私は席を立つ。

 そしてそのまま一直線に談話室へと向かった。

 その途中マダム・マクシームが怒ったような声を張り上げているのが聞こえたが、何だったのだろうか。

 なんにしても私は談話室へとたどり着き、女子寮へと上がるとドレスを脱ぎ着替えた。

 楽な服装になると私は人差し指につけた指輪を眺める。

 銀色でシンプルな指輪だ。

 厚みが余りないのでナイフ投げの時に支障は出ないだろう。

 取り敢えずこの指輪は紅魔館への切符のようなものだ。

 あの様子だとこの指輪を持ってきたのはリドルの独断ではない。

 お嬢様かパチュリー様に託されてのことだ。

 つまりは必要と感じたら戻ってこいという意味と捉えて差し支えないだろう。

 私はそんなことを考えていると次第にうとうととしだし、気が付いた時には眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「今日は冷え込むわね。店主さん。いつもの」

 

 第二の課題まであと1月ぐらいだろうか。

 週末に許可されたホグズミード村行で、私は迷わずホッグズ・ヘッドに来ていた。

 店主は何も言わず私の前にブランデーの瓶を置く。

 まさに「俺は酒瓶を机に置いただけ」といった態度だった。

 なので私は置かれていた酒瓶から酒を注いで飲んだだけ。

 売ってもないし買ってもいない。

 最後に私が店主に場所代を払い、この奇妙なやり取りは終わりを告げる。

 いつの間にか店主と私との間に暗黙の了解が出来上がっていた。

 私はブランデーをグラスに注ぎ、手の平で包み込むように持つ。

 そしてそれを少しずつ飲み始めた。

 

「そういやぁ、代表選手なんだってな。見たところそんな年には見えねぇが」

 

 店主が不愛想な声を出す。

 店主と私との会話はいつもこんなものだ。

 

「多分もう成人しているわ。多分」

 

「そんななりしてよく言うぜ。まったく……」

 

 そこでプツリと会話が切れる。

 もともとそう長く話すような間柄でもない。

 会話がある時のほうが珍しいぐらいだ。

 私はちらりと店に掛けてある肖像画を見る。

 そこにいる女性は物悲しい表情でこちらをじっと見ている。

 優しい目つきだったが、少し違う。

 私の目に今から釘でも打ち込もうかとしているような、そんな目つきだった。

 ガシャン、と私の手からグラスが滑り落ち、地面に落ちて割れる。

 だが私はその肖像画から目を離せなくなっていた。

 

「……い、妹……様?」

 

 その目つきはフランドール・スカーレットお嬢様のそれだった。

 深く、何もかもに絶望し、だが同時に何とも思ってなく。

 ただじっと私の目を見続けている。

 まるで私の頭の中に滑り込もうとしているかのように。

 

「アリアナを知っているのか……?」

 

 店主の驚いたような声が私の横から聞こえてくる。

 私は急いで閉心術を掛け、平静を装った。

 

「何でもないわ。少し知人に似ていただけ。レバロ、直れ」

 

 私は床に向けて杖を振るう。

 割れたグラスは元あったとおりにくっついた。

 

「アリアナ……妹で反応したということは、あの肖像画の人は貴方の妹さん?」

 

 私が店主に聞くが、反応はない。

 私は肩を竦めて床を濡らしたブランデーを呪文で綺麗に拭うと、場所代を置いて立ち上がる。

 そして私はそのままホッグズ・ヘッドを後にした。

 ホグズミード村を真っすぐとホグワーツ城に向かって歩いていると、後ろからハリーたちに追い抜かれる。

 そういえば第二の課題まであと一月だが、ハリーたちは卵の謎を解けたのだろうか。

 私はハリーの後を追い、話しかけた。

 

「目にもの見せてやる! 馬鹿な小娘? 私が? 絶対にやっつけてやる。最初はハリー、次にハグリッド……」

 

「リータ・スキーターを刺激するなよ……ハーマイオニー、あの女は君の弱みを突いてくるぜ」

 

 ハリーたちの進む速度が異様に速いと思ったが、どうやらハーマイオニーがご立腹だったようだ。

 大股でズンズンと城の方へと歩いている。

 スキーターの名前が聞こえたが、喧嘩でもしているのだろうか。

 

「ハリー。ちょっといい?」

 

 私は必死にハーマイオニーを追いかけているハリーに声を掛ける。

 

「あ、え? なに? ……あ、咲夜か」

 

