「会長!一体何事ですか」
現場に到着し、柑條へと声を掛ける。
ほかの生徒の前だから呼び方はあえて、会長と呼ぶ事にした。
「あっ!ミー君!ナイスタイミングだよ!」
声を掛けると柑條は笑顔で出迎える。
…嫌な予感がするが、取り敢えず現状の把握をしよう。
「自分からしたら、バットタイミングな気もしますが……で、会長?これは一体?」
「んっとねぇ、痴話ゲンカ?なのかな?たぶん?」
改めて訪ねてみるが、どうも柑條自身も判断に困る案件の様だ。
取り敢えず分かった事は、相当面倒な事に首を突っ込んでしまった事。さらに、それを解決せねばならないという事。
……正直言って、面倒だ。
巻き込まれるのは御免だ。
しかし、首を突っ込んでしまった以上、最善を尽くさないと……
「はぁ…取り敢えず説明、お願いします」
「オッケー。期待しているよ、生徒会の相談役」
いつの間に相談役なんかになったんだ?
確かに、相談箱に届く内容の整理・処理はしている。
あとたまに昼休憩の間、生徒会室に悩み相談に来る生徒の相手をしたりもしたが……
用事が無ければ昼休憩の間、俺以外の役員が生徒会室に居る事は無い。
まぁ、最近(夏休みに入る前)だとなぜか、俺以外の役員もよく居たけど。
…今考えると、初めはのんびり出来るからと思って使っていたのに、いつの間にか教室に居る時と同じぐらいの、出入りがあるな……
いや、それよりこう考えてみると、確かに相談役だな……
いつの間に自分で、自由を捨てていたんだろ……
「ミー君?どうしたの、急に落ち込んだりして?」
「いや、今は気にしなくていい。それより説明」
柑條が心配そうに尋ねてきた。
今の考えが、顔に出ていたのか。
取り敢えず自分の事は後だ。
「分かった。けど、あとで聞かせてもらうからね?」
「あぁ、分かってる」
「それじゃあ、説明するね?シックな藍色の甚平を着ている彼と桃色の浴衣の彼女は、カップルなの。それでもってこっちのショートポニーの子は、二人の関係を認めないって言って、喧嘩していたところなの」
……何がどうなってそうなる?
「二人の関係って……確か赤穂さんと早乙女さんは、姉妹じゃないよね。なぜそうなった?」
「そうだよね~、そこがよく分からないの。取り敢えずミー君も、本人たちに聞いてみて判断してよ」
そう言って現場を指差す。
つられて見てみるとそこには、手を繋ぐカップルの男の方を睨んで、今にも飛び掛かって行きそうなポニーテールがいた。
こりゃあ、早く如何にかした方が良さそうだ。
「あ~、そこの人たち、会長から話は聞いたがいっちょ分からんから、改めて聞かせてくれんかね。現状の、睨み合いを含めて」
「分かりました。と言っても、自分も何が何だか……めぐみん、どう言う事?」
当事者たちに説明を求めると、まず彼氏の更識が応じた。
が彼も現状、置いてきぼりで話について行けていないらしく、彼女へ説明を求めた。
「神楽ちゃんは私の可愛い後輩なの。前に演技指導を担当したことがあって、その時に懐かれちゃって『萌未お姉様』呼ばれるようになったの」
それだけ聞くとまぁ、可愛い後輩が出来ただけで、問題なさそうだが……
「それが何で、こうなっているんだ?慕っている先輩の幸せを邪魔するようなことに」
それを訪ねると今度は、今まで黙って更識を睨み続けていた、早乙女さんが口を開いた。
「それはもちろん、萌未お姉様のためです!こんなどこの馬の骨とも知れない男と、お姉様が付き合うなんて、認められません!萌未お姉様は私のものです、お姉様の貞操は私が守ります!」
………どうしよう、これ
柑條がただのトラブルか、痴話ゲンカか、悩んだ訳が分かった気がする。
単純に慕っているからこその行動なのか、はたまた百合の子なのか……
希望的には、前者であってほしい。
けど、ちょくちょくと百合っぽい発言が聞える気がする。
こうなりゃ、出たとこ勝負の解決しかない。
「ン、話は大体わかった。つまり早乙女さんは、尊敬する大切な先輩が他の人にとられるのが嫌だ、って事だね」
「な、なに言ってんの!そんなんじゃない!」
そう言うが、若干の照れが見える。
良かった、百合じゃなくて……
これなら何とかなるかも。
「そっか…神楽ちゃん、ひーくんに私をとられちゃうと思ったんだね…」
「ち、違います!私は萌未お姉様が心配で…もう!あなたのせいで」
「うん、分かってるよ。神楽ちゃん、優しいもんね。私が悪い男に引っかからないか、心配だったんだよね」
赤穂さんが納得したように述べると、早乙女さんはさらにアタフタし始める。
「っ~~~」
「あ、逃げた」
しまいには逃げてしまった。
取り敢えず解決かな?
「神楽ちゃん……」
「まぁ取り敢えず、日を改めて三人でゆっくり話すと良い」
「でも、追い駆けないと。ほっておく訳には……」
逃げて行った早乙女さんを心配して、彼氏をおいて追い駆けて行こうとする。
早乙女さんの事、本当に大切に思っているんだな。
けどまぁ、心配ないだろう。
こういう時は決まって柑條が手を打っている。
「大丈夫!あとは生徒会に任せて、デートを楽しんできなよ。あなた達、初デートでしょ?」
ほら、予想通り。
伊達に長い付き合いじゃないからな。
っしかし、二人からしたら初デートと言う事を当てられた方が、驚きだったんだろう。
更識は柑條にたずねる。
「な、何でそれを」
「ん~、それはヒ・ミ・ツ♪ま、とにかく神楽ちゃんは任せて」
「ン、まぁそう言う事だ。せっかくのデートの時に、気にするのは野暮だよ?」
そう言ってやるとようやく納得し、手を繋いでこの場を離れて行った。
「ふぅ~、終った~」
「お疲れ、ミー君♪さすがだね~」
一息つき、無事に終わった事に安堵する。
一方柑條は、労いの言葉を掛けてくる。
がその労いの言葉を、素直に受け取る事は出来ない。
「流石じゃあるか!何で面倒事に首突っ込んでいるんだよ」
返ってくる言葉に予想がつくが、どうしても言っておかないと気が済まない。
「そりゃあ、生徒会長だもん。生徒間の問題を見つけたら、解決してあげるべきでしょ?」
あ~、分かっていたよ。
こいつがこう言う事も、そして……
「それにミー君だって、私が首を突っ込んだら、ほっておかないでしょ?」
こちらの考えも分かっているって事を。
「……そーだな」
これ以上この事を言うのは、分が悪いか。
話を変えよう。
「でだ、早乙女さんはどうなった?」
「莉桜の案内で、月乃ちゃんが向かったらしいよ?無事合流して、今は落ち着いているみたい」
よし、取り敢えずは解決だ。
にしても、この携帯端末を持っている限り、赤城に居場所は筒抜けだな。
と言ってもこれは、生徒証明書を兼ねているから、生徒全員に言える事だが。
「さてっと、それじゃあ私たちも行こうか?」
「……マジで言っての?」
「もちろん♪それに……お互い話したいことがあるでしょ?」
「……そーだな」