ブランクワールド・オンライン   作:東條九音

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ディアーチェの魔法

焦りを見せるクロムウェルに対して、いまだ余裕の表情で、相手の出方をうかがうリーン。

後ろで見守っていたマキナは、ディアーチェに先程の事を尋ねる。

 

「ディアーチェ、もしかしてアレって、『武器庫』?」

 

「さすがマキナ。その通りだぞ。リーンのアレは、『神々の武器庫』だ。その力は、思うがままに武具を取り出し、扱える。欠点を上げるのなら」

 

「一個しか展開できない、か?」

 

答えるとディアーチェは頷き肯定する。

 

「うむ、図書館を所有者だけはあるか。ほかの神シリーズも理解しているのであろう」

 

「まぁある程度は、かな?実際に見ないと、判断できないし」

 

「違いない。さてと、そろそろ仕舞いまかな。リーン!奴の手を封じよ」

 

「仰せのままに」

 

ディアーチェはこの戦闘に幕を下ろすと言うと、リーンに手を封じる様に指示を出す。指示を受け、すぐさま動き出したリーン。

その様子から、危険を察知したクロムウェルは、赤銅の大鎌と残りの球体を自身の前方に配置し、三つを一つに纏め上げる。

 

「理を枉げ、我らが王への道を開かん」

 

詠唱により纏め上げられた塊は、地面へと落ち円陣を書き始める。

 

「今さら無駄」

 

「ッぐ!おのれ!」

 

しかしそれを黙って見過ごすはずもなく、リーンが手にした新たな大鎌を振るう。

振るわれた大鎌は、クロムウェルを捉え左腕を肩から落とす。

左腕を失った事により、円陣を書く速度が落ちた。

 

「上出来だな。うむ、さがれ、リーン」

 

リーンが戻って来ると、ついにディアーチェが動く。

 

「エクスプロージョン」

 

ディアーチェの詠唱によって、クロムウェルの目の前に小さな火球が生まれる。

 

「!ッく」

 

詠唱を聞いたクロムウェルは、驚愕の表情を浮かべ、自らに障壁を展開する。

 

「無駄だ。その程度の障壁、破れない筈かなかろう。終いだ、弾けよ」

 

すると火球は徐々に大きくなり、クロムウェルを障壁ごと飲み込むと、爆発を起こす。

その衝撃は、空都全体を揺らした。

 

「おーお、こりゃあスゲーけど、衝撃が凄すぎね?空都が落ちるとかないよな?」

 

「たわけ。加減はしてある。まぁ奴は、消し炭になっておるだろうがな」

 

開いていた魔導書を閉じ、この場を去る準備を始めるディアーチェ。

 

 

「やれやれ、これで手加減してるって?冗談でしょ?」

 

「いや、しておったよ。ディアーチェは詠唱は好まん。奴は無詠唱で、魔法を発動できるのじゃ。詠唱した方が、威力が分散する気がする、とか言っておったからな。しかし奴が短文詠唱、そのうえ改変までしてくるとは……正直助かったぞ」

 

黒煙の中から、聞えるはずのない声が聞えてくる。それも二人分の声が。

 

「どういたしまして。で、気になったんですけど、改変ってどう言う事ですか?」

 

「そうじゃのう、まず系統・効果・名の順に唱え発動する。これが詠唱の基本じゃ。熟練者になれば詠唱を短文化、つまり二節や一節に出来る。これは短文詠唱と言い、さらに極めし者は、詠唱破棄出来る。つまりは、無詠唱に至るのじゃ」

 

黒煙が徐々に晴れ始め、人影が見え始める。

 

「本来のエクスプロージョンの詠唱は、『虚無よ・爆ぜよ・爆裂(エクスプロージョン)』この三節じゃ。何か気付かぬか?」

 

「あ、そう言えば爆発前、火種に包まれてましたね」

 

「そうじゃ、本来であればただ、大爆発を起こしていたはず。それが火球に包まれてから、大爆発を起こした。奴が使ったのは『爆裂(エクスプロージョン)』ではなく、『爆裂の棺(エクスプロージョン・コフィン)』。詠唱は、『虚無よ・包みて爆ぜよ・爆裂の棺(エクスプロージョン・コフィン)』じゃよ。特徴は、ただ大爆発を行うのではなく、爆発の衝撃をすべて内側へ。つまり、火球に包まれたものに全ての衝撃が向かう」

 

「まさにエクスプロージョンの上位版だったって事か。なるほど、確かに本来の短文詠唱じゃないから、改変ってわけだね」

 

煙が完全に晴れる。

そこには、クロムウェルとローブの男がほぼ無傷の状態で立っていた。二人の周りには、多くの黒焦げた死体が転がっていた。

 

 


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