「みんな楽しそうだったね」
「そうだな」
現在柑條と一緒に、生徒会室のベランダに出て、夜風にあたりながら祭りのことを思い返していた。
「アルミ缶回収も、予定より多くの缶を回収できたから、よかったよね」
「そうだな」
「途中、トラブルもあったけど、大事ならなかったし」
「そうだな」
「…ミー君、聞いてる?」
「そうだな」
「えい!」
「うぉ!ちょ、柑條。膝を蹴るなよ。地味に痛いだろ」
「さっきから『そうだな』しか言わないからだよ」
「ありゃ?そうだったか。悪い考え事してた」
自分的にはちゃんと、話していたと思っていたのだが、どうやら心ここに在らず、の状態だったようだ。
「だろうね。その顔を見たらわかるよ」
「へぇー、因みにどんな顔してた?」
「んー、そうだね。人を見ている様で、見ていない。どこか別の場所を見ている様な感じ、かな?」
なんか分かるような、分からないような……
「ま、簡単に言えば、難しい顔をしてたんだよ」
そう言って柑條は、部屋から二つのパイプ椅子を持ってくる。
そして、イスを並べると、片方に座る。
…きっと、何を考えていたのか話せ、という事なのだろう。
付き合いが長いと、相手が言わんとする事が大体、分かって来ると言うものだ。
もう一方の椅子に座ると、柑條が先に口を開いた。
「ミー君、もしかしてまだ、生徒会に加入したこと、後悔していたりする?」
「……そうだな、正直言うと、いまだに思うのは、俺が生徒会に居るのは役不足で、相応しくなかったんじゃ無いかとは思う」
「やっぱり……でもね、私はミー君で良かったと思っているよ?実際、ミー君も良かったとは思ってるでしょ?」
柑條の言葉に頷く。
役不足だとも思っているし、知り合い、柑條がいた事で変に委縮する事なく、過ごせていた。
自分が言った事、柑條が言った事、どちらも本心であることは間違いない。
…けれど、これ以上柑條を通して他社と信頼を、仲を深めるわけには行かない。
そう考えているのも見越してだろう、柑條が踏み込んできた。
「ミー君は、人をあまり信じないよね。それも、自分も含めて」
「…だなぁ。俺は自分の考えも、信用できない。疑って、疑って、疑い抜いてようやく、自分も相手も信頼できる」
「うん、知ってる。……まだ、あの時の事を引きずっているんでしょ?」
柑條が言っている事はきっと、あの時の事だろう。
「自分がした選択で、あんな事になったんだ。自分を信用できなくなるには………十分すぎる。…自分が信じられなければ、他も信じられないからな」
親友と言い争い、自分の意見を推し通した
「私は気にしすぎだと思うけど?それに、前みたいにならない様にするために、距離を取る必要もないと思うよ?」
その時の意見の食い違いから、徐々に関係は崩れ
もう話も出来ない位に、関係をこじらせてしまった。
「気を抜いていて、壊してしまうのが嫌なんだよ。近ければ近すぎるほど、いつの間にか壊してる。そうなる前に自ら道化を演じて、距離を作っておくんだよ」
だから、心を許せる友人を得てしまったのなら
失ってしまう前に道化を演じて、関係を保つ。
そうすればきっと、ギクシャクすれど、壊れ切ってしまう事はないはずだから。
「その自己犠牲は、本当にみんなを救えているのかな?」
柑條が俺の目を見て、訊ねてくる。
「さぁな、所詮は自己満足。いわば逃げ……なんだろうから」
「なら約束。
真剣に、それでいてどこか不安げに柑條は言う。
俺が生徒会からも、距離をおこうとしている事
きっと、その兆候を感じ取っているからこその表情。
「……そうだと良いな」
俺に言えるのは、コレだけ。
肯定も、否定も出来ない。
「信じてるから、ね?」
柑條が期待を込めた眼差しで言う。
「わーったよ。だから、この話はこれで終わりだ」
「うん…わかった」
両者ともに黙り込んだ。
その静けさに耐え切れず空を見上げると、綺麗な星空が広がっている。
柑條の顔をうかがってみると、柑條は何かを考えていた。
「……ねぇミー君。これはお節介かもしれないけど、将来何になるか決めていないなら、物書きかカウンセラーになったら?」
と思ったら、唐突に進路についての話を始めた。
一体どういった、風の吹き回しだろう?
今日の柑條は、どこかお節介が過ぎる気がするな。…いや、いつもの事か。
「いやね、疑り深いし、相手の事親身になって考えるけど、きちんと第三者目線の意見だからね。向いているんじゃないかと思って……」
まぁその言い分なら、カウンセラーってのは分かった。けど……
「物書きの理由は?」
「本が好きだから?」
そこは疑問形で解さないでほしかったよ。
まぁでも、柑條の意見は一理ある気がする。
けど……
「まぁ、参考にするよ」
今後の事は、後で考えよう。
今は、今を楽しむのが一番だから。