チョイチョイと黒音が手招きをする。どうやら先手は譲るつもりらしい。
自分の強さに自信があるからこその挑発。
けれど先手をくれるのなら、ありがたくいただくと
「ハッ!」
ジークは構えていた刀を黒音に向かって打ち放つ。
「っでもって、獣人化‼」
放つと同時に獣人化を使用。獣人化を使用したことで、ジークは人型から狐の耳に尾を生やした、獣人型に変化する。
そして強化した脚力を使い、黒音に接近する。
「いきなりやけを起こしたかにゃ」
黒音はジークが放った刀を避けると、紫色の光りを纏った右手で、近付くジークに邀撃しようとする。
一方ジークは両手に白焔を発生させ、それを手に纏わせる。
「それはどうかな!」
接近して来たジークに、黒音はパンチを繰り出す。ジークは黒音の足元の地面を、左手で殴りつける。
黒音の出したパンチは空を切り、ジークの一撃は、黒音の足元に白い焔の円陣を書き上げていた。
「白焔牢、発動‼」
「にゃンと!分身したにゃ⁉」
ジークが技名を発すると即座に、黒音の足元の円陣が火柱を上げ、黒音を囲う。
ジークの『白焔』は幻惑を見せるスキル。今の黒音にはジークが分身した、幻惑を見せられているようだ。
「レヴィ、白焔の制御は任せた!」
「はい!任されたのです!」
ジークは、刀から人型になった相棒に指示を出す。
ジークの愛刀「レヴィアタン」
通称レヴィは、インテリジェントウエポンである。レヴィ自身の能力は人化と刀変更。そこにジークが『刻印』を利用して付与した、『白焔』が加わる。
ジークとレヴィは
「じゃあま、コイツで止めかな?」
そう言うとジークはストレージを開き、一本の試験官を取り出す。
その試験管の中には、奇妙な色をした液体が入っていた。
ジークが取り出したものを見たレヴィは、顔をしかめ意見する。
「マスターさん、爆裂ポーションじゃなくて、ランダムポーションを使う気ですか?」
「使う気だよ?こういう時じゃないと、何が起こるか分からない代物を、試せないじゃないか」
そう言ってジークは、ランダムポーションを黒音に向かって投げつけた。
「あ~ぁ、使っちゃた……確実に勝つなら、爆裂ポーションなのに。もう、どうなっても知りませんよ?」
投げられたポーションは、白焔の檻を越え中に居るであろう、黒音の影にあたる。
「あれ?」
当たったはずなのだが、何の変化も起こらなかった。
「外れを引いたって事か?仕方ない、レヴィ!」
ジークはレヴィに声を掛ける。するとレヴィは、人型から刀の形態へ変化する。
「じゃあ改めて……」
変化した相棒を掴み、抜刀の構えを取ろうとするジークだったが、違和感を感じ取った。
「レヴィって、こんなに…おも…かったっけ?って……言うより、力が…入ら…ない?」
体に力が入らなくなっており、思うように動けなくなっていたのだ。
しまいには刀から手を離し、地面に倒れてしまった。
「こ…これは、霧…か?」
ジークは倒れて初めて、足元一帯に霧のようなものが発生している事に気付く。
そのジークの口にした疑問に答えたのは、白焔の檻に囚われているはずの黒音だった。
「正解にゃん♪」
「黒…音…」
「ありゃりゃ、これはもう動けそうにないわね。じゃあ勝負ありにゃ」
そう言って黒音は、指をパチン‼と鳴らし、霧を消した。
「動ける……ハァ、また負けか」
動けるようになったジークは起き上がり、悔しそうに呟いた。
一方黒音は、満足そうに頷く。そして胸元から、スクロールを一つ引っ張り出し、ジークに向かって投げる。
「にゃはは、お姉さんに勝とうなんて10年早いにゃ。まぁでも、十分楽しめたから、プレゼントにゃ」
「ぉっと。ありがとさん。え~っと『魔法紙:
受け取った魔法紙を広げて、中身を確認したジークだったが、技名がおかしい事に気付く。すぐさま黒音に確認を取ろうとするが、姿が見当たらない。辺りを見回すが、人影すらない。
「結局、勝ち逃げか……」
~キキのスキル紹介コーナー~
キキ:今回はジークが使用したスキルとアビリティについて、解説するよ!
まずはアビリティの「獣人化」
一定の能力値に達すれば、獣人種プレイヤーなら誰でも使用できるものだよ!
さらにこの獣人化、元が人型か獣人型かで、変化する見た目も違ってくるの。
例えば見た目が人の狼の獣人と、耳や尻尾などがある人型の狼の獣人
前者が獣人化を使うと、耳や尻尾などがある姿に変化するんだ。
一方後者は、完全な獣。つまり狼になるんだよ。
この違いには意味がちゃんとあって、ベースになっている獣によって、強化内容が違ってくるの。
次にスキル「白焔」だね!
これは焔の揺らめきを相手に見せる事で、幻惑をかけるスキルだよ。
ただし、命中率は物凄く低いのが難点だね!
どうやらジークは、修行を積んで面白い使い方をマスターしたみたい。
「白焔牢」は「白焔」で相手を囲んで、確実に相手に幻惑をかける応用技だね。
今回はこれくらいかな?
最後に私から一つ。元が強力なスキルだと、弱点は多い。
けど、弱いスキルは応用がききやすい。
ジークがやって見せたみたいに、どんな弱いスキルであっても、使い方次第で強くなるんだよ!