 ハリーは一瞬どこから声を掛けられたかと周囲を見回したが、やがて私の姿を見つけた。

 

「卵の謎はもう解けた?」

 

 その言葉を聞いて、ハリーは分かりやすく狼狽する。

 どうやらまだ解けていなかったようだ。

 

「ウィンキーを頼りなさい。屋敷しもべ妖精のね」

 

「ウィンキーを?」

 

「ええ。第二の課題は準備に時間が掛かるから早いうちに行動した方がいいわ」

 

 私は人差し指を立てるとゆっくりそれを握りこむ。

 

「これで貸し借り無しね。……置いていかれるわよ?」

 

 私は既に小さくなっているハーマイオニーの背中を指さす。

 ハリーは慌ててその後を追っていった。

 私はその様子に軽く肩を竦めると、ハニーデュークスにでも行こうかとその場で踵を返す。

 振り向いた瞬間、目の前にシリウス・ブラックが居た。

 いや、その言い方は適切ではない。

 正確にはホグズミード村の通りにこちらを凝視しながらブンブンと尻尾を振る黒い犬が1匹いた。

 

「こんなところにいたのね。調子はどう?」

 

 私が声を掛けるとブラックはとててててと走り寄ってくる。

 

「クーン」

 

 そして物悲しそうに1回鳴いた。

 多分お腹が空いているのだろう。

 

「なんにしてもここじゃ拙いわ。案内を頼めるかしら」

 

「ワン」

 

 ブラックは一声鳴くとホグズミード村を歩き出す。

 私はそれについていった。

 暫くすると山道に入ったが、ブラックは構わず歩き続ける。

 30分も経っただろうか。

 ブラックは山の中にある小さな割れ目に身を滑り込ませた。

 どうやらここがブラックの隠れ家のようだ。

 私は制服を引っ掛けないようにして割れ目の中に入る。

 中は薄暗い洞窟になっていた。

 ブラックはもう安心だと言わんばかりに人間へと姿を変える。

 

「いやはや、咲夜に会えてよかった。この季節に何も食べないというのはキツくてね。何か持っていないか?」

 

 ブラックは開口一番に私に食べ物を強請る。

 私は鞄の中から缶詰を次々と取り出した。

 

「まさかこんなところにいるとは思ってもみなかったから、味気ないものしか持ってないわよ」

 

「食えれば十分だ。最近はネズミしか食べてなかったからな」

 

「あなたほど大きくて黒い猫は見たことがないわね」

 

 私はブラックに缶詰とフォークを渡すと、洞窟内部を見渡す。

 洞窟内部には簡単な生活用品と古新聞、そして奥の方にはバックビークがロープで繋がれていた。

 

「あんなところに大きな非常食があるじゃない」

 

「いや、あれは私の箒のようなものだ。マグルだってお腹が空いたからと自動車は食べないだろう?」

 

「飢餓の時は馬でも食うのが人間よ」

 

 私はバックビークに近づいていき、丁寧に頭を下げる。

 バックビークは一瞬値踏みするような視線を送ってきたが、すぐに前脚を折り挨拶をした。

 

「去年よりも酷い生活をしてるじゃない。貴方ってもしかしてドMだったりするの?」

 

「私のイニシャルはSだ。それに、こんなところで魔法を使ったら山に誰かが隠れていますよと魔法省に伝えることになってしまう」

 

「だとしても、これは酷いわね。人間の生活環境じゃないわ」

 

「愛すべき野良犬といったところか。あまりホグズミードから食べ物を盗むわけにもいかないしな」

 

 ブラックが缶詰の中身を突きながら言う。

 お腹が膨れたことで少し元気になったようだ。

 

「そう言えば対抗試合の代表選手になったと新聞で読んだよ。まったくもってヤンチャなお嬢さんだ。まるで学生時代のジェームズのようだよ。ハリーは本当にジェームズのそういうところが似なくて良かった。それでだ――」

 

 ブラックは一度缶詰を地面に置く。

 

「君は誰がハリーの名前をゴブレットに入れたか見たんじゃないかい?」

 

 ブラックはいつになく真面目な表情で私に聞いた。

 

「新聞に君が代表選手になった方法が書いてあった。あの方法を使って代表選手になるには24時間ゴブレットを監視しなくてはならない。そうだろう?」

 

