「さて、クロムウェル。何か申し開きがあれば述べてみよ」
石板の間にて相対した、ディアーチェとクロムウェル。
ディアーチェの周りには、紫色のオーラが漂っている。
「可愛い愛娘を攫われたとあっては、
一方クロムウェルは余裕の表情で、ディアーチェを見ていた。
「にしてお主、相変わらず小さいのぅ。普段は幻影魔法を使って、威厳ある姿をしておる様じゃが、怒りで魔法が解けておるぞ?」
今のディアーチェは、黒髪ロングでメリハリのある体型から、茶髪に金のメッシュが入ったミディアム。そして体型は、14、5歳の少女となっていた。
ディアーチェはとある理由から、ある時を境に肉体の成長が止まっている。
ディアーチェが普段、幻影魔法で姿を偽って居た理由は、学園長としての威厳のため。
最強と言われる実力を持っていても、見た目14、5歳の少女の姿では、威厳が無く侮られてしまうと考えたからだ。
「なぁに、問題ない。余計な事に魔力を使っていない分、制御しやすい。もう一度言う、申し開きがあれば述べてみよ。うぬの行動、シナリオと違うのは、いや、そもそもなぜ、うぬの肉体は若返っている」
ディアーチェとクロムウェルはかつて、師弟の関係だった。故にクロムウェルの肉体が、若干ながらも若返っている事に気が付いた。
「やはり気付いておったか。それに、怒っておっても冷静。さすがは、第二世界の管理を任された者」
「えぇい、答えよ!クロムウェル!」
「…かつてはお前の師だった。しかしお前は神に選ばれ、永遠を手に入れ頂点に立った。師である儂を差し置いて!儂の目の前で啓示をうけた!…分かるか主に?この惨めな思いが。弟子が神に認められ、儂は否定される」
師弟の関係、その立場はある時を境に逆転した。それは、ディアーチェの成長が止まった日。その日を境に、二人の力関係は逆転してしまった。
「そんな事は断じて、認められる筈が無かろう。故に儂は待った。表向きはお前に従い、しかし裏では禁忌を研究し、力を付けた。そして儂は、あの方に認められた。あの方は儂を評価し、さらなる力を授けた」
そう言うとクロムウェルは左手の手袋を外し、その指に付けた2つの指輪を見せて言う。
「この指輪はその証。『強欲』と『嫉妬』じゃ。主が神から受けたシナリオで犬死するなら、儂はあの方のために働く。すでにデータは取り終えた。あの方の知りたかった事も、今回のシナリオで解決した。今さら手遅れなんじゃよ。っと、少し喋り過ぎてしまったかのぅ」
「……手遅れかどうか、それはうぬが決める事では無い。それに、こちらも情報が得られた。故に一つ教えよう。うぬが選ばれなかった理由、それはまさに、うぬが強欲で嫉妬深い人物だったからだ。それさえ制御できていれば……」
「うるさい!もうそんな事はどうでもよい!お主には、ここで死んでもらう」
「我が簡単に死ぬとでも?」
「この娘が死んでもよいなら、抵抗するがよい」
莉花に抱えられたセレスティーアを指差し、クロムウェルは勝ち誇ったように述べる。こちらには人質がいると。ディアーチェが大切にしている、愛娘のセレスティーアがいると。
それを聞いてディアーチェは一瞬、キョトンとするが堪え笑いをし始める。
「ッくっくっく。そうか、そうだったな」
「な、何がおかしい。娘が如何なってもよいのか」
予想外の反応に、動揺するクロムウェル。
そんなクロムウェルをよそに、ディアーチェはある人物に指示を出す。
「尻尾は掴んだ。もう潜入は良い。セレスを連れて、戻って来るがよい」