Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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信じる心

 

 

 

 留守番のカナタを除く全員が小舟の里にファストトラベルで飛ぶと、まずタイチとカヨちゃんが浜松の街で暮らしている連中を連れて風呂屋へと向かった。

 俺はすでに到着してリビングでコーヒーを飲んでいたジンさんとウルフギャングに、ミサキのファストトラベルの仕様と、他の連中を小舟の里に連れてくる事になった事情を報告しておく。

 

「ふぁすととらべる、とは。呆れるしかないのう」

「ですね。とんでもない若夫婦もいたもんです」

「んで相談なんですが、このミサキのファストトラベルって使い倒していいと思います?」

「移動する部屋まで指定できるんだろ。なら部外者に見つかる可能性は低いし、別にいいんじゃないか?」

「そうじゃのう」

「ありがたい。……しっかし、ほんっとデタラメですよねえ。これじゃ俺とミサキが組んで動けば、トラックなんていらないって事になっちまう」

 

 無限容量のピップボーイ。

 同じく今のところ制約がなさそうな、ノータイムで到着するファストトラベル。

 

 そんなのチートが過ぎるだろう。

 

「それでアキラ、浜松の街の様子はどうなんだ?」

「今から話すよ。その中に出てくる商人ギルドってのが問題なんだが、だからそれに詳しいスワコさんに来てもらったんだ」

 

 たった2日で得た情報でしかないが、出来るだけ詳しくリビングに残った全員に話して聞かせる。

 

 旧市街の敵の多さ。

 浜松の街の広さと、そこで暮らす人々の様子。

 

 新制帝国軍の本拠地である浜松城とそれがある公園地区、商人ギルドが300年かけて手に入れ自治領と名乗れそうなほどに発展した商業地区。

 そこで働く商人の店や売り物や、山師達の装備。

 

 やはり皆が気になったのは、新制帝国軍と商人ギルドが長年かけて生み出した、いつ崩れ落ちるかもわからない微妙な均衡であるらしい。

 

「商人ギルドは、新制帝国軍にどの程度のエサを与えてるんだろうな」

「そんなのはまだ俺も聞いてねえんだ。だから山師4人には悪いが、今日を潰して話し合っておこうと思ってよ」

「ずいぶんと気に入ったようじゃのう、あの4人を」

「半分以上は成り行きで連れて来たようなもんですけどね。しばらくパーティーとして動いて問題がなさそうなら、それからこっちに移住しないかと誘うつもりでした」

「全員がかなり苦労をして来たみたいだし、どの子も性格だって悪くなさそうだからいいんじゃないか。ねえ、ジンさん?」

「そうじゃのう。双銃鬼の紹介であれば、マアサも否とは言うまい」

「ジンさんまで言いますか、ったく。まああの連中の誰かが裏切ったり小舟の里の不利益になるようなマネをしでかしたら、俺が責任を持って殺します。それでカンベンしてやってください」

 

 スワコさんの店の食堂でミサキの話を聞く前に、あの4人を梁山泊にでも行かせていれば、また話は違っただろう。

 だが俺は、すぐにその考えを打ち消した。

 

 こんな世界にだって、信じてもいい人間はそれなりにいる。

 そしてそんな連中を信じる事もできない男に、何が成せるものかと。

 

「料理人になりたいって子は、うちの店で預かってもいいな」

「マジかよ、ウルフギャング?」

「ああ。最近じゃ本館からも飲みに来る連中が増えて、ツマミのオーダーまで手が回らなくってな。正直、人手は欲しい」

 

 それは渡りに船って感じだが。

 

「すぐに、今日明日から働くとかはムリだと思うぞ?」

「わかってるよ。アキラとタイチが浜松の街の偵察を終えてからでいいさ」

「なら商人になりたいという少年は、ボート部屋の老いぼれにでも預けるかのう。あれで人を見る目はあるで、才がありそうならば里の御用商人になる道もあるじゃろ」

「アキラとタイチがお気に入りの、ヤマトって男の子は特殊部隊だな。射撃に長けているなら、ショウと組ませたら面白そうだ」

「あの男の娘、くーちゃんはどうするの?」

「女の子じゃないのです?」

「ううん。男の娘。だって名前がクニオだもん。でしょ、アキラ」

「まあな。くーちゃんは山師をやりながら、やりたい事を探せばいいさ。まあ全員が全員、小舟の里に住みたいってなったらの話だがよ」

 

 浜松の街には、それこそ小舟の里に2軒しかない飲み屋が山ほどあるらしい。

 こっちの飲み屋は2軒を合わせても梁山泊以下の収容人数であるし、そこを訪れる客なんてあそこの半分にもならないだろう。

 遊ぶ場所がないと山師なんてやっていられないだろうから、クニオが小舟の里に来る可能性は低いんじゃないだろうか。

 

 それから話題は浜松の旧市街に入った途端に増えた悪党やクリーチャーに移り、さらにフォールアウトNVで登場したゲッコーにまで及ぶ。

 

 そうやってああだこうだと話していると、風呂道具と一緒に持たせた着替えを身にまとってスワコさん達が帰って来た。

 

「お兄ちゃん、お風呂ごちそうさまでしたっ」

「お、おう。気に入ってくれたみてえだな」

 

 思わず吃ってしまう。

 

 お兄ちゃん。

 

 悪くない響きだ。

 歳の近い生意気な弟しかいなかった俺は、少しばかり照れ臭く思えてしまうが、悪くない。

 

「うんっ!」

「そっかそっか。なら、ちょっと冷たいサイダーでも飲んで待っててくれ」

 