 私はその言葉にどう答えていいか迷った。

 正直にムーディ先生が入れたと答えてもいい。

 だがリドルのヴォルデモートはハリーを狙っているという言葉。

 もしここでブラックにムーディ先生の話をし、それがダンブルドア先生の下まで情報が届いたらどうか。

 一方的にヴォルデモート陣営が倒されてしまうということにはならないだろうか。

 そうなってしまったらお嬢様の命令に背くことになる。

 

「へえ、鋭いじゃない」

 

「少し考えればわかることだ。ダンブルドアだって気が付いているだろう」

 

「そうかしら? 追及されたことないけど。私が出し抜ける程度の年齢線しか引けない老いぼれよ? スキーターが『時代遅れの変人』と書いたのもわかる気がするわ」

 

 ブラックは私の言葉を聞いてニヤリと笑う。

 

「確かにダンブルドアは老いぼれだ。全盛期と比べて力が衰えてきているのは事実だろう。だが、ゴブレットに対策をしようと思えばいくらでも出来たはずだ。だがそれをしなかった。何かの為に」

 

「私の為に中途半端な年齢線を引いたって言いたいの? それこそなんの為よ」

 

 ブラックは古新聞の1つを広げる。

 そこには杖調べの時のインタビュー記事が載っていた。

 ブラックはその記事に書いてある1文を指さす。

 

「『お嬢様から試合に出ろとのご命令を受けたんです』この文だ。君は自分の娯楽の為ではなく、主の命令でこの試合に参加している。じゃあその試合に参加できないとしたら? 君は必然的に主の命令に背くことになる。これは私の予想だが、ダンブルドアは君が対抗試合に参加できるように敢えて穴のある方法を取ったのだろう。君を助ける為にね」

 

「私が……泳がされている?」

 

「いや違う。見守られている。こっちの方が正しいだろう。あの人は自分の生徒を何よりも大切にする人だ。ダンブルドアは君が君の主人の命令に逆らえないことを知っている。私をアズカバンから脱獄させたという話を聞いて主人の命令があればそこまでの危険を冒す覚悟があることを知ったのだろう。まあ、ダンブルドアは今頃は後悔しているだろうけどね」

 

「後悔?」

 

「そう、後悔だ。咲夜の為に代表選手の選抜に穴を作ったことにより、何者かが付け入る隙まで作ってしまった。ハリーが代表選手になるという珍事が起きてしまったんだ。ダンブルドアが本気で対策をしていればハリーが代表選手になるということは十分防げる事態だったはずだ」

 

 私は今まで見てきたダンブルドア先生の行動を思い出す。

 見守られていた? クリスマス・ダンスパーティーで思ったほどパートナーについて言及してこなかったのはそういうわけなのだろうか。

 私はグルグルと頭の中で思考を巡らせる。

 そしてある1つの仮説を思いついた。

 

「いえ、違うかも知れない。私が代表選手になるのは二の次で、もっと重要なことがあったのかも」

 

「重要なこと?」

 

 ブラックが2つ目の缶詰の封を切る。

 私はその辺にある岩に腰かけた。

 

「もしダンブルドア先生がハリーを代表選手にしたのだとしたらって話」

 

「それはあり得ない。ダンブルドアがそんな危険を冒すものか」

 

「冒すのよ。今までに2度冒しているわ」

 

 私は1年生の時と2年生の時に起こった事件を思い出す。

 

「私たちが1年生の頃、先生はハリーたちに挽回のチャンスを与えようと敢えてハリーを泳がせたわ。2年生の頃もそう。ダンブルドア先生なら十分秘密の部屋をどうにかすることが出来たはず。なのに敢えてハリーたちにやらせた。ハリーたちが解決することによってハリーがスリザリンの継承者ではないと他の生徒に示したかったんでしょうね」

 

 私は目を瞑りさらに思考を巡らせる。

 今までのダンブルドア先生の行動から察するに、ダンブルドア先生は意図的にハリーを危険な場所に置いているような気がする。

 まるでハリーを鍛えているように……。

 

「ブラック」

 

「シリウスだ」

 

「ブラック、実を言うとハリーの名前を入れたのはムーディ先生なのよ」

 

「ムーディ? マッド・アイか?」

 

 ブラックが驚いたように目を見開く。

 

「ええ、ムーディ先生とダンブルドア先生は仲が良い。もしかしたらダンブルドア先生がムーディ先生に頼んでハリーの名前をゴブレットに入れたのかも知れないわ」

 

「マッド・アイがハリーの名前をゴブレットに……。マッド・アイは名のある闇祓いだ。死喰い人をアズカバンに送った数も半端ではない。今更ヴォルデモートの陣営にいるということはないだろう。だとしたら本当にダンブルドア先生がハリーを?」

