「しかし、よかったのか?二人一緒で?」
美音と別れ、ツッキーとの合流場所に着くと、そこには雪姫さんもいた。
「私たち二人で決めた事だから、気にする事は無いわ」
「それに、目的も、同じ。つまり、時間の、有効利用」
目的が同じ?
もしかして、全員で回らないのはそれぞれに目的があったからか?
でもって、それに俺は付き合っていると?
ただ全員に奢って終わり、と思っていたけど…
「…柑條のヤツ、何考えてやがる」
「まぁまぁ、先輩、気にしては、ダメ」
「そうよ、夜海。美玖も何か思ってしたわけじゃないでしょうし」
「そうかなぁ」
二人はそう言うが、付き合いが長い身としては、何かあるのではないかと思わずにはいられない。
「それよりも、早く行きましょう。時間がもったいないわ」
「姉さまに、同意」
そう言って雪姫姉妹は、考え込もうとしていた夜海の腕を引っ張って歩き出す。
「お、おい!腕を引っ張るなよ!」
「「………」」
「拒否権は無いのね……はぁ、それで?どこに向かうんだ?」
「「………」」
突然引っ張られた事に対する抗議をするが、聞き入れられない。
どうやら拒否権は無く、今は考えるより祭りを楽しめ、という事なのだろう。
しかし、そうだとしても………
「返事ぐらい、返してくれよ……」
しばらく無言の姉妹に引っ張られ続けていたが、目的の場所に着いたのだろう。
ようやく歩みを緩め、腕から手を放した。
「そろそろ、教えてくれてもいいだろ?」
「そうね。それじゃあそこに、座ってから話しましょう」
そう言って雪姫さんは階段の右端へ腰を下ろした。
それに続くようにツッキーも腰を下ろす。
「夜海、あなたは座らないの?」
「いや、全員で階段の途中に座り込むって、通行のジャマになるかな~、って思って」
座ろうとしない夜海を見て、雪姫さんが座らないのか尋ねた。
それに対して夜海は、通行の邪魔になるかもしれないからと述べた。
しかし雪姫さんは「その心配はないわよ」と答える。
「ここは会場の端、この先には閉鎖中の校舎があるだけ。つまり基本的には、人の通りは無いのよ」
なるほど、人通りが『基本的』には無いと……ん?基本的には?
「ねぇ、雪姫さん?基本的には、とは?」
ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
すると雪姫さんは
「この場所、と言うよりは位置かしら?まぁとにかく、この辺りからはステージはもちろん、会場全体が見渡せるスポットになっているのよ」
と言った。
「つまりそれを知って居る人の、行き来があるって事か」
と雪姫さんに確認を取ると、「そう言う事になるわね」と言う。
取り敢えず、座っても大丈夫そうだな。
それに、考えようによっては良い場所だ。
なんせ人混みから離れつつも、祭の様子を楽しめるのだから。
ん?そう言えば、会場全体が見渡せるって言っていたな。
とすると、もしかして……
「なぁ、もしかしてここからステージを見るために、引っ張って来たのか?」
「えぇ、そうよ。言って無かったかしら?」
やっぱりそうか…ってか説明されてない。
雪姫さんの中では、説明済みだったのか。
「姉さま、説明して、ないです。時間が、ギリギリだったから、説明、後にして、引っ張って、来た」
「あら?そう言えばそうね」
訂正、単純に忘れていただけだな。
しかしこれからステージでは、なにをするんだったけ?
「なあなぁ、これからステージで行われるのは何なんだ?」
「はい、これから行われるのは、『ええじゃん』です!」
「あー、あれか」
春先に行われるとある祭り。その祭りでメインイベントとして行われる「ええじゃん」
これは町全体で行われる祭りで、「ええじゃん」は海岸沿いの道を約一キロ、踊り続けるものだ。
「そう言えば、ウチの学校の代表チームも呼ばれていたわよね?」
雪姫さんがそう言うと、ツッキーが答えた。
「はい!金賞を獲得したチーム『縁舞夢翔』は、ゲストとして呼ばれています!」
「お、おぅ…」
……人が変わったように。
「他に、地域のチームが七組エントリーされています!」
…本当にツッキー?
いやいや疑うまでもなく、さっきまで一緒に居たしなぁ…
普段おっとりしていて大人しい子が、こんなにも饒舌に喋り出すと、こう何て言うかな?
う~ん、とにかく違和感がすごい。
そんなツッキーの変化を見て、雪姫さんが苦笑いをしつつ戸惑っている夜海に、月乃の変化について説明し始めた。
「やっぱりこうなったわね…」
「雪姫さん、この変化に心当たりが?」
「えぇもちろん。姉妹ですもの。月乃ってたまにこうなるのよ」
「たまに?毎回じゃなくて?」
「えぇそうよ。べつにええじゃんが好き、と言う訳じゃないの。あの子のマイブームのモノ。今回で言えばたまたま『ええじゃん』だった、と言う事よ」
つまり、ツッキーはマイブームのモノを語る時、もの凄く生き生きして来る訳だ。
いやー、初めてみた。
まぁ好きなものを語る時って、人が変わるって言うけど……
ツッキーの代わり様には少し驚いたな。
こうやって改めて見ても、なんか生き生きしているように見えるな。
「そんじゃま、ツッキーの解説付きで鑑賞するとしますか」
「任せてください!」
「そうね。それに私が言うのもなんだけど、月乃は一度ハマったら納得するまでやる子だから。七割程度を聞くつもりでいないと、きっと(身が)持たないわよ?」
…そんなに濃い内容になるのか………
「よ~やく、終ったな…」
雪姫さんの言う通り、もの凄~く細かい説明だった。
途中からパフォーマンスより先に、ツッキーの解説や見どころ説明が入って……
楽しめたけど…何か疲れた……
「ご苦労さま。やっぱり気に入られているだけはあるわね。こうなった月乃の話を、最後まで聞き切るなんて」
「ん?雪姫さんは、どう対処しているんだ?」
雪姫さんの言い方、まるで聞き流しているって聞こえるけど……
「もちろん、要点だけ聞いてあとは聞き流しているわよ?コツさえ掴めば、それで会話が成り立つもの」
やっぱりか~。まぁ、それが普通なんだろうけど……
まぁ、切り替えようか。
「じゃあそろそろ、俺は柑條の所に……って何やってんだアイツ?」
「あら?本当ね。行ってあげた方が良いじゃないかしら?」
柑條との待ち合わせ場所に行こうと、立ち上がり会場の方を見ると、その柑條がカップルと女の子の間で何か言っている。
どうやらトラブルの仲裁に入った様だが……どうしてこう、面倒事に首を突っ込むかなぁ、アイツ。
「面倒だが、仕方ないよな……雪姫さん、あの三人は誰か分かるか?」
仲裁に入るにしても名前を知らない。
いや、憶えていないだけかも知れないけど……
「ええ、男は隣のクラスの
「一年生、芸能科の
「サンキュー。そじゃあ、行って来るわ」
お礼を言い、急いで柑條の下へ向かう。
……そう言えば、何か忘れている気がするけど………ま、いっか。
夜海が雪姫姉妹の下から離れていくと、月乃は学校支給の携帯端末を取り出し、送られて来たメッセージを見ながら雪乃に声を掛けた。
「姉さま、美音の連絡通り、浴衣姿、夜海先輩、気付いて無い」
「そうみたいね。でもまぁ、本当に気付いて無かったのかは疑問よ?夜海の事ですもの、単純に色々あって言い忘れたとか、あるかも知れないわよ?」
「…そうかも……さすが、姉さま」