 浜松の様子を語りながら、今までないほどに人がいるからとソファーセットを増設してある。

 そこに全員が腰を落ち着けて湯上りの冷えたサイダーで喉を潤してもらい、それからスワコさんへの質問が始まった。

 

「あの商人ギルドの妖怪ジジイめ。100を過ぎてもくたばっておらんのか」

「やっぱり厄介な相手なんですか、ジンさん?」

「かなりのう」

「くーちゃん。アキラとタイチが浜松の街の山師として頭角を現すとしたら、どのくらいかかるだろうか。よかったら君の考えを聞かせて欲しい」

「イケメンさんのためなら喜んで♪」

「お、お世辞はいいぞ」

「ううん。ウルフギャングさんって、声だけじゃなくって見た目も立ち居振る舞いもすっごいカッコイイ。くーちゃん、好きになっちゃいそう♪」

「やったな、ウルフギャング。愛人、ゲットだぜ!」

「黙れ双銃鬼。今夜から店の客に、あの日の天竜駅での戦闘を語り聞かせてほしくなかったらな」

「……ヒデエ」

 

 フュージョン・コア型の、ジェットパックまで付いたパワーアーマー。

 それとミニガンに、最後にはヌカランチャーのユニーク品であるビッグボーイまで使った戦闘。

 

 あんなのを酒のツマミとして話されたら、明日には双銃鬼どころじゃない中二臭のする二つ名が付けられてしまうかもしれない。

 そんなのは、絶対にゴメンだ。

 

「んー。タイチっちが言ってた、アキラっちの他の特技とかを見せるんならすぐにでも。それがなしなら、夏の終わりまでには、かなあ」

「……かなりかかるか」

「じゃのう。とてもそこまでアキラ達を浜松の街に留めてはおけぬ」

「それなんですが、しばらく浜松の街で山師をやったら『たまに稼ぎに来るならいいが住みたくはねえ』って言って街を出るのはどうでしょう? んで週に1度とか俺とタイチが浜松の街に行って、商人ギルドの議員に戦前の貴重な品とかを量を加減しながら流すとか」

 

 あまり頭がよろしくない俺の計画では、浜松の街で山師をやりながら新制帝国軍の穏健派に接触して、それに武器や弾薬を貸してクーデターでも起こさせるつもりだった。

 だが山師が飲み食いをして寝泊りする地区に新制帝国軍の兵士は立ち入りさえしないのだから、その穏健派と繋がりを持つ事すら容易ではない。

 

 ここは、計画を変更すべきだろう。

 

「そうやって商人ギルドと新制帝国軍の動向を探りつつ、たまに浜松の街を訪れる腕のいい山師兄弟として名を上げていくのか。悪くないんじゃないですか、ジンさん?」

「じゃのう」

「なら、そんな感じで。さーて、そんじゃあ俺とミサキはスワコさんとコウメちゃんを磐田の街に連れてって、それからスワコさんの店に戻るかな。くーちゃん達はどうする?」

 

 4人が顔を見合わせる。

 するとウルフギャングが料理人になりたいというミライを、ジンさんが商人を志すノゾを働き口によさそうな店を見物に行かないかと誘った。

 

「んじゃオイラは、くーちゃんとヤマトをメガトン基地の見学に連れてくっす」

「くーちゃんも?」

「はいっす。小舟の里には本来、武装してる人間は入れないんっすよ。だからくーちゃんが小舟の里で山師をするんなら、ウルフギャングさんの店の近くに防犯のしっかりした家を建てるか、メガトン基地に住むしかないんっす」

「くーちゃん、ウルフギャングさんの家に住みたいっ!」

「そ、それはさすがにな。俺は妻帯者だし」

「んー。なら愛人でもいっか。タイチっち、とりあえず案内よろしくー」

「任されたっす」

 

 ヤバイ。

 ウルフギャングの助けを求めるような表情が面白くて仕方ない。

 

 もっと攻めろ、くーちゃん!

 

「ニヤニヤしてるんじゃない、双銃鬼」

「いえいえ。とんでもございやせん、竿師様」

「冗談でもそういう事を言うな。それで、どのくらいで戻る?」

「ミサキのファストトラベルが連続使用でディレイ、待ち時間なんかが発生しなきゃ、そんなにはかからねえんじゃねえかな。娘と孫をひさしぶりに市長さんに会わせてる間、俺は磐田の街にウォーターポンプを設置するだけだから」

「なら昼メシはここでいいな。俺達も早めに戻るとしよう」

「そういやミサキ、浜松の街にはパンが売ってたぞ」

「ホントにっ!」

「ふわぁ。浜松のパンは、あの街の名物なのです。ミキもひさしぶりに食べたいのです!」

「アキラ、いいよねっ?」

「オマエがおとなしく、カナタとスワコさんの店の2階で待ってるんならな。俺が買い出しに出るさ」

「やあった。ミキ、楽しみに待っててねっ」

「ありがとうなのですっ!」

 

 スワコさんとコウメちゃんと手を繋いで、磐田の街の市長室へファストトラベル。

 ミサキもそこに残して俺はイチロウさんを訪ね、磐田の街の各所にウォーターポンプを設置して回った。

 

 それからまた浜松の街へ跳び、パンを買えるだけ買ってスワコさんの店へと戻る。

 住み込みの女の子達と食べてくださいとパンの詰まったカゴをカウンターに置き、遅くても明日には戻りますと言って小舟の里へ。

 

 予想はしていたが、ファストトラベルが現実で使えるとなるとこうも便利なものなのか。

 予定では丸1日を使ってするはずだった磐田の街へのウォーターポンプの設置が、こんなにも早く終えられるとは。

 

 俺のチート、条件さえ合えば建物ごと収納可能なピップボーイにも劣らぬ、とんでもない反則技だ。

 

 


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