準備室をツッキーと一緒に出てきて、そのまま学校の玄関口まで来た所で立ち止まり、俺は口を開いた。
「ツッキー、さっきは助かったよ。いい加減帰りたいって思っていたから」
「そうだと、思いました。先輩、楽しそうだけど、面倒そうに、答えていたから」
そりゃああの手の話は嫌いでは無いが、どうせならもう数人、人が居ても良いと思う。
二人だけで意見を出し合うのには、限界があるし。
「ん?て事は、ツッキーはあの話を聞いていたの?」
「はぅ……すみません。少し、聞いちゃいました」
そうか…でもまぁ問題ないだろ。
所詮お遊びだし。
「全然問題ないよ。さて、じゃあ俺は帰ろうかな」
「あの、先輩」
「ん?何だい?」
帰ろうと歩き出そうとしたら、ツッキーが此方を覗き込むように訪ねてきた。
「夜海先輩は、部活、しないんですか?」
あ~その事か。
確かに今現在、俺は部活には所属していない。
理由はまぁ、幽霊部員になるくらいなら、初めから入らない方が良いと思ったからだ。
この学校は部活については、所属するもしないも自由なうえ、兼部するのもありなのだ。
と言っても、無所属の生徒は殆ど居ない。
なぜなら、ゲーム研究部がある様に部活の幅が広く、皆何かしら自分に在った部活を見つけているからだ。
「そうだね~、まぁ自由が一番って事かな」
「そうなんですか?」
「そう、まぁたまにさっきみたいに、知り合いの部活を覗きに行くけど」
「なら先輩、これから見に行って観ませんか?」
う~ん、家に帰って休みたい所だけど、可愛い後輩の提案だしな。
「なら、役員の皆の部活風景を見に行くか」
「はい!では、誰から、行きますか?」
「そうだな…歌風さんの所に行ってみるか。確か歌風さんは兼部をしていたな?」
記憶が正しければ、槍術部、剣道部、格闘術部だったはず。
「はい、では武術棟に、行きましょう」
「よし、場所が良く分からないから、ツッキー案内よろしく!」
そんな訳で、ツッキーに案内されてやってきたのは、歌風さんが居ると思われる武術棟にやってきた。
「さて、歌風さんは何処に居るかな?」
「あれ、そうじゃないですか?姉さまも、居ますし」
ツッキーの視線の先には、練習着に身を包み、剣道の練習に励む歌風さんと雪姫さんが居た。
あれ?雪姫さん?
「ツッキー、雪姫さんって剣道していたの?」
「はい、と言うより、姉さま、色々出来ますし……直接聞いてみます?」
と言うとツッキーは、丁度休憩に入った二人のもとに駆け寄って行った。
しばらくの何かを話したかと思うと、三人が此方に来た。
「先輩、呼んで来ました」
「夜海先輩、お疲れ様です。珍しいですね?先輩が用事もないのに、学校に残って居るなんて」
「そうね、夜海は用事が無ければすぐにでも帰るものね」
「ああ、タスクに捕まって、ゲーム研究部に行っていたんだ。で色々あって、ツッキーと一緒に部活巡りをしているんだ」
「そう。それで何か聞きたい事があるって聞いたのだけど?」
「いや、たいした事じゃないのだけど、雪姫さんって剣道部だったの?」
質問すると雪姫さんは首を横に振った。
如何やら違ったらしい。
と言うか、部員じゃないのに何やっているんだ?
「私は夜海、あなたと同じ無所属よ。と言っても殆どの部活に参加しているけど」
「どういう事?」
そんなと疑問に答えてくれたのは、後輩二人だった。
「そのままの意味ですよ。雪乃先輩は無所属ですけど、部活の助っ人をしたり、たまにやって来ては、アドバイスをして行くんです」
「姉さまは、大体の事は、三日で習得します。ですから、公平を保つ為に、一定の部活には所属せず、渡り歩いているんです」
つまるところ、このオーバースペックの人を巡って争わないように、中立を保ちつつ、部活を楽しんでいるって事か。
と言うか、三日でマスターとかまさに、逆三日坊主だよなこれ……
「そう言う訳で、私は無所属よ」
「へぇ~、あ、二人とも時間を取らせて悪かったな」
「いいわよ、美音とそろそろ迎えに行こうと、話していた所だったから」
「はい、夜海先輩の事ですし、忘れて帰るんじゃないかと思っていましたし」
忘れる?はて、何か約束なんかあったかな?
「歌風さん、何の事?」
「やっぱり忘れていたのね……高垣君に足止めを頼んでおいて、正解だったわ」
「そうですね。あと先輩、あだ名で呼んでくれる約束ですよね」
まさかタスクに捕まったのって、仕組まれていたのか。
そう言えばあいつ、他の役員から聞いたって言っていたな……
それはともかくとして、歌風さんに睨まれてしまった。
そう言えば七夕の時に、そんな約束をしたな。
確か呼び方は……
「悪かったよ、歌ちゃん。それでだ、なんか約束していたか?」
俺がそう言うと、三人は一度顔を見合わせると頷き合い、こちらを向いてこう言った。
「「「放課後に、資料を運び入れる話です」」」
放課後……資料……運ぶ……
あ、そう言えば休みに入る前に、資料を寮に運ぶとか言っていたな。
てか、帰れないのを分かっていて泳がせていたのか……
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