 

「その可能性はあるということよ」

 

 もっとも、あくまでこれは可能性の話だ。

 こうでない可能性のほうが高いぐらいだとは思う。

 

「もしダンブルドアがハリーを代表選手にしたとして、その目的はなんだ?」

 

「分からない。何かをやらせたいのかも知れないし、その逆に皆の視線をハリーに集めておきたいだけかもしれない。監視の為にね。こればっかりはダンブルドア先生本人に聞かないとなんとも……」

 

 私は鞄を開け、入っているありったけの缶詰を洞窟内に並べた。

 

「また定期的に食料を届けてあげるわ。ここは少し遠いから毎日とはいかないけどね」

 

「そうして貰えるだけでも十分有り難い」

 

 私は鞄を閉じ立ち上がる。

 

「今日は少し有意義な話が聞けたわ。ダンブルドア先生には十分用心しようと思う。ブラックも見つからないようにね」

 

「シリウスと呼んでくれと言っているだろう? パッドフットでもいいぞ」

 

「じゃあね、『ブラック』」

 

 私の言葉にブラックは呆れた顔をしながらも手を振ってくれた。

 私は時間を止めホグワーツ城近くまで姿現しする。

 そして物陰に隠れ時間停止を解除すると城の中に入り、談話室へと向かった。

 その途中の廊下でハリーとディゴリーの声が聞こえてくる。

 何かを話しているようだ。

 

「マーミッシュ語だとすると水中で聞かな――」

 

「ホグワーツにお風呂なんて――」

 

「監督生用の風呂が――」

 

 どうやら卵の謎を解くためにお風呂を探しているようだ。

 確かディゴリーは監督生だったか。

 大方ハリーに監督生用の風呂の合言葉を教えているのだろう。

 私はハリーたちに見つからないようにその場を通り過ぎ、談話室へと入る。

 暖炉の前に置いてあるソファーに座り、先ほどブラックに言われた言葉を思い出した。

 

『ダンブルドアは君を見守っている』

 

 今まで強引な手段を用いて私の能力を暴こうとしてきたことはなかった。

 リドルの時も無理やり仮面を剥ぐことも出来たはずだ。

 賢者の石の時も秘密の部屋の時も、追及しようと思えばいくらでも追及できた。

 だが、それをしなかった。

 勿論、全ては杞憂かもしれない。

 ただ私の行動に翻弄されている老いぼれかもしれない。

 そして私の頭の中に最悪の組み合わせが浮かび上がる。

 もしムーディ先生が死喰い人で、ダンブルドア先生がそのことに気が付いていたとしたら。

 ヴォルデモートがハリーを狙っていることを分かっていて、敢えて差し出すような真似をしているのだとしたら。

 意図的にゴブレットの警戒を緩め、死喰い人にハリーの名前を入れさせ、ハリーをヴォルデモートのところに誘導する。

 いや、これはないだろう。

 第一ダンブルドア先生がそれをする理由が思いつかない。

 もしダンブルドア先生自身がハリーを代表選手にしたのだとしても、それはきっとヴォルデモートと戦う為の準備なのだ。

 私は軽く伸びをすると女子寮に上がる。

 第二の課題まであと数週間。

 準備は整ってきている。

 私は鞄をベッドの下に滑り込ませ、鞄の時間を止めるとベッドに入った。

 そして数分もしないうちに私は睡魔に負け、目を閉じ夢の世界へ落ちていった。




用語解説


断られたマルフォイ
マルフォイ「フォーイ……」
結局パンジーと組みました。
作者は映画ではアズカバンの囚人に出てきたパンジーが一番好きです。ぱっつん可愛い。

トムリドル
タキシードに顔全体を覆う形の仮面。
タキシード仮面ではないです。

ジョン・ドウ
日本語で言うところの名無しの権兵衛。

ルービックキューブ
最多で20手でどんな形からも完成するみたいですね。

アリアナ
ダンブルドアの妹にして、気が狂い軟禁されていた少女。

わんわんお
ネズミを食べて生きています。ホグズミードから少し離れた山奥に住んでいるようです。

頭の切れるブラック
秀才は伊達ではありません。

ダンブルドア先生の目的
この時点では謎です。

大活躍セドリック
ハリーに監督生用の風呂場の存在を教えます。


追記
文章を修正しました。

2018-10-13 加筆修正

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。