「取り敢えずまずは、距離を置くか……」
『マスター……なぜそのような事を?』
「そのような事、って?」
『生徒会の皆様から、距離を置こうとしている件です。なぜ自ら、関係が悪化しかねない事とするのですか』
「あぁ、それか。それはな、…………」
「体育祭の準備なんだよ!」
「会長、手を動かしてください」
夏休みも明け、体育祭が間近にせまる。
生徒会の面々は準備に追われていたのだった。
「も~風ちゃん、ノリ悪い~」
「体育祭が間近に迫っているのに関わらず、生徒会主催の競技が決まってないんですよ。少しは焦ってください!」
「なら、何かいい案は浮かんだ?」
「そ、それは…ないですけど……」
「でしょ?他のみんなはどう?」
美玖は意見を求めるが、誰も意見を上げない。
「夜海先輩……どうしたんで、しょうか…」
「みっくん、最近生徒会室に来ないもんね~。最低限の仕事は、しているみたいだけど、どうしたのかな~?」
「そうねぇ。私は最近、避けられているみたい。だから、あまり話せてないのよね」
「雪乃先輩もですか?私もなんです。話しかけても『今は忙しいから後で』って言うんです」
彼女たちは、しばらく生徒会室に姿を見せていない、夜海のことを話す。
夜海は夏休みが明けてからは、生徒会室には姿を見せていなかった。
正確に言うと、彼女たちが居るときには、生徒会室には来ていない。
最低限仕事(生徒会室の掃除と備品整理)はしているのだが、必要以上にかかわるのを避けるようになっていた。
そのため話し合いの場にも来ておらず、会議が進んでいなかった。
というのも、このように会議が行き詰ったとき、夜海が発する一言がきっかけで、話が進むことが多かったのだ。
「逃げないで、って言ったのになぁ。…ズルいや」
「柑ちゃん、訳知りだね。なになに?柑ちゃんは一体、何を知っているのかな?」
寂しげに呟いた美玖の事を、天音は見逃さなかった。
天音に問われた美玖は、少し考えるように目を伏せたのち、とある話を始めた。
「これは、んっと昔の事なんだけどね、ミー君には幼少からの友人がいたの。私と知り合う前からの友人。つまり親友だね」
「親友……ですか?それは、高垣先輩……ですか?」
月乃は自分が知る限りの中で唯一、自分たち以外で夜海がよく話している人物、輔の名を挙げた。
しかし美玖は、首を振って否定する。
「彼は確か、小6の頃に知り合ったはず。ミー君とその親友は、それよりもっとも~っと前に出会ったんだよ」
「聞いていると、今はそうじゃ無い…っていう風に聞こえるのですが…?」
「その通りだよ、風ちゃん。丁度タスクと入れ違い?いや、交代……って感じかな?ミー君はタスクと出会う少し前に、親友と喧嘩別れしたんだ」
「分からないわね。それがどうして、今の状況に関係して来るかしら?」
雪乃が首を傾げ、疑問を述べる。話を聴いた限り、その親友と喧嘩別れした事が原因と言いたいのは分かった。
しかし、それがどうして、自分たちを遠ざけることに繋がるのか。雪乃含め、美玖以外の全員が理解できないでいた。
「どんな喧嘩をしたのか、詳しくは省くけど……ミー君はその時、親友の言い分を聞かずに行動したんだ。その結果、積もり積もった些細な食い違いは、二人の関係を一気に崩していった。最初は私も、すぐに仲直りするって、思っていたんだけど……」
「そうは、ならなかったのね?」
「うん…お互い譲らずで、一切口を利かなくなっちゃった」
場が静まり返った。話を聴いてそれぞれ思う所があったようだ。
普段のフワフワした喋りではなく、やや真剣な喋りで天音が美玖に訊ねる。
「その親友君は、今どうしているのかな?」
「分かんない。中学に上がってから一度も、見かけないんだ……。一番の親友だったのに、あえなくなって…それでミー君、思ったんだって。他人も自分も信用しない。友達と呼べる存在はつくらない。もし出来たのなら、それは大切にする。けれど…親友と呼べるほど、したたしくなったなら」
「自分から距離を作る事を選ぶ…かしら?それとも、それ以上親しくならないようにする、って言ったのかしら?」
「ねえさま、それは……どちらも……殆ど同じ、意味かと。でも………夜海先輩なら、言いそう」
月乃の言葉に頷く、美音たち。
「その通りだよ。ミー君は自分を偽って、距離を取る事を選んだの」
雪乃たちの言葉を肯定する美玖。美玖の言葉を聞いて、また部屋は静まり返ってしまう。
そんな中あるものが、唐突に喋る。
『「つまり僕たちは、古詠にとって親友に値する人、と言う事だ」と、お母さまがいっています』
「ナ、ナナさん⁉びっくり……しました。急に、喋らないで……下さい」
莉桜の代わりに書記の仕事を行っている、AIのナナが喋ったのだ。
彼女はパソコンのスピーカを通して、喋っているのだか……
『すみません、いきなりで。ですけど、そろそろ慣れて欲しいものですね』
急に喋って、驚かせてしまう。不満は取り敢えず措いておいて………
『それより皆さん、暗くなっていないで、マスターをどうにかする方法を考えた方が、良いのではないですか?』
ナナの言葉に雪乃たちは、顔を見合わせ頷き合う。
「そうね。その通りだわ」
「ですね。赤城先輩の言う通りだと思います。先輩にとって私たちは、とても大切な存在であることは、間違いないはずです!」
雪乃は赤城の意見に納得を示し、美音は自信満々に言い切る。
そんな中、月乃が次を見据えた発言、つまり……
「じゃあ……どうやって、先輩に……分かってもらう?」
根本的な問題を口にする。
現在夜海は、生徒会の面々を避けて行動している。
となると、場を設けたとしても避けられる可能性が大、なのだ。
月乃の発言に再度、悩みかけていた一同の耳に、不敵な笑い声が聞こえてくる。声の人物は自身気に語った。
「ふっふっふ、天音さんにお任せあれ!」
「何かいい案でもあるのかしら?」
「もちのろんだよ!そもそも、みっくんの言ってる事とやっている事は、穴だらけのちぐはぐだしね~。それなら、正面からぶつかって、認めさせればいいのさ!……ま、頑張るのは天音さんじゃなくて、フーちゃんだけどね!」
天音の発言を聞いた瞬間、全員が天音の考えを理解した。
が、美音はそれどころでは無かった。天音が最後に付け加えたひと言、その真意が判らず、戸惑いを見せる。
「わ、私ですか⁉」
「そうだよ~。フーちゃんの頑張り次第で、簡単に解決&っと、これ以上は……ムッフッフ」
「ちょ、何ですかその笑みは⁉」
「あ、だったら体育祭の競技、借り物競争なんてどうかな?」
美音の天音に対する抗議は、無情にもスルーされ、柑條は最初の議題であった、生徒会主催の競技の案を提案する。
「成る程~、さすが柑ちゃん!その案良いね~」
「そうね、期限が迫っているし、いいんじゃないかした?」
「ですね。一石、二鳥……ですし」
『「僕も賛成だ」だそうです』
「じゃ、決定!」
ほぼ満場一致で決定し、(この場において)一人をおいてけぼりにして、準備に取り掛かる一同。
そんな一同に対して、おいてけぼりな人物は、
「も~~~‼一体どう言う事なんですか~⁉ちゃんと説明してくださいよ!」
納得のいく説明を、求めているのであった。
最終話まで、あと2話。
次回の更新は、25日です。