『条件がそろった』と言ってからの攻防戦は、雪那の防戦一方だった。
ツリーの放つ攻撃は百発百中、雪那の持つ槍へと当たる様になったからだ。
「ッ、攻撃に移れない。これはかなり、分が悪いかな」
「だろ?スキルの力さ。でも、撃った弾すべてを、槍ではじく奴は初めてだ」
驚きを述べつつもツリーは、雪那に向かってではなく、壁や地面に向けて銃を撃つ。
放たれた弾丸は、壁や地面に当たる前に急に方向を変え、雪那へと向かい始める。
ツリーに斬りかかろうと、接近し始めていた雪那は接近を諦め、向かって来る銃弾を槍で弾き落とす。
雪那が攻撃しようとしては、ツリーの回避不可能な攻撃。先程からこの繰り返しで、戦況としては硬直状態となっている。
(ねぇ、ロン。これってやっぱり、ロンがロックオンされているよね?)
(じゃな。と言うか、ぬしよ。アウルの眼鏡で分析できておろう)
(うん、おおよそはね。彼の言動を含めて分析すると、さっきの術式は触れた対象者に、マーキングを施すものかな。おそらく武器越しでもプレイヤーが触れた事になって、ロックオンされる)
(じゃがあいにく、わっちはただの武器では無いからのぅ。ぬしではなく、わっちにマーキングがついた、と言うことかや)
(かな。こうなると打開策は一つ。ロン!次、仕掛けるかな)
(分かっておる。ぬしこそ、しくじるでないぞ)
雪那は斬りかかる構えを解き、突きの構えへと変更した。
「守りを捨てての突進か?なら、これで終わりだ!『
ツリーは銃の照準を雪那へと合わせ、引き金を引く。
放たれた一撃は寸分違わず、雪那へと向かって行く。
しかし雪那は退く事無く、構えていた槍を天井に向かって投げた。
「血迷ったか!」
ツリーはこの瞬間、勝ちを確信した。が、ツリーの予想外の事が起こる。
ツリーの放ったディバイン・パニッシャーが、進路を雪那から天井へと変えたのだ。
そして、驚きの言葉が口から洩れそうになった瞬間、腹部に強烈な痛みが走り、壁へと打ち付けられていた。
「『土雷』……って、ちょっと浅かったかな?」
『いーや、十分じゃろ』
ツリーが先程までいた場所に、雪那と一匹の狼が立っていた。
「どうやら無事みたいだね」
『当り前じゃ。あの程度の攻撃、わっちの知恵にかかれば、簡単に対処できる』
「ッソ、何がどうなってやがる」
ツリーは壁に手をつきつつ立ち上がるも、相手を見て何が起こったのか理解出来ずにいた。
「不思議そうだね?良いよ、教えてあげるかな」
その様子を見て雪那は、ロンの頭を撫でつつ種明かしをし始めた。
「まずは、この子の事から。この子はロン。私の眷属かな。この子は私のアビリティ、『神々の呪い』の力で姿を武器へと変えることが出来るの」
そう言うと雪那が指示を出す前に、ロンが姿を槍へと変える。
それを右手で持ち、話を続ける。
「こんな風にね。ここまでくれば、なんであなたの必中攻撃が、弾かれていたかは分かるよね?」
「ロックオン効果が、その武器になった狼に付いた、って事か。だから、ディバイン・パニッシャーが槍につられて、天井に向かって行った訳だな」
「正解かな。そしてあなたの目が、天井に向かった瞬間、私はあなたの懐に入って一撃を叩きこんだの」
(……ッチ、コイツ、セリアと同じ『神シリーズ』の所有者か)
「なるほど、ね。けどまあ、十分時間は稼がせてもらった」
「?まさか、逃げられると思っているの?私たちのマスターを見下した相手が」
(のう、ぬしよ。目的を忘れてはおらぬか?)
「そんな事、どうでも良いかな。黒音が洞窟に入って来たみたいだし、女の子の保護は黒音に任せればいいかな」
(……珍しく、怒っておるのぅ)
雪那はツリーの喉元に刃を突きつけ、ロンの質問に答えた。
一方ツリーは、刃を突きつけられても、どこか余裕があるようだった。
「あぁ、逃げれるね」
「そうね。だって、あなたは動けないから」
その言葉は雪那では無く、雪那を小型のナイフで背後から刺した人物が発した。