「ちょ、天音!やめなさい」
「ふふふっ、言われてやめると思っているのかい?」
「キャッ!撫でるように、脇を触らないで」
「いや~、前から思っていたけどユッキーって、小振りでも良い形だよね~。それに引っ込む所は引っ込んでるし。ツッキーとフーちゃんはポテンシャル高そうだし、これからに期待だよね~」
「………」
最後に浴場にやって来た莉桜だが、中の惨状を見て言葉を失っていた。
そこでは、天音によって骨抜きにされたと思われる三人、美玖、月乃、美音が浴場の床に倒れている。
さらに現在進行形で襲われている雪乃は、最後まで抵抗していたようだが、次第に抵抗が弱くなり、崩れ落ちた。
「一番の驚きはやっぱり、柑ちゃんだよ!着痩せしていて、全く気づかなかったけど、背が低いのに胸は大きいって、どういう事?もしかして、栄養は全部胸にいってるの?だから背が低いのかな?」
「余計なお世話だよ⁉」
天音の容赦ない分析に、美玖が復活する。
「いい加減にしなよ、天音!何で持っている人が、持たざる人を辱めてるのさ!普通、逆でしょ⁉」
「いや~、つい。だってみんな可愛いんだもの。愛でないと損でしょ?」
堂々と腕を組んで言い切る天音。
身長を含め、バランスの良い体型の天音を『ぐぬぬ』と唸り声を上げつつ、見つめる美玖。
二人の背後の湯船では、いつの間にか復活した雪姫姉妹と美音が湯に浸かっていた。
「……二人とも、いー加減にして下さいね?」
「え、っと…」「り、莉桜?」
いまだ睨み合いを続ける二人に、莉桜が声を掛ける。ただその顔は、笑顔であるが、笑ってはいないものだった。
「い・い・で・す・ね?」
「「は、はい……すみませんでした」」
二人はようやく大人しくなる。
「まったく、馬鹿な事して風邪なんかひたら、それこそ見てられないわよ」
「えーっと、ようやく落ち着いて湯にも浸かれた所で、皆さんに話があります」
天音たちの暴走(?)も収まり、全員で湯船に浸かっていると、莉桜があらたまって話し始める。
「みんなは私が、学校のシステム関連を制御しているの、知っているよね。中でも、居場所を知って居たり、会話を聞いている方法に疑問を持った事はない?」
頷く一同。そして、もちろんあると答える。
それを見て莉桜は、苦笑いしながら語る。
「実はその事について、みんなに聞いて貰いたいんだ。簡潔に言うとね、SPTから全部情報は得ていたんだよ」
「でも赤城先輩、校内の監視カメラは?」
「そうです。あれで、監視、していたのでは?」
「もちろんあのカメラも、動いてはいるよ?ただあれは彼女が、現実を見るために使っているんだ」
「「「「「彼女?」」」」」
莉桜の言葉に、全員が首を傾げる。
すると莉桜は何処からか、SPTを取り出す。そして全員に、画面が見えるように持つ。
『初めまして、皆さま。私は自己学習システム搭載型、議事録管理AI、ナナと申します。今まではお母さまの代わりに生徒会の議事録を付けていたり、校内のカメラや皆さま方のSPTを通して、密かに皆さまと生活しておりました』
「しゃ、喋った⁉」
「AIか~」
「成る程ね。これがあなたの隠し事、と言う訳ね?」
「さすが、チータ先輩。AIも、作っていた、なんて」
「でもなんで、このタイミングで発表したんですか?」
一同が様々な反応をする中、美音がもっともな疑問を口にする。
「いやタイミングは、いつでも良かったんだ。古詠がいない時で、他のみんながいる時なら」
「?どうして、夜海先輩?」
「あ、そっか、分かった。もしかして、この子をミー君の誕生日プレゼントにするつもり?」
美玖の発言に、頷きを見せる莉桜とナナ。
「ほら古詠の誕生日って」
「七月の十七日、ちょうどサマーフェスティバルがあった日だね」
「「そうだったの?」」「そうだった、ですか?」「本当ですか⁉」
美玖の一言に、驚く一同。それに対して美玖は、すっかり忘れていたと言う。
「サマーフェスティバルの時、柑條と古詠の会話を聞いていたこの子が、彼のサポートをしたいと言ったんだ。そこで、私たち全員からのプレゼントとして、彼女を送りたいんだけど……反対の人がいないかな~って」
莉桜の話を聴き、顔を見合わせる美玖たち。
やがて、頷き合うと雪乃が口を開く。
「いくつか質問、いいかしら?」
「もちろん」
「それじゃあ……なぜ話したの?いつものあなたなら、気にする事なく行動していたと思うのだけど?」
「うん、そうだね。けど今回のは、彼女の望みだからね。それに」
「それに?」
「古詠って、機械系はあまり得意じゃないでしょ?」
莉桜が美玖を見据えて言う。
「そーだね。最低限しか使えないね、ミー君は」
「あ!だから、メールなどの返信、遅いんですね」
「そうだよ。本人曰く、『下手につついて、壊したくない』だって」
美玖が夜海の考えを言うと、周りは納得したように頷く。確かに彼なら、言いそうな事だったからだ。
「そう、だから機械系のサポートを、彼女にして貰おうと思ってね。そうすれば、多少はマシになるだろうし」
「成る程、私たちの連絡の円滑化ね。あとは……どうやって、受け取って貰うつもり?」
「プレゼントって事は、黙っておくつもり。言っちゃうと、受け取って貰えなさそうだし、本人も誕生日の事、忘れていたみたいだからね。誕生日プレゼントって事は言わずに、言い包めるつもりだから」
そう答えると、雪乃は頷く。
「わかったわ。つまり、AIがあなたの管理から、夜海に移ったと考えればいいのね」
「うん、そう言う事になるね」
「分かったわ。私からは以上よ」
「他に何か質問は?」
莉桜が訊ねるが、特に質問は上がらなかった。
『皆さま、改めまして、よろしくお願いします』
『皆さま、改めまして、よろしくお願いします』
こうして、浴場でする必要が合ったのか、謎な話は終わった。
「あ、あのー」
「どうしたの、月乃?」
と思ったら、月乃が挙手をする。
「え、えっと…美音が、夜海先輩の誕生日の、話の辺りで……の、のぼせて、倒れちゃった、ですけど……」
よく見ると、美音が月乃に膝枕をされている。そして空いている方の手で、美音をあおいでいるのだった。